オレの愛を君にあげる…



65




「耀く〜ん♪ おはよう。今日は出かけるから、もう起きて」

椎凪が寝てるオレに覆い被さって、首筋に顔をうずめながら耳元に囁いてオレを起こした。

「……んん?」

オレは寝ぼけてる。
いつものことだけど、昨夜勘弁してって言うくらい、椎凪がオレを離してくれなかったから。
まだチョット眠かった。
なかなか目をあけないオレの顔を椎凪が両手で挟むとちゅっ! ちゅっ! と軽いキスの雨が降る。

「椎凪、休みなの?」

ベッドに俯せのまま身体を起こして、眠い目を擦りながら聞いた。
椎凪はもう起き上がってて、ベッドの端に座ってた。

「だって今日、耀くん誕生日でしょ?」

椎凪がオレに向かってニッコリと笑って言った。

「あ…」
「だから出かけるの。その代わり明日の夜はいないからさ。ゴメンネ」

……オレの誕生日…そんなの気にしたことなかった。
オレの誕生日って言うより、母さんの命日だと思ってるから……。


椎凪に促されてやって来た所。
ここは母さんのお墓がある墓地だ。
ひとりじゃ怖くて来ることができなくて、今も少し身体が震えてる。
椎凪が手を繋いでてくれてるから、なんとか耐えられてる。
父親も滅多にここに来ることはない。

椎凪はスタスタと歩いて行く。
まるで何度もここに来たことがあるように。
そして迷うことなく、母さんのお墓の前で止まった。

「椎凪…どうして?」
「オレ、刑事だよ。調べるの得意なんだから」

微かに香る花の匂いと、白い煙を上げながらお線香の匂いが辺りに漂う。

「耀くんのお母さん。オレ、耀くんのこと一生大切にしますから。絶対耀くんの傍を離れないし、
ずっと耀くんのことを愛し続けますから。安心して下さいね」
「…………」

真面目な顔で、お墓に向かって話しかけてる椎凪。
オレは胸が一杯になった。
初めて怖いとか辛いとか思うことなく、母さんのお墓に向かい合うことができた。


「さ! 耀くん。オレのこともお母さんに知ってもらったし、お墓参りもチャンと済んだから今度は耀くんの誕生日だよ」
「え?」

椎凪がオレのほうを振り向いて、とびっきりの笑顔でそう言った。


キラキラと世界が煌めいてる。
生まれて初めて、テーマパークという所にやって来た。
しかも、クリスマスバージョンでいつもより装飾が豪華なんだそうだ。
どこか外国を思わせる街並みの作りに正面から入ると、目の前に見上げるほどのクリスマスツリーが飾ってあった。
なにもかも初めてで、ワクワクのドキドキのクラクラだ。
目移りしちゃって周りをキョロキョロと好奇心は尽きない。
お昼過ぎから遊び回って、あっという間に夜が来た。
人が沢山いたけど、オレは椎凪とずっと手を繋いでたから全然辛くなかった。
椎凪はずっとオレのことニッコリ笑って見ててくれる。
アトラクションで暗かったりすると、隙をついてキスまでしてくる。
周りの人に見られてないかってちょっと焦ってしまったけど、椎凪はそんなことお構いなしだ。
そう…いつものことなんだよね。

いよいよ最後の出し物のパレードが始まった。
電飾がキラキラ輝いて、楽しげな音楽も始まった。
ここに来たほとんどの人が、それに魅入ってるんだろうな。
オレと椎凪は少し離れた場所からそれを眺めてた。

もう興奮しすぎて、変な疲れがオレの身体を占め始めてる。
疲れてるけど辛くはない。
心地良い疲れで目までトロンとなった。

「オレさ…」
「ん?」

造られた橋の手摺りに凭れかかって話し出す。
椎凪は直ぐ横でオレの顔を覗き込んだ。

「小・中って学校行ってないし、高校もギリギリしか授業に出てないしさ。友達も祐輔と慎二さんだけだし。
でも、オレ人と接するの苦手だからそれでもかまわなかったけどさ…」

身体を起こして椎凪のほうを向いた。

「椎凪と知り合って、色々な所に連れて行ってもらったり色々なことをしたりして、すっごく感謝してるんだ。
今日だって、自分の誕生日なんて祝ってもらうの初めてだったし。今までは母さんの命日だって思ってたから。
祐輔も慎二さんもオレが辛い思いするからって、あえてそのことには触れなかったんだと思うんだ。
だからオレ、今すっごく嬉しい。でもそれは椎凪と一緒だからそう思えるんだ。椎凪がいてくれるから楽しいんだよね。ありがとう、椎凪!」
「耀くん……オレ、耀くんのためならなんでもする。オレは耀くんが生まれて来てくれたことに感謝してる。
オレのためだけに生まれて来てくれたから。だから、お祝いしたいんだ。来年もまた一緒に誕生日お祝いしようね」

椎凪が優しく微笑んでオレを見る。

「その次の年もまた次の年も、ずっと一緒にお祝いしよう」

そう言ってオレの肩に腕を回して、自分のほうに引き寄せてくれた。

「うん…」

椎凪の言葉に嬉しくて……涙が出そうだった。
椎凪があったかくて、オレからもギュッとしがみついた。

本当にありがとう、椎凪。
こんなオレのこと好きになってくれて。
オレも椎凪のためなら、どんなことだってするよ。

「椎凪…」
「ん?」
「オレのこと……ずっと好きでいてくれる?」
「うん」
「オレの傍から離れない?」
「うん」
「オレのこと愛してる?」
「愛してるよ。耀くん」

椎凪はオレを抱きしめてくれた。
オレは椎凪の胸に顔うずめて、椎凪の温もりを確かめる。
大きくて広くてあったかくて、いつもと同じ安心をオレにくれる椎凪。

オレはそんな椎凪の頬に、そっとキスをして……ふたりでニッコリと笑った。





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