想い想われ?



27・史明視点




「…………や、です」
「え?」

静乃さんの話を聞き終わって、僕はボソリと呟く。
そんな呟きを静乃さんは聞き逃さずにいてくれたらしい。

「今日で終わりなんて……絶対に嫌です……」
「ふ……史明くん?」
「今日が最後だなんて絶対に嫌ですっ!!」
「うわっ!ちょっ……史明くん!?」

僕は立ち上がると、ガシッと静乃さんの肩を掴んで立ち上がらせた。

「もうヤメです!!」
「は?」

そのときの僕は “もう誰も僕を止めることはできない!!” ってくらいの勢いだった。

「ちゃんとした手順を踏んで恋人同士になろうと思っていましたが、もうそんな悠長なことを
してる場合じゃありませんっ!!」
「え?あの……史明くん?」

そうだ!嫌われないようにちゃんとしたお付き合いを続けられるようにって、強引にならないように気を使ってた。

「僕は真面目に静乃さんとお付き合いしたいと、あの日の夜……正確には静乃さんを
抱いてるときに思いました。最初がいきなり身体の関係だったので、ちゃんとしたお付き合いというと、
まずはお友達からと思って静乃さんに触れることをグッと我慢してました」
「真面目なお付き合い?友達から?」

「だって……あのときの静乃さんは、僕とは一晩限りって思ってたでしょ」
「え"!?」

どうやら図星だったらしい。
やっぱりという気持ちと、ズキリと痛む胸。
静乃さんは戸惑った眼差しを僕に向ける。

「だから、まずは友達から親しくなって……そこから恋人にしてもらえたらって思ってたんです。
自分では大分いい雰囲気になってきたんじゃないかって思ってた矢先に、急に仕事が忙しくなって
なかなか静乃さんに会いにこれなくて……本当は毎日でも来たかったんです!でも……」
「でも?」

あのころ言えなかった自分の気持ちが、一度言い出したらとまらなくなってた。
そんな僕を静乃さんが心配そうに見てる。
どうしてそんなに心配そうな顔するんですか?僕は大丈夫ですよ!!

「そんなにしつこくしたら、迷惑なんじゃないかと思って……呆れられて嫌われたらイヤだったから
仕方なく1週間に一度って決めて……だから電話もメールも一度話したり送ったりしたら自分を
止められない気がして!きっと1日に、何度も電話やメールしちゃうと思うんです!!」

「は……はあ……」

僕は両手を胸の前でギュッと握り締めてちょっとテレながら話す。
だって男でそういうのって珍しいかとも思うし、静乃さんがそんな僕をどう思うのか心配だった。
案の定戸惑った眼差しを向けられる。

「ほら、やっぱり呆れるでしょ?男がそんな粘着質だなんて……」
「そ……そんなことないと思う……けど?」

ぎこちない返事だったけれど、引かれはしなかったらしい。
よかった。

「とにかく僕に好意を持ってくれるようにするので精一杯で……僕、自分から交際申し込んだりとか
僕のことをなんとも思ってない人に好きなってもらうには、どうしたらいいかとか全然わからなくて……」
「史明くん」
「はい?」
「今まで、女性とお付き合いしたことって……あるんでしょ?」

静乃さんが首をちょっと傾げて聞いてきた。

「あ……ありますよ。でも外国にいるときで、20代前半くらいまでですけど……
こっちに戻ってきてからは特定の人は誰もいません。お付き合い自体しませんでしたから」

まあ、あまり褒められたお付き合いじゃないかもしれませんが……。

「それじゃちゃんとお付き合いの経験はあるんでしょ?なのにどうしてそんなにテンパってるの?」

静乃さんにとっては素朴な疑問なんでしょうね……僕にとっては今後を左右することだったんですけど。

「えっ!?あっと……えっと………僕、自分から告白したことはないんです……」
「は?」
「今まで相手から言われたことしかなくて……それも先に、身体の関係を持ったあとで流れで
付き合ったというか……相手が寝たんだから彼女よね?って感じで付き合いだしてたというか……」
「史明くんは、相手のことは好きじゃなかったの?」
「身体を許し合えるということは、多分好意はあったと思いますけど……別れると言われても、
素直に受け入れられました。後悔も未練もありませんでしたから、やはり身体から始まった関係は
そんなもんなのかと思いました」
「そう……」
「だけど、静乃さんとはそんな付き合いはしたくなかったから……」

ああ……不誠実と思われてしまったんでしょうか?
僕は急に不安になって身体から力が抜けてしまいそうだった。
でも僕の気持ちを静乃さんに知ってもらわなければと、なんとか気持ちを奮い立たせた。

「だから生まれて初めて、真剣にお付き合いを始めるために頑張りました。とにかく僕に好意を持ってもらえるように」
「だから色々食べ物やお酒を?」
「はい。だって静乃さんは、ブランド物のバッグとかアクセサリーとか、喜んで受け取ってくれるような人じゃないと思ったから」
「餌付け?」

うわぁ!!そんなふうに思われていたんですかっ!?

「そ……そんなつもりじゃないですけど!!でも……」
「でも?」
「2人で一緒にお酒を飲んだり食べたりしたことは、僕にはすごく嬉しいことだったから。
静乃さんの手料理も美味しくて嬉しかったし、僕を泊めてくれたのも嬉しかった。本当なら毎晩静乃さんと同じベッドで
眠りたかったけど、静乃さんが僕との間に一線を引いていたのがわかってたから……」

そう……静乃さんが僕との間に一線を引いていたのはわかっていた……
それがわかる度に僕は凹みそうになったことを思い出して一気に落ち込む。

「一線を引くの当たり前でしょ?あなたは大企業の副社長で、婚約者がいる人だもの」
「副社長って!……知ってたんですか?」

僕は自分のことは何も話さなかったのに……肩書きのない僕を知ってほしかったから。

「史明くんと知り合ってすぐに、会社から出てきた史明くんを見かけたことがあるの。秘書の人に指示を出して、
お付の人と高級車に乗り込んで走って行った」
「そ……そうなんですか……見られてたんですか」

なんだ……そうですよね……以前勤めてた静乃さんの会社から僕の会社まではけっこう近かったんでした。
無意識に肩がガクッと項垂れる。

「それでネットで史明くんが出て来た会社を調べたの。そこで史明くんが、その会社の副社長ってわかった」

調べたんですか……確かにHP立ち上げてますからね。
やっぱり顔写真は出すべきじゃなかった。
もしかしてただの偶然の同姓同名ってことで誤魔化せたかもしれないのに……まあ無理だったと思いますけど。
あとで、あの写真は削除してもらえるように頼まなければ!なんてことまで思いつつ……。

「……わかっても……最初と変わらずに、僕と接してくれてたんですか?」

黙ってた僕を軽蔑したり疑ったりしなかったんですか?
僕はそう考えると不安になる。

「だって、私が最初に知り合ったのは “タダの泣き虫な男” だもの。私に会いに来てくれてたときは
会社の肩書きは置いてきてたみたいだし」

確かに静乃さんに会いにきてたときは、そんなもの置いてきてた。

「静乃さんには、ひとりの男として見てほしかったから、何も言わなかったんですけど。
でも、なにも聞かない静乃さんに、僕はちょっと不安でした」
「え?」
「だって……僕のことを知ろうと思わないんだなって……知りたいと思ってくれないんだって、
僕には関心がないんだって、いつも思い知らされてました」
「それは……」

静乃さんはなにか言いかけて俯いてしまった。

「でも僕が副社長とわかっても、静乃さんは気にしなかった……それって嬉しいです」

「え?」
「こっちに戻ってから僕に近づいてくる人は、僕の肩書きに惹かれて近づいてくる人ばかりですから。特に女性は」

僕としては静乃さんはそんな女性とは違うと言いたかったのに、かえってきた静乃さんの言葉に驚いた。

「だから帆稀さんだったのね。幼馴染みなら、そういうことは関係ないものね」
「え″っ!?ですから……ちょっと……静乃さん?」


だからなんでここで梨佳ちゃんなんだろうか?

さっきから静乃さんの言う同じ言葉が、僕は気になっていた。








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