オレの愛を君にあげる…



36




 * 亨 : 椎凪の中学からの知り合い。進学塾の講師。椎凪曰く亨は『ドS』で変態!なので超苦手な人物。 *



「オレ急いでんの……だから、じゃあね」

ヤな奴に会った。
仕事の帰り道、耀くんと待ち合わせしてるのに。

「冷たいな、慶。お前の初めての相手なのに……どうせ僕は昔の男だよ」

そんな白々しいセリフを吐いて、ワザとらしく肩を落とすのはよせっ!

「違うっ!亨はオレのカウントに入ってないからっ!!」

ったく、冗談じゃない!!

「ということで、僕と飲みに行こう」

オレの肩をしっかりと掴んで、惚けたことをぬかす。

「は?行かないよっ!!人の話聞いてる?人と待ち合わせしてんだよ!離せよ!」

ガッシリと肩を掴んでる亨の手を肩を捻って振り払う。
振り払えなかったけど。
どんだけの力で掴んでんだっーの!

「え?誰?彼女?」

肩を掴んでた手にさらに力が篭る。
痛いって!

「ち、違うけど……もうすぐそうなるよ」

彼女とは言えないけど、今この場でその説明を亨にするつもりはないし。

「ふーん……僕にも会わせてよ」
「えっ!?だっ、だめ!耀くん極度の人見知りだからっ!」
「ようくん?」

亨の眉がピクリと上がった。
やばっ!しまった……つい……。

「なに?相手は男の子なの?」

慌ててたオレはドジをした。
一番知られると厄介な男に、あっさりと耀くんの存在をバラしてしまった。

結局待ち合わせの場所に、亨を連れて行くハメになった……失敗した。

「椎凪の……知り合い?」

極度の人見知りの耀くんが、オレの後ろに隠れてオレの腕にしがみつきながら尋ねた。

「そう……あんまり紹介したくないけどね。真鍋 亨(まなべ とおる)、望月 耀くんだよ」
「真鍋……さん?」

様子を窺いながら、おっかなビックリな耀くん。
ああ、なんて可愛いんだろう〜〜♪

「望月 耀君……耀君か」

名前を繰り返し呟いて、亨がニッコリと笑った。
……怪しい。
絶対、裏があるに決まってる。

「耀くん!騙されちゃだめだよ!コイツ変態だから!!」
「えっ!!変態なのっ?」

疑うコトを知らない耀くんが、オレの言葉を真面目に受け止めてもの凄い驚いた顔をしてる。

「変態じゃないよ。まったく……変態、変態って失礼な」

本当のことを言われた亨が、不貞腐れた顔で否定した。

ふん、変態は変態じゃないか。
しかも “ドSの変態野郎” じゃん!
と、オレは心の中で叫び続けてた。


そのあとは仕方なく(オレのみ)渋々と、3人でレストランに入った。

亨が耀くんの食事する姿を見て、呆気にとられてる。

「良く食べるね」
「はは……呆れちゃうよね」
「いいのっ!オレは一杯食べる耀くんが好きなのっ!!」
「好きなのって……慶、まだ片想いなんだろ?」
「ぐっ!!」

いきなり核心突いてくんな!この変態野郎っ!!空気読めっ!!

「でも慶にここまで言わせてるのに……」

亨の目つきが変わる。
今までの普通の対応がウソのように素っ気なく、敵意剥き出しだ。

「なんでOKしないの?焦らしてんの?君」

「!!」

そんな亨の遠慮ない攻撃的な言葉に、耀くんの動きが止まる。

「ちょっ……亨!」
「慶は黙っててよ。僕は知りたいんだ、慶をフル理由をね」
「亨!!」
「慶は黙れ!僕に命令するなっ!!」

オレは慌てて亨を黙らせようとしたけど、逆に一喝された。
オレが亨を苦手な理由のひとつがコレで、オレは亨に強く出られるとなにも言えなくなってしまうということ。
そのわけは、出会いのときに遡る。
思い出したくもない。
ある意味トラウマじゃないかと思う。

「たまにしか会えないけど、僕が一番慶彦と付き合いが長い。25歳だって僕には関係ない。
僕にとってはいつまでも慶彦は、13歳なんだから。本当は僕が欲しかった、慶彦が欲しかった……
でも手に入らなかった。なのに手に入る君がなんで慶彦を拒むの?理由、教えてよ」

もの凄い目付きで耀くんを見据えてる。
いい加減にしろよな。

「オレは……椎凪にふさわしくないから……」

俯いて小さな声で話す耀くん。

「なんで?どうふさわしくないの?」
「亨!」

そんな小さくなってる耀くんに、間髪入れずに突っ込む亨にオレは段々ハラハラしてきた。

「オレ、普通と違うから……だから……椎凪には普通の女の人と付き合ってほしいんだ……だから……」
「耀くん!!」

ほら、耀くんが余計なことを言い出すじゃないか!

「慶彦に普通の女なんて似合わない」
「え?」
「は?」

なんか変なコト言い出したぞ?コイツ。
オレと耀くんは思わず亨を見てしまった。

「普通の女と付き合ったら、絶対別れさせてやるって思ってるんだ、僕」

平然とした顔で、当然のように言い切るなっ!!

「それに、普通と違うってどういうこと?」
「それは……」

耀くんがまた俯く。
でも意を決したように口を開きかけた。

「!!」

そんな耀くんの口を、オレの手で塞いだ。

「もういいよ、耀くん。あとはオレが話すから」
「椎凪……」

ちょっと潤んだ瞳でオレを見上げる耀くん……そんな顔しないで。
耀くんがそんな顔をする必要なんて、なにもないんだよ。

「もういいから……料理、冷めちゃうよ。早く食べて」
「うん……でも」

後は任せてという意味を込めて、ニッコリと笑うオレ。

「また後日、オレが話すから亨もそれでいいだろ?」
「僕は別に構わないよ」

これ以上、亨に耀くんを責めさせるわけにはいかないから。
オレは軽い溜息をついて、落ち込んでるかもしれない耀くんを見つめてしまった。





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