オレの愛を君にあげる…



24




いつもの如く、オレはお弁当を完食した。
やっぱり椎凪の料理は美味しかった♪

お弁当を食べ終わったころには、日差しがポカポカ暖かくって気持ちいい風まで吹いてた。

「ふぁ〜〜、うーー眠い……」

オレはアクビをしながら目を擦る。

「くすっ、もー耀くんは」

空になったお弁当の重箱をしまいながら、椎凪が笑う。

「お腹空いたらたくさん食べて、食べたらすぐ眠くなるなんて、本当にお子ちゃまだね」

椎凪がクスクスと笑いなから失礼なことを言う。

「だって……」

同じようなことを祐輔にも慎二さんにも言われる。
たしかに子供っぽいかもしれないけどさ、これでももう少しでハタチなんだけどな。


“お子ちゃま” と言われた耀くんが拗ねてる。
そんな拗ねてる耀くんも可愛いくて、オレの作ってきたお弁当を美味しいって、
幸せって言って全部食べてくれたから、オレはすこぶる機嫌がいい。

「何時に起こせばいい?」
「え?」

耀くんの隣に座って肩を抱き寄せた。

「寝ていいよ。オレ起こしてあげる」
「え?あ…いいよ……そんな」

照れてるの?耀くん。
ホント可愛いったらないよね♪

「いいから!気持ちいいよ、きっと。今日天気も良いしさ、絶好のお昼寝日和だよ」
「………」

しばらく耀くんは無言でオレを見ながら考えてたらしい。


「オレ、幸せ♪」

結局、耀くんはオレの肩に寄りかかって寝た。
しばらく考えこんでたけど、そのときですら今にも瞼が閉じそうだったから、
オレの申し出を断るなんて無理なんだってば。

オレの肩に乗ってる耀くんの可愛い寝顔に可愛い寝息。
ああ、もうたまらない♪

そんな耀くんの頬に、そっと片手を添えて持ち上げる。
長い睫毛にちょっとピンク色に染まったマシュマロみたいな頬に滑らかな唇。
我慢できなくて、そんな耀くんにそっと優しくキスをした。
触れるだけの優しいキス。

「耀くん寝ると滅多に起きないからな。キスし放題♪ ちゅっ!」

起きないのがわかってて、何度も何度も耀くんにキスをする。

オレはズルいんだ……起きないのをいいコトに、耀くんの唇を何度も奪ってる。



──── くん……     耀────   耀……起きろ……。


ん?誰か……呼んでる?あ……祐輔が呼んでるんだ。

「あふ……、んーー祐輔?」

寝起きの目を擦りながら、耀くんが祐輔の名前を呼んだ。

「 !! 」

ズキリと、結構なショックをオレは受けてた。

「あ……ちがう……椎凪だ。ごめん、間違えちゃった。でも、ありがとう椎凪、よく眠れたよ」

まだ眠そうな耀くんが、目を擦りながら言う。

「よ、耀……くん?」
「ん〜〜?ふぁ〜〜」

寝起きの耀くんがすごく可愛くて、そのまま抱きしめたかったけど、なんとか堪えて聞いてみた。

「祐輔ともいつもこんな風にしてるの?」
「え?」

自分で耀くんに聞いておきながら、顔は引き攣っていないだろうか?


心地よい眠りから目が覚めると、椎凪が真面目な顔で変なことを聞いてきた。
え?祐輔と?なに?
椎凪がさっき聞いてきたことを思いだす……ああ!

「うん、いつもしてるよ。祐輔の肩って寝心地抜群なんだよ、昔からそうだから」

オレはいつも思ってることを、素直に椎凪に話す。

「寝心地……抜群?昔……から?」

ニッコリ笑って嬉しそうに話す耀くんに、オレはまたショックを受けた。
オレよりも祐輔の肩のほうが寝心地がいいのか?そんなセリフが頭の中を回ってる。

でも、怖くて聞けない。
“そう” なんて頷かれたら?

「ん?どうしたの?椎凪」

オレは相当ヘコんでたらしい。
耀くんが不思議そうにオレの顔を覗き込む。

「う、ううん……なんでもないよ。気に……しないで、はは……ははは」

引き攣った笑いだったかもしれない。
耀くんが首を傾げて、不思議そうな顔でオレを見てたから。



「え?祐輔?祐輔とは高一のときに知り合って……それからすぐウチに泊まるようになって……」

その日の夕飯の後、2人で食後のコーヒーを飲みながら耀くんに聞いた。
昼間のことが気になってたから。

「泊まる?え?何で?」
「ああ、祐輔って高校のころほとんど家に帰ってなかったから。いつもオレのとことに泊まるか、
女の人のところかって感じだったんだ。ときどきは家に帰ってたみたいだけどね」
「そ、そうなんだ」

高校からの付き合いっていうのは聞いてたけど、ずいぶんと仲がよかったんだと思った。

「2人で料理ダメだったから、悲惨だったよ食事。まぁ祐輔はパンとコーヒーさえあればよかったからいいけど、
オレは大変だったなぁ」
「泊まったって……まさか耀くんの部屋?」

もう食事云々は聞き流して、とにかく “泊まった” というところに食いつく。

「まさか!椎凪が今使ってる部屋に泊まってたんだよ」
「え?オレの部屋に?」
「あのマンションに引っ越してからはあんまり泊まりに来なくなったけどね」
「あ、あのさ……耀くんは祐輔のところに泊まったことあるの?」

なぜか恐る恐る聞いてるオレ。
どうも耀くんのこととなるといつもと違う自分。

「何回かあるよ。」
「あそこベッドひとつでしょ?まさか……」
「うん。一緒に寝たよ」
「え″っ!!」

な、なんだってーーーーー!!
耀くんがオレ以外の男と、ひとつのベッドで寝た?

「ウチに泊まったときも、ときどき一緒に寝てたよ。二人で話し込んじゃったり昼寝したり……」
「………」

うそ……一緒に?昼寝?同じベッドで?

「オレどうしても一人で寝れなくなっちゃうときがあるからさ」
「耀くんの部屋で?」
「ううん、祐輔はオレの部屋にはあんまり来なかったな。オレが祐輔のところに行って寝てたかな」

耀くんが?自分から??

「じゃ……じゃあさ、オレところに来て寝てもいいってこと?」

そういうことだよだよな?オレはウキウキしながら耀くんの答えを待っていた。

「え?」
「だってそうでしょ?オレのところで話し込んで寝ちゃったって、どうしても一人で寝れないときとか
オレのところに来てくれていいからさ!」
「えっ?そっ……それは無理だよ」

耀くんが困った顔をした。

「えっ!?なんで??」
「だ……だって……祐輔と椎凪はちがうもん」
「なっ!?」

ガ ン っ !! と、衝撃がオレの頭を襲う……う……うそ?

「ど、どう違う……の?」

ダ……ダメだ……眩暈が……。

「え?あ……祐輔は……オレ達は家族みたいな関係なんだ」
「家族?」
「そう。オレと祐輔は兄弟みたいなものなんだ。普通の友達とかじゃなくて、高二のときに祐輔の家族が
亡くなって本当にそう思ったし、オレが唯一の家族だと思った。本当のお祖父さんいるけど……さ」
「亡くなったって?全員?」
「うん、車の事故でね。本当の身内はお祖父さんだけ。だからオレ祐輔に 『お前はオレの家族だ』 って
言われたときは嬉しかったなぁ」

そう言ってそのときのことを思い出したのか、優しく耀くんが笑った。



ズーーーーーン …………。

あのあと、オレは自分の部屋のベッドの中で落ち込んでいた。

祐輔か……きっと耀くんに一番近い存在で、絶対的な信用をされてる男。
確かに祐輔からは耀くんに対して邪な気持ちは感じない。

いつも優しく見守ってて、手を差し伸べて……耀くんの心の支えになってる男。

オレは別に家族になりたいわけじゃない……兄弟になりたいわけでもない。
オレは……恋人になりたいんだ。

だけど……『祐輔と椎凪はちがうから』 か。

はーーショック。
それに、このベッドで祐輔と耀くん寝てたんだ…………くそ!

オレはボスンとベッドに拳を叩きつけてグリグリと押し込む。

なんとも煮え切らない思いが、胸の中に残っていた。








Back  Next










   拍手お返事はblogにて…