オレの愛を君にあげる…



59




☆BL感が漂うお話かもしれませんのでご注意を。
行為などは全くありませんが、ニュアンスがそんな感じかもしれません。



携帯電話の液晶画面をジッと見つめる。
そこに映し出されてるのは、オレと耀くんのツーショット写真。
最近撮ったものだから、耀くんをうしろから抱きしめてふたりで笑ってる。
前は耀くんがヨソヨソしかったから微妙な表情だったけど、でも今は違う。
そんな携帯を眺めつつ、顔がニヤける。
仕方ないよね、やっと『好き』って言ってもらえたんだし。
それに、やっと 耀くんを抱けるようにもなったし〜〜フフ♪ 余計顔がニヤける。
だからオレは今、スッゴク幸せ。
でも困ったことに、“朝のキス”や“行ってきますのキス”でもそのまま押し倒して、
耀くんを抱きたい衝動が湧き上がってくるんだよな。
マズイよなぁ……。
だから絶対仕事を早く終わらせて、1分でも1秒でも早く家に帰るっ!
オレはそう決心したっ!!




「堂本君」

これから犯人逮捕に向かうというとき、車に乗り込む直前に椎凪さんに声をかけられて振り返る。

「はい?」

なんだ? ちょっと緊張気味の俺は思わずドキドキで 返事をした。

「あのさ…」

なんだ? 椎凪さんが改まったように俺を見つめて、肩に手をかけた。

「?」

なにかアドバイスでもしてくれるのかな?
俺、そんなに緊張してるかな?

「オレさ、前にも増して早く家に帰りたいわけ」
「はあ……?」

え?なに?なんのこと言ってんだ?
これからの犯人逮捕に向けてのアドバイスじゃないわけ?
ってか、ちょっと顔が近いんですけど。
女性から見ると、当たり前なほどイケメンな椎凪さん。
男から見ても、俺の童顔な顔とはかけ離れてる整った顔がハナの頭がくっつきそうなほど近づいてる。

「……だから」

なぜか心臓がドキドキ いいだした……なんでだ?
いくら整った顔だからって……男だぞ!

「このあと、ドジるんじゃねえぞっ!! ドジッたら殺すっ!! いいな?」
「ええっっ!!」

もの凄い殺気のこもった顔とドスの効いた声で言われたっ!!
目も据わってるし、俺の両肩に置かれた椎凪さんの手に力がこもって指が食い込むっ!
痛いっっ!!
しかも、凄いプレッシャーなんですけどぉっっ!!

俺は必死になりながら、頭がクラクラするほど椎凪さんに向かって頷いていた。





「かんぱーーーい!」

瑠(る)惟(い)さんが、ニコニコの顔でグラスを掲げて乾杯の音頭をとる。

「あー事件のカタついたあとのビールはおいしいーっ!!」

そう言って、ゴクゴクとビールを飲み干していく。

な…なんでこんなことに?
早く帰るはずが、なんでオレこんな所に座ってんだ?
オレの隣には、既にアルコールのせいで頬をうっすらとピンク色に染めてる堂本君がいる。
頬っぺたをピンクに染めてても可愛くもなんともねえよ!!

「はあ〜〜」

もうオレは失意のどん底で、眩暈までする。

「なによっ! 暗いわね、椎凪!」

瑠惟さんがオレのことなんておかまいなしに、陽気にオレの肩をバシバシと叩きながら話しかけてくる。
オレはその反動で身体がガクガクと揺れる。
もう…呆然だ。

「椎凪のお陰で早く終わったんじゃない。あんなに犯行の手口、ペラペラ喋らせてさぁ」
「…………」

捕まえた犯人をチョット殺気を込めて『オレ』で吊るし上げたんだ。
そしたら恐怖に駆られた奴が、ペラペラと犯行を話し始めたってわけ。
だって、誰にもオレの予定を邪魔させない! って思ってたから。
仕事のためなんかじゃない。
別の目的があったんだよ!
なのに、瑠惟さんに絡まれ飲みにくる羽目になろうとは……。

「瑠惟さんっ! オレ、耀くん待ってるから早く帰るよっ!!」

くそっ! こうなったら先手打って“早く帰る宣言”しとくっ!

「えーなに言ってんのよ。耀君には承諾済みよ」

瑠惟さんが、ニッコリと笑って言った。

「え?」

なに言ってんの、この人?
しばし理解不能。

「ほら♪」

得意げに、自分の携帯をオレに見せた。

「うそ…」

メールの画面が映し出されてて、その画面には……

『わかりました。ゆっくり楽しんで下さい。耀』

だって!!

「ね? 大丈夫でしょ。ははっ!!」

瑠惟さんが勝ち誇った顔でオレを覗き込んでる。
チクショウ〜〜!!

「もー瑠惟さんっ! 余計なことしないでよっ!」
「うるさいわねー。ほら、飲んだ飲んだ!」

ふざけんなぁ〜〜いっつもオレの邪魔しやがって……クソー!!
こうなったらガンガン飲ませて、早くふたりを酔い潰すっ!
オレはフルフルと拳を握り締めて、決意を新たにした。


「ちょっと堂本君! 家、こっちでいいの?」

くそっぉぉぉ……ふざけんなっつーの!
オレの立てた作戦は、見事に失敗した。
飲ませ過ぎて、堂本君がひとりじゃ歩けないほどベロベロに酔っ払った。

「うーウイッ…この…公園…抜けたら…すぐです…ヒック〜」
「もーー!」

オレに肩を借りて、やっと歩いてる堂本君が目を瞑ったまま返事をした。
くっそーーなんでこうなるんだよ。
瑠惟さんはサッサと帰るしさ。
まぁ瑠惟さんも、スゲー酔ってたけど。
コイツも家近いって言うから送ってく羽目になって。
なんだよ、どんどん帰るのが遅くなるよぉ……。
ホント、コイツココに捨ててってやろうか? なんて本気で思った。
でもオレのせいでもあるし……なんて親切心出したのが間違いだった。

「す…いません、しいらさんっっ!! おれ…ここで…大丈夫れすから…もう帰ってくらはい…ウイッ…」

堂本君が真っ赤な顔と、トロンとした目でオレに敬礼しながら呂律の廻らない口で喋ってる。

「本当に平気? オレ、帰るよ?」

なんとも頼りない堂本君。
真っ直ぐ立ってもいられないじゃん。

「はい…へーきれす…」
「え?」

言いながら、フラフラと堂本君の身体が傾いていく。

「あっ! ちょっとっ! 堂本君!!」

目の前で倒れて行くもんだから、咄嗟に手が伸びた。
放っておけばよかったと、すぐ後悔した。

「あっ! ああっっ!! ちょっ…バカッ!!」
「おろ?」

フラついた堂本君が、すぐうしろにある公園の噴水の縁に脚を引っかけて、そのまま倒れ込んで行く。

「うわっ!!」

オレの叫び声が夜の公園に響いたあと、あとを追いかけるようにザパァ!! という水飛沫の音も響いた。




「うわあっ!! つめてーーっっ!!」

勢いよく、水面から顔を出した。
なんだ? なんで俺、こんな水の中に入ってんだ?
しかも、俺んちの近くの公園じゃん?

「??」

たしか今日は椎凪さんと瑠惟さんと一緒に飲んで……?
うわぁ…これですっかり酔いが醒めちゃったよ。
って……あれ? 俺、なにか忘れて……

「どぉ…も…とぉ……」

すぐ傍で、椎凪さんの重い声がした。
恐る恐る振り向くと、髪の毛からポタポタと雫を垂らしながら両手を水の中について、
水に浸かってる椎凪さんが視界に飛び込んできた。

「え!? あっ…椎…凪…さん?」

なんで? なんで椎凪さんが一緒になって噴水に嵌ってんだ?

「えっと……」

途切れてる記憶を辿る。
あっ! そういえば、椎凪さんが俺のこと家まで送ってくれてたんだ。
ひとりで帰れるって言って……俺、よろけて噴水の縁に脚を取られて……

「どぉ…も…とぉ……」
「ハッ!」

ヤベー!! 椎凪さん、スゲー怒ってるっ!!
俯いたままの椎凪さんから、超ド級の怒りのオーラが立ち昇ってるっ!

「お前いっぺん死ねっ!!」

椎凪さんがイキナリ俺の頭を両手で鷲掴んで、水の中に押し込んだっ!!

「ぐがばげぼっ!!!」

どんなにもがいても、もの凄い力で押さえ込まれて顔を上げられない。
い…息が…できな……
死ぬっ! 俺、殺されるっ!!
かも……?




「スイマセン、椎凪さん……。どうしましょう? 着替え、俺の服じゃ小さいですよね?」

恐る恐る声をかけた。
なんとか手を放してもらえて水から顔を上げることができた俺は、ゲホンゲホンとしばらく咳き込んだ。
殺されるかと思ったけど、そんな文句を言えるはずもなく。
ふたりとも黙って噴水から出ると、椎凪さんが俺に向かって『お前の家どっち!』と怒鳴った。
そのあと、俺の部屋になんとか辿り着いた。
ふたりとも上から下までずぶ濡れだ。
夜風が寒い季節なのに……。

部屋にたどり着いてふと気づく。
椎凪さんの着替えがないじゃないか、と。
俺と椎凪さんとでは体型が大分違う。
椎凪さんのほうが、俺より背が高い。
それに乾燥機なんて洒落たものは俺は持っていない。

「先にシャワー浴びて、オレの着替え買ってこいっ!!」

ゲシッ!!

「はっ…はいっ!!」

ううっ! 怒鳴られて、蹴られたっ!
ヤバイ……椎凪さん、マジで怒ってるよぉ。
そういや早く帰るって言ってもんなぁ……。

「タバコも忘れんなよ!」
「はっ……はいっ!!」

即行シャワーを浴びて、言われたとおり椎凪さんの着替えとタバコを買って戻ると、椎凪さんはもうシャワーを浴びて待っていた。
買ってきた服を渡す。

「あれ? 椎凪さん下着は?」
「いらない!」
「え? そ…そうですか?」

えー? 穿かないの? えっ? えっー!?
椎凪さんは巻いてたバスタオルを取ると、俺なんか居ないみたい着替え始めた。
べっ…別に男同士だし、気にすることもないはずなのに……なんでだろ、椎凪さんから目が離せない。

「なに?」
「えっ? いえ…」

視線に気づかれた。
なんか焦る。

「…………」

だけど…椎凪さんって、色っぽいつーか…なんつーか……同じ男なのに、男の俺から見ても目を惹くんだよな。

「コーヒーくらい淹れてよね! ったく」

着替え終わってタオルで頭を拭きながら、椎凪さんがタバコを吸いながら要求した。

「あっ…はい。あ…あの…帰らなくていいんですか?」
「もういいよ、あきらめた。今日は我慢する!」

もの凄い不機嫌な顔で、全く納得してないって顔してますけど。
睨まないで下さいよぉ…。

「すみません……」

もう俺は謝るしかない。

コーヒーなんか、たまにしか飲まない。
男ひとりで、朝なんか毎日ドタバタして落ち着いてコーヒーを淹れる暇なんてないし。
だから支度にも手間取ってしまう。

「あーもートロいなぁ! いいよ、オレやるから代わって!」

椎凪さんが突然オレの肩に両手を乗せて、覗き込んで言った。

「!!」

なっ!?
うわあっ! 椎凪さんの顔が…唇が…こんな近くにっ!!
しかも、耳に椎凪さんの声が直接響いて、息までかかった。
思わず身体が少し引いた。
なんでだ?

「なに?」

身体を引いた俺に気づいたらしい。
椎凪がさんが怪訝な顔で俺を見てくる。

「いえ……」
「もーイジメないよ。ほら、どいて」
「あ…はい…」

未だに心臓がバクバクバクバク……どうしちゃたんだっ!? 俺?

「椎凪さんて、身長いくつあるんですか?」

改めて隣に並ぶと、肩の位置が大分違うことに今さら気がついた。

「え? たしか……182だったかな?」

テキパキとコーヒーを淹れながら、咥えタバコで答えてくれた。
俺が170だから、俺よりも12cmも違うのか。
背も高くて顔もよっくて、腕っ節も強くて恋人もいて。
世間もうまく渡ってて……椎凪さんって『大人の男』なんだよな。

「堂本君て、いくつだっけ?」
「20です」

椎凪さんが淹れてくれたコーヒーをすすりつつ答えた。
もうすぐ21になるけど。

「耀くんと同級になんの?」
「あ…そうですね…」

耀くん…椎凪さんの恋人で、男の子なんだよな。

「しかし……女っ気ないね? この部屋。彼女いない暦、何年?」

部屋を見回して、椎凪さんが言う。
たしかに彼女がいるような部屋じゃない。
女の子が使うアイテムひとつないし。

「え? あー三年です」
「え? 高校が最後?」
「はあ……卒業をキッカケに別れました」

っていうか、フラれたんだけどさ。

「それに、刑事ってけっこー敬遠される仕事じゃないですか。時間も不規則だし」
「え? そお?」

そーいやこの人、毎日定時に帰ってんだった。
恋人もいるし。
そんなヤサグレた気分で、渡されたコーヒーに口をつける。

「ん!? 美味しい! いつもと同じコーヒーなのに、なんで?」
「オレが淹れたんだから当然でしょ♪」

椎凪さんがニッコリ微笑んで言った。
そいういえばこの人、料理も得意だったんだ。

「!!」

うわっ! そんな優しく微笑まないでくださいよぉー。
すぐ近くで椎凪さんの微笑んだ顔があって、なぜだか目のやり場に困って視線を外してしまった。

「よく平気だね? 3年もシナイなんて」
「ぶはあ!!」

椎凪さんが真顔で言うもんだから、俺はその言葉に思いきり咽た。

「ケホッ! す…すみません…ね…ケホン!」

ちょっと……“シナイ”なんて、そんな露骨に……。

「努力が足りないんじゃない?」

どっ…努力ですか?
そういうモノなんですか?
しかも、その言葉に驚いた俺をすごい呆れた顔して見てるし。

「やっぱ椎凪さんは、常に彼女がいたんですか?」

きっと今までモテモテだったろうから、彼女も選り取り見取りだったんじゃないかな。

「え? オレ? オレ、付き合ったのって耀くんが初めてだよ」
「ええっ!? マジッすか? うそ!?」

思わず身を乗り出してしまった。

「オレ、特定の子つくらな かったから。毎回その場限りの相手だからさ」
「その場限り……って?」
「声かけてOKなら、即ホテルって感じ。一晩限りの相手しかしなっかたしね」
「はあ?」

ったく! この人、なにサラリととんでもないこと言っちゃてんの?

「し…椎凪さん。いつからそんなこと……?」
「え? 高校のときからね。え? なに? フツーでしょ? そんなの」
「普通じゃないですよ!!」

聞くのも怖いけど……

「まさか、刑事になってからもそんなことしてたんじゃ?」
「してたよ、当たり前じゃん。 なんで? ダメ?」
「ダメじゃないですかっ!! そーゆーのって!」
「えーだって犯罪じゃないし、刑事ってバレたことないし。OKでしょ?」
「椎凪さん!!」

ったく、この人は……はあ〜〜信じられん。




「さて、そろそろ帰ろっかな」

洗濯だけ終わった自分の洋服を袋に詰めて、おもむろに椎凪さんが立ち上がった。

「あ…今日は本当にすみませんでした」

なんとか椎凪さんの機嫌が直ってよかったよぉ〜
俺はホッと胸を撫で下ろした。
いつもの流れだと、お仕置きされるかと思ったから。
椎凪さんのお仕置きは地味〜〜に効くんだよね。

「そーだね。でもこの穴埋めはキッチリ払ってもらうからね」
「はい…」

やっぱりそうなるのか……ん? 椎凪さんの手が俺の頭に。
しかも、優しく微笑んでるし……え? なに?
椎凪さんの顔が近づいてきて……な、な、なな、なんだ?

「!?」

そのままスッと横に逸れて、耳に椎凪さんの温度を感じる。

「早く初体験、できるといいね!」
「えっ!!」

「やっぱ図星? くすっ」

椎凪さんが笑いながら、俺の髪の毛をクシャっとして言う。

「がんぱれ! じゃあ、おやすみ」

そう言うと、椎凪さんは軽く手を振って帰って行った。

「…………」

ううーなんだよ。
スゲードキドキしてるんだけど。
椎凪さんの温もりを感じた耳が熱く感じて、無意識に耳に手が行く。
椎凪さんって仕事のときはあんなんだけどさ、こーゆーときって安心するっていうか……なんかいいんだよな。
俺は変な安心感とトキメキ感で、その日の夜はなんとも妙な気分で過ごした。

次の日、昨日の今日でまだドキドキしてる。
椎凪さんの顔見たら俺……どうなんだろ? 昨夜から変だよな。
なんて、ひとり舞い上がっていた俺が甘かった。
出勤してきた椎凪さんがニコニコしながら、一枚の紙を俺に渡した。

「はい、これ」
「は? なんですか、これ?」

なにかの伝票らしき紙だ。

「昨夜君が壊したオレの携帯の代金」
「はあ?」

伝票にはかなりの金額が印字されてますけど?

「水に濡れて、みんなダメだった! 携帯自体もダメになったし、そのせいで耀くんとのツーショット写真もみんなパアだったし。
昨夜の埋め合わせもかねて、最新型の一番高いヤツに替えたから。支払いヨロシクね!」
「ええっ!!」

ニッコリと笑ってる椎凪さんの顔に、怒りマークが浮き出てるのが見えた気がした。
昨夜は帰り際、あんなに優しかったのに……騙されたっ!

「…………」
「なに? なにかオレに文句があるの? 堂本君♪」
「いい…え…」
「だよね、あるわけないよね。オレの携帯が水に濡れてダメになったのって、もとはといえば君のせいだもんね?」
「はあ……そう…です…」

俺は仕方ないと思いつつも、なんだか納得のできない思いで伝票と椎凪さんを見つめてた。


──── 堂本君の受難の日々はこれからも続くのである。





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