オレの愛を君にあげる…



閑話・祐輔と慎二と耀。 〜 出会い 03 〜




☆ 祐輔・耀 高校2年生 慎二・20歳



「えーーーっ!!モデルぅ??」

場所も考えず、思わず大きな声で叫んじゃった。
近くの席のお客さんが、オレの声に驚いて振り向いた。

「ばっ……声がデカイっ!!」

祐輔が身体を乗り出して、正面に座るオレの口を手で塞いだ。

「んぐっ……あ……ごめん……」

でもオレが驚いたのは仕方ないことだろ?
だって祐輔がモデルだよ?あ・の・ “面倒なことは絶対にかかわらない” 祐輔が!だよ?

「オレのジイさんデザイナーで会社持ってるんだと。で、そこのモデルやる羽目になった」

バツの悪そうな顔で祐輔が話してくれた……けど、だからって。

「どうしてさ。祐輔ならそんなの断れるだろ?」

普段の祐輔ならそんなことに大人しく従うわけないのに。

「親父達の葬式のときに、初めてジイさんに会った。いきなりオレの面倒みるって言い出したからムカついて……。
その時、ジイさんに言われたんだ、 『男同士の勝負をしよう』 ってな」
「勝負?」
「オレが勝ったら今後一切オレに干渉しない、オレが負けたらジイさんの言うこと何でも聞いてやるって」

祐輔が頬杖をついて、オレから視線を外して悔しそうに言う。

「え?じゃあ…祐輔……もしかして…もしかすると?」
「別に年寄りだからって手を抜いたわけじゃない。現に何発かジイさんに入れてやった。でも、勝てなかった。
結局20回近く投げ飛ばされて……オレの完敗」
「…………」

祐輔が、溜息をもらしながら呟いた。

「うそ……祐輔が?……信じらんない」

あまりにもビックリして、祐輔を見つめてしまった。
だって、喧嘩で祐輔が負けるなんて……今まで連勝連敗だった記憶が……。

「約束だからな。そしたら、あいつが来た」

祐輔が、思い出したくないように目を瞑った。

「あいつ?」

「そう僕!慎二でーす!ヨロシク!!」

どこから来たのか急に男の人が現れて、祐輔に抱きついて自己紹介をした!

「!!」
「 う わ ぁ !! 」

オレは心底ビックリして、その場で飛び跳ねたくらいだ。
心臓もバクバク!!

「なっ……何しに来た!?慎二!!離れろ!!」
「えー?迎えに来たんだよ。悪い虫が付かないか心配でさ!」

オレは未だにビックリしてて、固まったまま祐輔と祐輔に抱きついてる人を見てた。

「ん?」
「あ!」

その人がオレに気づいて、視線を向けたけど視線の先は制服を見てるみたいだった。

「あれ?男の子?可愛いから女の子かと思っちゃったよ。だから邪魔してやろうと思ったのに」

ニッコリと、笑顔満開だ。

「だから……ワザとそんな登場?」

何か……変わってる人?なのかな?でも、祐輔に抱きついても……祐輔、怒らないんだ。

「なんだ、学校の友達もいるんだ。祐輔のことだからひとりもいないと思ってたよー♪ 安心した!」

今にも頬がくっ付きそうなくらい祐輔に顔を近づけながら、本当に嬉しそうにそう言った。

「いいから早く離れろ!!ぶっとばすぞっ!!」

そう言った途端、ベッタリと頬っぺたをくっ付けられた祐輔がキレた。




「望月……耀……です」

今さらながらの自己紹介。

「橘 慎二です。そんなに警戒しないで。僕、怖い人じゃないから」
「はぁ……」

確かに怖くはないけど……何だか……。

「耀はちゃんと人を見んだよ。お前の本性見抜いてんだよ」
「ふーん、チョット失礼」

そんな祐輔の言葉も耳に入らない様子で席を立つと、オレの横に素早く移動して来た。

「うっ!!わぁっ!!ちょっと!!やだ!!祐輔!!」

橘さんが突然オレに抱きついて、身体中を触られた。
オレは慌てて、すぐ祐輔の方に逃げて背中に隠れた。
隠れたっていっても、席に座ってるから上半身だけだけど。
それでも祐輔は、ちゃんとオレを背中にかばってくれる。

「オイ、慎二……お前いい加減に……」

祐輔が橘さんに向かって、殺気出しまくってる。

「やっぱり君、女の子なんだね、身体つきでわかる。僕これでもモデル部門担当でね、
女性の身体って知り尽くしてるんだ。何で?まさかそうやってまで祐輔の傍にいたいとか?」

「…………」

オレは無言……と言うか、話せなかった。
だってあっさりと、オレの秘密がバレてしまったから。
そんなオレの代わりに、祐輔が口を開いた。

「そんな訳ねーだろ。事情があんだよ」
「ふーん……じゃあその事情ってのを教えてよ。じゃないと僕、納得できないし色々考えなくちゃ
いけなくなるかもしれない」

「…………」
「…………」

さっきまでの軽いノリの橘さんはどこにもいなくて、スッと雰囲気が変わったのがわかった。
その雰囲気のまま、祐輔と橘さんが無言で睨み合ってる。

それって……オレのせいだよね?




初めて祐輔の新しい家に入った。
いつも祐輔がオレの部屋に来てたし、どうもオレをここに来させることが嫌だったみたいだ。

それにしても凄い。
広くて豪華、外もパノラマみたいに見渡せるしバルコニーも広い。
それに夜景が綺麗だ。

オレのことを祐輔が橘さんに話してるのに、オレは祐輔の部屋を興味津々で動き回っていた。
祐輔が 『オレが説明する』 って、言ってくれたからオレは祐輔に任せた。



「ふーん……そういうこと。凄いトラウマ抱えてるんだね、あの子」

バルコニーに通じる窓を開けて、外を眺めてる耀に視線を向けて慎二が呟いた。
本当はこんな嫌味な部屋に、耀を入れるつもりはなかったのに……まあ仕方ねぇ。

「だから、耀のことを傷つけたらオレはお前を許さねーからな、慎二」

ちゃんと理由を言わなければ、慎二の奴が耀に何するかわからねぇから正直に話した。
どうせウソついても、後で耀のこと調べるに決まってるから、余計なあがきはしないに限る。

だから慎二に耀は会わせたくなかったんだよ。


「祐輔の……お気に入りってわけ……か。好きってこと?」

ソファに深く座って腕と足を組んでオレを真っ直ぐ見つめたまま、慎二が突っ込んで聞いてくる。

「女として、ってことか?そうだな……」

こんなふうに耀とのことを、誰にかに言葉に出して話したことなんてないから変な感じだ。

「女とかそんなんじゃなくて、可愛いとは思う。でも、耀は男なんだよ。誰が何と言おうと……。
耀を女として扱ったら、きっと耀は傷つくから。オレは耀を絶対傷つけることはしないし、したくない。
だから耀を守るって決めた、それだけだ。それに、耀の相手はオレじゃない……オレじゃダメだし」
「どういうこと?」
「上手く言えねーけど、オレじゃダメだ、何かわかる。だからオレは一番傍にいて耀を支えるだけ、ずっとな」
「耀君のことが大事なの?」
「ああ」

オレは即答する。
耀はオレにとって特別な存在だった。
身内以外で、オレがただひとり守りたいと思った相手。
恋愛感情ではなくただ、愛おしいと思った存在。

「そう……」

しばらく慎二は黙って、何かを考えてるようだった。
そうそう変なことはしないと思うが、相手は慎二だ。油断はできない。
こいつはオレに害をなすものや、不要と判断した場合なんの迷いもためらいもなく切り捨てる。
表面上は話のわかる好青年って顔してるが、実は腹ん中は真っ黒だったりする。
しかもそれを笑顔でやってのけるから、さらに性質が悪い。

「わかった、大丈夫。安心してよ、僕も祐輔と同じに接するよ。祐輔が守るって決めてるんなら、
僕も耀君を守るよ。約束する」
「…………」

祐輔が僕の言葉を聞いて、キョトンとした顔してる。
そんなに僕の言ったことは変だったかな?


僕のお気に入りは君だから……君が喜ぶなら、祐輔の望むままにって思ってるんだよ。

僕はただ、それに従うだけなんだけどな。




「耀君、少しいい?」

バルコニーの手摺りに手を掛けて、夜景を眺めてる耀君に後ろからそっと声を掛けた。

「あ……はい」

それでも警戒しながら、耀君が振り向く。

「祐輔から聞いたから、もう心配しないで。僕も君を理解して友達になりたいんだ、ダメかな?」

ニッコリと笑って、首を傾けた。

「橘さんが……祐輔の友達……なら……」

僕から視線を逸らせながら、俯き加減で承諾の返事をしてくれた。

「慎二でいいよ。僕ね、男って言ってもその辺にいる男よりもガサツじゃないと思うんだ。
自分で言うのもなんだけどさ。くすっ♪」
「はぁ……」

急に橘さんから声をかけられてビックリしたけど、最初ほどオレを警戒した雰囲気はなくなったみたいでホッとした。
確かに他の男の人とはチョット違う……かも。

「でもさ、よく祐輔と友達になれたね、怖くなかったの?祐輔、見た目怖い人でしょ?目つき悪いし」

結構ズバズバと言い切ってる。
だから祐輔に勝てるのかな? なんて思ってしまった。

「怪我を手当てしてあげたからって言うのもあるけど……その前から祐輔の瞳に……」

言いながら慎二さんから視線を外して、目の前に広がる街と夜空に視線を移した。

「祐輔の……瞳?」
「うん……クラスの人達は祐輔と目を合わせないようにしてたけど……オレは逆にあの瞳に惹かれちゃって」
「!!」
「何でだかあの瞳を見たとき、祐輔ならオレのことわかってくれるって……そう思って……。
だから祐輔が怪我をしてたときも、声掛けられたし。掛けて……良かった……オレ……
祐輔に会ってなかったら、きっと今ごろ死んでたから」
「耀君……」

今、話したことは本当のことだ。
子供のころから孤独だった……オレの周りには誰もいなくて……いなくてもいいってずっと思ってた。

誰からも必要とされなくて……生まれてこなくてもよかったのにって、いつも思ってた。

だからあのままひとりだったら、きっとオレは……
オレは自分で自分の命を絶ってただろうと思う。

「だから……祐輔はオレの大事な人……オレのたったひとりの友達なんだ」

「耀君っ!!君って子はっ!!」
「わあ!!」

慎二さんがいきなりオレに抱きついてきたから、ビックリして声が出ちゃった。

「え?」

肩を抱かれて、ジッと顔を見つめられる。

「もー健気で可愛すぎだよっ!!何だろ、ホント守ってあげたくなっちゃうよっ!!」

ぎゅう、っと力一杯抱きしめられた。
不思議と拒絶反応も出ず、慎二さんを突き飛ばさずにされるがまま、腕の中で大人しくしている自分がいた。

「……あ…あの…苦…し」
「それに僕と同じなんて!余計親しみ感じるよっ!!」

オレの苦情はあっさりとスルーされたらしい。

「え?同じって」
「僕もね、祐輔の瞳に惹かれたクチなんだ。だから耀君と一緒、僕達気が合うかもね。これからヨロシクね!耀君」

今までで、一番の満面の笑みで見つめられた。

「あ……はぁ……こちらこそよろしく……」
「絶対祐輔を女の魔の手から守ろうねっ!!」

今度は今までよりも、さらにもの凄い目の輝きを放ってる。
凄い意気込みを感じる。

「え?いや……それは無理じゃ…ないかな?祐輔、結構女の人と付き合いがあるみたいだし」

祐輔は昔から好き勝手にやってるんだよね。
彼女はいないみたいだけど、オレと知り合う前に一度だけ付き合った相手がいるみたいだけど、今はいない。

「ええっ?ダメだよ耀君、そんな弱気じゃ!!僕に協力してっ!!約束ね!」
「はぁ…できる……限りは……」
「うん、ありがとう。じゃあこれからは学校での祐輔のこと僕に教えてね」
「はあ……」

ニコニコ顔の慎二さん。
そんなに祐輔のことが気になるのかな?こっちがビックリするくらいのテンションだ。
何だか変な協定まで結ばされた。

「ふふ……でも、いいか」

オレに、大事な2人目の友達ができた瞬間だった。



──── そのせいか分かりませんが、和海に出会うまで誰とも付き合うことのなかった祐輔でありました。





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