オレの愛を君にあげる…



54




「喧嘩でもしたんですか?」

堂本君が気を使いながら、オレに聞いた。
ここは堂本君の部屋。
取り合えず数日のことになるだろうと予測して、勝手にお邪魔することにした。
今回は祐輔の所も慎二君の所にも、行くワケにはいかなかったからだ。

「まさか」
「じゃあ……倦怠期とか?」

上目遣いに、恐る恐るオレに聞いてくる。

「オレ達に倦怠期なんてないの!」

あってたまるかっつーの!
黙れ! クソガキっ!!

「じゃあなんで急に俺の所に泊まるなんて…」
「いいじゃん! その間、食事の支度してやってんだから!」
「そりゃ…まあ美味しいし…」

そう言いながら、モグモグと口を動かす。
美味しくて当然だろっ! 本来ならオレの手作り料理は耀くんの為だけにあるのに、
こんなことじゃなきゃお前なんかに食べさせるかっつーの!
なにか不服でもあんのかよっ!

などどオレが思ってるとはこれっぽちも思っていないであろう顔で堂本君は、美味しそうにオレの料理を頬張っている。

「耀くんは今ね、最終試験受けてんの」
「最終試験? 大学でですか?」
「ちがう! でも自分で考えて、答えを出すんだよ」
「はぁ…?」

堂本君が、意味がわからないといった顔してる。
君に判らないのは仕方ないよ。
そう…でも、もう答えは決まってる。
そう答えが出るように、今までやってきたんだから。
ちょっと強引だったかもしれないけど、このくりやらないと耀くんは決断しない。
もう半年待ったよ、耀くん。
だから、もう待たない。
オレがいない生活ができないように、ずっとやってきた。
だから、あとは待つだけ。

耀くん……早くオレに会いに来て。
そのときはもうオレ、我慢しないから。




耀くんの所を出て3日目。
超低いテンションで、夕飯の支度をしているオレ。
そろそろ堂本君も帰って来るだろう。
仕方ないとはいえ、なんであんなお子ちゃまと顔を突き合せてなきゃいけないんだ……などと、深い溜息をつく。

ピンポーン♪ ピンポーン♪

玄関のチャイムが鳴った。

「ん?」

でも、中に入ってくる気配がない。

「なにぃ!?」

カチンと怒りが込み上げる。

「なに? 出迎えろって? 態度、デカ いんじゃないの? 堂本君!」

何様のつもりだと、乱暴に玄関のドアを開けた。
でも、そこにいたのは……

「耀くん!?」

触れたら倒れてしまいそうなほど緊張してる耀くんが……そこにいた。
ビックリした。
まさか耀くんが立ってるとは思わな かった。


「よくわかったね」

耀くんを部屋に通してコーヒーを出した。
なんだかお客様みたいで、変な感じだった。

「祐輔に……教えてもらった…」

思ってたよりも早く耀くんが来てくれたから、ちょっとビックリだった。
もっと時間がかかるかと思ってたのに。
オレのほうが心の準備ができてなかったらしい。

それにしても、3日ぶりの耀くんだ。
耀くん……会いたかった。
でも、辛そうだね。
目も真っ赤だし、ずっと泣いてたのかな。
そんな泣いてる耀くんの姿を想像すると、ギュッと胸がしめつけられる。
あー抱きしめてあげたい……キスして慰めてあげたい。

「今日はどうしたの?」

そう思いながらも、できる限り素っ気なく言った。

「なにか荷物でも残ってた? 別に捨ててもよかったのに」

心にもないことを言って、胸が張り裂けそうだ。

「ちが…う」

とても、小さな声だった。

「ん? なに?」
「オレ…臆病だし…身体…こんなだしきっといつか…椎凪に迷惑かける…」

ゆっくりとだけど、耀くんが話しだした。

「だから…いつか…椎凪に嫌われる…だったら…友達のままで…いいって……今のままでいいって…ずっと思ってた…」
「耀くん…」

ああ、すっごいドキドキしてきた。
やっと聞ける。
半年間の間、ずっと言ってほしかった言葉を。
この言葉を聞くために、こんなに耀くんを辛い目にあわせた。
でも、やっと言ってもらえる。
言って……耀くん。
オレを救ってくれる言葉。
それを聞いたらオレ……きっと生まれてきた意味がある。
親にも、誰にも必要とされなかったオレが生まれてきた理由。

──── そのためだけに、生まれてきたと思えるから。

「オレ…ずっと椎凪に甘えてたんだよね。椎凪がオレの傍からいなくなって……初めてわかった。
椎凪が傍にいてくれないと……オレ…ダメなんだ。本当はずっと前からわかってたのに……だから…オレ…」

早く…早く言って、耀くん。
早く聞きたい!!

俯いてた耀くんがなにかを決めたように顔を上げて、オレを見た。

「オレ、これからもずっと椎凪と一緒にいたい! オレの傍にいて、椎凪! オレ、椎凪のことが好きだ!」




気がつくと、椎凪の胸が目の前にあった。
椎凪がオレを力いっぱい抱きしめたからだ。

「椎…凪…くるしっ…」

椎凪には、そんなオレの言葉は聞こえていないみたいだった。
いつまでもいつまでも、オレを抱きしめ続ける。

「やっと……言ってくれた……ずっと…聞きたかった…」
 
椎凪がオレを抱きしめたまま、搾り出すように呟く。

「友達としてじゃ……ないよ…ね?」

不安そうに、オレに尋ねてくる。

「うん…違うよ、椎凪。オレ、ずっと前から好きだったよ……ゴメンネ…やっと言えた…」

椎凪の胸に顔をうずめながら言った。
久しぶりの椎凪の温もりだ。
オレは椎凪の腕と胸に挟まれて、安心感に包まれる。

「いいんだ……耀くん。オレ、ずっとわかってたから…」

嬉しそうに椎凪が答える。
そっか……そうだよね……椎凪はずっと前から、オレの気持ちには気づいてたんだろうな。
それなのに、オレの気持ちが決まるまで……気長に待っててくれたんだ。

「好きだよ……耀くん……愛してる」
「オレも……好きだよ…椎凪」

それからオレ達は長い長いキスをした。
いつもと同じなのに、いつもと違うキスだった。

「ねえ……耀くん」
「ん?」
「オレが親に愛されなかった分、耀くんのことを愛したい。だから、オレの愛を全部耀くんにあげる。
耀くんが要らないって言っても、オレ耀くんを愛すること……やめないから」

椎凪がさらに腕に力を込めて、オレを抱きしめた。

「うん……んん!? ちょ…と…椎凪? え?」

椎凪が言いながら、オレのほうに重心をかけて倒れ込んできた。
オレじゃ椎凪を支えられず、そのまま傍にあったベッドにふたりで倒れ込んだ。

「ちょっと、椎凪! オレ、まだそんな……!」

ちょっ…ちょっと、ストップ!
冗談だろ?
まだそこまでの気持ちの整理もついてないのに。

「こーゆーことは、勢いだよ。耀くん」
 
ニコニコした顔で、オレに迫ってくる。

「ええっ! ちょっ…と…本当にまだ……ダメ!!」
「オレに任せて。たっぷり愛してあげるからさ♪」
「うわっ!! やっ…やだっ!! やめっ…」

必死に抵抗したけど、その気になってる椎凪にオレが勝てるはずもない。
ちょっと……ん?

「あ! あ! あ! し…椎凪っ! あれっ、あれっ!!」

耀くんがバシバシとオレの背中を叩く。
それに視線でなにかを訴えてる。

「ん?」

気配を感じるほうを見ると、部屋の入り口にアホ面下げて硬直した堂本君がオレ達をジッと見ていた。

「あ!」
「なにやってんですか? 人んちで。しかも、人のベッドで!」
「なんだよ。すげータイミング悪っ! なんでよりにもよって、今! 帰ってくんの? 堂本君!」

オレは心底呆れた声で言った。
ほら、耀くんがいかにも助かったと言わんばかりにホッとした顔して、オレから逃げたじゃないか。

「ここ、俺んちですよ! 帰ってくんの、当たり前じゃないですか! 勝手にいるの、椎凪さんのほう!」
「もーそんなんだから、彼女ができないんだよ!」
「かっ…関係ないでしょ! そんなことっ!」

 図星を指されて、ムキになるなってんの。

「ま、いいや。オレもう帰るから。夕飯作っといたから食べて。んじゃね!」
「へ? は?」

オレは自分の荷持つを持つと、耀くんを促してサッサと玄関へ向かった。
堂本君はワケがわからん? という顔で、オレと耀くんを見送っていた。
たった3日間だったけど、お世話様でした。


オレは今まで味わったことのないほどの幸福感を味わいながら、耀くんをギュっと抱き寄せて歩いてる。

「続きは家でね!」

そう言って、ニッコリと満面の笑顔で耀くんを見つめる。
もうオレはこれからのことを想像するだけで、ワクワクのニコニコのルンルンだ!
顔が勝手に緩む。

「だから、しないって……」

何度そう言っても、椎凪はまったく聞いてない。
もう、困ったな。
チョット早まったかな?
なんて思うのも仕方ないと思う。

いつまでも、ニッコリと笑ってる椎凪。
そんな椎凪にしっかりと寄り添って、オレ達は歩きだした。





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