オレの愛を君にあげる…



12




耀くんのマンションに引っ越して最初の朝。
夕べ寝る前に、耀くんが明日は7時に起きるって言ってたのに……起きて来ない!
今の時間は7時5分。
これは……起こしに行ったほうがいいのか?
誓って言うがこれは決して下心からではないっ!!親切心からだ!!

コン! コン!

「耀くん?起きてる?」

……しばらく待ったけど返事がない。
きっとまだ寝てるんだ。
オレはそっとドアを開けて、部屋の中に入った。

カーテンが閉まってて中は薄暗い。
入った左側の壁沿いに、ベッドが置いてある。
そのベッドにはスヤスヤ眠る……耀くんがいたっ!!

オレのほうに背中を向けて、スウスウと寝息を立ててる耀くんを上から覗きこんだ。

うわぁ……かわいい寝顔。

「ん……」

寝返りをうって仰向けになった耀くん。
ひゃぁぁぁ……長い睫毛が!!ピンク色の唇が!!
ヤ…ヤバイ……このままじゃ、オレの理性の限界がっ!!

「よ…耀くん起きて!遅刻するよ」

オレは何とか理性を保ちつつ、ベッドに腰かけて耀くんに声を掛けた。

「んーーーー」

肩を揺すっても起きない。
仕方ない……こうなったら最終手段だ。
オレは自分の顔を、耀くんの顔に近づけた。
あーこのまま耀くんの唇を奪いたい……。
そんな衝動を抑えつつ、耀くんの耳元に口を近づけて内緒話をするように話し始めた。

「おはよう耀くん。野菜たっぷりのサンドイッチに、おいしいスープも作ったよ。
早く起きないとオレが全部食べちゃうよ」

こそっと囁いただけなのに、耀くんの頭にまた動物の耳が出た。
その耳と耀くんの身体がピクッと反応する。
ホントご飯食べるの好きなんだな。

食べるのが好きな耀くんに、料理作るのが好きなオレなんて本当、運命だよね。耀くん♪

「んーーダメだよ……オレが食べるんだからぁ」

耀くんが目を擦りながら起きた。

「おはよー。耀くん♪」
「んー椎凪?え?あーおはよう……ん?」

椎凪の声がしてオレにとって、とっても魅力的な言葉を言った。
えー?椎凪が全部食べちゃうだって?
そんなのダメに決まってるじゃん。
だからオレは無理やり目を覚ました。

朝は苦手。
目が覚めても、しばらくボーっとしちゃう。

なのに寝起きでボケているオレの目に、椎凪の裸の上半身が飛び込んできた。

「え″っ!?」

どう見ても上半身裸!!
下は……ズボンも穿いてない!!シーツを腰に巻いてるだけだ!!

一瞬で目が覚めた!!

「うわあああああ!!何するつもりだよっ!!椎凪のスケベっ!!」

ド コ ン ッ !!!!!

オレは思いっきり、椎凪の鳩尾に踵を叩き込んだ!!


「 が は っ !!」 

寝起きで目を擦ってた耀くんが、かわいくてずっとそんな耀くんを見てた。
だからまさか耀くんが足で蹴ってくるなんて思わなくて、無防備に耀くんの蹴りを
マトモに鳩尾に喰らってしまった。

「げほっ!!ごほっ!!よ……耀…くん…ヒド……げほっ!!誤……解……」


椎凪が鳩尾を押さえて、蹲りながら苦しそうに言い訳をした。
もうオレは変にパニック!!
ベッドに腰掛けてた椎凪を蹴りで叩き落したのに、椎凪は顔をしかめながらベッドにすがりつくように
起き上がった。
オレは椎凪の顔を、足で押し戻しながら文句を言う。

「何が誤解なのっ!?なんでハダカなんだよっ!しかも寝てるところ襲うなんてっ!!」
「だって耀くん昨日言ってたでしょ?7時に起きるって!起きてこないから起こしにきただけだよ!」

ガシッと足首つかまれた!
まったくもーーーー!!!もっともらしい言い訳なんかして!!

「じゃあなんでハダカなの?」

オレは椎凪の身体をジッと見つめた。
あんまりそういうのは見慣れてないから、目のやり場に困っちゃうけどさ。

「ハダカ?」

椎凪が自分の身体を見下ろして、オレのほうを見る。
掴んでた足首も離してくれた。

「ああオレ、ハダカ好きだから。寝るときハダカだし、仕事行くまでハダカでいるけど?
え?それが何か?」

ちょっと 「心外」 と言いたげな椎凪の顔を見る、ホントにただ、起こしに来てくれただけだったのか……な?

「もう、着替えるから出てって!!」

オレはワケがわからなくなって、まだ納得していない椎凪を部屋から追い出した。



リビングで椎凪がオレにブツブツ文句を言う。
意外に椎凪ってば根にもつタイプ?

「まったく……気を利かせて起こしに行ってあげたのに、ひどい目に遭った」

ダイニングキッチンでお互いテーブルを挟みながら、椎凪はさっきと同じ格好で(着替える気はないらしい)
頬杖をついて不貞腐れてる。

せっかく目の前においしそうな朝ご飯があるのにオアズケ状態だ。
相変わらず椎凪の料理はおいしそうで、テーブルの上がキラキラ輝いてる。

うう……早く食べたい。

「そんな格好で起こしにくるからだろっ!紛らわしいんだから!」
「あのね、耀くん襲うつもりなら声なんか掛けないよ!」

確かに……そうだけど。

「襲うって何だよ?変なことしないって言っただろ?それにオレ男だからっ!!」
「変なことじゃない!愛し合ってれば当然のことだもん。それにオレ男でも耀くんのこと好きだからっ!
へーんだっ!」

いつの間にか立ち上がったてた椎凪が、腰に手を当てて勝ち誇ったようにオレに宣言する。
なんでそんな得意げに言ってんの?訳わかんない。

「それ以上変なこと言うと出て行ってもらうからねっ!」

オレは最初から強気だ。
なぜか椎凪には強気に出れる。

「えーー?そうしたら、オレの料理食べれなくなちゃうよ?いいの?」
「ぐっ……それは……」

椎凪がさっき以上に得意気な顔だ。
確かに椎凪の料理は、昨日食べて信じられないくらいおいしかった。
オレ好みの味だったし……。

「耀くんのために、まだまだ作りたい料理一杯あるのになぁ〜〜残念だな〜〜」

ワザとらしく肩を窄めながら、両手を広げて残念がる椎凪。
くっ!なんだか芝居かかってない?

でも椎凪の言ってることは確かにそのとおりで……。

「じゃ……じゃあ執行猶予つけてあげる」

仕方なく折れた。

「えー?無実の間違いでしょ?」
「もー椎凪の減らず口……」
「だってオレ、耀くんとずっと一緒にいたいんだもん!好きだよ。耀くん♪」

ニッコリと、あの笑顔だ。
あのオレの警戒心を解いちゃった笑顔。

「そ……そんなこと言ったってダメだよ。騙されないからね」

オレはナゼか椎凪から視線を逸らした。
なんだろ?ドキドキする。

「怒った顔も可愛いね」
「…………」

またオレを見て、ニコニコしてる椎凪。
もう……なに言ってもキリがないんだから……。

でも……椎凪といると楽しいんだよな。
あんなこと言ってるけど、椎凪はオレに手を出したりしないし。

出会ってまだ3日目なのに、ずっと前から一緒にいるみたい……変なの。

「時間大丈夫?耀くん」
「え!?あっ!マズイ!」

オレは慌てて朝ご飯に手をつけた。
朝からこんなおいしい料理を食べれて、オレはさっきまでのいい合いをコロッと忘れてニコニコ笑う
椎凪に見守られながら、しっかりと朝食を完食して大学に出かけた。

出かけに椎凪に、いってらっしゃいの抱擁〜〜♪ なんて言われて危うく抱きしめられるところを、
なんとか逃げ切って出かけた。




「ねぇ!ちょっと君!」

大学での今日の講義が終わって帰ろうとしたとき、後ろから声を掛けられた。
え?オレ?大学でオレに声を掛けてくる人がいるなんて珍しい。

「良かった。見つけた」

恐る恐る振り返ると……うっ!知らない人だ!!
しかも男の人。
一体オレに何の用なんだろう?
オレは一気に警戒態勢に入った。

「あれ?新城君は?」

ちょっと辺りを見回して、彼はそう言った。
やっぱり初対面で見覚えもない。
でも祐輔のことを知ってるってことは、祐輔の知り合い?

祐輔も大学であまり人と接しないから、祐輔の大学での知り合いをオレがわからないのは珍しい。
でも、やっぱり彼のことは知らない。

「え?……今日は……休みだけど?」

祐輔はときどき大学を休む。
慎二さんがらみだったり、ただ単に眠さに負けたり……理由は色々だけど。

「え?そうか……んー困ったな。じゃあコレ教授から頼まれたんだけど、新城君に渡してもらって
いいかな?」

そう言うと、プリントの束をオレに見せた。
ああ……なんだそう言うことなら。

「わかった。渡しとくよ」

そのプリントの束を受け取ろうと手を伸ばすと、反対に彼はその手を引いた。

「え?」

オレの伸ばした手を、彼の空いていた反対の手が掴んだ。

「!?」

あまりにも一瞬のことで、何が起こったのかわからなかった。

「ねぇ?これからちょっと俺と付き合わない?前から声掛けたかったんだけどさ。
いつも新城君が一緒だったから声掛けられなくてさ」

「…………」

掴まれた腕に力がこもる。
逃がさない、って言われてるみたいだった。

「あ……やだ……ちょっと……離して……」

オレはやっとの思いで声を出して、掴まれた腕を振り払おうとした。
でも、ぎゅっと掴んでる彼のオレの腕を掴む力は緩む気配はない。

「そんなに嫌がんないでよ。少しでいいからさ、ね?行こうよ」
「あっ!」

さらに強く腕を引っ張られて肩まで掴まれた。
顔も覗き込んでくる。

「…………」

どうしよう……怖くて……声が出ない。

オレは他人が怖い。
特に男の人……オレは彼のこと知らないのに、何でこんなふうにオレに触ってくるの。

やだ……オレに触らないで……近づかないで。

彼はオレになにか言いながら、さらに近づいて覗き込んでくる。
オレは耐えられずにぎゅっと目を瞑った。
いつもは祐輔がいるから大丈夫だけど、今日は祐輔はいない。

うぅ……どうしよう。
誰か……助けて!

そう思ったとき、ふたりの間に誰かが割って入った。
そのせいで、瞑ってたオレの目の前が少し暗くなる。

「ちょっと君!オレの耀くんに何してんの?」

「 ! 」

え?誰?椎凪?この声って椎凪の声だよね?
でも……ここは大学で……何で椎凪がいるの?

閉じていた目を開けると、本当に椎凪がいて、オレを掴んでいた彼の腕を逆に握り返しながら
オレから引き離した。

オレは軽くパニック状態。
いるはずのない椎凪がどうして今、オレの目の前に?

あ……。

気づけば目の前のオレの視界には、椎凪の背中しか見えなかった。
大きくて……広い椎凪の背中。
そういえば、初めて会ったときもつまづいて倒れたオレの目の前は、椎凪の背中しかなかったな……。
オレはじっと、椎凪の大きな背中を見つめてた。

だって……見てるだけで安心できたから。



「な…何だよ。男のくせに女みたいだから、ちょっとからかってやっただけだろう」

仕事の合間をぬって、耀くんの大学にやって来た。
もちろん耀くんに会うためだし、朝講義の終わる時間も聞きだしてたから一緒に帰ろうと思って
迎えに来たんだ。
帰りにどこかおいしいデザートが食べれるところにでも寄って、耀くんとの甘〜いふたりの時間を
過ごそうと思ってルンルン気分でやって来た。

耀くんがどこにいるかなんて、オレにはすぐわかる。
だってオレは耀くんのことが大好きで、愛してるから♪
誰もオレの邪魔はさせないし、邪魔する奴は全てオレが排除する。

そんなオレの目の前に、信じられない光景が飛び込んできた。

オレの耀くんが、どこの誰ともわからないどうでもいい男にからまれてるっ!
しかも勝手にオレの耀くんに触ってんじゃないか!
明らかに耀くんは嫌がってる。

あの野郎……ふざけんじゃねーーー!許さん!

オレは一直線にふたりに近づいて、ふたりの間に割って入る。
そして馴れ馴れしく耀くんの腕を掴んでる男の腕をギチリと掴む。
掴んで怒りを込めて耀くんの腕から引き離した。

いきなりオレに腕を強く掴まれた男は、慌てて言い訳を始めた。
うるせぇんだよ!そんなの一言も聞きたくねぇっての!!

「君が耀くんにチョッカイ出すなんて100万年早い。一生ムリだから」
「何ムキになってんだよ……バッカじゃねーの?」

呆れたふりして、引き攣ってる顔に余計腹がたつ。

「君なんかに、耀くんのいいところなんてわかんないんだからさぁ」

オレは頭にきて耀くんに見えないように 『オレ』 を出して、相手の胸倉を掴んだ。
いつも以上に瞳に殺気を込める。

ああ……マジ殴り倒したいくらいムカつくけど、耀くんの手前我慢する。
怯えられたり、呆れられたりしたら目も当てられないし、オレが立ち直れない。

「二度と耀くんに手ぇ出すんじゃねーぞ!クソガキッ!!次はないからな」

そう言って、思いっきり突き放してやると、そいつは振り返りもせずに慌てて走って行った。


椎凪がなにか彼に言ってる。
でもオレは、そのときにはもう彼のことなんて気にしてなかった。
椎凪が来てくれた……から?
それに、椎凪の背中から目が離せなくて。

本当に大きくて広くて……抱きつきなる衝動を必死で押さえた。

オレ……どうしたんだろう。
祐輔の背中を見ても、そんなこと思わなかったのに。

「あ……」
「大丈夫だった?耀くん。迎えに来たよ」

そう言って、椎凪が優しくオレを抱きしめてくれた。
ああ……胸も広くてあったかい。

椎凪って、オレのことすっぽり包めちゃうんだ。
椎凪の背中も胸も、広くてあったかい。

不思議……オレこんなことされたら怖くて身体が震えちゃうのに。
でも……何でだろ?椎凪に抱きしめられると気持ちがいいんだ。
それに、すごく安心する。

オレは椎凪の腕の中が気持ちよくて、しばらく目を瞑ってそのまま椎凪に寄りかかっていた。

…………ん?
どのくらいそうしてたんだろう?なんだ?なんか、身の危険を感じる?
オレのセンサーが、何かに反応した。

そっと目を開けると、椎凪がオレに顔を近づけていた。

バ キ ャ !!

「うわぁ!!ドサクサに紛れて何しようとしてんの!!椎凪っっ!!」

思うより先に身体が反応してた。



耀くんが、全てをあずけるようにオレの胸に飛び込んできてくれた。
そうだよねぇ〜そうだよねぇ〜〜♪ だって、オレ耀くんのピンチに現れたナイトだもんね ♪

オレの腕の中に、すっぽりおさまってる耀くん。
かわいい♪ かわいい♪♪ かわいいーーーーー♪♪♪

どう見ても、耀くんが嫌がってるようには思えない。
ああ……さっきのことで、オレを受け入れてくれる気になったんだね。
オレ、嬉しいよ〜〜♪

耀くん、好きだよ。
キス……してもいいよね?許されるよね?

オレは腕の中で大人しくなってる耀くんに、そっと顔を近づける。
きっと耀くんとのキスは、最高で天にも昇るようなキスになるんだろうな〜〜♪

バ キ ャ !!

「うわぁ!!ドサクサに紛れて何しようとしてんの!!椎凪っっ!!」
「……っ……」

耀くんのアッパーが、またオレの顎に決まった。
オレはなんとか踏ん張って、片手は殴られた顎にもう片方は意地でも離すまいと思った
耀くんの身体に。

離すもんか!!

だけど……耀くん痛い。
これだけの威力の拳を、なんでさっきの男にお見舞いしないの?それくらい痛いんですけど!!

オレは顎を押さえて、しばらく何も言えず呻いていた。
もちろん両目は痛さで潤んでますけど!!

「なんで?どうして耀くん!?今のどう見てもキスするところでしょ?」

多少回復して、オレは痛む顎を押さえながらとりあえず、まだオレの腕の中にいる耀くんに主張する。

「しないっ!!絶対しないっ!!」

耀くんは真っ赤になりながら、完全否定だ!

「いや!するっ!!絶対にするよっ!!」

負けずにオレも言い張った!絶対オレの言ってるほうが正しい!

「うるさーーーーいっ!!」


椎凪が、信じられないって顔でオレを見る。
殴った顎から手を離さないってことは余程痛かったのかな?ちょっと反省。

でも、これとそれとは別問題だ。
椎凪が来てくれたのは嬉しかったけど、な……なんで椎凪とキスしなきゃいけないのさ。

椎凪はずっとオレの仕打ちがヒドイとか、オレがテレてるだけだとか……そんなことないから!!
さっきから、そんなやり取りの繰り返し。

もーキリがない!まったく……ちょっと気を許すと、すぐコレなんだから。


その後も、散々文句を言う椎凪を無視して大学を後にした。

帰り道、椎凪がデザートを食べて帰ろうと言い出して、途中お店に寄った。
オレは運ばれてきたデザートを頬張ると、気分は上々でご機嫌だった。

単純かもしれないけど、食べるのは楽しいし甘いものはおいしい。


それに……目の前にまたいつものニコニコの笑顔の椎凪が、

頬杖をついて笑ってるから……かな。








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