オレの愛を君にあげる…



60




珍しく、祐輔からのメールがきた。

「え!?」

『耀が倒れた。慎二のところに来い』

用件のみの文面だったけど、祐輔はこんな感じだろう。
オレは即行、慎二君のところに向かった。

「なんで?」

朝はなんともなかったのに、どうしたんだろう。
心配で、不安で……怖かった。


慎二君の部屋の前。
チャイムを鳴らすと、祐輔が出迎えた。

「祐輔! 耀くんは…」
「このエロ椎凪っ!!」

聞くと同時に、祐輔の拳がオレの右頬に飛んだ。
咄嗟によけたけど、近すぎてよけきれずに頬に衝撃を受けてよろめいた。

「……痛…っ!?」

よけたお蔭でモロに当たらなかったけど、それでも祐輔の拳じゃかなりのダメージだった。
とにかくなにがなんだかわからない?
ジンジンする右の頬を押さえつつ、祐輔と向き合う。

「テメェ…」

祐輔は怒りまくって…る?

「耀は寝不足が一番堪えるんだよっ! お前だってわかってんだろーがっ!!
なのになんだ? 今の耀の状態はっ! テメェのせいだろっ!!」
「は?」

言われてる意味が、全く意味がわからなかった。


朝、祐輔が大学に行く途中で耀くんに会ったらしい。
声をかけると、振り向きながら耀くんがその場で倒れてしまったそうだ。
そのまま一番近かった慎二君の部屋に運んで医者に診てもらったところ、診断結果は「過労」。
よくよく話を聞くと、ここ一週間ろくにに寝ていないことが判明。
なかなか喋ろうとしない耀くんを、祐輔が追及して原因が判明。
その原因は……オレだった。

一週間前……時計はとっくに日付が替わって大分経ってる。
たしかベッドに入ったときは今日だったのが、いつの間にか明日になっていた。
ベッドの軋む音に合わせて、耀くんの声と弾んだ息遣いが聞こえる。
もう何時間、こうしてるんだろう。

「耀くん……」
「やぁ…椎…凪…やめて…もう…イヤだ…あっ…」

耀くんがオレの肩を両手で押し戻しながら、やっとの思いで声に出した。
そんな耀くんをおかまいなしに、オレは押し戻した両手を掴んで耀くんの頭の上に引き上げて
ベッドに押しつける。

「なにが…イヤ? なにがイヤなの? 耀くん」

オレは片手で耀くんの両手首を押さえなおして、もう片方の腕で力の入らない耀くんの片足を抱え上げて
突き上げる動きをとめずに耀くんに尋ねた。

「あんっ…はっ……もう…オレ…だ…め…無…理…あぁっ…」

目には涙を浮かべてる。

「……耀くん」

オレは少しおかしい。
前はこんなことなかった。
こんなにずっと、激しく抱き続けるなんて。

でも耀くんだと、ダメだ。

オレに攻められて乱れて、感じてる耀くんを見ると背筋がゾクゾクする。
声も同じ。
だからもっと見たくて、聞きたくて、やめることができない。

「…はうっ! ……あ…あんっ! ……しい……なぁ……ああっ!!」

体勢を変えてさらに攻めると、耀くんはオレの背中に爪を立てた。


そのあと一緒にシャワーを浴びて、そのまま浴室でも耀くんを抱いた。
浴室でいつもより耳に響く耀くんの声がオレを余計にそそった。
次の日はダイニングテーブルに耀くんを押し倒して、時間を忘れるくらい愛し合った。
また次の日は耀くんがオレの邪魔をしないように、両手をうしろで縛って抱いた。
自分ではどうしよもないほど感じすぎて『もう…許して…』と懇願する耀くんを、オレは朝まで抱き続けた。

耀くんに負担をかけてるのはわっていた。
でもオレのものだと実感したくて、絶対オレの傍からいなくなったりしないって……
オレはいつも耀くんを感じていないと不安だったから。

耀くんは絶対オレを拒んだりしない。
いつでもどんなときでも、オレに全てを任せてくれる。
そんな生活が一週間くらい続いていたのだった。

祐輔に殴られ、そんな日々を思い起こしながらオレは言った。

「だって…」
「あ゛あ゛?」
「オレ達、相性バッチリなんだよっ! こんなに相性いいの初めてっ! もーさあ〜耀くんがオレに攻められて、
感じて乱れてんの見るとさぁ、もっともっと攻めたくなっちゃうんだよーっ!オレ“S”だしさぁ。どんなに抱いても疲れないし、
逆に嬉しくて燃えちゃうんだよ! だから、いつも耀くんのこと抱いてたいんだよっ! わかる? ねぇ? やめられないんだっ!」

一気に捲くし立てるように祐輔に語った。
だって、オレと耀くんがどんだけ相性がいいか、どれだけ愛し合ってるか自慢したいじゃない。

「……!!……」

見る見るうちに、祐輔の顔に怒りマークが浮き出てくるのがわかった。

「オレに向かってその話……二度とすんじゃねぇーーーーっ!!」

同時に祐輔の回し蹴りが飛んできたっ!

「わぁっ!! ちょっと!!」

寸でのところで、かわして防いだ。

「今日からしばらく、耀はオレのところに連れてくからなっ! テメェと一緒にいたら耀の身体がもたねえ! わかったなっ!!」
「えーーーっ!! なんでっ? 祐輔にそんな権利ないだろっ! やだよっ! オレ、耀くんと離れるのっ!」

冗談じゃないっ!
オレはムキになって反抗した。

「やかましいっ! 黙れっ! エロ椎凪!」
「黙るかっ! 絶対ヤダっ!!」
「お前のところにいたら耀が死ぬっ!!」
「そんなことないっ!!」

負けるもんかっ!
お互い相手の服を掴んで揉み合う。

「ちょっと! ふたりとも、なにしてんの? いい大人が」

いつの間にか慎二君が傍にきていた。

「だって、祐輔が……」

オレはなんとか、自分の主張を話そうとした。
んだけど…

「耀くんをゆっくり休ませてあげましょうよ。ね? 椎凪さん」
「でもっ…」

抗議しようと口を開くと、その瞬間慎二君の瞳がスッと曇る。
あ…慎二君が“変わった”瞬間だった。

「はあ? 口答えですか? 僕、怒りますよ? まったく、あなたって人は……いつもいつも人を心配させて。
入院したほうがいいって言われたのに、あなたが心配するからって断ったんですよ。
祐輔のところに少し預けましょうよ。椎凪さん?」

言い方は落ち着いた声なんだけど、物凄い冷ややかな目つきで淡々と話す慎二君。

「無理やり入院させてもいいんですよ。そしたら椎凪さん限定で面会謝絶にしますからねっ!」
「…………」

なにも反論することは許されない、慎二君の威圧的な視線にオレはなにも言えなくなった。



「なんか、久しぶりだな。祐輔のところに泊まるなんてさ」

耀くんが困った顔で話す。
オレがゴネているからだ。

「テメェ、帰れよっ! 泊めねえかんなっ!!」
「!!」

祐輔の鋭い一言が、オレに突き刺さる。
みんなオレに冷たい。
たしかに耀くんに無理させてたのオレだし、仕方ないのかもしれないけど。
オレはソファに座ってる耀くんの前に跪いて、必死にしがみついていた。
これから先の数日間のひとりの生活を想像して、イジケにイジケていた。

ずっと一緒だったのに。
夜寝るときも、朝起きたときも、ご飯を食べるときも。
ずっとひとりなんて耐えられない。
大袈裟でもなんでもないっ!
本当に涙が出てきた。
ひとりはイヤだっ!!

「耀くぅん…オレをひとりにしないで……ひとりはイヤだよぉ……グズッ…」

みんな、オレがどれだけ耀くんが必要かわかってないんだ。
そんなオレのことをわかってくれるのは耀くんだけだ。
オレは抱きついた耀くんのお腹に頭と顔をスリスリとすり寄せ、淋しさをアピールする。

「祐輔……椎凪も一緒じゃダメ?」

優しい耀くんが、祐輔に進言してくれた。

「ダメに決まってんだろっ! それじゃ意味がねえだろっ!」

ヒドイ……祐輔。
即答じゃん。
少しは考えてくれたっていいじゃないか。

「だってオレ、椎凪ひとりにしたら心配で寝れない。こんなに泣いてるし…」

オレをギュッと抱きしめながら言ってくれた。
耀く〜ん、やっぱり耀くんだよ……オレのことをわかってくれるのは!
しばらく考え込んでいた祐輔だけど、オレを追い出すことで耀くんがオレを心配して本当に休めないことがわかってるんだ。
だから、渋々オレも泊まることをOKしてくれた。

「オレの目を盗んで耀にチョッカイ出したら、即殺すっ! なんのために耀がオレんとこ来たのか、よーく考えろっ! 椎凪っ!!」

そう言って、頬っぺたを思いっきり抓る。

「うん。わかった」

どんなに頬を抓られても、耀くんと一緒に居れるならそんなの痛くもなかった。
頬を抓られても平気な顔をしてるオレを見て、祐輔のこめかみに青筋が浮かんだみたいだった。
それはオレの気のせいなんかではなくて、その証拠にそのあと両手で頬を抓られた。
それでもオレは平気な顔をしてたんだけど、さすがにそのあと頬は赤くなってた。
ちょっとだけヒリヒリもした。
でも耀くんと離れ離れになることを思えばそんなことは些細なことだし、そんなオレの赤くなった頬を耀くんがそっと撫でてくれた。
そして労わるように何度もキスしてくれたから。
オレは頬の痛みなんて、あっという間に消え去ってしまった。





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