オレの愛を君にあげる…



34




「んー?」

目が覚めて、いつもと違うベッドの感覚で部屋を見回した。
あれ?ドコだここ?見覚えがない。
オレ昨夜どうしたんだっけ?
身体をみれば上半身裸で、下はズボンを穿いたままだった。
隣には誰もいない。
ダブルサイズのベッドには自分ひとり……ダメだ、なんか頭がボーッとして思い出せない。

「椎凪、起きた?」

言いながら耀くんが部屋のドアを開けて入って来た。

「あー耀くん、おはよう。ねぇ、ここドコだっけ?」
「やだな、憶えてないの?昨日から慎二さん達と一緒に撮影の仕事あるからって『TAKERU』の別荘に
来てるんじゃないか。椎凪昨夜着いた途端にスタッフの人達と盛り上がってお酒飲んで」
「あ……」

そこまで言われて思い出した。
そうだ、昨夜ここに着いてこんな形だけど耀くんと外泊なんて初めてで嬉しくて……。
盛り上がっちゃたんだっけ。

ボテッ!

「椎凪!?」

そろそろ椎凪が起きたかな?なんて思って椎凪が寝てる部屋のドアを開けた。
撮影のために訪れたこの別荘で昨夜はスタッフと盛り上がって結構な量のお酒を飲んでた椎凪。
酔いつぶれて寝ちゃったけど大丈夫だったかな?なんて思いながら椎凪をお越しに来た。
いつもは起こされる身だけど今朝は違う。
起きた椎凪は二日酔いではないみたいだけど飲み過ぎのせいで記憶が曖昧みたい。
普段は見れない椎凪の寝起きの顔がなんか可愛い…なんて思ってたら突然椎凪がうつ伏せに倒れた!

「ど、どうしたの?椎凪?具合悪いの?」

突然そんなふうになった椎凪を心配してベッドに近づいた。

「あっ!」

それが間違いだったと気づいたのはグイッと手首を掴まれて引っ張られたあとだった。

「くすっ♪捕まえた」
「ちょっ……と!椎凪!!」

ニコニコと笑ってる椎凪がいた。

「ズルイ!椎凪、騙した!!」

ワザと具合が悪そうにしてベッドにうつ伏せに倒れ込むと、案の定心配してくれた耀くんがベッドに近づいてきた。
あっさりと耀くんの手首を捕まえてベッドに引きずり込む。
ジタバタもがく耀くんをしっかりと抱え込んで上に覆い被さった。

「おはよう耀くん。そのまま少し目をつぶってて」

ニッコリと微笑みながら肘を着いた手で耀くんの髪を撫でる。

「え?なん…で?つぶったらどうするの?」
「えー?もちろん……」

さらに笑みを深めてニッコリと笑う。

「耀くんにキスして抱くに決まってるでしょ?いつもと違う部屋で、耀くんもその気になってることだし」
「な、なってないっ!!やだ!離して……やっ」

ものすごい慌てっぷりにちょっと笑えた。

「甘いなぁ〜ダメ、離さな…」

ドカッ! ばっちーんっ!!

「ぐはっ!!いてっ!!」
息が詰まって、目の前にチカチカと星が散った。



「まったく、ガード固いんだから耀くんってば」

オレは蹴られたお腹と叩かれた頬を擦りながら、食事が用意されている部屋に向かって耀くんと廊下を歩いてる。
あのあと容赦ない耀くんの蹴りとビンタがオレにヒットした。

「椎凪が悪いんだろ!悪ふざけが過ぎるんだよ!」
「照れなくていいのにさ」
「照れてもいないからっ!!」

顔を赤くしながらプリプリと怒る耀くん。
可愛いよね〜耀くんってばさ♪

「あ!椎凪さん、お早う御座います。気分はどうですか?」

食事が用意されてる部屋に入ると、オレ達に気づいた慎二君が爽やかな笑顔で話しかけてきた。

「おはよ。慎二君……元気だね。慎二君も大分飲んでたと思うんだけど?」

確かに飲んでた。
勧められるまま、ニッコリと笑いながら注がれるお酒を次から次へと。

「やだなぁ、あのくらい大したことないですよ」

本当に大したことなかったんだろう笑顔。
オレは呆れるやら肝心するやら……。

「どうします?コーヒー先に飲みますか?」
「うん、ご飯はいいかな」

さすがに食欲なんてないって。

「はい、じゃあ待ってて下さい。今持ってきますから」

食堂と言っても大分広い。ちょっとしたホテル並みの広間にバイキング形式に朝食が置いてある。
スタッフの分もあるからそのほうが効率がいいだろうし。
先に祐輔がテーブルに座ってコーヒーを飲んでいた。
「おはよ、祐輔」
「オス」
「祐輔は飲まなかったんだっけ?」
「ああ、あんなのに付き合ってたら身がもたねー」
「だよね……慎二君お酒強いんだもん」

ホント見かけに騙された。
「オレ料理持ってくる。椎凪は本当にいいの?」
「うん、ありがと耀くん。今はいいや」

楽しそうに料理を取りに行く耀くん。
その後姿を二日酔いの頭でぼんやりと見つめていた。
ん?何だ?耀くんに誰か近づいて話しかけてきた。
オレは慌てて席を立った。

「あ…あの……」
「久しぶり、耀君」
「ちょっと君!耀くんになにしてんの?」
「椎凪!」

即効で耀くんをオレの方に引き寄せる。

「誰?あんた?」
「そっちこそ誰?耀くん嫌がってんだろ?」

目の前にはオレと変わらないくらいの身長のメガネをかけた男が立ってた。
見た目ホワンとした感じのなかなかの顔立ち。
下心はなさそうな雰囲気だけど、でもそんなこと関係ない。
耀くんの傍に男を近づけさせたりしない。

「え?そう?久しぶりの再会で戸惑ってるだけでしょ?俺のことはもう慣れたもんね?耀君」

オレの殺気を込めた視線もスルーで耀くんに話しかける。

「う…ん…おはよう、浹(amane)君」
「おはよう」

耀くんにニッコリと笑いかけた。
なに?コイツ?なんかムカつく!

「あ!おはよう、浹君」
「おはよう、慎二君。朝飯ご馳走になりに来たよ」
「どうぞ。東十条さんはお元気ですか?」
「元気、元気」

彼は浹 清士(amane seiji)、大学3年。
慎二君の知り合いの知り合いだそうだ。
なんでもひとりでこっちの別荘で休暇を過ごしていて、食事を一緒にしようと慎二君に誘われて
訪ねて来たらしい。
顔馴染みなんだって。

「へー耀君のところで下宿?凄いね。なんだ俺も下宿させてよ、耀君」

コーヒーを飲みながら頬杖をついて笑顔で言う。

「えっ!?そ…それは……」

急にそんなことを言われてシドロモドロの耀くん。

「オレは耀くんにとって特別なの!君なんか無理だからっ!!」

そいつに向かってイヤミったらしく言ってやった。
誰がお前なんかをオレと耀くんのふたりの空間に入れてやるかっての!

「お前が特別ならオレも特別だよな?耀」
「なっ!?」

祐輔が耀くんの顔をムニっと掴んでて話す。
余計なことを……空気読めっての!

「じゃあ僕も特別ですね。耀君」

今度は慎二君が耀くんの手を掴んで握る。
ワザとだろ?祐輔とふたりでまたオレのことをからかうつもりだな、ったく性格悪いったら……。

「え?あ…うん……」

ふたりに囲まれて慌てて耀くんが返事をした。

「なんだ、あんただけが特別じゃないんじゃん」
「!!」

ニッコリと笑われた。
当たり前だけどカチン!ときた。
耀くんは困った顔をして黙ってる……耀くん。

「お前だけが特別なんて思ったら大間違いだぞ、椎凪!」
「祐輔……そんな言い方したら椎凪が可哀想だよ」
「え?もしかして、耀くん……オレのこと哀れんでる?」
「え?そんな…こと……」
そう言いつつも目が泳いでるよ、耀くん。

「だってそんな言い方だったじゃん、今の」
「だって……椎凪みんなにイジメられて……可哀想かなぁ…って」
「可哀想?可哀想だからなに?」

耀くんの言葉にオレの口は止まらなくなった。

「別に……なにってわけじゃ……」

耀くんがさらに困った顔をするから……そんな顔を見てオレは二日酔いやこの突然現れた
男のこともあってちょっとムッとした顔になったらしい。

「耀くん……オレに同情してるんだ。オレがみんなにイジメられてるから」
「ど、同情なんかしてないよ!オレはただ……」
「じゃあ、オレのこと好きだから?だからオレのことかばってくれてるの?」

普段ならこんな問い詰めるような聞き方はしない。
でも今はきっと色々なことが重なってオレはいつものように軽いオレを演じられなかったらしい。

「椎凪は……下宿人だから……オレ、責任あるし」

耀くんの口から出たのは苦しい言い訳。
そうか……まだ耀くんの中ではオレはそんな存在なんだね。
なんか……疲れた。
やっぱり二日酔いのせいかな?それともこの男のせいか?

もう……どうでもいいや。

「オレ部屋で少し休んでくる。二日酔いっぽいし、慎二君後で起こしに来て。仕事はチャンとするから」

コーヒーも飲みかけのままサッサと席を立った。

「わかりました。薬飲みます?」

オレは無言で手を振った。

「え?椎凪……怒ったの?ねぇ……」

耀くんが歩き出したオレにかけよって来た。

「別に……怒ってないよ。どーせオレはただの下宿人だもんな、オレのことなんてそんなに
気にしなくていいんじゃない」
「椎凪!!」

耀くんがオレを呼んだけどオレは振り向かなかった。
食堂のドアを閉めて唇を噛む。

オレは自分でも珍しく、耀くんがいるのに機嫌が悪くなった。

あんな奴に……ヤキモチ?
でも……オレには、あいつに話しかけられた時の耀くんが……照れてるように見えたんだ。

祐輔や慎二君以外の男に初めて見せた耀くんのそんな姿がオレをおかしくさせたのか……。








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