オレの愛を君にあげる…



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「悪かったね慎二君、急に降り出しちゃってさ」

仕事中、歩いてたら急に大粒の雨が降り出して『TAKERU』のオフィスに逃げ込んだっていうわけ。
貸してもらったタオルで濡れた髪を拭くオレをジッと慎二君が見つめてる。

「ん?慎二君、どうかした?」
「椎凪さんしばらくそのままで付き合ってもらえます?」
「え?」

不思議がるオレのことなんて気にする素振りもなく、慎二君は歩き出した。

「こっちに来て下さい」

オレはワケもわらず慎二君の後をついて 『TAKERU』 のビルの中を歩いていた。

「椎凪さんって身長いくつですか?」
「んー、180チョイかな」
「ですよね」

何を考えてるのか、自分の身長と比べたのか慎二君はなにか考えてるような横顔で歩き続けてる。
何階かエレベーターで降りて案内されたのは撮影のスタジオらしき場所。

「高山さんちょっと撮ってもらってもいいですか?」
「なに?撮影?」

扉を開けると直ぐに部屋の中にいた一人の男に声を掛けた。
カメラを弄ってるところを見るとこの男がカメラマンなのか?

「いえ、カメラテストお願いできます?ちょっと見てみたくて」

オレの知らないところで、なにやら話が進められているらしい。
なんだ?なにがあるんだ?

「椎凪さんもう一度髪濡らしますね、スイマセン」
「え?ああ…うん」

そう言ってコップに入れてきた水を頭からかけられた。
結構な水の量で容赦ない……。
まあすでに雨に濡れてたからそんな変化はないんだけど……一体なんだ?
オレはきっとマヌケな顔してたに違いない。
キョトンとしてたから。

「じゃあそれでカメラ見て下さい」
「え?カメラ?」

顔を上げると少し離れた所で、さっきの男がカメラ片手にオレの真正面に立っていた。
その隣に慎二君が難しそうな顔で腕を組んで片手で自分の顎を掴んでる。

「椎凪さんってクセっ毛なんですね。濡れるとストレートになる」
「うん」
「髪……伸ばしたことあります?」
「高校のときね。今より多少長かったくらいかな?」
「どうですか?」

オレと話しながらカメラマンの方に話しかける。

「んーちょっと明るすぎかな?」

カメラを覗き込んだ男が感想を述べた。

「ですよね。やっぱり……んー」

慎二君がオレをジッと見つめながらなにやら考え込んでいた。
ホント、マジでなに?

「椎凪さん。申し訳ないんですけど 『あっち』 の椎凪さんになってもらえます?」
「へ?」

慎二君の言う 『あっち』 とは本当の 『オレ』 っていう意味だ。
軽いオレ演じていないオレ。
でも出せと言われて 『はい。わかりました』 なんて出せっこない。
“こっちのオレ” はあまり人には見せたくない……オレは自分でも “こっちのオレ” は好きじゃないから。
しばらく無言で佇んでしまった。

「悪いようにはしませんから、少しだけお願いします」
「わかった……」
「すみません。ありがとうございます」

ニッコリと笑う慎二君を見て、静かに目を瞑って仕方なく 『オレ』 を出した。
出すといっても気を使うのをやめるだけだ。
気持ちの上で軽いオレを演じてるいつもの 『オレ』 を引っ込めるだけ。

自分でもわかる。
オレの周りが重い空気に包まれる。

「これでいい?」

なるべく自然に静かに言った。
じゃないと不機嫌さがむき出しになっちゃうから。

「へえ〜」

カメラマンがファインダーを覗きながら声を出した。

「ふふ、さすが椎凪さん」

慎二君はやっぱりとでも言いたげな含み笑いをした。
一体なんなんだ?

「いいね、彼。凄い感じが変わった」

カメラマンがファインダーから目を離さずに言う。
彼の目にはどんなふうにオレは映っているのか?

「ヘクチュ!!」

さすがに寒くなってきた。

「あ!スイマセン椎凪さん。身体冷えちゃいましたよね」

慎二君が今気が付いたとでもいうような素振りでタオル片手に近づいて来た。
ホント、仕事のことになると人のことは二の次なんだから……ってオレだからか?



「えっ?モデル?」

耀くんが食器を運びながら驚いた声を上げる。

「うん、なんか今日慎二君のところに寄ったらそんな話になちゃって。だから、少し髪の毛伸ばしてって言われたんだね」

オレは出来上がった今晩のオカズを、耀くんが用意してくれたお皿に盛り付ける。
只今ふたりで晩ご飯の準備中。

「慎二さん本気なんだ……祐輔も良く髪の毛伸ばさせられるんだよ。あれって慎二さんの趣味だと思うんだよな」
「あーだから祐輔に初めて会った時、髪長かったんだ。納得!」

初めて祐輔に会ったとき、肩より長い髪で金髪だった。
瞳もカラーコンタクトが入ってて、次に祐輔に会ったとき髪も短くなってて金髪じゃなくなってたから、
祐輔だってわからなかったくらいだ。

「そっか〜椎凪もか」
「心配?」
「え?ううん、慎二さんはいつも正しいもん、きっといい写真撮れるよ。実際撮るときは髪も染めるし
コンタクトで瞳の色も変えるからきっと椎凪だってわからないように撮ってくれるよ。フフ♪ 楽しみだなぁ」

耀くんが色んなことを想像してニッコリと笑ってる。

「じゃあ耀くんのためにも頑張るよ。それにオレそういうの結構好きだしさ」
「椎凪露出狂だもんね。まさかヌードとか言わないよね?」

耀くんが怪訝な顔でオレを見つめる。

「さぁ?でもそれでもオレは全〜然OK!だもんっ!!」
「やっぱりねぇ……椎凪好きそう、そういうの」


そんな会話がずっと続いて、その日の夕飯はその話で盛り上がった。








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