オレの愛を君にあげる…



32




──── やだっ!来ないで ────


夢の中で叫んだ。

知らない男の人達の手が何本も伸びてきて、オレを捕まえようとする。
その男の人達が、オレに向かってなにか……言って……る?なに…?
聞えない……わからない……でも全員の口が動いてて……何かを言いながらオレに近付いてくる。



「やだあああああーーー!!」

自分の声で目が覚めた。

「ハァ…ハァ…あ……夢?」

心臓が痛いくらいドキドキしてる。

「はあーー」

オレは無意識に胸の辺りのパジャマをぎゅっと握りしめた。

また……いつもの夢だ……。

どんな夢か覚えてないのに、恐怖だけが残ってる。
いつもそうだ……こんなに怖い……こわいよ……。

身体が震えて、じっとしていられなくて、起き上がった。
知らないうちに零れてた涙が止まらない。

「ふっ……うっ……」

堪えても次から次に涙が溢れてくる。
こわい……。

── 耀くん ── 

「!!」

そのとき、オレの名前を呼ぶ椎凪の声が頭に響いた。

「椎……凪……」

いつもの椎凪の声……優しくオレを呼ぶ声。

── 耀くん ──

「うっ…」

椎凪!椎凪!!……椎凪!!!

身体が勝手に動いてた。
ベッドを飛び降りて、椎凪の部屋に走っている自分がいた。



椎凪の部屋のドアの前。

「!」

ドアノブに伸ばした手が止まった。
急に我にかえる。

な…に?オレ……なにをする…つもりなんだろう。
椎凪の部屋に入って……どうするつも…り?
椎凪に……なにを求めるつもりなんだ?

いつも、椎凪を拒んでるの……オレなのに……。

「ぁ……」

ドアの前でしばらく動けなかった。

いつもひとりで布団にくるまって、泣きながら朝まで過ごしてた。
でも……本当はとても不安で、こわくてこわくて……ひとりは………コワイ!!


「…………」

椎凪の部屋のドアをそっと開けた。
そう……顔…見るだけ。
椎凪の顔だけでも見れば大丈夫……。

息をひそめて、足音を立てずに歩く。
椎凪が寝ているベッドの傍まで来た。
椎凪は背中をオレのほうに向けて眠ってた。
静かな部屋の中、椎凪の寝息とオレの心臓の音しか聞こえない。

ベッドの淵に手を乗せて、膝をついた。

目の前にある椎凪の素肌の背中……広くて……大きいなぁ。
ああ、なんかホッとする。
上から顔を覗き込むと、目を閉じて眠ってる椎凪の顔が見えた。

これで……大丈夫……こわく……ない……こわくない。

「うっ……」

なのにまた涙が出て、その場にうずくまった。

「………耀くん?」

静まり返った部屋の中に、椎凪の声がオレの名前を呼んだ。

「あっ……」

どうしよう……起こしちゃったんだ。
泣いてるところ、椎凪に見られちゃった。
それにこんな夜中に、勝手に椎凪の部屋入ったのバレちゃった。

急に恥ずかしくなって、顔が赤くなる。
涙も引っ込んじゃった。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

寝ぼけた声で椎凪がオレに聞く。
勝手に部屋に入ったこと、怒ってないの?

「ああ!そっか、耀くん怖い夢見たんだ」

オレが黙ってると、椎凪はそう言ってゆっくりと起き上がった。
そしてオレの方を向いてベッドの上に座った。

「おいで、耀くん」

「!」

そう言って椎凪が、オレに向かって両手を広げた。
優しく……にっこり微笑んで……。

「あ……でも……」

そんなこと言っても椎凪って裸で寝てるから……その……そんな……。

「大丈夫、変なことしないよ」

色々考えてモジモジしていると、それを見て察したのか椎凪がクスッと笑う。

「こっちにおいでよ、耀くん。オレが不安なくしてあげるから」

「!」

その言葉でオレは椎凪の胸に思いきり飛び込んだ。

「椎凪ぁ」

かなりの衝撃だったはずなのに、椎凪は平然とオレを受けとめてくれた。
もうなにも考えてない。
ただ……椎凪に抱きしめてほしかった。

「うーこわかったの……椎凪……オレ……こわくて…ひとりじゃ…こわくて……」

また溢れだした涙がどうしても止まらない。
椎凪に抱きつきながら、子供みたいに泣き続けた。

「ひっく……うっく…」
「だったらすぐにオレを起こせばよかったのに」

優しくオレの頭を撫でながら椎凪が言ってくれた。

「だって…だって……グズッ」


人の気配がして目が覚めた。
その気配は敵意のあるものではなくて、控え目で儚くて今にも消えてしまいそうなのに、
それでいて自分にきづいてほしいと弱々しく訴える。
今、オレの傍でそんな存在はひとりしかいない。
でも、まさかと思う。
耀くんがなんでオレの部屋に?

相手が耀くんと思うと、緊迫感なんてものがないから未だに寝ぼけた頭で考えた。
明ききらない目で耀くんを見れば、泣き顔でものすごく不安そう。

どうしたんだろう?と思いつつああ!と気づく。
こんな夜中に泣いて不安になること……それはきっと怖い夢を見たから。
どきどき耀くんが怖い夢を見るのは聞いて知ってたし、オレも同じだからわかる。

なら簡単だ。
オレが耀くんの不安を取り除いてあげればいい。
以前、同じように怖い夢を見て不安になったオレを癒してくれた耀くんのように。

抱きしめてあげようとオレのほうに呼べば、もじもじとハッキリしない態度だ。
この期に及んでなにを恥ずかしがってるんだか。
そんな耀くんが可愛くて可愛くて、愛おしくて無意識に顔が綻ぶ。

このタイミングで押し倒すなんて鬼畜なコトさすがにしないよ。
今は……ね。

だからそう説明すると弾かれたようにオレの胸に飛び込んできてくれた。
こわかったって言いながら耀くんが泣き続ける。

オレは耀くんが泣き止むまで抱きしめたままじっとしていた。
まったく……そんなに怖かったらすぐにオレのところにくればいいのに。

オレの腕の中でクスンクスンと泣く耀くん。
ああもう、怯えきってる小動物みたいに可愛い。
なにもかも守るから、オレにすべてあずけてほしい。

そんな耀くんの耳元にそっと囁く。

「オレはね耀くんのためだけに存在するんだ。だから気にしないでいいんだよ。
オレは耀くんのためだけに生まれてきたの……」

──── だからオレを求めて……そしてオレを欲しがって……耀くん ────

耀くんの頬に片手をそえて、そっと顔を持ち上げてオレは自分の顔を近づける。

「好きだよ、耀くん」

今まさにお互いの唇が触れる瞬間!!耀くんの頭が “ガクッ” と横に反れた。

「……ん!?えっ?」

オレの腕の中で力の抜けた耀くん。
まさか?!

「ええっ!?うそっ!耀くん寝てるしっっ!」

そりゃ力が抜けてるはず、だって耀くんってば寝てるんだもん。
いつの間に……?

「もしかして、オレの告白聞いてない?ちょっと……」

それってか・な・り・悲しいんですけど?

「はぁ……」

まあ不安が癒されたならいいんだけど……。
一度眠ったら耀くんは絶対っていうほど起きない。

安心して眠ってしまった可愛い寝顔の耀くんを眺めつつ、オレはこのまま襲っていいもんかと
マジメに考えていた。

だって、耀くんにあんなことやこんなことをしたいと思ってるのに、毎日毎日忍耐強く我慢してるオレなんだよ。
ちょっとくらい手を出してもいいかな?
なんて思っても、しかたのないことだと思うんだけど?

「くぅ……」
「…………はぁ〜〜」

ホント安心しきってるよな……。

変なコトはしないと言ったから、今日は大人しくしますかと耀くんを抱きしめたままベッドに横になった。
好きで好きで、愛してやまない耀くん。
これくらいはと一方的な想いを込めて、これまた一方的な深い深い恋人同士のキスを眠ってる耀くんとした。

「はぁ〜♪ 満足♪」

最後にチュッとオデコに触れるだけのキスをして、おやすみと囁いた。


次の日の朝、裸のオレに抱きしめられてるのに驚いた耀くんにベッドから蹴り落とされたのは想定外だった。
別にワザとじゃなかったんだけど、嬉しさのあまりズボン穿いて寝るの忘れちゃったんだよね。








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