オレの愛を君にあげる…



63




久しぶりに、慎二君に頼まれたモデルの仕事。
ちゃんと上手くやれたんだ。
「よかったですよ」って、慎二君も言ってくれたし。


「へー」

貼り出された『TAKERU』のポスター。
デカデカとショッピング街のビルの壁に貼り出してあるポスターを見て、耀くんが発した第一声。

「なっ!?」

なんで?
なんで“コレ”が使われてんの?

大きく貼り出されたそのポスターは、オレと相手の女性モデルがお互い微笑み合って……
微かに唇が触れてるくらいの、キスをしているものだった。

「どうして“アレ”使うの? 慎二君っ!! “アレ”は使わないでって言ったじゃないかっ!!」

ポスターを見たその足で慎二君を訪ねて、『TAKERU』のビルに押しかけた。

「えーだって、“アレ”が一番よかったんですもん」
「よくないよっ!! 耀くんになんて説明すればいいの!」

もう、後の祭りだけど。
今オレは、非常にマズイ立場にいる!

「なんでそんなに慌てるんですか? 仕事上のことじゃないですか」
「そうだけど! 耀くんには言ってなかったんだってば!」
「大丈夫ですよ」
「なにが? なにが大丈夫なわけ?」
「逆にどうしてそんなに慌てるんですか? もしかして、なにかやましいことでもあるんですか? 普段の行いが悪いとか?」
「あるわけないじゃん! いつもオレは耀くんだけだってば!」
「なら大丈夫ですって。耀くんだって、わかってくれてますよ」

爽やかな笑顔で話す慎二君。

「…………たぶん」

取って付けたように言うなーーー!!

「たぶんじゃダメなのっ!!」

あーもー最悪だ。
なんでこんなことに……。

撮影のときは、その場の勢いや撮影の雰囲気もあって流れ的にそーゆーことになっただけで。
決して! 耀くんを裏切るような気持ちでしたわけじゃナイ!

当の耀くんはというと、さっきから他の現像された写真を一枚ずつ見てる。
たしかキスしてるのは、あの写真だけのはず。

「あー耀くん…あのね…あれは… その…」

もう、しどろもどろだ。
言い訳のしようがない!!
どうしよう……うぅ……。

「耀君、今回のポスターって恋人同士のイメージで撮ってるだけから、ふたりの仲は気にしないでね。
僕のイメージにピッタリだったんだ。綺麗に撮れてるし、評判がいいんだよ」

慎二君の説明に、なにも言葉を発することなくニコリと微笑んだだけの耀くんだった。
慎二君は仕事が絡むと非情になるところがあるから、今回のこともオレと耀くんの間で
もめるかもしれないこともわかってただろうに、仕事の評価を優先にしたんだ。
慎二君「TAKERU」を大事にしてるから仕方ないことなんだけどさ。
ちゃんとあとのこともフォローしてよね!
もしかしてあれでフォローしたつもりなんじゃないよね?
なんとも気まずいムードでオレと耀くんは家に帰った。


夕飯の支度をしてる間も、耀くんはソファに座りクッションを抱えてなにか思いつめている感じだった。
耀くん、怒ってるよ……どうしよう。
もうオレは、夕飯の支度どころじゃないんですけど。
心臓はずっとバクバクいってるし、耀くんの反応が怖くて声もかけられない。
どうしたらいいんだろう。

「椎凪!」

突然、耀くんに呼ばれた。
しかも、物凄い命令口調。

「なっ、なにっ?」

オレはさっきよりさらに心臓がドキドキ!

「こっち来て! ここに座って!」

そう言って、ソファに座っている耀くんの目の前の床を指差している。
言われたとおり、オレは耀くんの目の前の床にキチンと正座して座った。
なに? なんなんだろう?
とっ、とにかく謝ろう。

「よ、耀くん、ご…ごめんね。許して……」

謝ってる途中で、耀くんがソファを下りてオレに近づいた。

「え? なに?」

近づいたかと思うとオレの着てるシャツのボタンに手をかけて、上から1コずつ外していく。
全部が外し終わると、肌蹴たシャツの前を片手で片方ずつ掴んで勢いよく肩から脱がせた。
裸の上半身が露わになる。

「耀くん!?」

一体なにするつもりなんだろう?
まさか、オレが浮気したかどうか確めるつもりなのか?
でも、撮影からだいぶ日にちが経ってるし、撮影のあとだって何度も耀くんの前では裸を見せてるはずなんだけど?
納得できてないってこと?

「あ…あの…」

いつもしない耀くんの行動にワタワタしてると、耀くんの頭がスッと屈んだ。

「え?」

裸の胸に耀くんの体温と息を感じた。
と、思ったら、

「ガブッ!!!」
「イッ……!?」

耀くんがオレの胸に、いきなり噛みついた!!
そして、ギリギリと噛み締めていく!

「……たあああああーーっ!! いたいっ!! 耀くん! な…なに?」

オレがビックリしてる間に、今度は耀くんが背中に回る。

「えっ? なっ…」
「ガブッ!!!」

また、思いっ切り噛みつかれた!
今度は肩甲骨と肩甲骨の間あたりだ。

「っ!! いたいっ! いたいっ! 耀くん、痛いっっ!!」

胸と背中を思いっきり噛んだ耀くんは、またソファに戻ってクッションを抱えてうつ伏せに寝てしまった。
どうみても、怒ってて不貞腐れてるよね?

「…………」

もう本当に……どうしたらいいんだ。
胸と背中の痛みと、どうしたら耀くんが許してくれるのかわからなくて涙が出てきた。

「耀くん……本当にゴメンネ。許してよ…グズッ」

泣きが入ったのがわかったのか、耀くんが喋ってくれた。

「キスのことなんか、なんとも思ってないよっ!」

オレのほうを見向きもせず、クッションに顔をうずめながら答える。
オレは我慢できなくて、耀くんの腕を掴んで上を向かせた。
そのまま両腕を掴んでソファに押さえつける。

「じゃあ、なんで怒ってるの?」

オレも必死だ。
なんとか耀くんに許してもらわなきゃ!

「キスのことは本当に怒ってない。椎凪が仕事上でしたことだってわかってるし、慎二さんがそれを許して決めたことだから。
きっとモデルの仕事として、椎凪はとってもいい仕事をしたんだって思ってる」

オレの顔を見ずに話し続ける。

「胸と背中を噛んだのは……印…だもん…」
「え? 印? なにそれ?」

耀くんの言ってることがわからなかった。
キスのことは仕事上のことだって理解してくれたはずなのに。
やっぱりオレの気持ちを疑ってるのか?

「オレは、耀くんのものだよ?」

オレの心と身体は全部、耀くんのものなのに。

「でも…椎凪の胸と背中は……オレのお気に入りの場所なんだ。特別な場所なんだよ」

耀くんがゆっくりと、言葉を噛みしめてオレに話す。

「オレだけの場所だったのに……あの人…触ってた。キスも…してた…」

耀くんが悲しそうに話す。
どうやら慎二君のところで、残りの写真を見てみつけたらしい。
そういえば、そんなこともあったような?
あんまり記憶にないけど。

でも知らなかった。
耀くんがそんなふうに思っててくれたなんて、初めて知った。

「そうだったんだ。ごめんね、耀くん。オレ、気がつかなくて…」

本当にごめん。
心の中でも謝った。

「でも、もう誰にも触らせないよ。今ここで約束するから……本当にごめんね」

オレは固く決意して、優しく耀くんにキスをした。

「…………」

耀くんは黙ってオレのキスを受け入れてくれてる。

「ごめんね…」

もう一度謝った。
でも、いくら謝っても謝りきれない。
知らなかったとはいえ、耀くんを傷つけた。

「うん…」

耀くんが涙を浮かべながら、やっと返事をしてくれた。

「許して……くれる?」
「うん…」
「オレのこと……キライじゃない?」
「うん……好きだよ、椎凪」

お互い、唇を離さずに言葉を交わし続けた。

「ポスター、よかったよ」

なぜか耀くんがテレながら言う。

「ありがとう。 耀くん」
「うん……」

オレって耀くんに、ちゃんと愛されてるんだと感じられた瞬間だった。

嬉しくて嬉しくて、そのまま耀くんにジャレつくオレ。
耀くんもそんなオレを拒んだりしない。

「耀くん……」
「椎凪……」

そしてオレ達は、そのままソファで愛し合った。






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