オレの愛を君にあげる…



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「ちょっと椎凪!」

朝ご飯の支度をしていた椎凪のオデコに、有無を言わせず手を当てた。

「あ!」

そんなオレの行動に、ナゼか焦る椎凪。

「やっぱり熱がある!」
「………」

不意をつかれ、オレにオデコを触られた椎凪がバツの悪そうな顔をした。

「まさか……ないよ、熱なんて。オレ、病気なんてしないし」

朝からオレの様子をうかがってた耀くんに、不意をつかれた。
耀くんの腕を握って外しながら、笑って誤魔化したけどまったく信用してない。
ヤベ……バレた。

「じゃあ熱! 測ってみて!」

耀くんがオレの顔をジッと見つめて言う。
耀くんめ……今日は手強いな。


「38.7度……やっぱりすごい熱」
「………」

耀くんが測り終わった体温計を見つめて呟く。
チクショー、耀くんが出かけるまで知られないようにって思ってたのに。
どうせ今日休みだし。

「もーなにしてんの? 朝の支度なんていいから寝ててよ!」

耀くんが怒りながら、オレの腕を引っ張る。
それがちょっと嬉しかったりもするけど、今はそれは置いといて。

「え? 大丈夫だから。本当に平気だからさ」

まいったな……こんなはずじゃなかったのに。

「平気じゃないだろっ!! ダメ! 早く寝てよ!」

腕を引っ張られて、オレの部屋まで連れてこられた。

「本当に大丈夫なのに」

ブツブツ言い続けるオレ。

「椎凪!!」
「はい……」

今は大人しく、耀くんに従うことにした。

「もう、どうして無理すんの? 早く横になって!」
「え? だって、耀くんのために朝ご飯作ってあげたいんだもん」

それがオレの “愛情表現” のひとつだから♪

「もー調子悪いときは無理しなくていいよっ。ほら! 椎凪!」

耀くんがベッドの用意をしてくれて、オレに横になれって催促する。

「ちぇ…」



思ってた以上に高い熱だった椎凪。
なかなか熱のあることを認めなくて、朝の支度を続けようとする。
そんな椎凪の腕を引っ張って、無理やり部屋に連れてきた。
寝れるようにベッドを整えても、なかなかベッドに入ってくれない椎凪を怒って、
やっと渋々だけど言うことをきいてくれたと思ったのに……いっ!!

椎凪が突然、腰に巻いていたシーツを外した! オレの正面に立って!!

「!!」

オレの心臓はドキドキ。
そりゃ椎凪はいつも朝起きると、裸に腰にシーツだけどさ。

(昔から寝るときは裸で、仕事に行くまでも裸で過ごしてたらしいんだよね……裸大好きなんだって)

だからって、オレに見せつけるようにしなくたって……椎凪ったら、絶対ワザとだ。
椎凪は何事もなかったように、サッサとベッドに入る。

「いい? ちゃんと寝ててよ。今、薬持ってくるからさ。オレ今日、午前中で講義ないからすぐ帰って来るから」

さっきの椎凪の姿が目に焼きついてて、オレはきっと未だに顔が真っ赤だ。
上半身裸は別に平気だけど、オールヌードは刺激が強すぎる。

それなのに、椎凪がキョトンとした顔してる。

もう!椎凪のせいなのに!!



講義が終わると、オレは急いで家に帰った。
家の中は静まり返ってて、そっと椎凪の部屋のドアを開けて中を覗く。
ベッドには、大人しく寝てる椎凪が見えた。
そんな姿を見てホッとしたのも束の間、朝に渡した薬がそのまま部屋の机の上に置いてある。
もー椎凪ってば! 薬、飲んでないじゃんっ!!

「はぁ…はぁ…」

椎凪は眠ってるけど、ハァハァと荒い息遣いが聞える。
その息遣いを聞く限り、椎凪……辛そう。

「椎凪…椎凪…」
「あ…耀…くん…おかえり…」

無理してニッコリ笑ってくれた。

「ごめんね、寝てたのに。でも椎凪、なんで薬飲まないの? ダメだろ」

小さな声で椎凪に話かけた。

「え? ああ…ごめん…忘れて…た…」
「それだけ辛いんだろ? もー本当に無理するんだから……」

オレは薬と飲み物を持って、ベッドに腰を下ろした。

「はい! 飲んで」

椎凪の目の前に、薬と水を差し出す。

「んーオレ、薬なんて飲まないから……」
「椎凪!! だめ!!」

オレは “めっ!” て顔で睨んだ。
効果あるかな?

「うん……」

効果があったのか、椎凪がものスゴく渋々とだけど薬を飲んでる。

「なにか欲しい物ある? 椎凪」
「んー大丈夫、ありがとう耀くん。ここにいると、風邪がうつっちゃうから向こう行ってて……」

椎凪が力なく、それでも優しく笑う。
そんな椎凪を見てオレは、胸の奥が “きゅん!” ってなった。

「やだ! ここに居る! だって、きっとオレのせいだもん。椎凪、疲れてるのにオレのご飯の支度、
無理して作ってくれたから疲れが溜まっちゃったんだ! ごめんね……椎凪」

オレは今にもグズリとナハをすすりそうだ。
椎凪がそんなオレに手を伸ばして、オレの頬に触れた。

「違うよ……耀くんのせいじゃないよ。堂本君が風邪ひいてて、昨日ずっと一緒にいたからだよ。
ごめんね、耀くんに心配かけちゃって。明日、堂本君シメとくから…許して」

真面目な顔でそんなことを話す椎凪。

「いや…別にシメなくても……」

でもきっと明日、椎凪はその堂本という人をシメるんだろうと確信できた。



そのあとオレは、椎凪のオデコをタオルで冷やしてあげた。
オレは膝を着いてベッドに腕を乗せて、椎凪の顔をじっと見つめてる。

椎凪……椎凪が病気なんて初めてだ。
付き合いの長い祐輔だって、病気で苦しんでるところなんて見たことがないもん。

椎凪、辛そうだし……オレ…すごく…心配。

ジワっと、涙が出てきた。
目に溜まって、今にも零れそう。

オレがグズグズなってたのを椎凪が感じ取ったのか、ゆっくりと目を開けてオレを見る。

「そんな顔…しないで…耀くん…大丈夫だから……」

優しく椎凪の指がオレの目に触れて、涙を拭ってくれる。
その手が、すごく熱い。

「うっ…だって……」

オレの涙腺が崩壊したらしい。

「ただの風邪だから……大丈夫だから……ね?」

きっと辛いはずなのに、また椎凪はオレのためにニッコリと笑ってくれる。
だからオレは……。

「う…ん」

って無理やり返事をして、オレに伸びた椎凪の手を握って頬ずりをした。
本当に熱い……熱が高いんだ。
どうしよう……。



耀くんが、朝からオレのことを心配してくれてる。
それは嬉しいことだけど、あんまりにも心配しすぎちゃって不安にさせちゃってるのが辛い。

くそーー堂本ぉ〜〜〜! 憶えてろよぉ!
耀くんに、こんなに心配かけさせやがって!! 絶対に許さん!

目の前に、オレを心配そうに見つめてくれる耀くんの顔。
ああ……でも熱のせいかな? 耀くんに甘えたくなっちゃったぞ。
そう思ったら無意識に、口走ってた。

「キスして……耀くん」
「えっ!!」

耀くんが、 『なに言い出すんだろ?』 って顔して、固まったままオレを見てる。
熱で頭がおかしくなったとか思われてる? そんなこと今はどうでもいいや。

「キスしてくれたら、きっと早く治る」
「ええっ!!」

耀くんが、思いっきり焦ってる。

「はぁーーーーお願い」

熱で潤んでると思われる瞳を、ウルウルさせながらニッコリ笑った。
ちょっと辛そうにするのも忘れない。
もちろんワザとだ。

「…………ほ、本当に早く治るの?」

しばらく考えたあと、顔を真っ赤にして今度は耀くんが潤んだ瞳でオレを見つめる。

「うん…治る…」
「本当?」

もうひと押しか?

「本当だよ……」

そう言ってる間も、オレは親指で耀くんの唇を撫でていた。



「じゃ、じゃあ……早く治るなら……」

椎凪が辛そうにしながらオレにキスをねだる。
そのほうが、早く熱が下がるって言うから……。

ベッドの傍に膝を着いて、両手をベッドの上に置いたまま、コクンと小さく息をのみ込んだ。
ゆっくりと椎凪に近づいて、そっと唇に触れた。

「ちゅっ」

触れるだけのキス。
柔らかい感触と、とっても熱い椎凪の唇。

早く治るって言われたからっていうのもあるけど、椎凪との唇へのキスは初めてで、すごくドキドキした。

でも……変なんだ。
椎凪とのキスはこれが初めてのはずなのに、もう何度もしてるみたいに思えるのはなんでなんだろう。

そのとき、椎凪の手が後頭部に回されて、オレの頭を強く押した。

「んっ!!」

ビックリして椎凪の手を掴んで離そうとしたけど、後頭部と顔をしっかりと椎凪の手に掴まれて動けなかった。

「んっ…んっ…んっ…んんーっ!」

椎凪の舌が、強引にオレを攻める。

「ぷはっ! あっ…ちょっと…椎…凪…ん…」

やっとの思いでチョットだけ唇を離せた。

「ん…もっと…して…耀くん…」

ほとんど唇がくっ付いてる状態で椎凪が囁く。

「もっと…って…あ……だめ…やめ…て…」

言いながらも、拒む腕の力が抜けていく。
キスってスゴイ……。

「はぁ……お願い……耀くん…」

オレは椎凪に頭と顔を掴まえられてるから、椎凪の顔がすごく近い。

「お願い……」

椎凪の瞳が熱のせいなのか、キスのせいなのか……潤んでるように見える。

オレは心臓がずっとドキドキしっぱなしだ。

「椎凪……熱い…」
「耀くんのキスで……オレの熱…下げて…ちゅっ……ちゅっ……」
「…ん…」

また、キスされた。
息ができなくて、恥ずかしくて、心臓がバクバク……すごいことになってる。
椎凪……。



「んん……」

こんなチャンス、滅多にない。
初めて、耀くんとキスできてる。
起きてる耀くんと。

だから ──── 逃がすもんか。

このキスを……耀くんにとって、忘れられないキスに。

耀くん好きだよ。


オレは耀くんが逃げないように、しっかりと耀くんを掴んで離さないでいる。

「ん…んふっ」

耀くんはオレにされるがまま、嫌がってないよね。
嬉しいな。
嬉しくてつい、余計なことを考えてしまったらしい。
あとから後悔。

「汗かくと……もっと早く熱が下がるんだよ」

誘うように、耀くんの耳に囁く。

「汗…?どうやって?」

耀くんが真っ赤になりながら、潤んだ瞳で聞き返してきた。

何度も触れるだけのキスと、深い舌を絡めるキスを繰り返して、お互い気分はハイテンションだ。
と、オレは思ってた。

だからオレはもう、その気になりまくってた。

熱でダルかった思考も身体も、このときはどこかに飛んでいった。

「こうやって」

ベッドの傍で膝を着いてた耀くんを、ベッドの上に引っ張り上げて抱きしめた。

「うわあ!ちょっと!!」

抱きしめると、耀くんが暴れて叫んだ。
ものすごく慌ててるのがわかった。
でもオレはやめる気なんてなくて、耀くんをベッドの上に押さえ込んで覆いかぶさる。

「耀くん……」

「し、椎凪の…………ばかーーーーっ!!」

バシッ!!

「いって!!」

熱のせいかいつもと違って、あんまり身体に力が入らなくて、耀くんに逃げられて思いっきり頭を叩かれた。

失敗……どうやら、やりすぎたらしい。



その後は悲しいほど警戒され、耀くんはたまにしかオレの部屋に来てくれなくなった……。

くっそーーーーっっ!! もとはと言えば、堂本君に風邪をうつされたせいだ!


フン!! このウサ晴らしを、明日どんなふうに堂本君に晴らそうか、未だに熱で重たい頭で真剣に考えていた。





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