ひだりの彼氏 番外編 認めた日



01






「やだぁーアンタそっくり!」
「やだの意味がわからないんだけど」

李舞が産まれて奈々実さんの実家に連絡をいれた。
わらわらとやって来た奈々実さんの両親と安奈先輩家族。

ニコニコとガラス越しに李舞を見てる奈々実さんの両親達の横で、安奈先輩がそんなことを言う。

「だって目元そっくりじゃない」
「親子なんだから当たり前」
「きっと無表情で可愛いげないのかしら?女の子なのに可哀想だわね」
「は?」
「お姉ちゃんにちゃんと言っておかなきゃね。女は愛嬌なんだし」
「…………」
「ああ、でもアンタに似てるならモテるんじゃない?」
「男なんて寄ってこなくていい。ウザイ」
「やだ!今から親バカ?」
「人生の経験者からのアドバイス」
「アンタは極端なんだからお手本にならないでしょうが」
「これ以上ないくらいのお手本になる」
「そんなに可愛い?」
「当たり前」
「本当に?」
「疑われる意味がわからない」
「だったらにっこり笑いなさいよ!なんで相変わらずの無表情なのよ!ほら、笑ってみ?にっこりと!こうやって!」

言いながら安奈先輩がオレの口の両端を人差し指で笑顔を作るように持ち上げた。

「あのね」
「…………」
「?」

安奈先輩がなにか見ちゃいけないモノでも見たように目を見張る。

「なに」
「いやさ……いつもならあたしなんかに触れさせないじゃない。アンタお姉ちゃん以外に触られるの
極端に嫌がるくせにあたしの手を叩き落としもしない。やだ本当に嬉しいんだ」
「まったく……さっきからそう言ってる」
「アンタもだいぶ変わったわよね」
「そう」
「でも本当に予定日に生まれるなんてね〜普通ずれたりするんだけどね。まさかクリスマイブに生まれるなんてさ。
ツバサから連絡もらったとき、今まさにケーキにナイフ入れるところだったんたから。まあクリスマパーティーが姪っ子の
誕生のお祝いになるなんておめでたいことだけど」
「だから今日生まれるっていってたのに」
「あくまでも予定日は予定日なんだって」
「李舞は今日生まれるって決まってたの」
「はあ?」
「なに」
「なに?名前 “いぶ” っていうの?決めたの?」
「当たり前」
「…………」
「なに」
「ちょっと!本当にヤダぁ!!やめてよね!!」
「!!」

心底面白そうに言うと安奈先輩がオレの頭をグシャグシャとかき回す。

「?」
「あんた自分のキャラわかってんの?」
「は?」
「いや〜〜いいもん見せてもらったわ。これからも楽しませてもらうからさ♪」
「?」
「あたし達はもうちょっとこの子見てるから、ツバサはお姉ちゃんのところに行ってなよ。帰るとき声かけるから」

そう言われて奈々実さんのいる病室の方に向かって背中を押された。



「奈々実さん」

病室のドアを静かに開けて中に入ると、奈々実さんは目を瞑ってた。

昼間ここに来たときとの痛みを堪える顔ではなくて、疲れてはいるけどどこかホッとしてる顔だ。
寝てるのかと思ったけどどうやら目を閉じてただけみたいだ。
ベッドの傍に近づくと気配でわかったらしい。

「みんな見れた?」
「うん、李舞も起きてたよ」
「そう」

寝てる奈々実さんの額に手を伸ばしてそっと撫でた。

「疲れた〜〜」
「お疲れ様」
「そういえばどうして入ってきたの?」
「なに」
「お産の立会いはいいって言ったでしょ?」
「ああ」

確かに前々からそう言われてた。
オレがいると逆に緊張するし恥ずかしいし、男にはあまり受け入れられない状況になるかもしれないからって。

「最初から立ち会う気だったけど」
「はあ?」
「相変わらず奈々実さんは抜けてるからすぐに騙される、気をつけたほうがいいよ」
「あのね……」
「次も立ち会う」
「え?次?」
「なに?子供ひとりでいいの」
「え?」
「オレとしては3人くらいほしい」
「ええ!?」
「驚くところ」
「えっと……なんとな……く?」
「まあいいけど」
「…………」
「なに」

奈々実さんがなにか言いたげな視線をオレに向ける。

「えっと……いや……その……」
「どこか具合でも悪いの」
「えっ!?べ……別に!」
「なんだか奈々実さん挙動不審。まだ初めてのお産で気が高ぶってる?」
「ち、ちがうわよ!そうじゃなくて!!」
「じゃあなに」
「いや……あなたのほうが初めての子供誕生で気が高ぶってたんじゃないの?かなって」
「?」

ひとりで病室に入ってきた彼はいつもと同じ、至って普通な態度だった。
怒涛の初めての出産を終えて、やっと病室でひとり落ち着いたらそういえばとあることを思い出した。

────── 好きだよ奈々実、愛してる

確かに私の耳には彼の声でそう聞えた……わよね?そうよね?
でもあのときはなにがなんだかわからない状態で、突然現れた彼にびっくりもしたから。
もしかして幻聴だったんじゃないかと今さらながら自信がない。

だって……彼がそんなセリフ言うのかしら?
っていう思いのほうが強い。

「…………」
「…………」

お互い沈黙でしばらく見つめあってしまった。

「?」
「あのさ……」

「お姉ちゃんおめでとう〜♪」

あのときの言葉を確かめようと思ったら、安奈達が病室に入ってきて聞けなくなってしまった。


一通りの挨拶と話をして、両親と安奈達家族が帰っていった。
これから帰ってクリスマス・パーティをやり直すそうだ。
李舞の誕生祝いも兼ねて。

「そういえばウチはクリスマスの用意してなかったよね?」
「だってどうせお産になるんだから無駄になる」
「…………本当に今日だって信じてたんだ?」
「約束した」
「…………」

誰となんて聞かなかった。

結局、面会時間が終了になってその日はそれで彼は帰って行った。





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