オレの愛を君にあげる…



27




コン コン !

「椎凪……入るよ」

ノックしたのに返事がなかったけど、かまわずに椎凪の部屋のドアをそっと開けた。
結局、心配で様子を見に来てしまった。
オレって甘いのかも……。

部屋に入ると、椎凪はベッドの上でうつ伏せてた。

「椎凪……」

優しく声を掛けたのに、オレでもわかるほど椎凪の身体がビクッとなった。

「………」

椎凪は返事もしないし、顔も上げてくれなくて、オレのほうを見もしない。
まったく……思った通りだ。

「ごめんね、椎凪。叫んだりして……」

なんとなく、オレから謝ってしまった。
多分、オレは悪くないと思うんだけど、それだけ椎凪の落ち込み方が半端なかったから。

とんでもなく部屋の空気が重い……。

「!」

オレの言葉に反応した椎凪が、ゆっくりと上半身だけ起き上がった。

「耀……くん……ぐずっ」
「!!」

起き上がった椎凪を見てビックリした。
ウルウルに潤んだ瞳。

え?椎凪?泣いてるの?ウソ……泣いてたの!?

「オレのこと……許してくれる……の?」

そう尋ねる椎凪の頬を、涙が伝って落ちた。
ポロポロと止めどなく零れて……もう……椎凪ってば……。

「うん……椎凪は、悪気があったワケじゃないんだよね。オレわかってたのに……ゴメンネ、椎凪」

まだベッドの上で身体はうつ伏せのまま、顔だけオレを見上げてる椎凪に少し屈んで優しく話しかけた。

「本当に……うっく……もう……怒ってない?」

うっ!椎凪の泣き顔が大人の男の人のクセに、なんとも可愛い顔になってて……心臓に悪い。

「う、うん。……あっ!」

オレが返事をした途端、椎凪がオレの腰に腕を廻してギュっと抱きついた。
それはやっと許しが出て、縋るような必死な抱きつき方だった。

「ぐずっ……本当に……本当?」

そのまま腰に回してた腕を、オレの首に伸ばしながらオレの顔を見上げる。
うわぁ〜!椎凪の顔がグッと近くなって、思わずドキッとしてしまった。

「本当だよ、椎凪。オレ、本当にもう怒ってないから」

何度も何度も聞いてくる椎凪。
だからオレも、何度も何度も答えてあげる。

「よかった……オレ、耀くんに嫌われたらどうしていいかわんなかった……本当に……よかったぁ」

瞳の端っこに涙を溜めながら、椎凪があからさまにホッとしてニッコリとオレに笑った。

「!」

椎凪ってば……子供みたいに笑うんだね。
泣き顔も子供っぽかったけどさ。

見るからにホッとした顔してさ、そんなにオレのこと好きでいてくれるの?
オレに嫌われるのが、泣いちゃうほど辛いの?

バカだな……椎凪は……。

こんなオレのこと……そんなに好きになるなんて。


椎凪がキョトンとした顔でオレを見上げてる。
オレが何も言わず、ジッと椎凪を見つめてるから。

「本当にバカだな……椎凪は」
「え?」

ボソリと呟いたオレの言葉は、椎凪には届かなかったみたいだ。
オレは椎凪の顔を両手で持ち上げると、そっとオデコにキスをした。

椎凪はオレを見つめたままジッと動かない……オレはゆっくりとオデコから唇を離して、優しく微笑んだ。

「……耀くん……」

椎凪が瞬きもしないでオレを見つめてる。
オレはフッと微笑んだ。

「耀くんっっ!!!」
「うわっ!!」

いきなり椎凪がオレに抱きついてきた!!
オレは椎凪を支えきれなくて、そのままベッドの上に2人して倒れ込んでしまった。

「ちょっ……もーー椎凪ってば、やりすぎっ!!」

なんとか肘をついて、上半身だけ起き上がる。

「だって!!……だって、耀くんがキスしてくれたんだよ!!オレ、すっごく嬉しくてさ♪」

まったく……椎凪が泣きながら笑ってる。

「な、仲直りのキスだからねっっ!!他に意味ないからっ!!」

真っ赤になりながら、慌てて説明した。
慣れないことはしないほうがいい……心臓に悪い。

そっと手を伸ばして、椎凪の涙を指で掬った。

───── 傷つけて……ごめんね、椎凪。

こっそりと、心の中で椎凪に謝った。

「涙、止まった?」
「え?涙?あ!本当だ……」

自分の目を擦りながら、椎凪が自分でもビックリしてた。
どうやらオレに言われるまで、気づかなかったらしい。

「わかんなかったの?」
「耀くんに嫌われたと思ったから……そしたら不安で不安で……どうしたら許してもらえるかって
ずっと考えてて……よくわかんないや」
「スッゴイ泣いてたよ」

そう、涙ボロボロだったじゃん。

「え?そうなの?憶えてない……やだな……恥ずかしいな」

赤くなったハナの頭を擦りながら、本当に恥ずかしそうだ。
椎凪、可愛い……くすっ。

「椎凪の意外な一面を見ちゃった」
「耀くん……」

オレをジッと見つめて、今度は椎凪がフッと微笑んだ。

「でも……いいや」
「え?何が」
「耀くんなら、見せてもいい……」

真面目な顔で、椎凪がそう言った。
理由なんてわからないけど、オレはなぜかずごく嬉しく思った。
なんでだろ?

「椎凪」

オレは簡単に、椎凪のことを傷つけることが出来ちゃうんだんね。
これからは気をつけなきゃ……。

オレを見上げて、ホッとしてる椎凪を見てそう思った。

ボロボロに泣いていた椎凪。
オレが怒ってないって、許すって言ったときの椎凪を見て、本当に不安だったんだと思った。

そして、オレにはわかったことがある。

「オレ、今わかちゃった」
「え?」
「椎凪が落ち込んだら、オレ直してあげられるんだ」
「え?本当?」
「うん」

オレはそう言って、椎凪の顔を両手で持ち上げると、またオデコにチュッとキスをしてあげた。

「え?」

椎凪が信じられないって顔で、目を真ん丸く見開いた。

「ね?これで大丈夫だろ?」



耀くんが落ち込んだオレを見て、直してあげられるとオレのオデコにキスをしてくれた。
耀くんはニッコリと笑ってくれてる……オレのために、キスしてくれたの?

「ダメ?」

無言のオレに、首を傾げてちょっと困った顔してる耀くん。

「えっ!?あ!ううん……うん!大丈夫!」

オレは慌てて耀くんを見上げて頷いた。

「でしょ?ふふっ♪」

オレの返事に、耀くんが満足気にまた笑ってくれた。
オレはそんな耀くんを見て無性に嬉しくて、幸せな気分になった。


それからオレと耀くんは、ベッドの上で暫く話し込んだ。
オレはうつ伏せのままで、耀くんが伸ばした脚の間にいる。

両腕は耀くんの腰に回して、軽く抱きかかえてる。
だから、耀くんのぬくもりがホンワカと伝わってくるんだ。

そして何よりも、よかったと思うことは……オレ、耀くんに嫌われてなかった。

今日のことでわかった。

オレ、耀くんに嫌われたら生きていけない……。
これは冗談でもウソでもなくて、オレにとって真実だ。

耀くんに拒絶されたら、オレはきっと壊れてしまう。

だから、もっともっと……気をつけなきゃいけない。

必ず耀くんをオレのモノにするために……オレだけの耀くんにするために……。

もう二度と……こんな想いはしたくないから……。


愛おしくて……愛してやまない耀くん。

愛してる……他の誰でもない……耀くんだけを愛してるから……。


だから……いつかオレを好きになって……オレを受け入れて……。


それが……オレのただひとつの願いだから。








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