オレの愛を君にあげる…



16




『ごめんね耀くん。事件、重なっちゃってまだ帰れそうにないんだ』

携帯の向こう側から聞えてくる椎凪の声は、本当にすまなそうだった。

『だから夕飯の支度、間に合わないんだよね……』
「いいよ。適当になにか食べるから」
『本当にゴメンネ。なるべく早く帰るからさ』
「仕方ないよ、仕事だもん。うん、じゃあね」

最後に椎凪がオレのこと 『好きだよ』 言ってたけど、それはあえて無視することにした。



「さて、何にしようかな」

冷蔵庫を覘いてそう呟いたけど、オレ料理苦手なんだよな。
苦手って言うより作れないに等しい。

最近は椎凪が作ってくれてたから、全然ご飯のことなんて心配したことなかったし……。
なんせいつもデザート付きだし。

結局残ってたご飯を温めて生卵をかけて食べた。
何ともお粗末な食事。

「…………」

ふと、気付いた。
部屋の中が、もの凄く静かだ。
シーンと静まりかえってる……こんなにこの部屋、静かだったっけ?

オレは普段からあんまりテレビは見ないから、部屋の中で音がしない。
音楽でもかけようかな……なんて思って久しぶりにオーディオのスイッチを入れる。

でも、椎凪が来る前はこうだったんだよなぁ……その時は全然気にしなかったのに。

「ああ……もう……」

そんなことまで考えちゃったよ……あーあ……椎凪早く帰ってこないかなぁ〜ってオレは思ってた。

何でだろ?

なんて、どうしてかなんてわかってる。

「椎凪……」

だって……ひとりじゃつまんないだもん。




「あれ?電気点いてる」

玄関からリビングに繋がる廊下がぼんやりと明るい。

耀くん起きてるの?
でも、もう日付も替わってる時間だから耀くんはおねむの時間じゃないのか?
意外にも耀くんってば夜更かしができない。
んーーお子ちゃまみたいで余計可愛い♪

不思議に思いながら、そっとリビングのドアを開けた。

「耀くん起きてるの?」

見れば耀くんがソファに横になって、クッションを抱いて眠ってる。
パジャマにも着替えてないってことは、オレのこと待っててくれたのか?

そんなことを思いつつ、眠ってる耀くんに静かに近づいた。

寝顔がすっごく可愛い ♪
勝手に顔が綻んで、きっと情けない顔になってるだろう。
それにオレのこと待っててくれるなんて、ホント可愛いことしてくれるよね。

自然に手が、眠ってる耀くんに伸びた。
どうしよう ……抱きしめてキスしたい衝動に駆られた。

伸ばした手が、耀くんのすぐ傍で止まる。
オレはソファの前で膝まづくと、屈んで耀くんの顔に自分の顔を近づけた。

「起きないでね、耀くん」

……チュッ♪

耀くんとの初めてのキス……。
眠ってる耀くんの唇に、そっと自分の唇を重ねた。

耀くんが起きないかビクビクものだったけど、大丈夫らしい。

柔らかい感触に、外から帰ってきたオレよりもちょっとだけあたたかい耀くんの唇。
耀くんとの初めてのキスは、レモンの味はしなかったけど、何でだろ?甘い感じがしたのは気のせいか?

柔らかくて暖かい耀くんの唇……あ……ダメだ、離れられない。

オレは我慢できなくて、大胆にも舌を絡めるキスをした。

眠って無防備な耀くん。
舌先で歯の間をちょっと突いたら簡単にオレの舌を受け入れてくれた。

最初は気を使って恐る恐る耀くんの舌に触れた。
チロリと軽く舐めても逃げたりしなかった。

そんな反応にオレは自分にGOサインを出す。

流石に貪るようなキスはできないと自分に言い聞かせるけど思いとは裏腹に、
身体は勝手に動くから、なんとかなけなしの理性で押さえ込んだ。

好きな人とのキスは、どうしてこんなにも満たされるんだろう。

輪子さんとのキスも確かに嬉しかったけど、あの時は浮かれてる感があったのは否めない。
子供だったし、そういう行為自体に舞い上がってた。

この歳になって、少ないとはいえないほどの女を相手にして、キスの意味も違ってきてるのか。

本当は気持ちの余裕なんてないけど、耀くんとキスがしたくてしかたない。
だからオレは、細心の注意を払ってキスをする。

耀くんが欲しいから……耀くんに触れたいから……オレを好きになってほしいから……。

気をつけなければと思いながらもクチュルっと音がするほど耀くんの舌を絡めていく。
耀くんはオレのなすがまま……。

「……ん……」

耀くんから声が漏れた。
ヤベっ!!起きるか?

サッと耀くんから離れて様子を窺う。
心臓がバクバク、ドッキンドッキン……最高にスリルのあるキスだ。
今までこんなキスしたことない。
体中がゾクゾクして、背中を駆け上がった。

チョットだけ身体を動かした耀くんだったけど起きる気配はない……ウソ?起きないの?
覗き込んで暫く様子を窺ってたけど、耀くんはスヤスヤと眠ってる。

なんだ……こんなことならもっとキスしとけば良かった。
何事もなかったからそんなことを思うんだけど、物足りなさがオレを襲う。

でも流石にもう一度、耀くんにキスをする勇気はなくて出来なかった。
オレって意外と小心者?はぁ〜〜残念だな。

でも、今くらいのキスなら耀くんは起きないと確信した。
これからの対応に役立てよう!貴重なデータが取れてとりあえず今夜は良しとしよう。

オレはこれからもこうやって、耀くんの唇を奪う場面を想像してニヤリと笑った。

きっとその顔とオレがなにを想像してるか、祐輔や慎二君が知ったら殺されそうだけどね。



「耀くん……耀くん!」

眠ってる耀くんの肩を揺すって声をかける。

「起きて!こんな所で寝てたら風邪ひくよ」
「……んーーあれぇ……椎……凪?」

結構な回数肩を揺すって、やっと耀くんの目が覚めた。
やっぱり耀くんは一度寝るとなかなか起きないらしい。
フフ……よしよし ♪

「オレのこと待っててくれたの?」
「…………」

まだ目が覚めてないらしい。
ボーっとしながら目を擦ってる。
その仕草と、ソファの上でのアヒル座りが何とも可愛い〜〜♪ オレの胸が “キュン☆” ってなった。

「んーーいつ帰って来るのかなぁって思って……でも寝ちゃったんだオレ……ごめんね」
「ううん、ありがとう耀くん!!オレ嬉しいよーー ♪」

耀くんの言葉に、オレの顔がデレっとなったのがわかる。

「お帰り椎凪」

まだ眠気の覚めない耀くんが、それでもニッコリと笑って言ってくれた。

「ただいま。耀くん!」


耀くんに 『お帰り』 って言ってもらえるなんてなんて、オレってばなんて幸せなんだろう。
そんなことでも、オレの胸にあいてる黒い穴は少しずつ塞がっていくんだよ。

耀くん……好きだよ……愛してるんだ……本当だよ。

だから、いつかオレの気持ちを受け入れてくれたなら 『お帰り』 の言葉と一緒にキスをちょうだいね。

オレは今からだって耀くんにしてあげることができるけど、まだちょっと耀くんには無理だって
わかってるからしないけどさ。

でも、きっとそうできる日は遠くないって、思ってはいるけどね。


そんなことを思いつつ、オレもニッコリと耀くんに笑い返えした。








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