オレの愛を君にあげる…



閑話・祐輔と慎二と耀。 〜 出会い 02 〜




☆ 祐輔・耀 高校2年生 慎二・20歳



社長に……祐輔のお祖父様頼まれて、祐輔の面倒を見始めて3日目……さっそくサボられた。
祐輔が部屋にいない。

その日の夜遅く祐輔が帰ってくると、服は汚れて口元は切れて血が出た痕がある。
まったく……隠しもせずに溜息をついた。

「何でサボったの?」

理由は分かってたけど、ワザと聞いた。

「息が詰まんだよ」
「それでケンカ?馬鹿じゃないの?」

もの凄い呆れた顔と声で溜息混じりに吐き捨てた。

「僕が来たからにはそんなこと、もうさせないよ」

そう言って、僕は祐輔に向かってニコリと笑った。



慎二の運転する車で、夜中の街を走ってどこかのマンションに連れて来られた。
カギのかかっていない玄関を勝手に開けて中に入ると、長い廊下の両脇にいくつものドアがあって
突き当りにはかなりの広さのリビングが広がってた。
けっこうな人数が座れるソファがあちこちにあって、バーのようなカウンター席まである。

そのリビングには何十人という女がいたが、どう見ても普通の女じゃない。
どいつも美人と呼ばれる部類に入る奴で、その他に男が女の半分くらいいる。
部屋の中は照明が落とされて音楽が小さな音で流れてた。
タバコとアルコールの匂いもして何かのパーティーか?とも思ったが、独特な雰囲気が漂ってるのはわかる。

「何だここ?」

慎二の顔を見もせずに話しかけた。
気配で、オレのちょっと後ろにいるのはわかってたから。

「憂さ晴らしのパーティー」
「は?」

何の躊躇もなく、サラリと言いやがった。

「週一位で誰かしらやってるんだよね、フフ。別に違法なことは何ひとつやってないよ。お金もクスリも絡んでないし、
ただ出会いの場を提供してるだけ。後腐れのないね」
「!」

平然とした顔して言ってやがる。

「祐輔、好みの子決まった?」
「は?」
「まさか初めてのはずないよね?」

真面目な顔で覗き込まれた。

「お前……」

こいつ、見かけと随分違う。
不機嫌なわけじゃないとは思うが、顔つきが腹黒く変わってる。
きっとオレの目の錯覚じゃないと思う。

「なに?」

オレの言いたいことをわかってるくせに、そんなふうに聞いてきた。

「別に。今、女を抱く気なんかねえ」

慎二から視線を外して吐き捨てた。

「そう?じゃあ、たまには抱いてもらうといいよ」
「!!」

なんだその切り返しは?

「瑠理ちゃん、こっち来て」

慎二に呼ばれたその女は、もう呼ばれた意味がわかってるらしく、オレの傍に来るといきなり
オレの首に腕を絡めてキスをした。
なんだろ……酒の味か?絡んだ舌が妙に熱い。

「チュッ……フフ♪」

唇が離れると、緩く口を曲げて笑う。
そのまま腕を取られ連れて行かれて、廊下から見えた幾つかの部屋のドアのひとつに入る。

入った部屋は真ん中にダブルサイズのベッドと壁際にはクローゼットの扉とドレッサーが
置いてあるだけだけだった。
そのまま部屋の中に連れて行かれて、ベッドに押し倒された。

仄かな明かりの下で、マネキュアを塗った細い指がオレのシャツのボタンを外していく。
その間、お互いに無言。
断るのも面倒くさかったし、葬式以来のやるせない気持ちもあってオレは女のされるがままになってた。

シャツのボタンが全部外されると、女が両手でオレの身体を撫でるようにシャツを脱がしていく。
着ているものを脱がされながら、女の唇がオレの首に触れてそのまま肩から鎖骨やらを降りていく。

たまにはいいか……と、女のすることを受け入れた。

こんなことをするくらいだから、予想どおり女は慣れてた。
オレも初めてって訳じゃねぇし、別に罪悪感も羞恥心もない。

そのままその女に抱かれて……途中からオレもその女を抱いた。
感度のいい女だな、なんて思いながら均等に整った女の身体を攻め続けた。

慎二の思惑どうりに運ぶのもあんまりいい気分じゃなかったが、今はこの行為に没頭したかった。
なのに頭の中は冷静で、よぎるのはもうこの世にはいないオレの家族のこと……。

子供の頃から大嫌いだった親父。
刑事だからって他の奴等よりも、世の中に貢献してるだなんて偉そうにオレに説教してた男。

そして……ずっと前から、母親を裏切ってた男。

それを知った時、前以上に父親というその男を、腹の底から嫌悪した。
同時に “刑事” という肩書きも大嫌いになった。
もともと好きじゃなかったが。

母親は、何も知らなかったと思いたい。
妹も、何も知らずにいたと思いたい。

事故は親父の運転ミスだったと聞かされて、さらに腸が煮えくり返った。

ったく……最後の最後までオレを苛立たせる奴だったよ……クソ親父。


そんなことを考えてたら、無意識に女を突き上げるのに力が篭ったらしい。
その動きで女があっけなくひとりでイった。



どのくらい時間が経ったのか、元の場所に戻ると慎二が待っていた。

「おかえり」

意味ありげに笑ってやがる。
そんな慎二の隣に立った。

「お前、いつもこんなことしてんのか?」
「まさか!ただ祐輔の反応見てみたかったからさ。祐輔って女性に対して結構真面目なんだね。
もっと誰でもいつでもOKかと思ってたんだけどな」
「人を欲望の塊みたいに言うな」
「まぁいいや、僕としては合格。女にだらしない子、僕嫌いだからさ。女に振り回される子もね」

そう言うと、オレの正面に慎二が移動する。

「祐輔……君にはこれから色々なことに挑戦してもらうよ、違う世界を知ってもらう。嫌とは言わせない。
これは君の為でもあるんだから。
それに社長……君のお祖父様との約束だものね?破ったりしないよね?祐輔」

微笑みながら、オレの顔を覗き込んだ。

「祐輔は男と男の約束を破るような子じゃないよね?」
「…………」

オレは微かに目を細めた。
こいつ……オレとジジイとの約束わかってて言ってやがんな。

「僕も最初は社長に頼まれたからだったけど、今は違う。僕が自分で決めた。君を成長させてあげる」

いつの間にか伸ばした人差し指で、オレの顎を持ち上げながら慎二が話す。

「なぜなら僕が君を気に入ったから。これから僕の力を君のために使うよ、その代わり祐輔も
僕の期待に応えてね。僕を失望させないで」

「…………」


僕の言葉で、祐輔の瞳が一瞬で変わった。
綺麗に澄んでいて、それなのに鋭く射抜くようなこの瞳……この瞳が一番気に入ったんだ。

「別に特別なことはないよ。祐輔は祐輔のままでいてくれれば僕は嬉しい」

──── 他にもいるなんて思わなかったもの。

“彼” と似た瞳……吸い込まれるようにその瞳に惹かれる。

僕を虜にする瞳 ─────


「まずは髪、もう少し伸ばしてね」
「あ″ぁ″?なんで?」

まったく……不機嫌丸出し。
まあ裏表も腹黒でもないってことなんだよね、僕と違って。

「うちの専属のモデルになってもらうからさ。祐輔髪の毛長いの似合うよ」
「はぁ?ふざけんなっ!!」

慎二が色々勝手に言ってやがると思ったら、またムカつくことを平然と言いやがったっ!!
腹の立つ野郎だ。

こいつも……ジジイも……。




祐輔の家族が亡くなって2ヶ月になる。
祐輔は前と同じで、 時々オレのところに泊まっていく。

でも、今の生活のことなんかは話たがらない。
おじいさんのこととかは特に……。

学校の帰りに夕飯を済ませるつもりで、2人でファミレスに入った。

「祐輔さ、髪の毛伸ばすの?」

最近の祐輔が今までと感じが違うのは、髪が伸びてきたせいなんだ。

「あー伸ばせって言われてんだよな……邪魔なんだよ、ホントは……はぁ」

そう言って溜息をつきながら、前髪をかき上げる。

「“言われてる” ってなに?誰に?」
「!!」

祐輔が、しまったって顔をしたのをオレは見逃さなかった。

「祐輔!なにかオレに隠してるんだろ?何?オレにも言えないこと?」

そう言って、祐輔の顔を睨んで覗き込んだ。
視線を合わせて、少し膨れっ面で見つめる。
これで話してくれないなんてないんだ。
いつもの作戦。

祐輔はオレに甘いから。

「あーー実は……」


ほら、祐輔があきらめて仕方なさそうに話し始めた。
でもその話しが、オレの予想をはるかに超えた話だったなんてそのときのオレには気づくはずもなく。





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