ひだりの彼氏 番外編 ツバサ嫉妬する



01



         ☆クリスマス前のお話


「はい」

金曜日の夕食後どっちが先にお風呂に入るかなんて言ってたとき奈々実さんの携帯が鳴った。

「大輔君?」

ダイスケ?
奈々実さんの口から男の名前が出た。
そんなことは初めてでしかも聞いたことのない名前……一瞬でオレはイライラしだす。

「!!」

そんなオレの雰囲気を感じ取ったのか奈々実さんがビクリ!と身体を強張せると
ゆっくりとオレの方を向いた。

「…………」

オレはいつもの無表情でジッと奈々実さんを見つめる。
なんの感情も表情も出さないで奈々実さんを見つめてただけなのにナゼか奈々実さんが
さらに引き攣った顔をして青ざめてる。

「なに」
「…………」

オレの問いに奈々実さんはブンブンと首を振った。

「え?あっ……ごめん聞こえてる……うん……本当久しぶり。え?明日?いや予定はないけど……
え?うん……少しなら……わかった。じゃあまた明日」

どうやら会話は終わったらしい。
しかもナゼか明日の約束までして。

「婚約者の目の前で浮気の約束されるとはね」
「なっ!?だっ誰が婚約者?」
「は?そっから?高校卒業したら結婚するって約束したよね。なに?それは記憶の彼方」
「そ…そんなことはないけど……」

改まって確認されると照れるというか……恥ずかしいというか……

「わっ!」

バンっ!!と自分の顔の横に彼の両手が叩きつけられて壁と彼に挟まれる。

「え?……ちょっと……」
「奈々実さん」
「は……はい」

いつもの無表情の彼だけどまとってるオーラが違う。

これって……超不機嫌……よね?
怒ってる……のかな?もしかして?

「ダイスケって誰」
「え?あっ!」

クイッと顎を彼の親指と人差し指で掴まれて上を向かされた。

「さっきの電話の相手」
「あ……ああ……えっと……親戚の子よ」
「親戚?また取ってつけたようなウソ」
「ほ……本当だってば!うちの母親の妹の旦那さんの兄弟」
「そんな遠い親戚となんで電話するような仲なの」
「それは……あっちは歳の離れた兄弟で……大輔君は私より1つ下なんだけど同じ高校だったの」
「同じ?」
「そう。だからけっこう親しくなって……卒業した後もたまに会ったりしてて……
最近は大輔君が転勤になって全然会ってもいなかったし電話もなかったんだけど。本当に久しぶりで……」
「ふーん……高校の時って仲良かったんだ」
「まあ……他の男子よりは?だって親戚だもの話だってしやすいと言えばしやすいし……」
「奈々実さん」
「……はい……」

ぐっと彼の顔が近付く。
顔はいつもの無表情だけど目が怖い。

「親戚親戚って言うけど血はまったく繋がってないってわかってる」
「はい?」
「恋愛対象になりうるって言ってる。相変わらず無防備だね」
「そ……そんなことあるわけ……それに全然そんな素振りなかったし」
「その頃はね。今はわからないだろ。大体なんの用」
「さあ……多分久しぶりに話したいだけじゃない?昔もそんな感じだったし」
「そう」
「本当にあなたの気の回しすぎだから……今までそんな雰囲気になったこともなかったし……
たまに泊まっていったけど何事もなかったも……の……」

言ってからしまった!と思った。

「泊まった?」
「む……昔!昔ね!前に独り暮らししてたときにほんの数回……」
「…………」
「本当にそんな雰囲気なんてならなかったし……大輔君だって私にそんな下心なんて抱いてないと思うよ」

言ってからしまったとという顔をした奈々実さんを見てオレの余裕はあっという間になくなった。
奈々実さんがそいつとの恋愛関係なんて望んでないのは話を聞いててわかる。
でも相手の男はどうかなんてわかるはずない。

無防備で天然で鈍感な奈々実さんなんだから。
危機管理がまったくなってない!!泊まらせた?奈々実さん1人の部屋に?
冗談じゃない!!!

「…………ホント奈々実さんは無防備で……」

「あ……」

「オレをイライラさせる……」

「んっ!!」

当然のように奈々実さんの口をオレの口で塞ぐ。
いつもより強引なキスを奈々実さんに強いる。

抵抗なんてさせない。
もしかしたらそいつのものになってたかもしれないと思うとオレのイライラは最高潮で
自分の気持ちを抑えきれない。

そんな相手が今頃なんの用なんだ。

「ふぁ……ちょっ……息……できないってば……うぅ!!!」

オレから逃げようとする奈々実さんの身体をぎゅっと抱きしめて掴んだ顎を離すこともしないで
ずっとキスを続ける。

壁にそって奈々実さんの身体がズルズルと滑っていく。
オレは奈々実さんの身体を支えながら一緒に滑って床の上に2人で座り込んだ。

それでもオレは奈々実さんとのキスをやめない。

掴んでた顎から手を離して両腕で奈々実さんの腰に腕を廻して抱き寄せた。
そのあとも舌を絡める深い深いキスを交わし続けた。


奈々実さんがくったりと身体から力が抜けたのに気付いてやっと唇を離す。

「……はぁ……はぁ……もう……はぁ……バカ……息できないって……言ったのに……んっ……」
「……ハァ……ハァ……奈々実さんの自業自得」
「なによ……それ……身に覚えない……」
「鈍感も……いい加減にしてもらいたいよね……」
「言ってる意味……わかんな……ふぅ!」

そのあとも反抗的な奈々実さんが黙るまでオレの口で奈々実さんの口を塞ぎ続けた。



「オレも一緒に行く。じゃなきゃ行かせない」

そう言い切る彼に反論なんて言えるはずもなく私は素直に頷いた。

昨夜の二の舞は避けたいから。
あのあと唇がちょっと腫れてるんじゃない?なんて思うほどずっとキスで攻められた。

キスだけじゃすまなくて耳も首も甘噛みされるわ舐められるわ……とんでもない目にあった。

最初は強引だったキスも途中から優しいキスにかわって違う意味で胸がドキドキして苦しかったし……

『浮気は許さない』

だから浮気なんてしないし浮気したいとかもコレっぽっちも考えてないってば。
いい加減信じてくれないかしら。

そんなことを思いながら待ち合わせの駅のロータリーで待つこと5分。

ちょっと離れた所から私の名前を呼ぶ声が聞えた。





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