keep it up! 番外編 親切の行方



04




前にパンクしてた車のタイヤを交換してやった子に俺の結婚祝いと称した
飲み会の居酒屋で偶然に会った。
しかも隣同士の席だったなんてまあ偶然というのはすごいもんだ。

彼女の友達も交えて飲み会が始まって俺のダチ達も女の子と飲めてご機嫌のようだった。

ったく……最初の目的忘れてるよな?今日は俺の結婚祝いじゃねーのかよ。
まあ皆が楽しけりゃいいか。なんて思いながら酒を飲んでた。

俺の隣に座ってたのはタイヤ交換してやった子で何度もお礼を言われた。
もともと車の修理の仕事をしてる俺には本当に大したことじゃなくてそんな何度も
お礼を言われるようなことじゃない。
だから気にするなとずっと言ってたんだが……真面目なのか酒が入ってたせいなのか
結構しつこくお礼がしたいと言われ続けた。

彼女の見た目からしてそれを理由に身体の関係を迫ってるとも思えなかったから適当にかわしてた。
トイレから出た後通路でバッタリとかちあった彼女に再度お礼したいと言ったわれた。
酔ってたんだろうな……かなりのハイペースで飲んでたから。

でもタイミングが悪かった。
まさか酔ってよろけた彼女を支えたのを千夏に見られるなんて。


「これは一体どういうことなのかしら?」
「ちょっ……ちょっと待て!千夏!!こ……これはその誤解だ!!」

スゲェ怒りオーラまとってるんですけど?ってかなんで千夏がここにいるんだ?
今日来るなんて一言も言ってなかったよな?

「へぇ〜〜こんな人目を避けたところで抱き合っててなにが誤解なのよ?」
「こ……ここにいるのはお互いトイレに来ただけだしこの子は酔ってて……
ってかお前こそなんでここにいんだよ!?」

思わず思ってたことを口に出すとその倍以上の迫力でかえされた。

「やかましいっっ!!いい訳すんなっっ!!」

「イデッ!!」

千夏が俺に向かって何か投げた。
硬いモノが額に当たって床に落ちて転がっていった。

え?いや……ちょっと待て!!投げつける前に一瞬見えたあれって……

「ワザと指輪おいてったのはこういうことするためだったんだ!!」
「え?なに?指輪??ってお前なに指輪投げつけてんだよ!ああ……どこにいった?」

俺の額に当たって落ちてコロコロと床を転がる指輪を目で追う。

「隼斗のバカッ!!浮気者!!!離婚よ!離婚っっ!!別れてやるっ!!」

床を見てた俺は千夏の声で顔を上げると千夏の泣きそうな顔が目に入る。
そして一方的に叩きつけられた言葉に俺は焦る。
オイオイ!誤解だっての!!

クルリと身体を反転させると千夏は店内に向かって駆け出した。
身体を反転させる前にキッと俺を睨んでた。

って……うおっ!!未だに彼女を支えてる俺。
俺は支えてるつもりだけど彼女の腕は俺の身体に回されてて千夏にしてみれば
抱き合ってるとしか思えないんだろうと察する。

支えてた彼女を離すと彼女はフラつきながらもちゃんと自力で立ってた。
まあ友達もいるんだから大丈夫だろうと床に落ちてる俺の結婚指輪を拾って
左手の薬指にはめると千夏を追い掛けた。

店内を見渡すと出口に向かって小走りで駆けてく千夏を見つけた。
俺もそのあとを追って出口に向かう。

ここ数年は千夏だけだって言ってたが千夏は今それはウソだと思ってると思う。

それまでは千夏以外の女と簡単に寝てた俺。

千夏に手を出せなかった反動だったと結婚する前になんとか納得してくれた千夏。
本当は納得なんてしたくなかっただろうことなのに受け入れてくれて許してくれた。

まあそれなりに千夏的なお仕置きはされたけど……

今はずっと手に入れたかった千夏がいるのに他の女なんてまったく頭にも眼中にもないっての。
だけど誤解させて傷つけちまった。

千夏がどうしてここに居るのか考えるのは後にしてとにかく千夏を捕まえるために俺は上手く
他の客や店員をよけて千夏の後を追った。


「千夏!」
「…………」

聞えてるくせに無視すんなっての!!

「いやっ!!」
「ちょっと待ってて!!誤解だから!!」

やっと階段で千夏の腕を掴んで捕まえた。
この居酒屋は6階建てのビルの3階部分にある。
エレベーターを待つ間に俺に追いつかれるのをさけて階段で下りたらしい。
酔っててもヒールのある靴の千夏と普通の靴の俺とじゃすぐに追いつく。

掴んだ瞬間それを振り払うように腕を振られた。
だからって離すかっての!

「今日は男友達と結婚祝いの飲み会じゃなかったの!女の子引っ掛けるのにワザと指輪してかなかったんでしょ!」
「だから違うって!指輪はワザとじゃなくてマジで忘れた。仕事中はしないって知ってんだろ?
時間遅れそうで風呂入ってソッコウ出かける準備して出てきたからホント指輪すんの忘れたんだって!」
「…………」
「さっきの子は前パンクしたタイヤを交換してやった子で今日ここで偶然会っただけだ。
かなり酔っててフラついたのを支えてやっただけだって」
「……抱き合ってたじゃない!!」
「俺は支えてただけだっつーの!!あの子の行動のことは知らん!!」
「じゃあ勝手に隼斗に抱きついたって言うの?それって隼斗のこと狙ってたってことじゃないの?」
「そういう下心はなさそうだった。なんか真面目な子でタイヤ交換したのを気にしてて俺にお礼したいって言ってただけ」
「それがどうしてあんなことになるのよ……」
「大分酔ってたからフラついたんじゃね?」
「…………」

ちょっとは俺の話を聞く耳を持ってくれたらしい。
スネながらも抵抗する気配が千夏からなくなった。

「指輪はホント悪かった。いつもちゃんとはめとくって約束だったもんな。ホントまじゴメン。千夏」
「…………」

そっぽ向いて俺を見てくれない……まだダメか?

「何度も言っただろ?やっと千夏を手に入れたって。なのにそう簡単に他の女なんて目移りするかよ」
「わかんないわよ……手に入れて……もう気が済んだのかもしれないじゃない。
良く言うじゃない。釣った魚にはエサをやらないって!!」
「あのなぁ……マジでそう思ってんのかよ?毎晩俺がどんだけ愛情込めて千夏のこと抱いてんのか
わかってねぇの?あれが千夏のことを飽きた男がすることか?」
「ちょっ……こんなところで恥ずかしいこと言わないでよ!」

俺の言葉に昨夜のことを思い出したのか一気に千夏の顔が赤くなる。
はは♪ 耳まで真っ赤。可愛いねぇ♪

「俺は全然かまわないね。今ここで言わなきゃ千夏に誤解されたまんまじゃねーか。
そんなの俺はヤダね」
「……隼斗」

おぉーーーー!!スネながら俺を見上げる千夏も可愛いこと!!
ヤキモチなんて久しぶりだもんな……千夏には悪いが嬉しいんだよなこれがまた♪

「千夏……」
「……ん……」

階段の壁に千夏を押し付けてちょっと乱暴にキスをする。
最初からクチュクチュと音がするほど激しくお互いの舌と舌を絡めるキスになって
千夏が俺を嫌がらずに受け入れてくれてることにホッとする。

そのあとはチュッチュッと啄ばむようなキスを何度もして最後は千夏の首筋に顔をうずめた。

「……は……ん……」

ちゅっと首にキスをすると千夏の身体がピクンと震えた。

「なあ……このままホテル行こうぜ」
「え?」
「我慢できねえし」
「ちょっ……」

千夏を壁に押し付けたまま首に唇が着くか着かないかくらいに近づけて誘ってみた。
片手は千夏の腰にもう片方はお尻から腿にかけて優しく手のひらを這わせてた。

「皆まだ……いるんでしょう?」
「知るか。大体どうして千夏はここに来たんだよ。どうせあの連中の誰かが連絡したんだろ?」
「……藤田君からメールが来た」

今夜は高校時代つるんでた奴等と飲んでた。
藤田は俺と千夏共通の友達で高校のときから連絡も取り合う仲だったから
奴が千夏のアドレスを知ってても不思議じゃない。

ただちょっとワルノリが過ぎるところがあって高校のときも面白半分に
千夏とのことをネタに遊ばれた記憶がある。
ただ奴のすることはいい感じに俺と千夏の関係を刺激することばっかで
時々は感謝することもあったりする。

それを狙ってかは定かじゃないが本当は面白そうだからだろうと思うけどな。
藤田から送られて来たメールにはご丁寧にもさっきの子が座敷で俺に倒れ込んだときの
写真つきだったらしい。

しかも添えられたメッセージは 『早く来ないと浮気されるぞ』 だった。

するかっての!!ったく!!
藤田の奴だって俺が高校のときどんだけ千夏を好きだったか知ってるはずだし
結婚の報告をしたときも俺のほうがびっくりしたくらいに喜んでくれたんだよ。

だから俺が浮気するなんてありえないっての一番わかってるはずが……

店に来て藤田のところに行くと俺がトイレ行ったと言われたらしい。
それでさっきの場面に出くわしたわけで……

「今日千夏は来ないのかってしつこく聞かれたんだよな……藤田に」
「もしかしてそれで?」
「ったく……」
「でも……あの写真……」
「それも俺は知らん。いきなり倒れこんできて本人もびっくりしてたっぽかったけど」
「まったく!!隼斗ってば女にチョッカイ出されやすいんだから!!」
「でも俺は誰も相手になんてしないけどな。こんなイイ女の嫁さんがいるんだし♪」

そう言ってちゅっ♪ っと音がするキスを千夏の頬にした。
その瞬間カシャリと音がしてフラッシュが光った。

「ん?」
「やっ……ちょっと!藤田君!!」
「へへーーー♪ いいのが撮れたぁ〜〜♪ 」

階段の上でこっちに携帯を向けてニヤニヤしてる男がひとり。

「トイレに行ってた女の子が戻ってくるなり隼斗が大変だって言うからさ〜」
「お前のせいでもあんだぞ」

下から見上げて睨んでも藤田は肩をつぼませただけでまったく気にしてない様子だった。

「お前が千夏ちゃん連れてこないからだろ?あんだけ皆会いたがってってたのによ」
「だからって誤解招くようなモン送んじゃねーよ!」
「ちょっとくらい刺激があってもいいだろ?ほら千夏ちゃん行こうぜ。皆待ってるからさ」
「だって……せっかくの男同士の飲み会でしょ?」
「もうすでに合コンと化してる」
「合コン……って?」
「!!」

千夏が疑いの眼差しでジッと俺を睨む。

「隼斗が女惹きつけるのは変わんないよな〜座ってるだけで女の子4人もお近づきなれたよ」
「4人?」

千夏が今度は呆れた眼差しを送ってくる。

「バッ……また誤解を招く言い方すんなっつーの!
たまたま隣にさっきのタイヤ交換してやった子が友達といたんだよ。
俺じゃなくて他の奴等が一緒に飲もうって誘って……
ホント俺は誘っても色目使ったりも浮気なんてのもしてねえからなっ!!」
「いや〜あのままだったら怪しかったかもな」
「だからなんでそういうことを言うんだよ!お前は!!」
「いいからふたり共早く行こうぜ。色々聞きたいこともあるし」
「はぁ……千夏ちょっとだけいいか?」

これ以上ここで藤田と言い争ってもしかたない。
諦めて千夏を促して階段を上がり始める。

「まあ……いいけど……本当に私お邪魔じゃないの?」

なんだ!?その本当にいいのぉ〜?的な横目は?

「いいに決まってんだろ!俺はなにもやましいことはしてねえからな!」
「こんなところまで来て嫁さんの身体弄り回してる奴が浮気なんてしないって。
ホントいいもん見せてもらった。ウンウン♪」

こいつ……どっから見てたんだ?もしかしてあのキスしてたあたりとかか?

俺に腰に腕を回されたまま階段を上がってる千夏は酒も飲んでないのに俯いた顔は真っ赤だった。
まあ千夏には誤解させちまったけど外で千夏とあんな濃厚なキスしたのなんて
今日が初めてだったんじゃないか?

「ニヤニヤしてんじゃねーよ。気色悪い」
「いや〜〜新婚っていいな〜〜っと思ってさ。しかも高校のときのお前等知ってるから余計な」
「藤田」
「ホントおめでとう ♪」
「……ああ……ありがと」

俺がお礼を言うと千夏はペコリと頭を下げた。
そんな俺達を見て藤田はこれまた嬉しそうにニコリと笑った。

時々迷惑な奴だけど悪い奴じゃないんだよな。
こいつにも早くいい相手が見つかればいいのにな……

なんて思った俺がバカだった。

皆が待ってる座敷に戻ると男共全員がニヤニヤしてた。
一緒の女の子達も俺と千夏を見てなにやら変な雰囲気だ?

しかも 『新婚はやっぱアツイねぇ〜〜』とか『本当はあのまま2人でしけこみたかったんじゃねーの』
とか野次られる。

「?」

ワケがわからず千夏と隣りあって座るとすかさずまた野次が飛ぶ。

「ラブラブだよな〜〜」

と携帯を目の前に出されなんだ?と思ってみてみれば……

「げっ!!」
「……ちょっ!!」

千夏も一瞬で顔が真っ赤だ。

「オイ!!藤田っ!!お前!!!」

その携帯の画面一杯にはさっき階段で千夏としてたディープキスがドアップで写ってた。
ご丁寧にも動画だ!動画!!
舌絡めてるのもハッキリわかる。

「結婚祝いもらっといてやるよ。いい記念になった」
「もらうの俺のほうだろ!!」
「あとでお前にも送ってやっから ♪」

そういう問題じゃねーんだよ!!!


そんな映像で盛り上がったあとにもう酔いも冷めたあの子が俺達に申し訳ないことをしたと
今にも泣きそうな顔で俺と千夏に謝ってくれた。

それでもまだあのときのお礼と言うのでじゃあタイヤ交換代500円くれと言って丸く収めることにした。

そのあとはおあずけになってたホテルに直行したのは言うまでもない。

いつもは一緒に暮らしてる親父達を気にして何気にセーブしてた俺と千夏。
特に気にしてたのは千夏だけどホテルとなれば誰にも何にも遠慮することはない。

久しぶりに思いきり愛し合った。

今まで千夏は “ホテルまで行ってする必要なんてない” なんて言ってたから
俺もあえてそれについては黙ってたけど……

この開放感と満足感の違い。
やっぱ月に何度かはホテルに来ようと密に心に決めた。

気を失うように眠った千夏をぎゅっと抱きしめて眠る幸せ。

俺はそんな幸せを実感しながら腕の中にいる千夏を追いかけるように眠りに落ちた。





Back    Next









   拍手お返事はblogにて…