オレの愛を君にあげる…



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「じゃあ、おやすみ。耀くん」
「うん、おやすみ。椎凪」


ここはとある海辺の別荘。
今回椎凪のポスター撮影で、泊りがけで慎二さんと撮影スタッフで来てるんだ。
撮影は明日。
だから今夜はゆっくりして、明日に備えることになった。
椎凪がずっとオレの部屋にいたんだけど、もう夜も大分時間が経って自分の部屋に帰るところ。

「寂しいなら一緒に寝てあげようか?」

椎凪がニッコリと笑って言う。

「家でも普段一緒になんて寝てないだろ」
「ほら、初めての場所だから心細いかと思ってさ」
「だ、大丈夫だから……ありがと」

丁重にお断りした。

椎凪はそれ以上聞いてくることはなく、オレの隣に用意された自分の部屋に帰って行った。




あれから1時間、耀くんの部屋の前で気配を窺うオレ。
多分、もう耀くんはぐっすり眠ってるはず。

オレはそっと耀くんの部屋のドアの鍵穴に鍵を差し込んで、ゆっくりと回した。

ん? なんでオレが耀くんの部屋の鍵を持ってるかって? もちろん耀くんの目を盗んで持ち出したに決まってるじゃん。
耀くん絶対ドアの鍵を閉めて寝ると思ってたから。
慎二君に忠告もされてたしね。

オレは静かにドアを開けて、音がしないように後ろ手にドアをゆっくりと閉めた。


静かな部屋の中、ベッドを見ると耀くんが予想どおり完璧に眠ってた。
覗き込めば可愛い寝顔♪ 思わず微笑んじゃうよ。

ギシッ! ベッドに手をかけて、慎重に耀くんに近づいた。
まあこのくらいで耀くんが起きるわけないんだけどさ。

耀くん……んーーーちゅっ♪ 耀くんの首筋にキスをした。

「……ん…」

耀くんの可愛い声が洩れる。
でも、そのせいか寝返りをうって反対に向いちゃった。
ちぇっ、でもいいもん。
オレは手を伸ばして、耀くんのパジャマのボタンを上から2つほど外した。
パジャマをずらすと、耀くんの肩から背中にかけて肌が露わになった。

「オレのもんだもん」

そう呟いて、背中にキスをした。
キスマーク付きで。

「ん……ちゅっ♪ ちゅっ、ちゅっ♪ 耀くん……」


しばらく耀くんの首から背中にかけてキスしたり、舌を這わせたりして楽しい時間を過ごした。



「…………ん?」

なんだ? なんか……変だ? そんな気がして目が覚めた。

「んん? なに? え?」

オレの身体に腕がまわされてる……え? なに? 一体どうし……

「あっ! 椎凪!? なんで? なんでここに椎凪がいるんだよ? 鍵かけてあったのに!!」

ナゼだか自分の部屋に戻ったはずの椎凪がオレのベッドに一緒に寝てて、
オレの身体にしっかりと腕を回して抱きついてる。

「ちょっ…と…椎凪! なにしてんだよ? ここ、オレの部屋だよ」
「んーだってオレ…寂しく… なっちゃった…んだ…」

起き上がったオレに、椎凪はさらに引っ付いてくる。

「ええ? うそばっかり! ほら、自分の部屋に行きなよ」
「やだ…よ…お願い…一緒に…」

そう言って、また眠っちゃった。
ホントに寝てんの? なんか怪しいんだけど。

「ふぁぁ……」

まあ、いいか。
今、怒るのもなんか…な。
というか、睡魔に負けたのもある。

だからオレは諦めて、椎凪と一緒に寝ることにした。

それに椎凪と一緒に寝るのは嫌じゃないんだ。




次の日の朝、オレと耀くんは朝の海辺を散歩してる。
別荘の目の前にはプライベートビーチが広がってて、耀くんとふたりっきり。

昨夜はベッドから叩き出されもせず、朝まで耀くんと一緒に寝れたから、オレはすごく気分がよかった。

「んーいい気持ち」

耀くんが波打ち際で深呼吸をしながら伸びをする。
そんな耀くんを微笑みながら見てるオレ。
まるで恋人同士だ。

「あ…」

耀くんがオレの視線に気がついて、照れた顔をした。
オレは耀くんの傍に近づいて、ゆっくりと顔を近づける。
でも耀くんは、逃げようとはしなかった。

やったね! 昨夜からの苦労が無駄にはならなかったってことだよな。
地道な努力はいつか実を結ぶんだよ! うん、うん。

「好きだよ… 耀くん…」

愛の言葉も忘れずに囁く。
耀くんも、そっと目を閉じた。

「ふたり共ーー。朝食の用意できましたよーーー」

って、絶妙なタイミングで慎二君の呼ぶ声がした。
耀くんの唇まであと数ミリだったのに!

「あ! はーい」

耀くんがサッサと別荘に戻ろうとしてる。
きっと内心はホッとしてるんだろうな。
そして、オレに気を許したことを反省して、次からは気をつけようとか思ってるんだ。
まったく……慎二君ってば、どうしていつもグッドタイミングで邪魔してくれんのかね……はーー。

オレはヨロヨロと耀くんの後を追って、別荘への道を歩き出した。



「美味しかったぁ」

耀くんが満足気に食後のコーヒーを飲みながら、ニコニコ顔で感想を述べた。

「椎凪さんも、たまには人が作った料理食べるのもいいでしょ?」
「うん、美味しかった」

さすが “TAKERU” 御用達しのシェフ。
いい仕事してるよ。

「オレ、デザート貰ってくる」
「あ、あそこにいる人に言えば貰えますよ」
「うん」

耀くんが嬉しそうに席を立った。
そのとき、部屋のドアが開いて小学生くらいの男の子がひとり入って来た。

「なんだ、もう食事は終わっちゃったのか?」

なんだ? 生意気そうなガキだな。
それが第一印象。

「あれ? 圭太君、いらっしゃい」
「誰? このガキ」
「ガキじゃねーっ! 横永圭太、小学5年だ! ここの別荘の持ち主だぞっ!」
「はぁ?」

お前みたいなガキが、持ち主なワケないだろうが!

「ええ、この別荘の持ち主の息子さんです。この場所に「TAKERU」の持ってる別荘がなかったんで、
貸して頂いてるんですよ」

ホテルで泊まるより、別荘を借りたほうが仕事絡みだと都合がいいらしく、そうなったらしい。

「なんだよ。朝飯食いに来てやったのに」
「まだあると思いますよ」
「なに? こいつ?」

オレは呆れた眼差しを、大分目線が下にいるガキに向ける。

「暇なときは遊びに来いって言ってただろ? だから来てやったんじゃねーか!」
「ちょっと、慎二君。この子に話つけてもいい?」

オレはがっしりと圭太の肩を掴んだ。
ったく、大人に向かって生意気なんだよ、このクソガキがっ!
躾け直してやる。

「なにすんだよっ!」
「椎凪、ふたりの分も貰ってきたよ、ん? どうしたの椎凪?」

耀くんが持ってきたデザートの、果物のゼリーをテーブルの上に置く。

「ここの別荘の持ち主の息子さんで、圭太君ですよ。望月耀君です、こっちが椎凪さんで……」

慎二君がオレ達を紹介してるとき、圭太がジッと耀くんを見つめていた。
そしていきなり、にゅっと両手を差し出した。

「 へっ? 」
「 !! 」
「 ん な っ !! 」

それぞれ、耀くん慎二君オレと思い思いの声を上げた。

「へぇ……」
「うわっ!! な、なにっ!」

耀くんがムネを押さえて、慌てて後ろに逃げる。
圭太が両手で耀くんの胸を、む ん ず っ !! と、鷲掴みしたからだ!!

「本当にムネねぇーや、女かと思ったのに」
「なななななな……」

耀くんはパニック状態だ。
慎二君もいきなりのことで呆然としてる。

── ゴ ッ !!

「いってぇ!!」

オレは思いっきり、圭太の頭にゲンコツを叩き込んだ。

「なにすんだよっ!!」
「なにすんだじゃないっっ!! お前こそなにしてんだっっ!! なに耀くんの胸、触ってんだっ!!」

オレは圭太の服を掴んで、引っ張り上げた。

「し…し…い…な…こっ…子供のした…こと…だから…さ」

ショックでフラつきながら、耀くんがオレに声をかける。

「そうですよ。大人気ない」

慎二君がオレを宥めるように、圭太の服を掴んでるオレの腕を押さえた。

「なに言ってんの! ふたり共!! オレだって耀くんの胸、触ったことないんだぞっ!!
ふざけんなっ!! このオレを差し置いてっ!!」

オレはもの凄い勢いで叫んだ。
そりゃ眠ってる耀くんの胸を指先でなぞる程度には触ったことはあるけど、
こんなに堂々と、しかも鷲掴みってなんだ!!

は? って顔で3人の動きが止まってた。
そしてオレをなんともいえない視線でジッと見てる。

「な、なに言ってるんですか、椎凪さん! あなたが触ったほうが大問題ですよっ!!」
「なんでさ! オレは全然0Kでしょ!」

当然というように言い切るオレ。

「OKじゃないだろっ! 椎凪はっ!!」

耀くんまでもがオレの言うことを否定する。

「なんで? おかしいよっ! ふたり共っ!!」

なんでこんなにも耀くんのことが好きで、愛してて、全身から耀くんに愛情が溢れてるオレがダメで、
どこの誰ともわからない、こんなクソガキがどうして許されるんだ!!

「おかしいのは椎凪! いいからその手放して! ほら、椎凪!!」

すったもんだの後、慎二君と耀くんに圭太の服を掴んでた手を引き剥がされ、他のスタッフに
引きずられるようにしてオレは撮影の仕事に引っ張られた。


なんだかんだと、圭太はそのあともオレ達の傍から離れなかった。
家ではひとりでつまらないって言ってたから…。

それに圭太は耀くんのことが気に入ったらしい。
チョコチョコと纏わりついてる。
オレは気にしつつも、相手は小学生だと渋々自分を納得させた。

撮影も始まったから、オレにはどうすることもできなかったし。
でも、そんなふたりが動いた。
ふと見れば、圭太が耀くんの腕を引っ張りながらどこかに行こうとしてる。

「耀くん!!」

オレは慌てて声をかけた。

「椎凪、ちょっと出かけてくるね。大丈夫、すぐそこのお土産屋さんだから」

耀くんが気がついて、オレに叫んだ。
オレは追いかけることもできず、仕方なくふたりを見送った。
まあ小学生じゃなにかあるとは思えないし、確かホントすぐそこのお店だったよな。
記憶の中のお店を思い浮かべてとりえず納得する。


でも、耀くんの祐輔とは違うトラブル体質がこのあと発揮されることになっているとは……

離れていたオレが知るのはずっとあとのことだった。





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