オレの愛を君にあげる…



21




君は男の子だよ……良かったね、お母さんを苦しめたあの人に似てるけど、
男の子ならお母さんも少しは君のこと許してくれるよ……。

──── 本当?

ああ、きっと許してくれる。
だから、君は男の子だよ。
でもね、生まれたとき君は女の子の身体だったんだ。
それは君が受けなければいけない罰かもしれない。
でも、生きていく為には仕方ないね……君は女の子の身体だけど、心は男の子だよ。
周りがどう思おうと、君は男の子……わかってくれたかな?

──── 周りが耀のこと女の子って言っても、耀は男の子なんだよね?

そうだね。でも身体は女の子だから周りには女の子ってなったしまうけど、頑張れるかな?

──── うん……耀がんばる。
だってそうじゃないと、耀は生きることをお母さんに許してもらえないんだもの……。

耀……生きたい…から……死にたく…ない……。


──── このときからオレは罪を償うことで生きることを許された。
子供だったオレは、死ぬのが怖くて……でも母さんを死なせてしまったのもオレだから、この身体で罪を償っていくんだ……。

──── これで母さんはほんの少しでもオレのことを……オレが生きることを……許してくれるだろうか……。




「はっ!」

一瞬で目が覚めた。
無意識に寝たままで、自分の胸の辺りのパジャマをぎゅっと握り締めてた。

「はぁ〜」

また……あの夢!?
何の夢だったか思い出せないけど、この嫌な感じはまた同じ夢だ。
カーテンは閉まったままだけど、全体的にボンヤリと明るくて、すでに夜が明けて日が昇ってるのがわかってホッとする。
よかった、今が朝で。

「ふう……」

これが夜だったら、ひとりじゃ耐えられない。

ときどき見る夢……。
必ず途中で目が覚めて、言いようもない不安な気持ちと恐怖が込み上げてくる。
だから、この夢を見たあとは……。

「おっはよーーー♪ 耀くん!!朝だよーーー♪♪」

バターン!と、ノックもなしに突然勢いよく部屋のドアが開いて、椎凪が掛け声と共に入ってきた。

ドッキーーーーーーン!!
突然の出来事に、心臓が破裂しそうになる!!

「もー椎凪はっ!ビックリするじゃないかっっ!」

あんまりにもビックリしたから、思わず椎凪に八つ当たりしてしまった。

「えーだって、耀くんこれくらいしないといつも起きないじゃん」

納得できないって顔で、椎凪が反論した。

「別にいいんだよ〜♪ オレの愛情たっぷりのキスで起こしてあげても♪」

ニッコリと微笑む椎凪。

「やめてよね!そんなことしたらすぐに出てってもらうからね!」

アハハと笑って、椎凪はリビングに向かって行ってしまった。

「早くおいでね〜朝ごはんさめちゃうよ〜」

なんて言いながら……なんか……朝から色々疲れた。



「ふぅ〜」

いつものように椎凪が作ってくれた朝ご飯を食べ終わって、コーヒーを飲んでる。
まだ夢の影響で、オレの気分はブルーのままだ。

「どうしたの耀くん?なんか元気ないね?」

椎凪がそんな暗いオレに気づいて、声をかけてきた。

「うん……きっと夢のせいだよ」
「夢?」
「うん、ときどき見るんだ。内容はぜんぜん覚えてないんだけどさ、すっごく嫌な感じの夢なんだ……はぁ〜」

もう、溜息が出ちゃったよ。

「何人もの男の人が、オレに向かって何か言ってるみたいなんだけど、よくわかんないんだ」
「男の人?」

椅子に腰掛けながら、椎凪もコーヒーを飲む。
相変わらず裸の椎凪……まあ、腰にシーツを巻いてるから目のやり場に困ることはないけど、
上半身は裸だからなんとも言えない。
何度言っても朝は服を着てくれないから、もう言うのも諦めた。

「うん、だからオレ知らない人嫌い。男の人って特に嫌い……っていうか怖いんだよね、なんなんだろう」
「そっか……」

正面の椅子に座って、一緒にコーヒーを飲む椎凪を見た。
未だに不思議に思う。
どうして椎凪は平気だったんだろうって。
自分でもよくわかんないや……でも……。

あのときの、椎凪のあの笑顔がオレの気持ちを柔らかくしてくれて、警戒心を解いちゃったのかなぁ。


いつもと違って、落ち込み気味の耀くん。

夢に男が出てくるなんて……しかも複数。
内心ムカつくけど、なにか昔の記憶なのかもしれない。
でも、耀くんにもわからないんだ。

夢……か。
オレも耀くんのことは言えない。
最近見ていないけど、突然襲ってくるあの夢。
もし次に “アレ” を見たら……オレは大丈夫なんだろうか。




「おはよう。祐輔」

大学に着いてすぐに祐輔を見つけた。

「オス」

どうやら今日は機嫌は良さそうだ。
祐輔は朝がオレ以上に苦手だもんな〜。
祐輔とは同じ大学で、受ける講義もいくつか被ってるからいつも一緒にいる。

「変なこと、されてねーか?耀」

祐輔が笑いながら聞いてくる。

「え?何?なんでそんなこと聞くの?されてないよ、変なことなんて」
「ふ〜ん、よっぽど我慢してんだな。椎凪のヤツ」

そう言って、クスクス笑ってる。

「もー祐輔ってば……」
「どう見たってアイツ、手が早そうだぞ」
「オレに変なことしないって約束だもん!」
「でも」
「!」
「耀にキスすることは、アイツにとって変なことじゃないんだぞ」

顎を掴まれて、クイッとオレの顔を自分の方に引き寄せて祐輔が言う。
祐輔との顔の差は、ほんの数センチだけどオレはなんとも思わない。
だって祐輔とは密着して、ひとつのベッドでも寝てたし、オレが夢や意味もなく落ち込んだときは
抱きしめてもくれるんだ。
それにときどきだけど、額や頬に優しくキスもしてもらったこともある。
それはけして色恋沙汰の感情ではなくて、肉親に対しての愛情の印の行為だから。

オレは祐輔に、家族のように大事にされていると思う。
それは、祐輔が恋人の深田さんに向けるものとは違うものだ。

オレはそんな祐輔と慎二さんにたくさん守られて、今まで生活してきた。
2人がいなかったらオレは、今頃どんなことになってるんだろうと思う。

「もー、そんなにオレと椎凪をくっつけたいのっ?」
「ははっ、さあな」

そんなことを言う祐輔に一撃当てようと振り上げたオレの手は、簡単によけられてしまった。
しかも、まだクスクスと笑ってる。

「でも、一番わかってるのはお前だろ?なあ……耀」
「祐輔」

ジッとオレを見つめる祐輔の瞳……最初に惹かれたその瞳には、祐輔の優しさがこもってる。

「ま!いいけどな、そんな焦んなくても」

祐輔がそう言いながら、オレの頭に手を乗せた。

「ただオレは、耀が傷つくのを見たくない。それに耀には幸せになってほしい、それだけだ」

優しく笑って、ポンポンとオレの頭を撫でる。


──── 祐輔……オレの初めての友達……オレを初めて理解してくれた人。

オレの大切な人……。


「ありがとう、祐輔。でも大丈夫だから心配しないで」
「そうか……ならいい」

祐輔がオレの頭から手を離すと、2人で教室に向かって歩き始めた。




いつもの夕飯どき。
ダイニングテーブルの上には、ホットプレートの上で美味しそうなお好み焼きが食べ頃になっている。
椎凪は毎日、夕飯には帰って来てくれる。
仕事柄、難しいと思うのにオレに気を使ってくれてるのかな?


「椎凪って彼女いないの?」

オレがいきなりそんなことを聞いたからか、椎凪はちょっとビックリした顔をした。
でも、すぐに普通のいつもの顔に戻る。

「いないよ、今まで彼女って感じで付き合ったことないかな。オレ浅く広くだから」
「そーなんだ……」

椎凪のそんな答えに、なんか納得いかないオレ。
だって椎凪ってば女の人からみたら、かなりイケてると思うんだよね。
なのに、今まで彼女がいなかったなんてウソじゃないかと思うんだけど。

「だって、本当に好きになっちゃうとオレの愛って……」

そこまで言うと、少し間を置いた椎凪。

「深くて、重いから……さ」

口の端だけ上げて、フッと笑った。

「?」

いつもと変わらない椎凪の笑顔のはずなのに、椎凪の今の笑顔がいつもと違く感じたのは気のせい?
笑顔というか、椎凪の雰囲気全部がいつもと違う感じがしたような気がしたんだけど。

「重すぎて受け止めてもらえないんだよね〜〜♪」

あれ?やっぱりいつもの椎凪?う〜ん、なんだかよくわからない。

「なに?それってウザイってこと?」

ズバリ聞いちゃった…マズかったかな?
椎凪がギョッとした顔してる。

「ち、違うよ!一途ってこと!!」

妙に焦る椎凪。

「じゃあオレのことも、浅く広くの一人なんだね」

あまり深く考えもせず、からかい半分の本音半分でお好み焼きを頬張りながら呟いた。

「え″っ!?ち、ちがーーーうっ!それは違うってば!耀くん!!」

さっきよりもすごい焦ってる。

「もーいいよ。ほらっそこ、コゲるよ」

必死になってる椎凪をスルーして、オレは食事に集中した。
本当にコゲちゃうよ。

「耀くん!違うからねーーーっっ!!」

あんまりにも素っ気なくしたら、椎凪が今にも泣きそうな顔になった。
オレはそんな椎凪を見て、心の中でクスリと笑ってた。
だって、もの凄く焦ってる椎凪がすごくおかしかったから。



「椎凪って彼女いないの?」

耀くんがいきなりそんなことを聞いてきたから、オレはちょっとビックリしてしまった。
顔に出たらしく、耀くんがそんなオレを見て “ん?” って顔をする。
そんな顔も可愛くて思わず顔が綻びそうなるけど、すぐになんでもなかったような顔に戻る。

「いないよ、今まで彼女って感じで付き合ったことないかな。オレ浅く広くだから」

一瞬、輪子さんのことが頭に過ったけど、あれは付き合う前にフラれたし。

「そーなんだ……」

なんか、納得してない顔の耀くん。

「だって、本当に好きになっちゃうとオレの愛って……」

言いながらそっと 『オレ』 を出して、耀くんを見つめた。
いつもと視線の力強さが違うと思うんだけどね、耀くんは気づくだろうか?

「深くて、重いから……さ」

口の端だけ上げて、フッと笑って見せた。

「?」

耀くんの眉間が一瞬だけ寄ったけどすぐに元に戻る。
ああ、気づいてくれたのかな? 『オレ』 で見つめたこと。

「重すぎて受け止めてもらえないんだよね〜〜♪」

「なに?それってウザイってこと?」

ズバリ聞かれた!なんてことを言うかな?耀くんってば!!
とんでもない勘違いだろ、それって。

「ち、違うよ!一途ってこと!!」
「じゃあオレのことも、浅く広くの一人なんだね」

またさらに、とんでもないことを言い出す耀くん。
なにそんな爆弾発言しといて暢気にお好み焼き頬張ってんの?

「え″っ!?ち、ちがーーーうっ!それは違うってば!耀くん!!」
「もーいいよ。ほらっそこ、コゲるよ」

必死になって説明しようとしてるオレを、耀くんはあっさりとオレをスルーして本格的に食べ始めた。

「耀くん!違うからねーーーっっ!!」

そんなオレの心からの叫びも耀くんはなんの反応もせずに、黙々とオレの焼いたお好み焼きを食べ続けてる。
いつもと同じに美味しそうに食べてくれる耀くん。
途中、 『美味しい〜〜〜』 って何度も言ってくれたけど、今夜のオレはなんとも複雑な思いだった。

だって……耀くんってばオレの言う “違う” という言葉に結局最後まで頷いてくれなかったから。








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