オレの愛を君にあげる…



13




「皆で食事?みんな?」

耀くんからのメールに、そう書いてあった。

大きな事件もなく、時間どおりに耀くんに指定された店に向かう。
待ち合わせの場所は耀くんの好きな中華料理店だ。

しかも、テレビなんかでも紹介されてる超有名なお店。
さすが 「TAKERU」 の関係者?

しばらく歩くと、少し先にお目当てのお店が見えた。
もう耀くん達は来てるんだろうか?
なんて思ってると、店先に耀くんの姿が……しかも男に絡まれてるじゃん!

「またチョッカイ出されてんの?」

耀くんはよくナンパされる。
本人は気付いていないらしいけど、かなり無防備なんだ。
耀くんはまさに草食系の小動物。
しかも、まだ親離れしてない子供の動物だとオレは思う。

一応警戒心はあるけど、その態度すら相手を煽るしかない。
ある意味、狙われる対象としては最強かも。
しかもあの容姿だもんな。
男だろうが女だろうがどっちでもOKな可愛さだし。

あーあ、遂に耀くんってば顎まで掴まれちゃってるよ。
オレはソッコー耀くんの傍に駆け寄った。

「ちょっと君!オレの耀くんに何してんだよっ!!」

耀くんの顎を掴む手を、バシンとふり払ってふたりの間に割って入った。
言いながら、殺気を込めて相手を睨むのも忘れない。

「椎凪?」
「ああ?」

だけど、相手の男はオレが睨んでも怯まなかった。

「何でテメーの耀なんだよ!!ふざけたこと言ってんじゃねーぞっ!!」

その上凄まれた。

「あれ?」

しかも、もの凄い殺気のこもった目で見返された。
なに?コイツ?そんな相手の顔を良く見ると……。

「え?君……新城君?」

肩より長かった髪の毛は肩より短きなって、サラサラと風に揺れてる。
男にしてはキレイな顔で中性的。
背はオレよりは低いけど、耀くんよりは高い。
全体的に線が細いイメージなのに、実際は完璧男の雰囲気出してる。

「髪、切っちゃったんだ。」

だいぶ感じが違くて、すぐに分らなかった。

「耀はお前なんかに渡さねーから!」

そう言って、耀くんの腕を掴んでサッサと店の中に入って行く。
オレのことは完全な無視だ。

「え?ちょっ……何言ってるの?君、深田さんの彼氏だろ?何で耀くんまで?」

オレは慌ててふたりの後を追った。
だって彼、深田さんとあんなディープなキスしてたじゃん!みんなの前で堂々と!!
それって付き合ってるからじゃないの?

「耀はオレの家族だからだよっ!誰がテメーみたいな野郎に渡すかっ!!」

耀くんを連れたまま、階段を上がりながらそう言った。

「え?家族ってどういうこと?」

え?身内なの?

「うるせー!テメーに話すことはないっ!!」
「ちょっと新城君っ!!」

まったく、ちゃんと説明しろっての!その前に耀くん離せっ!
そう思って、新城君に追いつこうと階段を上る足に力を入れて駆け上がる。

「いらっしゃい。椎凪さん」

店の階段を上りきった入り口の前で、オレを遮るようにヒョッコリともう一人が顔を出した。

「うわっと!あ……どうも」

急に出てきたからビックリした。
目の前に現れたのは 「TAKERU」 の関係者で “橘 慎二” 君。

「今日はゆっくりお話伺いたいですね?椎凪慶彦さん。
勝手に耀くんと話進めてしまって、ちょっと僕達納得してないですよ。ふふ……」

「…………」

“ふふ……” って本当は笑ってないんだろ?その笑顔……怪しいんだよ。

「楽しみだなぁ、僕……」

あのホテルの事件のときと同じ瞳でオレを見つめて笑う。

「さあ、どうぞ」

耀くんはもう目の前にはいなくて、オレは橘君にエスコートされながら店の中を歩いた。




店に入ると個室に通された。
円卓のテーブルで、オレは当たり前のように耀くんの隣に座る。

「椎凪さんって、おいくつなんですか?」

オレの隣に座った橘君が、ニッコリと微笑みながら話しかけてきた。
因みに新城君は、耀くんのオレとは反対側の隣でオレの真正面。
まあ丸テーブルだからそんな感じ。
新城君はさっきからとんでもなく不機嫌なオーラを隠しもせずに、オレに向かって放ち続けてるんですけど。

「え?オレ?25だけど」

そんな不機嫌オーラを無視して、橘君の質問に答える。

「じゃあ立派な成人男性ですよね?大人の男性として未成年に手出すのやめて下さいね?」

直球で言われた。
な?微笑んでる割には、言うことにトゲがありまくりなんだよ。

「え?未成年?耀くんまだ未成年なの?」
「うん……オレ12月でハタチだから」

え?そうなの。
あと、半年以上あるじゃん。

「そういう話って、ふたりともしないんですか?」

呆れたように言われてしまった。

「オレ、そういうの気にしないし」

まぁ、そもそもそんな年下相手にしたの初めてなんだけど。
今まで声掛けた相手も、ハタチ過ぎてからは同じ年くらいのヤツと、どう見ても年上ってのばっかだったから。

高校生なんて色々面倒だし、見た目ガキすぎてオレの相手になんて掠りもしなかった。
逆ナンされたことはまあ何度かあるけど、きゃあきゃあ煩くて問題外。

そう言えば、耀くんのことは歳なんて全く気にしてなかったな。
耀くんだってだけで無条件でなんでも受け入れOKだから、なにも気にしてなかった。

「耀君も?」

今度は耀くんに向かって橘君が同じ質問をする。

「え?あ……うん……だって刑事だってわかってたし……別に……」

もっと、自信もって言い切ってくれたら嬉しいんだけどなぁ……。
もごもごと自信なさ気に話す耀くん。

「耀はメシ作ってくれれば、誰でもOKなんだよな」

新城君が腕を組んで、ムッとしながら突っ込んで来た。

「そ……そんなことないよ!誰でもなんて……」

耀くんがチョット困ったように返事をした。
図星とまではいかないんだろうけど、確かに食べ物で釣ったのは事実だし。
だからオレは横から耀くんに助け舟を出す。

「そーだよっ!耀くんはオレじゃないとダメなの!」
「耀!コイツに女がいたらどーすんだ?絶対遊んでるぞ!」

でーーっっ!なにコイツ!?いきなりなに言い出すの?
余計なこと言ってんじゃねーっての!黙れっ!!

腕組んで不貞腐れながら、とんでもないこと言うんじゃねーよ!!

「女?」

一瞬 “えっ” て顔をして、耀くんがチラリとオレを見る。

「別にいいよ……いたって。オレには関係ないもん。オレ別に椎凪のこと何とも思ってないから……。
ただの下宿人だもん、椎凪は」

オレから視線を逸らして、俯き加減で耀くんがそう言った。

「だってよ!」

新城君が嘲笑うかのように、オレに念を押す。

オレだって、ちゃんと聞えてるよっ!!これでも軽く、ショック受けてるんだからなっ!気づけ!
ってか、わかっててさらにオレの傷口をいたぶる気か?

それにしても、耀くんってばまだそんなこと言うの?

「耀くん!何でそんなこと言うの?
オレ、女なていないし耀くんのこと、こーんなに好きって言ってるのに!!」

「だって……オレ男だって言ってるだろ。男の人となんて付き合わないよ……女の人もだけどさ。
オレは誰とも付き合わないって決めてるんだ」

何だか辛そうに話す耀くん。
そんな耀くんをふたりも黙って見つめてる。

なんだ?漂ってる空気が変だ。

一瞬で、この部屋の空気が変わったのがわかる。
そう感じながらも、オレは言わなければいけないことを口にする。

「何言ってんの?耀くん!!それはオレに出会うまでの話。オレ以外とは、誰とも付き合わなくて正解!」

オレは自信満々で話し続ける。

「でも、オレと出会ったんだから!オレ耀くんのこと愛してるから!だからオレ達付き合うんだよっ!!」

思いっきり愛の告白をした。
この際、一緒にいるふたりのことは無視だ。

「だから、勝手にそういうこと言わないでってば!」
「勝手じゃない!耀くんだってわかってるくせに。耀くんこそ、何でワザとそういうこと言うの?」
「ワザとじゃないっ!!椎凪、オレのこと何にもわかかってない!!わかってないからそんなこと言うんだっ!!」

耀くんも、急にムキになりだした。
でも、オレも止めるつもりない。
お互い座ったまま、身体だけは相手のほうを向いて話し続ける。

「なに?わかってないってどういうこと?」

座ったまま、身体の向きを移動して耀くんの真正面になるようにした。
そして耀くん視線を合わせようとしたのに、耀くんはオレとは視線を合わせない。
オレのほうを見もせずに、耀くんは言い続ける。

「言わないよっ!椎凪には、絶対教えないもん!」
「あっ!何それ?すっごいヤな感じ!」
「何だよ!だったら怒ればいいだろ?椎凪なんか恐くないもん!」

さらにオレとは目を逸らす。
なに?その逃げながらの文句って!

「うわっ!その態度と言い方すっごく可愛くないっ!可愛くないよ耀くん!!」

もう売り言葉に買い言葉だ。
お互いムキになってる。

「別に可愛くなくたっていいもんっ!!べーーーー!!」
「 !! 」

あっかんべーって……ちょっと耀く……。

ズ ド ッ !!

「……っ痛っっ!!!!!」

耀くんと言い合ってると、いきなり脳天に衝撃が走った。
この感覚……覚えがある。

頭に踵落しされたのかっ!!マジかよ…容赦なしかい??
オレは一撃入れた張本人を振り返った。

「いい加減にしやがれっ!やかましいんだよ!」

振り向くと、いつの間に席を立ったのか新城君がオレの後ろにいた。
しかも、すごいイライラしてる。
全身から不機嫌オーラと、怒りオーラが漂ってるんですけど?

しかも、さっきよりパワーアップ?してる。

「耀はっきり決めろ!本当にコイツと一緒に暮していけるのかどうか。
耀が本当にいいなら、オレ達は何も言わねーよ」
「はっきり……?」
「ああ」

新城君はそれだけ言うと、黙って耀くんの答えを待ってる。
耀くんが困った顔で考え込んだ。

オレもそんな耀くんを黙って見てた。
耀くん……何て言うんだろ。


つい売り言葉に買い言葉っぽくなって、椎凪と言い合いになった。

そんなオレ達を見かねて、祐輔が止めに入ってくれた。
でも、オレに椎凪とのことをはっきりと決めろって言う。

椎凪と、これからも一緒に暮らしていくかどうか。

最初から祐輔と慎二さんは、椎凪と一緒に暮らすことに、あまりいい顔はしてなかったから……。

もし今ここで、椎凪のことを嫌って言ったら……椎凪と離れるってこと?
またあの家で一人で暮すってこと?

やだ……そんなの嫌だ……でも……。

オレは思わず椎凪を見てしまった。
椎凪は心配そうにオレの答えを待ってる。

ここ、数日間のことを思い出す。
毎日楽しくて、椎凪の作ってくれた料理もデザートもおいしくて……。

それに、椎凪はオレを守ってくれた。

あの日から、椎凪はオレのことをときどき迎えに来てくれるようになった。
一緒に帰って、ふたりで帰りながら買い物もしたりして……。

部屋でだって、寝るまでの間ふたりして色々話したり、映画見たりゲームしたり……楽しかった。

オレ……もう、一人は……嫌だ。


「……椎凪の料理……毎日食べたい」

思った以上に小さな声になちゃった。
しかも、他にも色々理由はあったのに一番もっともらしい理由を挙げた。

本当は、椎凪がいなくなったらオレ……。


「耀くん」

椎凪の顔が、一瞬にして明るく輝いた。
もう……すごくわかりやすい。

「耀くんっ!!」
「うわぁ!!」

いきなり椎凪に抱き付かれたっ!!
がばっ!!っていう音が似合うくらいの勢いで。

イスに座ってるオレの前に、膝を着いて座った椎凪がぎゅうっとオレを抱きしめる。

「ちょっ……やめっ!!」

うぅ〜〜く……苦しい!!
腕の力は強いし、椎凪の胸に顔押し付けられてるし!!
身体と頭に、椎凪の腕が回ってて身動きできない!!

「オレのこと、好きってことだよね?ね?」

すっごいニコニコ顔。
目の端にうっすらと涙まで滲んでる?

「だ……誰もそんなこと言ってないだろっ!!」

本当に “好き” だなんて一言も言ってないじゃん!!!
必死に椎凪の絡みつく腕と身体を引き離そうとしたけど、無理だった。

「もー耀くんは素直じゃないんだから♪♪」

これ以上ないってくらいの嬉しそうな椎凪の笑顔がオレを見下ろす。
そのあと、頬で俺の頭をスリスリしてくるし!!

違う!椎凪が誤解してるだけだって!!



「耀君も、あんなふうに言い合ったりするんだね」

じゃれ合うふたりを見ながら祐輔に話し掛けた。

「ふん。そうらしいな」

祐輔もそんなふたりを呆れた眼差しで見てる。
きっと呆れてる相手は椎凪さんだと思うけど。

「暫くは様子……見てみようか?祐輔」
「……お前何か企んでんだろ?」

祐輔が、僕に疑いの眼差しを向けて来た。
椎凪さんに向けたのと同じ呆れた眼差しだ。
失礼だな。

「え?やだな、今は何もしないよ」

──── 今は……ね。

くすっと笑った僕を、祐輔が訝しげに見つめてくる。

“その笑顔が怪しいんだよ” って、言ってる顔だ。

「まあ、いいけどな。オレも今は黙っててやる……」

僕と祐輔は、お互い自分なりに答えを出した。
そして今は、大人しくふたりを見守っていくと納得しあった。


オレと椎凪を眺めながら、ふたりがそんなことを話してたらしい。

オレは椎凪から何とか逃げ出そうと、悪戦苦闘してたから気が付かなかったけど。





「ごちそう様でした。おいしかったぁ!」

耀くんが、上機嫌で笑う。
オレはその顔を見てるだけで、機嫌が良くなる。
不思議だ。

「今度はうちの会社のほうにも遊びに来て下さい。椎凪さん」

そう言って、ニッコリ笑う橘君……一体どうしたんだ?
最初の態度とはエライ違う。
何か魂胆でもあんのか?

オレは、彼の態度を素直に受け取るなんてことはしない。
“あの” 笑顔を知ってるから。

「とりあえず、耀がいいって言うんだから暫く様子見ててやる。まあ追い出されないように、
気をつけんだな。じゃあな」
「じゅあね。耀くん、椎凪さん」
「うん。気をつけてね」
「今日はごちそう様でした」

挨拶を交わすと、ふたりはオレ達とは反対の方向に帰って行った。
そんなふたりを見送って、耀くんとふたりっきり……暫くお店の前で佇んでしまった。



「なんか……オレ、一応合格?」

そんな言い方もおかしいけど、そんな感じだった。

「みたい……」

耀くんが、オレを見上げて肯定してくれる。

「耀くん」
「なに?」

お互いまだふたりが帰っていった方向を見ながらの会話で、隣同士で並んで立ってる。

「オレのこと、好きって言って」
「言わないってば……」
「意地っ張りだな」
「だから違うってば!ご飯のためだよ」

そんな会話でチラリと耀くんの顔を覗きこむと、ちょっと拗ねたような顔をしてる耀くん。
そんな耀くんを見て、思わず微笑んでしまう。

こんなふうに他人と接して、そんな相手に微笑むなんてオレ今までしたことあるかな?

猫被った笑顔なら、もしかしたら見せてるかもしれないけど、耀くんには素直にそんな顔になってしまう。


相変わらずの耀くんの態度だけど……まあいいか。
時間はたっぷりとあるんだし、これから毎日今まで以上に覚悟しててね、耀くん♪


そう思いながらも、オレはふと昔のことが頭をよぎる。

輪子さんには拒絶されたオレの想い。

耀くんは……オレを受け入れてくれるんだろうか?


そう考えると、今はまだ自信がなくて……胸の奥が少し重くなった。








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