オレの愛を君にあげる…



67




「そうだ。そういえば『TAKERU』で毎年カウントダウン・パーティーやってるんだってね?
今年はオレも是非って慎二君に誘われたんだ。耀くんはいつも参加 してたんでしょ?」

椎凪がオレに訊ねる。

「うん…でも…慎二さんも祐輔も…『TAKERU』関係の人の相手しなくちゃいけないから……オレは料理食べるの専門か…な?
なるべく……人目につかないように……してるんだ…」
「じゃあ今年はオレが一緒だから大丈夫だね!」
「…………」
「耀くん? どうしたの?」

椎凪が不思議そうに、オレを見ながら言った。

「…も…う…椎凪の…ばかぁ……あっ…むりっ…しゃべれ…ない…よ…」

そう、今オレは椎凪に組み伏せられて、何時間も攻められ続けてグロッキー寸前の状態なんだ。
相変わらず椎凪は余裕で、呑気にオレに話しかけてくる。
今だって、オレの腰を掴んで何度も椎凪の身体に押し上げられてる。

ほんの一ヶ月前まではキスしか知らなかったのに、今じゃ毎晩のように椎凪に抱かれ続けてる。
椎凪の場合、朝も求めてくるからホント一体どんな体力と身体をしてるのか不思議でしょうがない。
そんなにオレのこと抱きたいのかな?
一度誘いを断って話をしながら寝ようって言ったら半べそになって 『オレのこと嫌いになったの? 他に好きな人ができたの?』って泣かれちゃった。
祐輔にアドバイスをもらったからなんだけどさ。
オレはただ、たまにはそういうのもいいかなって思っただけなんだけど。

椎凪はホントに心配性。
オレも椎凪のこと言えないけどさ。



「ねえ…椎凪…こーゆーことって、毎日しなくちゃいけないの?」

やっと椎凪が落ち着いてひと段落ついたみたいで、今はお互い裸のままオレは椎凪の腕の中で休んでる。
前にも聞いたことのある言葉を椎凪に問いかける。
あんまりにも椎凪がオレを求めるから、また答えを聞きたくなる。

「そうだよ」

椎凪が即答した。

「オレは毎日耀くんを抱いて、現実を確認しなきゃいけない」
「それって、オレが椎凪の傍にいるか確かめてるってこと?」
「ちがうよ…」

椎凪が静かな声で話す。

「オレがちゃんと存在して、耀くんの傍にいるって実感したいんだ」
「椎凪はちゃんとオレの傍にいつもいるよ」
「耀くん…」

椎凪がキョトンとした顔をする。

「大丈夫だよ。椎凪はちゃんとオレの傍にいるから。オレがちゃんとつかまえててあげるから。
オレが椎凪のこと離さないから。だから、安心して」

そう言って椎凪の頬を優しく撫でた。
椎凪が目を閉じて、オレの手に自分の顔に強く押さえつけながら「うん…」って返事をした。


元々寝ることが好きな耀くんが、オレに散々攻め立てられていつもよりもぐっすりとオレの腕の中で眠ってる。
そんな耀くんを自分のほうに抱き寄せて、頬ずりして、耀くんを実感する。

そうなんだ。
つかまえてるのはオレじゃなくて、耀くんがオレのことをつかまえて離さないでいてくれてるんだよね。
耀くん……オレ、耀くんに会えて本当によかった。
耀くんと出会って、オレの人生が変わったのがわかる。
耀くんだけじゃない。
皆に逢えて本当によかったと、心の底から思うよ。

みんな……オレをオレでいさせてくれる。


相変わらず『TAKERU』のパーティーは盛大だ。
カウントダウンっていうのもあるからかもしれないけど、各界の有名人も参加してる。
見たことのある芸能人の顔も何人かいた。

慎二君は忙しそうに動き回っている。
若いのに『TAKERU』の中では重要なポストにいるらしい。
祐輔はというと、この日のために髪を伸ばせさせられ、ポスターの撮影と同じ状態で参加するように
慎二君に命令されていたらしい。
祐輔のポスターも評判がいいらしく、モデルが誰なのか問い合わせがあるそうなんだけど、
祐輔がそういうのが大嫌いだからモデルが誰なのか誰も知らない。
因みにオレのこともトップ・シークレットだ。
なので大きなパーティーのときに祐輔を参加させて、特別なお客さんの相手をさせられてる。
祐輔目当ての女の人が結構いるのに驚いた。
しかも、女性の参加者のご機嫌取りに使われてるから、さっきから酔った女の人や祐輔目当ての女の人や
『TAKERU』の専属モデルの女の人に散々弄られ絡まれてる。
挙句の果てに抱きつかれたり、酔った相手にキスまでされる始末。
ほとんどが頬にしてるけど、人によっては唇にされてるときもある。
そういう人は『TAKERU』にとってのお得意様なんだろうけど……皆…スゴイ。
でもなにが一番スゴイって……そんなホスト役を祐輔に文句を言わせずにやらせている慎二君がスゴイと思う。
『仕事だからね!』の一言だった。
この場に深田さんが参加してないことに今、納得した。

耀くんも何人かの人に揉みくちゃにされ、頬ずりされていた。
耀くんはみんなに可愛がられてるって感じだった。
いつもみたいに緊張しつつも、相手はほとんど年配の女の人や、男性なのに女の方とかでなんとか対応できてるみたい。
男ならオレが許さないけど、みんな耀くんに会えて喜んでたし、逆にオレという恋人ができたことに落胆しつつも喜んでくれた人ばかりだったから。
しかし恐るべし慎二君だよ。
耀くんにまで何気にホスト役をさせてたなんてさ!



耀くんはオレが運んできた料理を嬉しそうに食べてる。

「たくさん食べてね。耀くん」

オレは耀くんを見つめてニッコリ笑う。

「うん。今年は椎凪がいるから、オレすっごく楽しいよ」

この広い会場でオレ達はふたりの世界で幸せだった。
暫くすると、祐輔と慎二君がオレ達のところに戻ってきた。

「ふたりとも、楽しんでくれてます?」

慎二君が本当に嬉しそうに、オレ達にニッコリと笑いながら聞く。

「うん。料理も美味しいし、周りを見てて飽きないから。でも祐輔、とく耐えてるよね」

怒るかと思ったけど聞いてみた。

「ああ? あー別に和海以外とのキスなんてキスとは思わねえし。相手も誰だったか全然憶えてねえし。あんま興味ねーから」

スゴイ…そこまで相手のことを遮断できるんだ。
っていうか、関心なさすぎ?
きっと祐輔には今日相手にした人達は、皆動く人形かなにかだと思ってるんだろうか?

「約束だから、当然だよな? 祐輔」

突然オレ達のうしろから声がした。
聞いたことのない声だ。

「!?」

祐輔の顔色が、その声を聞いて一瞬で変わる。
戦闘モードになってる?

「テメェ…なにしに来やがった……」

振り向くと、そこには歳は50代か60代くらいの年輩の男が笑いながら立っていた。
洒落た格好で、歳のわりにはピアスなんてつけてて、どうみても一般人には見えないんですけど?
祐輔はこの男を知っているらしい。
しかも好戦的。

「孫に会いに来ちゃいかんのか、祐輔? それにここは『TAKERU』のパーティー会場だろ?
私が来てもなんの不思議もなかろう?」

そう言ってさらに笑った。
え? 祐輔が孫?
ってことは……この人物は?

「祐輔のおじいさんっ!?  新城 しんじょう たける?!」

思わず叫んじゃったよ!

「社長!」

慎二君が“社長”って呼んだ。
やっぱり、新城たける。

「オレはテメエなんかに会いたかねえんだよっ! さっさと帰れっ!
テメエの言うとおり生活してやってんだからなにも文句を言われる筋合いはねえぞ! 早く帰りやがれっ!!」

祐輔がこんなに感情を露わにするところを初めて見た。
慎二君に目線を送ると、クスクス笑ってるし。

「相変わらずギャンギャンうるさいな、お前は。少しは強くなったか? いつも私に負けてばっかりだもんなあ、お前」

え? 祐輔が負ける?

「うるせえんだよっ!! 死ね!」

我慢の限界が越えたのか、祐輔がおじいさんの胸倉を掴んだ。
最初から我慢なんかしてなかったのか?

「!!」

あっと言う間だった。
先に手を出した祐輔が、相手に背負い投げをされ思いっきり会場の床に叩きつけられた。

「がはっ!! ……痛って…」

祐輔が…負けた?
しかも秒殺?

「…………」

自分の目を疑った。

「この未熟者がっ!」

祐輔を投げ飛ばし、さらに一喝入れたおじいさんを、オレはまじまじと見つめてしまった。

慎二君が言うにはこんないざこざはいつものことで、祐輔が勝ったことはないそうだ。
信じられない……。

『おじいさんの言うことは聞く!』

それがふたりの約束で、しかも勝負して負ければ負けた分おじさんの言うことを聞かなくちゃいけないそうだ。
今日投げられた分は、おじいさんがこっちにいる間一緒にホテルで生活することになったらしい。
おじいさんは祐輔のことが可愛くて? 仕方ないんだそうだ。
でも祐輔はおじいさんのことが嫌いなんだって。
まあ、あの態度を見ればそうかな〜とは思ったけど。
慎二君は『好きの裏返しなんですよ』って言ってたけど、本当にそうか疑問だ。

たける氏が来たことで、会場が一気に盛り上がる。
パーティーはこれからが本番だ。


オレと耀くんはテラスに出て、満天の星空をふたりで眺めた。
抱き寄せて、深い深いキスをする。
ついさっき新しい年を迎えた。
新しい年をまたいでのキスだ。
なんて素敵なんだろう。

会場では新年を迎え、さらに盛大に盛り上がっている。





Back      Next










   拍手お返事はblogにて…