オレの愛を君にあげる…



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「何観たい?耀くん」
「椎凪は?」

映画館の入口で、上映中の映画のポスターをふたりで眺めてる。

今日は最近最寄り駅近くにできた、大型のショッピングモールに遊びに来てた。
行き当たりばったりで、映画を観ようってことになったんだけど、なにを観るかなんて決めなかった。
大体、なにを上映してるかも知らなかったんだよな。

「オレ、ドロドロの愛憎劇がいいかなぁ」

椎凪が面白そうに言うけど、絶対いい加減なこと言ってる。
だって、顔が笑ってるじゃん。

「えーオレやだよ。オレはこっちの推理ものか、アクションものがいいな」
「どっちがいい?」
「んーーじゃあ、こっちの推理もの! でも、次の上映時間までだいぶあるよ」

今の上映が始まったばっかりで、次の上映までに時間がかなりあった。

「ちょうどいいじゃん。少し中を回って、時間潰そうか」
「うん」

オレが頷くと椎凪も頷いて、当たり前のようにオレの手を取って歩きだした。



建物の中には、何百っていうお店が並んでる。
オレと椎凪は主に雑貨関係のお店を回った。
ふたりで何軒も雑貨屋を回って、色違いのコーヒーカップを買った。


「ねぇ、見てもいい?」

オレは本屋を見つけて目を輝かせた。

「ダメ!」

即行で椎凪にダメだしされた。

「え〜なんで? 椎凪のケチ〜!」

オレは腕を組んで、唇を少し尖らせながらそっぽを向く。

「だって、耀くん本屋に入ると暫く出てこないんだもん。時間がないから今はダメ! 映画を観終わったらね」
「ぶ〜〜」
「耀くんは不貞腐れても可愛いね」

椎凪のそんな言葉に、オレは顔を椎凪から背けたままだ。
そんなオレの頬を、椎凪がニコニコと微笑みながら指先でそっと撫でる。

もう……人が見てるじゃん!




「椎凪…」
「ん?」

やっと時間が経って、映画館の席に座った椎凪に声をかけた。

「いい? 絶対、映画を見てる間はオレにキスしないでよ!」
「ヤだな、しないよ」
「ほんとだよ、約束ね! 椎凪は暗いと、すぐキスするんだから……」

最近の椎凪はオレにキスばっかりする。
さっきだって、店内を見てる間も不意をついて何度もキスされた。

それはツムジだったり、こめかみだったり、頬っぺただったり、唇だったり……
周りの人に見られちゃうって言っても 『耀くんが騒がなきゃバレないよ』 ってまったく聞く耳を持たない。

嘘だ…… 絶対周りにバレてるもん。
振り返ってまでは見られなかったけど、すれ違いざまの視線が痛かったし。

オレ達は恋人同士なんかじゃない。
だけどいつもキスをする。
この際、椎凪の恋人宣言はほっといて、なんでオレが怒らないかっていうと……
自分でもよくわからないのが本当のところだ。
椎凪にキスされるのが、別に嫌じゃないだけ。
椎凪はオレが優しいからだって言う……それもよくわからない。

隣の椎凪を気にしつつ、映画が始まった。
途中心配してたことはなく、無事に観終わった。
何事もないっていうのが、なんだか怪しいんだけど。

「椎凪は犯人が誰かわかってた?」
「まあね」
「ほんとかな……あっ!」

もっともらしく答える椎凪を、疑いの眼差しで見上げると出口に向かう通路の角に追い込まれて強引に口を塞がれた。

「ふ……うぅ……んんっ……」

はたから見たら、椎凪がひとりで角に向かって立ってるとしか見えない。
オレは椎凪の身体に隠れてるから。

「…ん…ぁ…」

激しく椎凪が舌を絡ませてくる。
椎凪との身長差は20センチ近くあるから、オレは爪先立ちになりながら首が痛くなるくらい上を向かされて、
口内を貪られてる。
貪られてると思うほど強引で乱暴なのに、どこか情熱的で胸がドキドキしちゃう。
あんまりにも長い間そんなコトをされて、頭が真っ白になって変な声まで出ちゃった……ううっ恥ずかしい。
やっと椎凪の舌がオレの口の中から出ていったと思ったら、お互いに濡れた唇で何度か
触れるだけのキスを繰り返して最後に椎凪がペロリとオレの唇を舐めて離れた。

「ふぁ……はぁ……はぁ……」

オレは腰をしっかりと抱きとめられて椎凪に密着しながら、顎を掴まれたまま上を向かされて椎凪を見つめてた。
絶対ウルウルと瞳が潤んでるよ! 半べそ状態だよ! みんな椎凪のせいだ!!

「刑事をバカにした罰。あとは映画館でオアズケして我慢してた分」

オレを見下ろす椎凪の眼差しは、いつも優しい眼差しだ…… 見つめてたらホワンってなっちゃう。

「なんで……キス…ばっかりするの? 変…だよ……オレ達、恋人同士でもないのに……」

息も切れぎれで、自分でも矛盾してることを言ってるのはわかってた。
オレが椎凪を拒否すればいいんだ……椎凪に聞くことじゃないのに……オレはズルイ。

「それは耀くんが、オレに優しいから」
「え? 優しい? オレ…が?」
「そう、オレだけに優しいんだ……好きだよ、耀くん」

きっとオレは顔が真っ赤だ。
自分でもわかる……ダメだ……このまま椎凪の前にいたら、オレ……椎凪に抱きついちゃいそう。

「さ…さぁてと、本屋に行こうっと。さっき椎凪にダメだしされたから、いつもより粘ってやる!」

言いながら椎凪の腕の中から抜け出した。
椎凪は邪魔をすることもせず素直にオレを解放したから、椎凪の脇をスリ抜けた。

「いいよ、待つの得意だし。もう半年待ってるしね」
「え?」

未だに焦ってたオレは椎凪の言葉を聞き逃した。

「刑事だから、待つの得意って言ったの」
「うわ! イヤミ?」

振り向くと、椎凪が優しく微笑んでいつもと同じようにオレを見つめて立っている。

オレはそんな椎凪を見て安心して、本屋に向かって歩き出した。

そんなオレに椎凪が追いついて、オレの手を掴んで指を絡ませて一緒に歩き出した。





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