オレの愛を君にあげる…



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「へぇ……こんなところに、こんなのがあったんだ」

隣の駅の駅前から、ちょっと外れたビルの裏に街が管理してる建物があって、その最上階にプラネタリウムが入ってる。

「この前、仕事で動いてたときに見つけたんだ♪」

平日は二回。
土日は四回上映されてる。
入場料も子供も対象らしく、大人料金でもすごく安い。
今日は平日の最後の上映で人もまばら。
オレ達はこのあと、外で食事して帰ろうってなってて……椎凪はデートだって言い張るけど、オレは無視!
そしたら『キスしたから、もうオレ達恋人でしょ』って 突っ込まれた。

たしかにしたけど……あれは椎凪の病気のお見舞いっていうか……乗せられたっていうか……。

「い…今はキスしたからって、恋人なんかじゃないの!」

って、知らんぷりした。
そんなオレを見て、椎凪はなにもかもわかったようにニッコリと笑う。

もー椎凪のバカ。



「うわぁ〜リクライニングだ。フカフカ……気持ちいい」

生まれて初めてプラネタリウムに来た。
だから施設も初めてで、さっきから周りをキョロキョロと見ることがやめられない。
変にテンションが上がってて、ワクワクもとまらない。

「椎凪はプラネタリウムに来たことあるの?」

すぐに横で、同じ形のイスに座ってる椎凪に聞いた。
人が少ないせいか、オレ達が座ってる列はオレ達ふたり以外座ってない。

「子供のころに、施設の遠足で来たことがあるよ。だから大分前だけどね」
「本当に子供のころなの? つい最近 だったりして。女の人とのデートで」

横目で疑いの眼差しを送った。
さっきのお返し。

「えー? もしかして、耀くんヤキモチ? 彼氏の過去が気になる?」
「だ、誰が彼氏なんだよ! 椎凪は彼氏なんかじゃないもん! ただの友達だからね! もう!」

クスリと笑った椎凪。
椎凪のほうが一枚上手だった……ちぇっ……余計なこと、言うんじゃなかった。



『わぁ…真っ暗…』

上映が始まって、ドームの室内は真っ暗。
目が慣れても周りがよく見えないなんて、すごく暗いんだ。
ナレーションと一緒に、人工に映し出されたたくさんの星が見えた。

『ワァ…綺麗……』

本当の星空じゃ絶対こんなふうには見えない。
機械で映し出されたとしても感動した。

『耀くん』

耳元で椎凪の声がした。
暗くて 顔はわからなかったけど、椎凪のほうを向いた。

『!!』

そのとき、唇になにかが触れた。

『綺麗だね』

椎凪は何事もなかったように話す。
え? 今、椎凪がなにかしたんじゃ?
でも確信がなかった……それほど微かな感触だった。

『ね!』
『う…うん…』

今のは、なんだったんだ?
不思議に思いつつ、イスに座り直して星空を見た。
見えやすいように少し仰向けだ。
上を向いて星を見ても、なんだか上の空になった。

椎凪のせいだ……。
でもそんなのもったいないと思い直して星空に集中することにしたけど、またすぐに椎凪に呼ばれた。

『耀くん』
『な…なに…』

思わず警戒してしまう。

『どうしたの?』
『べ…別に…』

オレの声で、椎凪が違いに気がついたらしい。
相変わらずオレに関しては、鋭い椎凪だ。

『部屋からこんな星空が見えたら、最高なのにね』

また耳元で椎凪の声がした。

『そうだね……』

なるべく普通に話した……つもりだったんだけど。

『耀くんどうしたの? なにか焦ってる?』
『え!? あ…焦ってなんかないよ! ほら! 椎凪も星空に集中しなよ! 終わっちゃうよ』
『そうだね』
『うん…ん?』

目の前の星が消えた? ……なんで?

『!?』

今度は錯覚なんかじない。
オレの唇に温かくて柔らかい感触が触れた…ううん、押し付けられた。

『んっ…!』
『しっ!』

“しっ”て……。

「……う…」

簡単に口を押し開けられて、 椎凪の舌が入ってくる!

『んんっ!!』

声が出せなくて、ギュッと目を瞑って耐えた。

椎凪に、好き勝手に自分の舌が遊ばれてる。
動こうにも肩は押さえつけられてて、頭はキスの強さでイスの背凭れに押し付けられてて動けない。
それにいつまでたっても、椎凪は全然離れる気配がなくて……。

オレはいつの間にか、頭の中が真っ白になった。



「……くん…耀くん!」
「はっ!」

椎凪に呼ばれて目が覚めた。

「上映、終わったよ」
「え? ええ!? 終わった?」

イスの上で 跳び起きた!

「眠くなっちゃったんだね? 気持ちよかったもんね。暗くて、イスもフカフカで」

ニッコリと椎凪が笑いながらオレを見下ろしてる。

「うそ! オレ、最後まで見てないのにぃ!」
「また、来ようね」

椎凪がずっと笑ってる。

「うーー、椎凪のせいだっ!」

オレは我慢出来なくて、椎凪を見上げて叫んだ。

「え? オレ? オレ、なにかしたっけ?」
「なにかしたっけって……」

そこで言葉に詰まった。

「星……見てるとき…オレに…その…しただろ…」
「なにを?」
「なにをって……」
「なにかしたかなぁ〜オレ?」

椎凪めぇーーー!! わざとらしく惚けちゃって。

「した! オレに……キスした!」
「嫌がらなかった」

即答で返された!! やっぱり、したんだっ!!
なのになんで、そんな普通の態度?

「突然で、暗くて、なにがなんだかわかんなかったんだもん!」
「でも気持ちよくて 、眠っちゃったんだ。可愛いね、耀くんってば♪」
「気持ちよかったんじゃない! 頭の中が真っ白になっちゃったの!」
「感じちゃったんだ。ますます可愛いね、 耀くんってば♪」
「違う! もー椎凪!」

オレは真っ赤になりながら、椎凪を睨んだ。
迫力なんて皆無だったけど。

でも、これ以上怒れなくて……怒る気にもなれなくて……。
椎凪ってば……ズルイ。

「さ! ご飯、食べに行こう」
「……うん」

って、返事しちゃってるし。




「今日も中華?」

下に降りるエレベーターで椎凪が聞いてきた。

「今日は違うのにする」
「そう? じゃあ歩きながら、新しいお店を発掘しよっか?」
「うん、いいね。楽しそう、いいお店あるかな〜〜ふふ」

想像しながら、ワクワクして椎凪を見上げた。

「好きだよ、耀くん」
「…ん」

エレベーターの中で、堂々と椎凪がオレにキスをした。
今度は軽い触れるだけのキスだ。

そりゃ、エレベーターにはオレと椎凪しか乗ってないけど……。

「オレ……キスしていいなんて言ってないよ!」

顔が赤くなってくるのが わかる。

「するな、とも言ってないよね」
「なんで急に……こんなに堂々とするの?」

前はそれっぽい仕草は見せてたけど、こんなに堂々とすることはなかった。
なにかキッカケがあったのかな?

「耀くんが怒らないって、わかったから」
「!!」

満面の笑みだ! 一体オレのどこでそんな判断したんだ、椎凪は!?

「じゃあ怒っ……」

チュツ! っと言ってるそばからまた、椎凪が触れるだけのキスをオレにする。

「!!」
「ね? 怒らない」

ニッコリ! と首を傾げながらオレに笑いかける。

「もー椎凪ってば!! 何回するんだよっ!!」
「ほら、回数で怒った」
「!!」
「さあ、行こう」

椎凪が当然のようにオレと手を繋ぐ。

オレはもう言い返す気力もなくて、連れていかれるまま歩いてる。


歩きながらふと思った。
どうしていつも……なんでも……椎凪には、なにをされても平気なんだろう?
キスだって嫌じゃない……怒るのは照れくさくて恥ずかしいからだ。
椎凪をコッソリ見れば、嬉しそうに笑ってる。


「なに? どうかした、耀くん」
「ううん、なんにも」
「そう」

繋いでた手をぎゅっと握られる。


今日はもう……考えるのはやめよう。

椎凪にたくさんキスしてもらって、繋いでた手もあったかくて……オレはとっても、あったかい気持ちだったから。


そのあと、初めて入ったお店の料理がすごく美味しくて、さらに嬉しい気持ちになったのは言うまでもない。





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