オレの愛を君にあげる…



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こんなとき、どうしようかと考えるけど大体はオレはなにもしないで成り行きを見守ってる。
普段にも増して、耀くんは意固地になるからだ。
一定の距離を空けて同じ歩調でうしろからついていく。
耀くんの背中に視線を集中して。

背中に視線を感じる。
椎凪はオレに話しかけてこない。
本当はもう怒ってなんかいない。
いつも怒ってもナゼか椎凪が傍に居てくれると、すぐにそんな気持ちはドコかに行っちゃうんだ……なんでだろ?
せっかくの旅行なのに、こんなのつまんない。
でも、そう思っても椎凪から話しかけてこないし、オレからも話しかけ難い。
もー椎凪ったら……察してよね。

いつもオレは先に白旗を上げる。
椎凪には仕方ないから許してあげるって素振りをする。
本当は椎凪に触れたくて、椎凪の温もりを感じたくて、椎凪の声が聞きたいからなのに……。
自分でもわかってる……オレって素直じゃないんだろうな。



「お腹……空いた……」

耀くんが立ち止まってオレのほうを見ずにそう言った。
いつもそうだ、怒っても耀くんから折れてくる。
オレが傍にいないことに違和感を覚えるんだよね。
当然だよ。
そう思ってくれるようにオレはいつも耀くんに接して、耀くんの傍にいるんだから。

「なにが食べたい?」

言いながら、耀くんの隣を歩いて追い越しながら耀くんの手を握った。
耀くんは嫌がる素振りもなく、オレと手を繋いでる。

「椎凪を探して歩き回ったから、すっごくお腹空いた! だから、お腹一杯食べれるところ」

ワザと拗ねて、不貞腐れてる……可愛いなぁ〜♪

「じゃあここの名産じゃないけど、ちょっと行った所に大盛で出してくれるお店があるんだって。値段は普通で」
「ホント? じゃあ、そこに行くっ!」

もう食べる気満々で、機嫌も直ったみたいでよかった。

「じゃあ、行こっか」
「うん」

繋いだ手をギュッと握りあった。
まだお互いの顔を見てないけど、ふたり共笑ってるのはわかる。

「ねえ、耀くん」
「なに?」
「愛してるよ」
「!! ……オレは…愛してなんかないよ!」

ちょっとの間があって、耀くんはそう言った。
“愛してない”って言うのを少し考えたんだ。
本当はオレのこと、愛してるから。

「そう?」
「そうだよ」

見なくてもわかる。
耀くんの顔が真っ赤だって。

「そっか、でもオレは耀くんのこと愛してる」
「………」

その言葉に返事はなかったけど、オレはいつも満足してて満たされてる。
でも、そろそろそんな関係も考えなくちゃいけないかな……と、オレは思い始めていた。



「はぁ〜〜気持ちいい〜〜」

あのあと、夕方まで色々な所を見て回った。
夕食も済んで露天風呂の淵に凭れ掛かって、ぼんやりと夜空を見上げながら、のんびりと湯船に
浸かってると言うわけ。
仕方なくオレが折れて、耀くんが入浴中は部屋から出てた。
昼間のこともあったから、ホント仕方なくだ。

「気持ちよさそうだね、椎凪」
「うん、最高」

少し離れた所で耀くんの声がした。
オレは入浴中を見られても全然かまわないから、耀くんは部屋にいる。
でも、警戒して傍に来ない……ちぇっ、つまんない。

「!!」

おもむろに湯船から立ち上がって、耀くんのほうを向いた。
耀くんは大きく目を見開いて、ビックリしてる。

「なっ!? い、いきなりなにしてんの? 椎凪!?」

慌ててオレに背を向けて、逃げようとする耀くんをうしろから抱きついて捕まえた。

「耀くんも一緒に入ろう♪」
「えっ!? ウ…ウソでしょ? やだよっ! 入らないってばっ! やめっ…」
「どうして? 一緒に入ろうよ。もう明日は帰るんだよ、記念に一緒に入ろう」

もがく耀くんを両腕でしっかりと抱き込んだ。
そのままオレのほうに引っ張る。
オレより身体の小さな耀くんは、あっさりと体勢を崩した。

「あっ…あっ…ちょっ…うわっ!!」

思いっきりふたりで背中から湯船に突っ込んだ。

「わっぷ!! もー!! 椎凪っ!!」

浴衣のままお湯に浸かった耀くんが慌ててる。

「やだなぁ、耀くんがテレるから♪」
「ちがうだろっ! もー椎凪は……」

ブツブツ文句を言いながら、耀くんが立ち上がった。

「わぁお!!」

思わず歓喜の声を上げてしまった。

「え? あっ!!」

立ち上がった耀くんは、浴衣が濡れて身体に張り付いていた。
サラシを巻いていない胸や身体の線が思いっきりわかって、足も腿の辺りから露わになってて、色っぽかったんだ。
なのに、耀くんがオレの視線に気がついて、慌ててまた湯船にしゃがみ込んだ。
ああ、失敗した……惜しい!

「本ーー当! 椎凪のバカッ!!」
「ごめんね」

全然悪いとは思ってなかったけど、一応謝っといた。

「もー、このまま入ってるからね!」
「ハハ♪ いいよ、別に」

裸のオレに浴衣姿の耀くんが並んで湯舟に浸かってる。
しかもふたりして夜空を見上げて、なんとも不思議な光景だ。

「月が綺麗だね、椎凪」
「うん、満月かな?」
「ふわぁ……なんだか和む。お風呂に入りながらお月見なんて、初めてだよ」
「オレも初めてだよ」
「普通そっか…ふふ…」

無理矢理お風呂に引っ張り込んだのに、耀くんはさほど怒りもしないでお月見を堪能してる。
そんな耀くんをジッと見つめた。

「椎凪? あ…ん…」

そっと耀くんに近づいて、初めてお風呂で耀くんとキスをした。
激しく舌を絡ませる度に、湯舟が揺れて小さく水の跳ねる音がする。

「…ん…椎凪…やめ…」

遠慮がちに耀くんがオレの身体を押し戻す。
オレが裸だから焦ってるのかな?

「んーもう少し…」

そう言いつつも、しばらく唇を離さなかった。

「し…いな…んっ…」

軽く目を閉じて、オレの名前を呼びながらオレと深い深いキスを交わす耀くんが可愛いったらありゃしない♪

「ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ!」

思いっきり舌を絡ませたキスのあと、触れるだけの軽いキスを繰り返した。

「エヘッ♪」

嬉しくて、思わず微笑んでしまった。

「椎凪…」

耀くんがハニカミながら、オレの名前を呼んだ。

「耀くん」

オレも呼び返す。
これってまるで、恋人同士みたいじゃない。
あれ? グググって、水面からゆっくりと拳が現れた。
え?

「し・い・なぁぁぁ……」
「え?」
「やり過ぎだろっ!」
「イテッ!」

ゴキッと鈍い音がして、思いっきり頭をゲンコツで殴られた。
受け入れてくれてたと思ったのに、耀くんには加減が難しい。




「ベッドに入らないで!」
「えーじゃあオレドコで寝るの?」
「床があるだろ! 畳だってあるよ」
「耀くん!」
「ふん!」

そう言うと耀くんは、オレに背を向けて寝てしまった。
オレは仕方なく、床に座ってベッドにもたれ掛かった。


「耀くん許してよ……耀くーん……耀くーん……」

椎凪がまたイジケモードになった。
ほとんどの場合オレが椎凪をイジケさせてるんだけど、いつものことでまたオレが白旗を上げることになる。

「イヤラしいことしないって約束するなら、寝てもいいよ」
「しないっ!! 約束する!」

椎凪がベッドの端からヒョッコリと顔を出して、潤んだ瞳でニッコリと笑った。
半ベソだったの? 椎凪。
相変わらず、すぐ泣くんだから。

椎凪はオレに怒られるとすぐ涙ぐむ。
25歳だろ? 椎凪……。

「エへへ」

嬉しそうに椎凪が笑って、オレの左側に潜り込んだ。
椎凪の定番の場所……いつも一緒に寝るときは、椎凪が左側でオレが右側。

「オレのこと怒ってない?」
「怒ってないよ」
「オレのこと、嫌いじゃない?」
「嫌いじゃないよ」

いつものセリフ……ときどき不安になる椎凪は、そうやってオレに確かめる。

「好きだよ……耀くん」
「……おやすみ…椎凪」
「……おやすみ…耀くん」

耀くんはオレの『好き』に答えてくれたことはない。
いつもそうだ。
でもいつか、耀くんがオレのこと『好き』って言ってくれるって信じてる。
だから今は、この状況でもオレは満足してる。



椎凪がオレの隣で眠ってる。
椎凪の寝息が聞えるくらい近くで眠ってる。
椎凪はあったかい……オレを抱きかかえて、椎凪の身体でスッポリと包み込んで眠ってくれる。
祐輔とは違くて、甘えて眠ることができるんだ。

昨日から怒ってばっかりでごめんね、椎凪。
だって……そうしていないと、つい言っちゃいけない言葉を言いそうになるから。
椎凪があんまりにも積極的で、オレはそんな椎凪に負けそうになる。
でも、オレは今のままでいいから……このまま椎凪と友達でいられれば、それでいいんだ。
だから、椎凪が望む言葉は言ってあげられない。
ごめんね……本当に、ごめんね……椎凪。

友達なら……いつか椎凪がオレのことを嫌いになっても、きっとオレは耐えられるから……。
椎凪がオレの傍からいなくなっても……きっと……。



耀くんがぐっすり眠ってる。
オレはまた眠ってる耀くんの身体でチョットだけ遊ぶ。
だってもう耀くんはオレのものだから。
誰にも触らせたりするもんか。
全部、オレのもの。

夜寝るときは、耀くんはサラシを巻いてない。
だから、ついついそれに便乗してしまう。
耀くんの首筋に顔をうずめて、両手でしっかりと耀くんを抱きかかえた。
柔らかくて、あったかくて……オレに安心をくれる、ただひとりの人。
そのまま耀くんの胸に頭を乗せた。
耀くんの心臓の音が『トクン…トクン…』って聞える。

それが心地良くて……子守唄みたい……だ……




「ん…うー…おっ…重い…」

胸が苦しくて目が覚めた、なんで?

「……って! 椎凪っ! なんて格好で寝てるんだよっ!!」

起きて目を開けた目の前に、椎凪の頭があった!
しっかりオレの両足の間に入り込んで、しかも……浴衣の前が思いっきり左右に肌蹴てる!
胸がっ…胸がっ…露わになってて、そのオレの胸の上に椎凪が頭を載せて気持ちよさそうに眠ってる?!

「もーーーーっっ!! 椎凪のバカッ!! 変態っ!! スケベっ!! 大っ嫌いだぁーーーっっ!!」

ゲシッ!!

「ぎゃんっ!!」

眠ったままの椎凪を、オレは思いっきりベッドから蹴り落とした!





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