ひだりの彼氏 番外編 ツバサ・大学生活2



01






☆ 馬場視点です。


「ん?」

次の講義のために教室を移動するのに歩いてた俺の視界に珍しい光景が目に入った。

廊下であの三宅が女子と立ち話してる。
しかも三宅が持ってるプリントの束らしきものを二人で覗き込んで話をしてる。
ほとんど女子を自分の周りに寄せ付けない三宅にしては珍しいほどの密着ぶりで
しかも相手の女は時々三宅を見上げながら笑いかけてる。

「マジ?目の錯覚?」

三宅は女子が嫌いだ。
それは徹底していてこっちが呆れるほどだがナゼか結婚してる。

本人曰嫁さん以外の女子が嫌いなんだと。
昔余程女絡みで嫌なコトがあったのか?

ただ三宅はあまりそういう話はしないから本当のところどうなんだかわからない。
奴の秘密主義は徹底してて未だに俺は三宅の嫁さんに会ったことも写真ですら
見せてもらったことがない。

時々 『いい加減に会わせろ。じゃなきゃ写真くらい見せろ』 とダメもとで言ってみても
いつも同じ返事しか返ってこない。

『なんで見せる必要があるの。馬場が知る必要なんてない。欝陶しいから二度と言うな』

いつもの無表情でツラツラと宣言された。

『別に見たからって何もないだろ。ってか何もするつもりないし』
『万が一偶然にオレがいないところでバッタリ会ったりしたら声でもかけるつもり』

どんだけ嫁さん溺愛なんだっつーの。
見かけとは裏腹に三宅は嫁さん大好きの独占欲丸出しなんだよな。
大学で話すようになって気づいたけど。
まあその辺りは俺も三宅のことは言えないが。

そんな三宅が自分の傍に女の侵入を許してるとは!?
俺が目の錯覚かと思うのも無理ないだろう。

そのあと何か会話を交わして女が軽く手を挙げると離れて行った。
三宅は手にしたプリントを肩からかけたバックにしまうと何事もなかったように歩き出した。

「三宅」
「!」

呼び止めるといつもの無表情の顔を俺に向ける。

「さっきの誰だ」
「さっき?」
「ああ」
「…………3年の先輩?」

なんだそのやっと記憶の彼方から引っ張り出したような言い方と顔は?
もう忘れ去ったのか?

「知り合いじゃねーの?」
「別に」
「そのわりには親しそうに話してたぞ」
「目腐ってるの」
「あのな……その無表情のくせに呆れた眼差しやめろ」
「顔は生れつき」
「もういいって。なんか渡されてたろ?ラブレターか?」
「一度病院行けば」
「じゃあなんだ」
「なんだかプリント渡された」
「なんの」
「オレが探してた本の読みたかったトコのコピー」
「あ!図書館にもないって言ってたヤツか?」
「そう」

以前講義で教授が話した内容が気になって大学の図書館でその話が載ってる本を探したが
昔の本すぎて置いてなかったと言ってた。
なら話した教授に貸してもらえと言うとそこまでじゃないとアッサリと言われたよなと思い出した。

「彼女にそのこと話したのか?」
「話すわけないだろ」
「じゃあなんで」

それって素朴な疑問だろ?

「さあ」
「…………」

ああ……聞いた俺がバカだったよ。

「なんでお前がモテるのかさっぱりわからん」
「そう」
「なんだその余裕は」
「べつに」
「可愛くねぇ」
「鳥肌たつから二度と可愛いとかいう単語オレに言うな」
「だから俺はそんな気はナイって散々言ってんだろ。俺だって女がいいんだよ」

三宅に興味をもった俺をなにを勘違いしてるのか “あっち” で気になってると思ってるらしい。
俺はノーマルだしちゃんとつき合ってる相手だっているっつーの。

気づけばスタスタと歩き出してる三宅。
ったく相変わらずの自己チューな奴だ。

俺はそんな三宅を追いかけて一緒に大学をあとにした。


それから何度かあの時と同じような場面に遭遇した。

三宅は露骨に嫌がる素振りも見せずだからって積極的に話をするわけでもなく
相手の話をいつもの無表情で聞いていたみたいだった。

あの先輩と言うのが去年のミス・キャンパスで優勝した “田山 こずえ” ここの大学の3年生だそうだ。
まあちょっとした好奇心から名前くらいは調べてみた。
たまに見かけることもあるけど俺の目から見て遊んでるふうにも見えなかった。

考えてみれば高校のときも時々三宅が女子と話してるのを見かけたことはある。
女子が嫌いと言いながらまあごく普通の相手で話す内容がこれまた普通の話なら三宅も普通に話す。

要は我が強くてケバくて馴れ馴れしくてズケズケと三宅に入り込もうとする女子がダメなんだろう。
まあ俺もそんな女は好きじゃないけど三宅ほど露骨にしかもあそこまで邪険に切り捨てたりはしないけど。

だからたぶんあの女の先輩は当たり障りのない相手なんだと思ってた。


「こずえ〜〜あんたあの1年の子となかなかいい雰囲気じゃない?」

呼ばれた相手の名前でその声に反応した。

建物と建物の間でちょっと陰になってた場所にいたからか話し始めた2人は俺がいることに
気づかなかったらしい。

別に立ち聞きするつもりでそんなところにいたわけじゃない。
たまたま歩いてて遭遇しただけで、相手が俺に気づかずに話し始めただけ。

こずえってことはあの女か?
なんて思ってチラリと覗けば想像どおりのあの女だった。
相変わらずの清楚な感じの身なりとは対照的に呼び止めた女は露出度の高いピラピラした服を着てた。

もし里奈があんな格好をしてたら即お説教のお仕置き決定でどんだけその格好が無防備で
男の目を誘ってるかってのをわからせてやる。

いかに脱がせやすいかも実践で教えてもやるけど。

そんな女と親しいのかとちょっと疑問に思った。
まあ大学では色んな奴がいるしもしかして見た目ああでも中身は真面目とか?

「そう?結構ガード固くてさぁ〜なかなか落ちないんだよね」

は?
俺はそんな喋り方にちょっと驚いた。
何度か三宅と話してるのを聞いた話し方と声がまるで違う。

「でもイイところまでいってる感じじゃん?普通なら無視されてつきまとうなみたいなこと言われるらしいよ」
「だからこうやって真面目で控えめな先輩演じてんじゃない。まあ元々このスタンス続けてたけどさ」
「よくやるよね〜高校のときとは別人みたい。見かけだけは♪」

アハハと面白そうに笑う。
どうやら高校のときの同級らしい。

「流石にもうああいうガキっぽい格好と行動はしないよ。ロクな男も寄ってこないし
色々噂流されんのももう面倒だしさ」
「優等生に大変身ってわけ?」
「そのお蔭で教授の受けもいいし変な男は寄ってこないし。まあ毎日こんなんじゃ肩凝るけどね」
「中身は変わってないもんね〜〜 “年下食い” は健在ってワケ?」

年下食い?なんつーネーミング?

「だって可愛いじゃない?」
「でも確かあの1年って結婚してるって話だよ」
「ああそうみたいね、指輪もしてたし。でもそんなの関係ないじゃん。結婚してたって恋人がいたって
浮気する男はごまんといるし。誘いに乗って浮気する男が悪いんだからさ。奥さんや恋人が好きなら
誘いに乗らなきゃいいのよ。それをホイホイ乗ってくるんだからそれほど奥さんや恋人に魅力がないってことじゃないの?」
「でもまだ落ちないんでしょ?」
「なんだよね〜〜チャラチャラしたのがダメなの知ってたからコレなら簡単に落ちると思ったんだけどさぁ。
ロクに会話も続かないんだよね。無視はされないけどさ」
「いい加減諦めたら?こずえなら他に狙えるじゃん」
「まあねぁ〜〜」
「何人か教授ゲットしてんでしょ?聞いたよ〜〜有名なレストランわざわざ予約までして
食事に誘われたりとかしてんでしょ?」
「ああ……ちょっと微笑んでお慕いしてますぅ〜〜みたいな素振り見せたら簡単だったわよ」
「まったくよくやるよ」
「だってぇどうせ通うなら楽しいほうがいいじゃない」
「卒業するまでどれだけの男があんたの餌食になるんだろうねぇその外見に騙されてさぁ」
「アハハ♪ 上手くやるから大丈夫よぉ〜〜」
「でもあの1年のボウヤは上手くいかなさそうだね」
「今まで誰も落とせなかったっつーからやる気になったんだけど……まあそろそろかなぁとは思ってるんだけどね」
「へえ〜じゃあついにこずえの手に落ちるってことね?ひゃあ〜〜その瞬間見てみたいな〜〜」
「いいよ〜〜そんときは連絡するからさ見せてあげるよ。キスくらいならいけそうだと思うんだよね」
「おお〜〜すごい自信〜〜」
「チョロイって。あの子私が傍に近寄ったって嫌がる素振りないしね〜」

チョロイ……か。
確かに三宅は露骨に嫌がったりしてはいないと思う。

ただ……相手はあ・の・三宅だからなぁ……。
俺もその場に立ち会えねぇかな?すんげー興味あんだけど。

「それに私の飲んだ飲み物のペットボトル捨ててくれたりするのよ」

ほーーそんなことを三宅がすんのか?
確かに珍しいかもな……三宅にしてみたらとんでもないくらいの歩み寄りじゃないのか?

とりあえず三宅には2人の話は黙ってることにして様子をみることにした。
だって相手は三宅だからな。

心配よりも好奇心の方が強かったってのが本当のところだった。





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