オレの愛を君にあげる…



51




「あれ?」

いつもより遅く仕事から帰ると、耀くんの部屋のドアが少し開いていた。

「耀くん?」

部屋に居るのも珍しいけど、ドアが開いてるのも珍しい。
そっと様子を伺いながら中を覗くと、耀くんがベッドの上でパジャマ姿で仰向けで眠ってた。

「あらま…」

癖なのか、耀くんは仰向けに寝ると両手を顔の横に上げて眠る。
その格好が赤ちゃんみたいでこれまた可愛い。
オレはそっとベッドに上がると、耀くんに馬乗りするように身体を跨いだ。「あれ?」

いつもより遅く仕事から帰ると、耀くんの部屋のドアが少し開いていた。

「耀くん?」

部屋に居るのも珍しいけど、ドアが開いてるのも珍しい。
そっと様子を伺いながら中を覗くと、耀くんがベッドの上でパジャマ姿で仰向けで眠ってた。

「あらま…」

癖なのか、耀くんは仰向けに寝ると両手を顔の横に上げて眠る。
その格好が赤ちゃんみたいでこれまた可愛い。
オレはそっとベッドに上がると、耀くんに馬乗りするように身体を跨いだ。
膝と手を着いてジィ…と耀くんの寝顔を見下ろした。

「ホント可愛いな…」

そう呟いて、優しく頬に触れる。
親指で耀くんの柔らかくて暖かい唇を撫でた。


膝と手を着いてジィ…と耀くんの寝顔を見下ろした。

「ホント可愛いな…」

そう呟いて、優しく頬に触れる。
親指で耀くんの柔らかくて暖かい唇を撫でた。

「起きないよね…」

最近じゃ、目が覚めてもあんまり慌てないんじゃないかと自分では思うんだけど。
だって、キスしても耀くん怒らないし。
もう一押しとみた。
そんな思い込みと耀くんの無防備な寝顔で、オレは緊張の糸を緩めてしまった。

「耀くん……ん…」

ゆっくりと、耀くんに覆いかぶさって唇を重ねた。
無抵抗な耀くんの口を、オレの舌で簡単に押し開けて舌を絡めた。

「……ンッ…」

耀くんが甘い声を出して、ちょっと動いた。
いつもならここで我慢して引いたんだけど、なぜか今日は引くことができなくて、耀くんの身体の下から腕を差し込んで抱きしめてしまった。
そのまま首筋に唇を押しつける。
柔らかくて暖かくて……いい匂いがする。

「耀くん……好きだよ。早くオレのものに……オレだけのものになって。オレのこと、好きって言って…お願い…」

搾り出すように呟いて、もう一度眠ってる耀くんにキスをした。
つい気持ちがこもって、なにも考えず深くて大胆なキスを延々と続けてしまった。


「!? ……ン?」

当然の如く耀くんが気ついて、目を覚ました……らしい。
オレは気づかずというか、耀くんが起きるっていうことも頭から消えてた。

「…し…い…んっ…うっ…ちょっ…」

耀くんが抵抗してるのも気にしない。
身体の下から回した腕に力を込めて、耀くんを掴まえた。

「ちょっと…椎凪、ふざけてるの? 椎凪……聞いてる? 椎凪っ!!」

耀くんの言葉なんか耳に入らない。
パジャマのボタンを何個か外す。
そのまま肩から脱がしにかかった。
自分では本当に無意識で、身体が勝手に動いてた。
だって、オレそのときの記憶がないから。

「あっ!」

暴れる耀くんの腕をベッドに押さえつけた。

「耀くん…」

首筋から鎖骨に唇を押しつけた。
誰も触ってない……オレだけの耀くんの身体。

「あっ…あっ! やっ…いやぁっ! 椎凪、やめてっ! いやだっ!椎凪っ!!」

叫びにも似た耀くんの声で、ハッと我に返った。

「え? なっ……? ……え?」

オレ……なにしてたんだ?

「…………」
「…耀…くん…?」

マジで記憶がない。
オレの身体の下で、耀くんがオレを睨んでる。
瞳に涙を一杯溜めて。

「耀くん……オレ…」

そんな耀くんの胸は、パジャマが肌蹴て素肌が半分見えてる。
サラシを巻いてない胸が、オレの目に飛び込んできた。

「あ…ごめん…オレ…」

一瞬で全てを理解した。
オレ……無理矢理、耀くんを抱こうとしたんだ。
眠ってる耀くんを無理矢理……。
オレを下から見上げてる耀くんの瞳から、涙が零れ落ちた。

「!!」

耀くんがパジャマの前を押さえながら、起き上がる。
オレは無言でうしろに下がった。

「……耀…くん…」

そっと耀くんに向かって手を伸ばした。

「!」

その瞬間、耀くんは見てわかるほどに身体をビクリとさせて、オレの伸ばした手からうしろに遠のいた。

「…………」

オレはなにも言えず、伸ばした手を引っ込めて強く握りしめることしかできなかった。
オレ……オレ…耀くんを傷つけたんだ。

「ごめん……」

謝りながらベッドから降りた。
そのままドアのほうへ歩いて行く。

「ごめん……本当にごめんね……耀くん…」

 耀くんの部屋のドアの前で、もう一度振り返って言った。

「…………」

耀くんは無言で、オレのほうを見てもくれなかった。
相変わらずパジャマの前をギュッと握りしめて、手の甲で涙を拭いてた。
オレは黙って……静かに耀くんの部屋のドアを閉めた。




「え!? ……椎凪?」

椎凪が部屋から出て行くと、玄関の鍵を開ける音とドアの閉まる音がしてハッとなった。
玄関に行くと、思ったとおり椎凪の靴がなくなってた。
椎凪……出て行っちゃったんだ。
そう思ったらジッとしてられなくて、オレは急いで洋服に着替えた。
着替える時間ももどかしくて、早く椎凪を追い駆けなきゃって焦ってた。
だから玄関を飛び出すと、夜道をひたすら走った。

「もーどこに行っちゃったの……椎凪」

大分走ったのに椎凪の姿が見当たらない。
そんなに遅れて出たとは思えないのに。
携帯も出ないし……一体どこに行っちゃったの?

椎凪があんなことをするなんて、きっとなにかあったんだ。
いつもいつも、オレに優しかった椎凪。
その椎凪がオレにあんなことをするなんて、絶対におかしいもん。
いつのも冗談とか、悪ふざけとかじゃなかった。
オレの腕を掴んでたのだって凄い力だったし、オレの言葉なんか全然耳に入ってなかったみたいだった。
いつものニッコリと笑う椎凪の顔が、頭に浮かんだ。
きっと今ごろ、落ち込んでるだろうな……椎凪。
オレ……睨んじゃったし、返事しなかったし、泣いちゃったし。
そんなことを思いつつも辺りを探し続けた。
変なこと、考えてなきゃいいけど……。


「もーどこにいるんだろ…」

ふと、薄暗い小さな公園のベンチに座ってる人影に目がいった。
間をこらして見れば、俯いてる椎凪だった。

「椎凪…」

やっと見つけた。
オレはゆっくり近づいて、声をかけた。
椎凪は両手で覆っていた顔をゆっくりと持ち上げて、オレを見る。

「……耀…くん…」

目を真っ赤に腫らした椎凪がオレを見上げてる。
やっぱり泣いてた。
もー椎凪は。

「はぁ……はぁ……探しただろ…」

ちょっと怒った口調になちゃった。
だって、本当に心配で焦ってたから。

「探してくれたの? オレのこと。怒ってるのに?」

怒られて落ち込んでる、子供みたいな言い方と顔だ。

「別に怒ってないよ。ただ怖かっただけで……椎凪、すごく強引だったから。
でも、椎凪のことが心配だったからそれどころじゃなくなちゃって…」
「怒って……ないの?」

椎凪の顔がチョットだけ明るくなった。
わかり易い。

「だって、目が覚めたらいきなりオレのこと……抱こうとしてるし……やめてって言ってるのに
やめてくれないし。怖くなっても仕方ないだろ?」

椎凪がベンチから立ち上がってオレの前に立った。
もの凄い不安げな顔でオレを見下ろしてる。

「なにか……あったの?」

意識して、優しく聞いた。

 「ごめんね、怖がらせちゃって。だって……耀くんの寝顔見てたら可愛くって可愛くって、
自分でも押さえ切れなくなちゃって、身体が勝手に…」
「はあ?」

そのときのことを思い出すかのように椎凪が目を瞑って、頬を赤くして握り拳まで作ってる。
なにを思って握りしめてるのさ、椎凪。

「な…なにか仕事とかであったんじゃなくって?」

呆れながら聞いた。
もしかして、そういう理由もあったかもしれないし。

「ないよ。オレ、仕事で悩みなんてないもん」

至って軽く返事を返された。
そうだよな……椎凪が仕事で悩みなんてあるわけないよな。
はは……心配して損した!

「あーーそうなの?」

オレは心の中で、なんともいえない気持ちで呟いた。

「耀くん…」
「ん?」

椎凪がまた困った顔で、オレを見てる。

「耀くんのこと……抱きしめてもいい?」
「え?」

初めて……そんなこと聞かれた。
今までオレに承諾なしで、散々抱きしめてたのに。
今日のことがどんなに椎凪にショックを与えたか、認識した瞬間だった。

 「うん。いいよ」

オレはニッコリと笑って、椎凪に返事をした。
本当に怒ってるワケじゃなかったし、逆に落ち込んでる椎凪のほうが心配になったから。
オレってどこまでまで、椎凪に甘いんだろう。

「ありがとう…」

椎凪がギュッと目を瞑って、涙を堪えながら呟いた。

ゆっくりと椎凪が、オレを抱きしめていく。
いつもと同じように、椎凪の大きくて暖かい胸がオレの視界を一杯にしていく。
オレのほうがホッとして、安心しちゃう。
椎凪ってばズルイなぁ…。
でも今夜の椎凪は、ちょっと違ってた。
オレを抱きしめながら、震えてる。
震えながら、徐々に両腕の力がこもってくる。

「椎凪?」

どうしたんだろうって思って、椎凪に声をかけた。

「もう…耀くんに嫌われたかと思った。だからもう、耀くんには会えないって…思って…怖かった。
ごめんね…耀くん。本当にごめんなさい。オレのこと…許して…もう二度とあんなことしないから…」

オレの頭に頬ずりしながら、椎凪は震えながら言った。

「うん…怒ってないし、嫌いにもならないから安心して。椎凪」

自然とそんな言葉が零れる。
それだけ椎凪が痛々しかったから。




耀くんを抱きしめながら癒されて、今日のことを反省した。
耀くんには、まだオレに抱かれる気持ちの準備はないんだ。
でも、自分でもわかってる。
もう限界なんだって。
こんな関係も、もう終わりにしなきゃいけない。
もう自分を押さえる自信がない。

ねえ、耀くん。
そろそろオレを受け入れて、オレのこと好きだって認めてよ……お願いだから。
じゃないと…オレ……。

そんなことを思いつつ、とりあえず今は耀くんの優しさをじっくりと堪能して、癒してもらうことにしよう。
傷つけて、しかも夜道をひとりで歩かせるなんて、もう二度とそんなことさせたくない。

抱きしめた耀くんに、頬ずりをして甘えさせてもらった。
耀くんはじっとオレのされるがまま、抱きしめられてる。
できればこのまま耀くんが、オレを好きって言ってくれないかな。
なんて微かな希望を抱きつつ、普段よりハッキリと見える星空をしばらくふたりで眺めていた。





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