想い想われ?



13・史明視点




幼馴染みの裕平とは4歳違いだけど、昔からまるで同い年同士のような付き合いだった。
それは僕がポワンとしてて、裕平が活発な子だっだからじゃないかと思う。

親が会社を経営してて、いずれはその会社を継ぐことまでお互い決まってたから、なんとなく
似たもの同士という気持ちもあったのかもしれない。
だからそんな生い立ちの自分達の将来や、親に対する不満とかもふたりして愚痴って解消してたところもある。

それに、裕平の母親も裕平が子供のころに亡くなってる。
僕の母は病気で亡くなったけれど、裕平の母親は交通事故で亡くなった。

裕平の気持ちは痛いくらい僕にはわかって……わかりすぎるくらいわかって……
心が痛くてふたりして泣いたこともある。

僕の父親は再婚はしなかったけれど、裕平の父親は5年ほどして新しい奥さんを迎えた。

裕平の新しい母親……結婚当時、千晶さんは26歳。
裕平との年の差は15歳とちょっと近かったけど、千晶さんとはもめることもなく
順調に親子関係を築いていけたと思う。

再婚して2年後に弟も生まれた。
弟の徹平は高校入学と同時に学生寮に入ってしまったから、こっちにはたまにしか帰ってこれない。

僕達とは歳が離れてしまったから一緒にいることはあまりなかったけど僕も梨佳ちゃんも、
もちろん裕平も歳の離れた徹平を可愛がった。


僕と裕平と梨佳ちゃんとはよく3人で遊んだ。

子供のころから裕平はわかりやすい態度で梨佳ちゃんにチョッカイを出して、泣かせたり怒らせたりしてた。
意地悪ばかりして嫌われるかと思ったけれど、そこは鞠枝さんのしつけの賜物か、もともとの梨佳ちゃんの性格か。
ちゃんと裕平の性格や優しさをわかってくれて、嫌うことはしなかった。

皆が思ったとおりなのかわからないけれど、裕平と梨佳ちゃんはお互いに惹かれあった。
裕平は傍から見たらバレバレだろう態度のくせに、のらりくらりとかわして認めようとはしなかったけど。
認めない理由がわからない。

それは今も健在で、どうみたって “お前梨佳ちゃんに惚れてるだろう?” って態度のクセに梨佳ちゃんには
素っ気なくて気のないフリの言葉を言う。
だから梨佳ちゃんも、裕平の態度に振り回されてなかなか想いを告げることができないでいる。

まあ今は、裕平も特に色々大変な時期かもしれないから仕方ないかとも思うけど……
だからって、僕を巻き込むのはやめてほしいんですけどね。




「え?どうしてそうなるんですか?」

久しぶりに僕の家に遊びに来た裕平が、ちょっと話しがあると言って話し出しての僕の言葉だ。

「だから本当じゃないって言ってんだろ。フリでいいんだって、っつーか話しさえ合わせてくれればいいんだよ」
「だったら裕平がそのフリをすればいいじゃないですか。それでそのまま婚約すればいいんですよ」
「だから言ってんだろ?俺は今 “HOMARE” で働いてるんだぞ。ただでさえ身内だって目で見られんのに
社長の娘と婚約なんて話になってみろ、いらん噂がつきまとうし動きにくくなる」
「別にいいと思いますけど」

僕はいい加減呆れ気味。
もう何年そんなことしてるんだか。

「俺が嫌なんだよ。自分トコに戻るまでは……つうか戻って落ち着くまで結婚だとか考えてないし」
「まったく素直じゃないですね。そんなんじゃ梨佳ちゃん他の誰かに持ってかれますよ」
「だからそうならないように史明が必要なんだろう。お前が相手なら、後々色んなことが起こってもどうとでもなる」
「はあ?」

なんですか?そのどうでもいい扱いは?

どうやら実際 “HOMARE” で働き出してから、梨佳ちゃんの周りに梨佳ちゃん狙いの男性陣が
多くいることに気づいたらしい。
それに近々、長期の出張を控えてて余計に焦ってるみたいだ。

「…………なら啓二おじさんか鞠枝さんに一言いっておけばいいのに」
「あの2人にそんなこと言ったら、とんでもないことになるだろうが!」
「まあ……たしかに……」

啓二おじさんは梨佳ちゃん溺愛だから、婚約なんて匂わせたならあの手この手で
色んな無理難題を押しつけてきそう。
連続の長期出張とか笑顔で押し付けてきそうだ。
鞠枝さんは色々小言やら付き合いの手順だとかを細かく口出してきそうだし。

裕平の気持ちを知りつつも、なにも言わないのは裕平が梨佳ちゃんとの関係にもう一歩踏み込まないからだ。
啓二おじさんと鞠枝さん曰く “根性なしはいらん” らしい。

「自分で覚悟決めてんなら文句はないけどな。さすがに今そこまで相手する余裕ない」

子供のころから裕平のことを知ってる2人だから見守ってるのかと思うけど、
やっぱりどこか梨佳ちゃんに関しては気を許せない相手だ。

幼馴染みだって親から見れば気になるのはあたり前のことだろう。
裕平……頑張って。


「……はあ〜仕方ないですね。でも梨佳ちゃんが承諾するか」
「するさ」

即答ですか?

「随分自信があるんですね」
「だって俺の頼みだからな」
「…………」

僕は盛大に溜息をついた。




「え?どういうこと?」

遅れてやって来た梨佳ちゃんが、僕の家のリビングのソファに腰掛けての一言。

「だから史明の婚約者になってやれって言ってんの」
「え?婚約者?ふみクンの?」

一度僕を見てから、不安そうな顔で裕平を見る。

「裕平ちゃん……」

あ…ちょっと!梨佳ちゃんショック受けてるんじゃないんですか?

「ち…違いますからね、梨佳ちゃん。あくまでもフリですからフリ!」
「フリ?」

僕が慌てて説明をする。

「もう裕平がちゃんと話さないから。話、端折りすぎですよ」

いきなりなんの説明もなく、そんなこと言われたら動揺するでしょうに。
しかも裕平から言われたら。
ってもしかしてワザとですか?ホント大人気ない…未だにいじめっ子精神ですか?

「史明がお前と本当に婚約なんてするわけないだろ」
「な、なによ!そんなのわからないじゃない!ふみクンとは子供のころからの付き合いなんだから
可能性はゼロじゃないでしょ!」
「お前なんかもらってくれるヤツなんて誰もいないっての」

“俺以外はね” って思ってるんだろうな……裕平ってば。
素直じゃないったら。

「失礼ね!私にだって……」
「ほお、いるのか?」
「むうっ!」

いるはずがないことはわかってて、またからかうように裕平が言うもんだから、梨佳ちゃんがぷうっと口を尖らせた。
そんな仕草は子供のころから変わらなくて可愛いままだ。

「無理すんな。いないんだろ」
「裕平……いい加減に……」
「…………わかったよ」

本当大人げないんだから。
いったい幾つなんだか。

「史明の奴、当分結婚する気ないんだってさ。だから周りを黙らせるのに口実が必要なわけだ」
「それが婚約者?」
「そう、そのほうが手っ取り早いだろ」
「恋人でいいんじゃないの?」
「あのなぁ〜相手はどこぞの社長令嬢や会社経営者だぞ。恋人くらいじゃあきらめないだろ」
「そっか……」
「“HOMARE” の社長令嬢の梨佳だから効果があるんだろ」
「でもうちのパパとママがなんて言うかな…それにふみクンのところだって…」
「あのな、そんな大袈裟にしなくていいんだよ」
「え?」
「誰かに聞かれたときに、僕の相手として名前をお借りするだけです」

そう……そこまで大っぴらになるのも困るんですよね。
裕平が本当に言ってほしい相手は、梨佳ちゃんに絡んでくる相手にだけですから。
だから本当は、僕が誰に迫られようが見合い押し付けられようが、別に気にすることじゃないんですよね。

「は?」
「だから逆に梨佳ちゃんも、もし誰かに迫られたりしたら僕のことをほのめかしてくださってかまいません」
「え?」
「まあ、お前なんかに言い寄ってくる男なんていないだろうけどな」
「なによ!」
「そんときの虫除けに史明使えって言ってるんだ。逆に史明のそういう相手が現れたら梨佳の存在をほのめかす」
「で…でも……」
「なんだ?」
「その話が噂になったらどうするの?あ!別にふみクンのことがどうとかじゃないのよ?」

上目遣いでちょっと困った顔で聞いてくる。
たしかに、いくら相手が僕でも気にはなるよね。

「あくまでもほのめかすだけだ。婚約だって別に必ず結婚するわけじゃないだろ? “婚約する予定” でも
“結婚するつもり” で別にかまわないだろうし。重要なのはそういう相手がいるって思わせることで、
将来結婚するときに相手が違ってたってさほど問題じゃない。“婚約しそうだったけれどしなかった”
ゆえに “結婚もしない” な?」
「でも、どうしてそこまで?フミくん?」
「え″?」

梨佳ちゃんが納得いかないって言う顔で僕を見た。
それは……

梨佳ちゃんに裕平以外の男性を近づけさせないため ────

なんて言っていいんですかね?裕平。
チラリと裕平の顔を見ると……

──── 言うな!

という無言の視線の圧力が……。
僕は小さな溜息をつく。

なんでそこまで隠すのか……本当に裕平の考えてることはわからない。

「いい加減女性からのアピールとか苦痛になってきたものですから。今は特にテルさんのこともありますし、
簡単に相手にあきらめてもらうにはそれが一番手っ取り早いかと。梨佳ちゃんにはちょっとご迷惑かけるかも
しれませんけど、ほのめかす程度でかまいませんからお願いします」

近頃では、見合いの話も女性との出会いもほとんどナイ状態だったのだけれど……仕方ない。

「ふみクンそっちに関しては鈍いし疎いもんね」

仕方ないって感じで梨佳ちゃんがそんなことを言い出す。

「え″?そ……そうですか?これでも恋愛経験はあるんですけど」
「なんかふみクンって流されやすそうなんだもん。優しいし、人当たりいいから相手に笑っただけで誤解されそう」
「……そ…そうですか?」

流されやすいっていうのはあるかもしれませんけど……
そんなに簡単に見透かされるなんて、流石つき合いが長いってことでしょうか?

「いいわ、名前貸してあげる」
「ほ…本当にいいんですか?」
「大事な幼馴染みだもん。私が一肌脱いであげる」
「は…はあ……ありがとうございます」

なんだか本当に申し訳ない気持ちが湧き上がってくるんですけど……騙してる気分です。

でも、言いだしっぺの張本人の裕平は満足そうな顔してる。
でもね、これで安心するのは早いと思うけど……いつ、どこの誰ともわからない相手に
横から攫われたって知らないですからね。

ってそうならないように僕にお目付け役、押し付けたんでしょうけど……。
まあ頑張りますけど、裕平も梨佳ちゃんにちゃんと向き合ってくださいね。



そんなやり取りが静乃さんと知り合う少し前にあって、でも実際には

その約束は実行されることはなかったから僕も頭の片隅に追いやっていた。

けれど、その約束が静乃さんに誤解され避けられる原因になろうとは……。

そのときの僕には想像もできなかった。








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