オレの愛を君にあげる…



閑話・祐輔と慎二と耀。 〜 出会い 01 〜




☆ 祐輔・耀 高校2年生 慎二・20歳



目覚ましが鳴って目が覚めた!
もう何回目が鳴った後だろう。

「祐輔!!起きて!朝だよ朝!」

起こしやすいようにと、昨夜一緒に寝て正解!
乱暴に祐輔の肩を揺すって起こした。

「んーー今日……休む……」

掛け布団に包まりながら、祐輔が寝言のように呟いた。
もー毎朝これだ。

「ダメだよ!日数足りなくなちゃうよ!昨日約束したじゃん」

包まってる布団を捲ると、祐輔の顔を朝日が照らす。

「……あー眠ぃ……耀は鬼だな……」

朝の苦手な祐輔が、やっとベッドの上で起き上がった。
寝ぼけた顔で、オレにそんなことを言う。

「祐輔ヒドイ。もーこんな可愛い鬼いないだろ?」

オレも朝は苦手だけど、オレ以上に朝の苦手な祐輔を起こすのはオレの役目。
祐輔が泊まった朝はいつもこんなふうに始まる。


キッチンのテーブルで簡単な朝食を食べる。
パンとコーヒーだけだけど。
因みにオレは牛乳と砂糖をたっぷりと入れた、自分特製のカフェ・オレ。

「はい祐輔。食べたがってたあそこのパン」

オレは紙袋ごと祐輔に渡した。
前から食べてみたいって言ってたネット通販のパン。

「お!サンキュ。買ってくれたんだ」

嬉しそうに袋を開ける祐輔。
祐輔はパンが好きなんだ。

「でもさ、2人で料理苦手ってのは致命的だよね。どうにかしないと……」

オレは市販の玉子サンドを頬張って、祐輔に言った。

「オレは料理無理だぞ。それにオレはパンがあれば別に構わねーし」

取り出したパンを千切って口に放り込みながら、祐輔が答える。

「朝じゃなくて夜ご飯!ほか弁ばっかじゃさぁ。オレ食べるの趣味だから」
「チビの大食いだからな、耀は。どこにあんだけのモン入るんだか、よく太んねーよな」

チラリと祐輔がオレ見た。

「なんだよ……いいじゃん、食べるの楽しいんだから」
「別にバカにしてるわけじゃねーよ。オレ、耀が楽しそうにメシ食ってるの見るの好きだしな」
「へへ……ありがと」

祐輔は時々、オレのところに泊まりに来る。
週に3日か4日で、後は女の人のところに泊まったり、たまに家にも帰るらしいけど、
オレのところが一番落ち着くって言ってくれる。
オレはそんな祐輔の言葉がすごく嬉しい。

オレの……たったひとりの友達……。

詳しいことは知らないけど、祐輔は自分のお父さんのことが嫌いらしい。
だから会いたくないらしくて、家には滅多に帰らないみたい。
たまに帰るのは着替えとかちょっとした用事を済ませるためと、心配してるお母さんと中学生の
妹さんを安心させるため。



そんな生活を送ってた高校2年の夏休み……祐輔の家族が交通事故に遭った。
一緒に行かなかった祐輔だけを残して、ご両親とまだ中学生だった妹さん全員が亡くなった。

旅行先の山道で、お父さんが運転してた車ごと転落して……。


お葬式の後から祐輔と連絡が取れない。
祐輔は携帯持ってないから自宅に掛けたんだけど、誰も出なかった。

祐輔……どこにいるの?……なにしてるの?


そんなとき、祐輔がオレの部屋を訪ねて来た。
顔にいくつか傷を作って……。

「祐輔!心配してたんだよ。連絡取れないし、家にはいないしさ」
「悪かったな……」

そう言って優しく笑う……でも……。

「あの家は処分することになった」
「え?じゃあ、これから祐輔はどうするの?」
「おふくろの方のジイさんの世話になることになった」
「え?おじいさん?いたの?祐輔に?」

それって初耳なんだけど。

「いたらしい」
「いたらしいって……」

もう……相変わらずなんだから祐輔ってば。
祐輔は自分に関しても周りに関しても、無頓着であまり細かいことは気にしないタイプ。

「まぁ色々あってな……あんま言いたかねーけど」
「?」

祐輔が一瞬不機嫌な顔をした。

「これ、オレの携帯の番号」
「えっ!?携帯?祐輔がっ?」
「ジイさんに持たされた」

そう言った祐輔は溜息をついてる。

「え?どうしたの?なんか祐輔変だよ?」

いつもの祐輔からは想像出来ない話ばっかりだ。
それがオレを不安にさせる。
当の本人は淡々とオレに話し続けてるけど……。

「それから、今日からここにいるから。ん…住所」
「……うん」

差し出されたメモを受け取った。
書かれている住所はオレの家から近かった。
でも、そんなことより……。

「祐輔……大丈夫?」

本人よりも不安げな瞳で祐輔の瞳を覗き込んだ。

「ああ、大丈夫だ。心配すんな……じゃあ、またな」

そう言ってオレの頭を軽く撫でた祐輔は、いつもの祐輔の顔だった。



耀と別れたあと、オレは重い足取りでジジィに教えられた住所のマンションに向かった。

心配してるだろうと思ってた耀は、案の定オレよりも思いつめた顔してた。
だから、直接会って安心させたかった。
ただ当分落ち着かないと思うから、また心配させるかもしれない。

ジジイに教えられた場所には、大きなビルと言えるような建物がそびえ建っていた。

「なんだ……ここは?これがマンション?」

マンションと聞いて耀のところみたいなのを想像してたんだが、なんか嫌味なまでに豪華なトコだ。

「チッ」

エントランスにいる奴らは無視して、教えられた部屋のナンバーを渋々押す。
すぐにオレの神経を逆撫でする声が聞こえてきた。

待ってたジジイに案内された部屋は、今まで見たこともない金のかかってそうな部屋。
リビングに繋がる廊下には幾つもの部屋のドアがあったし、リビングは50畳はあるんじゃないかと思わせるほど広い。
そのだだっ広いリビングは大きな窓がバルコニーと繋がってて、パノラマみたいに外の景色が見渡せる。
見てるだけで、こめかみが引きつる。

「何だよ、この部屋?」
「何って、今日からお前の部屋だ」
「はぁ?」

冗談だろ。

「それから服も用意したから、好きな物を着るといい」

見せられたクローゼットの中には、高そうな洒落た服がズラッとかかっていた。
なんかすげぇムカつく……。



オレの母方に、ジイさんがいたなんて初耳だった。

葬式が終わった夜に、ジジイひとりでウチに訪ねてきた。
なんでも母親が小さい頃に離婚して、海外に渡って会うことはなかったらしい。
祖母が会わせなかったらしいが……。
一体どんな理由で別れたんだか知らねぇけど、なんとなく察しがつく。

ジジイのほうは、ときどき様子を見てたらしくて、今回訪ねて来たってわけだ。

だからって、いきなりやって来たジジイに保護者面されんのも腹が立った。
初対面で 『今後のお前の面倒はワシがみる』 だとよ。

確かに、まだ高校生のオレはこれから先、ひとりの生活だったかもしれねえが、
誰かに面倒をみてもらう気なんかサラサラなかった。

だからそんなジジイの言うことなんて聞く理由はねえ。
そのつもりだったのに……。


「なんだ?随分少ない荷持つだな?勉強道具入ってるのか?」

ジジイがオレの肩にかかってるバッグを見て、不思議そうに聞いてくる。

「はぁ?んなの入ってるわきゃねーだろっ」

教科書なんて学校に置きっ放しだ。
だが、ジジィはそれが気に入らなかったらしい。

「ばぁかもんっ!!お前にはこれからみっちり勉強してもらうぞ!まずは大学に入ってもらうからなっ!! 」
「あ″ぁ″?ふざけんなっ!!誰が行くかっ!!」

今にも掴み合いになりそうなまでの雰囲気で、ギロリとお互い睨み合った。




この部屋に来てから2日目、学校にも行かず部屋の中でじっとしていた。
耀の奴、心配してんだろうな……気を使ってか一度電話がかかってきただけだ。

──── ピンポーン ♪

「!」

チャイムを鳴らした意味もなく、勝手に玄関のドアを開けて誰かが入ってきた。

「初めまして、君が祐輔君?」

短めの黒髪に真面目そうな男……歳はオレと同じ位か多少上か?

「あぁ?お前誰だ?ジジイの知り合いか?」

「僕は橘 慎二(tachibana shinji)。これでも君より年上なのでよろしく」
「?」

よろしく?

「今日から君の家庭教師だから」
「はぁ?」

そう言うと、そいつはニッコリと愛想良くオレに笑った。
オレが睨んでも、全く気にすることもなく。





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