想い想われ?



04




公園のベンチで泣いていた男性と知り合って数時間で身体を重ねあっていた。

何度もう無理と懇願しても、彼はそんな私の言葉は聞き入れてくれなくて、意識を失った身体が
揺さぶられてるのを感じて目が覚めるといったことがずっと続いてる。

「欲しいんです……静乃さんが……だから僕にたくさんください」

本当にあの泣き虫でヘタレだった彼はどこに?
ずっと私を求めて攻めて荒々しく貪ってるのはまさしく立派な逞しい男としか言いようがない。

もしかして彼は二重人格なのではないかと思えたほど。

どのくらいの時間が経ったのか……彼はやっと満足したらしく私を解放した。
ただ、それからしばらくの間、私は彼の腕の中で囚われてた。

お互いに汗ばんだ身体だったけれど、それでもなぜか不快には思わずとても心地よい空間だった。

後悔なんてしてないし、逆に私はとても満足していた。
彼はどうなんだろう?満足してくれただろうか?後悔してないだろうか?




部屋の時計がもうすぐ日付を変えるころ、彼は明日仕事だからと帰って行った。
私はベッドから起き上がることも出来ず、彼が出て行く後ろ姿をぼんやりと見てた。

玄関のドアが閉まって、ガチャンと鍵が閉まる音がして、コツンと鍵が郵便受けに落ちた音を聞いた。

結局、彼に恋人はいるのかとか、どんな仕事をしているのかとか、聞かなかった。
もちろん携帯の番号も……。

私が勝手に声を掛けて部屋に連れて来て……勝手に慰めてあげようと思っただけだから。


確かに私には、彼に対して好意はあった。
でも彼は……落ち込んでる自分を慰めようとしてる見ず知らずの女が、普段とは違うシュチュエーションで
一時の快楽を求めてきただけ……。
なんて思ったかもしれない。

今日、これっきりで二度と係わらないと思ったんだろう。
だから彼も私に何も言わず、帰って行ったんだと思う。

まあ私は最初から今後のことなんて考えてなかったし、彼が私を今日だけの相手と思ってたとしてもかまわなかった。

「ハァ……すごく……よかった……」

久しぶりに心も身体も満たされた。

私はベッドに横になりながらクスリと笑うと、そのまま眠りに落ちていった。


それから数日後、会社で使うお客様用のお茶の葉を買いに外に出ると、この近辺では一際大きな
ビルの前で彼を見かけた。

目の前の黒塗りの高級車に彼は乗り込むところで、すぐ傍に男の人が2人と女の人が1人立っていた。
彼は上品なスーツを着こなして、手には何か書類を持ってすぐ後に立つ女の人に話しかけてる。

女の人はそんな彼の話を聞きながら、システム手帳にペンを走らせてた。
きっと秘書なんだろうと思った。
その秘書らしき人に持ってた書類を渡すと、傍にいた男の人が車のドアを開ける。

開けられたドアから、彼が車に乗り込むと流れるような動作でドアが閉められる。

ドアを閉めた男の人が助手席に乗り込むと、車は静かに走り出した。

そんな車に向かって、その場に残ってる男の人と秘書らしい女の人は車が見えなくなるまで、
車の走り去った方向に頭を下げていた。

── NIREGISHI CORPORATION 本社 ──

2人がいなくなった後、彼が出て来たビルの前に立って、そびえ立つビルを見上げた。
何十階あるんだろう?
自分が勤めてる会社なんて比べ物にならないほど、その世界ではかなりの業績を
上げている大きな会社だ。

そこから出てきて、あんな対応をされいるんだから、彼はきっとここの会社で
よほど重要なポストに就いているんだろう。

会社に帰ってパソコンで”NIREGISHI CORPORATION”を検索したら、
副社長に彼の顔写真とプロフィールが載っていた。

32歳独身。
一流の高校卒業後留学。
あちらの有名大学を出て、数年系列会社で経験を積んでから、最初は専務として就任して
今は副社長の役職に就いてるそうだ。
そして他の検索では、結婚も噂され候補の令嬢が何人かいるそうだ。
近い内に、婚約発表があるらしいとも書いてあった。

やっぱりね……なんて頷いてしまう自分。
あのブランド物で身を固めてたのも頷ける。

しかも、あんな大きな会社でそんな重要なポストに就いてる人が、そうそう会社関係の人の前で
あんな醜態を晒すわけにはいかなかったんだと、さらに納得した。

家族はお父様だけのはず。
兄弟もいないような感じだったし、結婚相手のご令嬢にはあんな情けない姿を見せるわけには
いかなかったんだろう。

ひとりでどうにか治まりをつけようとしてたところに、“運悪く”私が通りかかり自分の家にお持ち帰りして、
身体まで関係してしまって……。
きっとそんな一連の出来事は一晩限りのことか、できたらなかったことにしたいに違いない。

ああ……なかったことに最初っからするつもりで、あんな激しかったのかもしれない。

一度はやってみたかった……なんて願望があったのかも。

私はそれでもかまわなかった。
というか、別に彼との先を私は望んではいなかったから。

彼なら会社の為に政略結婚も有り得るだろうし、本当に望んだ相手との結婚だってあるかもしれない。

気軽に男に声をかけ、自分を誘うような女を恋愛対象になんてしないだろう。
しかも一般庶民の底辺にいるような女……。

だから私はあの時の……あの日だけの女でいいんだと割り切ってた。

もう二度と会うこともないだろうし。


そんなことがあって、彼を私の部屋に連れて来てから今日でちょうど一週間後の夜……。
会社から帰宅して、ひとりの夕飯の支度をしていると玄関のチャイムが鳴った。

「はい?」

エプロンで濡れた手を拭きながら、玄関に向かって声を掛けると聞き覚えのある声がかえってきた。

「え?うそ??」

ドアの覗き穴から覗くと、やっぱりあの人!

「ええ!?なんで??」

慌て玄関のチェーンを外して鍵をあけた。
ドアを開くと、見間違いじゃなく彼が立ってた。

「え?ど……どうしたんですか?」

私はなにがどうなってるのかわからないくて、ちょっとパニック。
だって、彼がここに来るなんてもうないと思ってたから。

「静乃さんと一緒に食べようと思って、ケーキ買ってきたんです」

にっこり笑顔の爽やかスマイル。

「…………はあ?」

私はかなりの間をおいて、なんともとぼけた返事をかえした。

「中に入れてもらえますか?」


そう言って彼は、手に持ってたケーキの箱を私にワザと見せて、またニッコリと笑ったのだった。








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