この手をはなさないで・華side



01




「急いでるから」

「!!」

一瞬、自分の耳を疑った。

私は 山里 華(yamazato hana)高校2年生。
今まさに私に向かって『急いでるから』と素っ気なく言った 春日居 季也(kasugai tokiya) 高校3年生に
初めてのキスも、初めての体験も……その他諸々の初めてを奪った?捧げた?相手に、そんな言葉を突きつけられた。

「……え?」

私の頭は暫しパニック!

「…………」

目の前の彼はちょっとだけ私の方を見ると、すぐに視線を外して下駄箱の方に歩いて行った。
そして靴に履き替えると、私のほうを一度も振り返ることなく昇降口を出て行った。

私はそんな先輩を、ずっと見つめて……ああ、見つめてたわけじゃないか。
見てたけど、視界に入ってたかどうか定かじゃない……。

そんなことも考えられないほど、私は放心状態だったから……。


そういえば、今日の先輩の態度はなんだか変だった。
何度か偶然に廊下で会っても、前はにこやかに笑って私に話しかけてきたのに、今日は一瞬だけ視線を合わせると、
すぐに外して何事もなかったみたいに廊下を歩いて行ってしまった。

避けられてたんだと、今さら気づいた。

それからどのくらい時間が経ったのか……ヨロヨロとやっとの思いで自分の下駄箱に辿り着いて、
靴に履きかえ家に帰ったらしい。

気付いたら自分の部屋のベッドに、ボスッとうっつぷしてた。
あの態度は一体……どういう……こと?
最後に会ったのは先週の土曜日で、月曜日の今日の放課後、先輩に初めて声を掛けたのにあの態度。

自分でも、わけがわからない……

季也先輩……3年では結構な人気のある先輩だった。
ときどき特定の彼女を作ったりしてるらしいけど、大体がいろんな女の子をとっかえひっかえしてるって聞いてた。
自由気ままというのか、ただ単に自己チューというのか、それに加えてプライドも高いって言われてる。
だから……絶対そんな人なんて、相手にしないって思ってた。

どんなつもりなのか、いつ私なんかを知ったのか、2ヶ月程前に急に私の前に現れて、
人の迷惑かえりみず毎日のように人に纏わりついてたのに……。

これは……一体どういうこと?
本当に迷惑極まりない!ってくらい人を振り回して、彼の元カノやファンの人達にも嫌味言われたり
嫌がらせまで受けたりしたのに……。
こんな仕打ち?

『華』

気安く名前を呼ぶなって言ったのに、全然聞いてくれないし……。

『華、可愛いな』

って……言って……。
だからいつの間にか、先輩のことが気になって……好きになって……だから初めてのキスも初体験も、
先輩にならって思って覚悟決めたのに……。
それが、この前の土曜日。

ああ……でも……そういえば、一度も私のこと好きだって言ってくれたことなかったな。

『華のこと気に入ったんだ』
『華といると楽しいんだよな』

季也先輩…………。

『キスしてもいい』
『初めて?ホント?マジで?すんげぇ嬉しい』
『華の全部がほしい』
『怖がんないで。優しくするからさ』

いろんな優しい態度も言葉も、全部全部私と寝るためだけだったんだ……。
はは……バカな私……そんなことも気づかないなんて……。
目的を果たしたからサヨナラされたんだ……これって……ヤリ逃げってやつ?

さぞかし心の中では、笑いが止まらなかっただろう。
いとも簡単に目的を達成できたんだから……まあ2ヶ月焦らしてやったのが、唯一自分を慰めれること?

「はあ〜〜」

膝の上に置いてある両手をグッと握り締める。
力を込めすぎたのか、フルフルと震えてる。

遊ばれたんだ……私……遊ばれたんだ。

「……ふっ……ふふ……」

勝手に笑いが込み上げてくる。

「冗談じゃないわよ!!このままじゃすまさないわよ。春日居 季也っ!!」

膝の上で握ってた拳を振り上げた。

ヤリ逃げなんて許さないんだから!!
乙女心を踏みにじって、乙女の純潔奪っといて、タダですむと思うなよ!!

とにかくハッキリきっちり、文句は言わせてもらうんだから!!!





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