ひだりの彼氏


05




「奈々実さんこれ観るんだ。」

「………」

なんでだか振り切れず…ついて来られた…

しかも人を呼ぶ時に『安奈先輩のお姉さん』って言い続けるから…
仕方なく名前まで教えてしまった……くぅ!!

「どうせ観ないでしょ…こう言う映画…」
「なんか意外…」
「………」

何だかむしゃくしゃしてたからアクション系で主人公がバッタバッタと
敵を倒していく内容の映画を観るつもりだったんだけど……

そっか…他の映画にすれば良かったんだ…誤魔化せば良かったのに…

でも今は恋愛モノは観たくないし…アニメもパスだし…

「何?ストレス解消?だから1人で?」
「う…うるさいわね!別にあなたに付き合えなんて言ってないでしょ!他行きなさいよ!」
「彼氏に浮気でもされたの。」
「!!」

また無表情でサラリとそんな事を言うからホントにカチン!と来た!

「あ…もしかして地雷踏んだ?」
「………」

私は無視を決め込んでチケットを買いにカウンターに向かう。

そうよ地雷踏んだわよ!しかも思い切り大きなのをねっ!

「1名様で宜しいですか?」
「は…」
「2名で。」
「なっ…」

横から割り込まれてさっさと1人分の料金を出す。

いつの間に…

「はい2名様ですね。席の指定が出来ますがどちらが宜しいですか?」
「あ…」
「ここの2名席で。」
「ちょっと…」
「ではJ列の25番と26番になります。ありがとうございました。」
「あ…後5分で始まる。ピッタリ。」
「もう何勝手に決めてるのよ!」
「せっかく来たんだしオレは1人で観るのやだから。」
「私は1人で良かったのに!帰れば良かったのよ!」
「誘っといてそれはヒドイ。」
「いつ私があなたを誘ったのよ!」
「オレに映画観に行く事話した。」
「だから?」

「一緒に行って欲しいんだなーって。」

「………」  「………」

何でそんなに無表情で言うんだか!!
しかも相変わらず眠そうな顔して……

「始まっちゃうけど。」
「え!あ…」
「オレポップコーン食べたい。あと飲み物も。」
「勝手に買いなさいよ!」
「無収入の学生に出させるの。」
「バイトしてないの?」
「さあ。」
「む!………どれ?」

こっちがムキになる。

「んーキャラメル味とメロンソーダ。」



「J…J…」
「こっち。」

席は真ん中辺の端で2名分の席。

「ホント端っこじゃない…」
「ここでも良く観えるよ。それに隣に誰も来ないし楽。」
「え?」

彼が奥に座れって顎で合図する。

「え?何で私が奥…」

その時上映開始のブザーがなったから仕方なく奥の席に座った。

「何で私が奥なの?」
「これなら逃げられない。」
「は?」
「だってこんな薄暗くて座り心地良さそうな席だから昼寝にちょうどいいでしょ。」
「は?」
「終わったら起こしてもらうからさ。だから奥。」
「………」
「置き去りにされるのは勘弁だからね。だからちゃんと起こして。」
「ここまで来て何で昼寝?お金勿体ないじゃない!ちゃんと観なさいよ!」
「えーだって興味無いし。」
「だから何でついて来たのよ!もう…」
「だから暇だから。」
「………」

本当かどうか怪しい…

「そうだ!聞きたい事があったのよ!」

「後でね。始まるから…」



映画が始まって10分…彼はまだ寝ないでポップコーンを食べてる。
私は結局彼が気になって映画所じゃない…

一体何を考えてるんだろう…この子…何で私なんか構うのか…

『あーん。』
『は?』

いきなり彼が振り向いてポップコーンを1つ摘んで私の目の前に見せる。

『あーん。』
『………』
『あーん。』

薄暗い中でも彼がニッコリ笑ったのがわかった。
それに驚いたからなのかそれともただ単に食べたかったからか…
思わず口を開けたらポンと口の中にポップコーンを1つ放り込まれた。

口に入った瞬間にキャラメルの甘い味が口の中に広がった。

『美味しい…』

素直な感想を言ったのに…

『食べたいならさっさと口開けてよね。』
『は?』
『物欲しそうに見てるんだから…買う前は文句言ったクセに…』
『誰が物欲しそうな顔してるのよ!』
『してたよ。ずっとこっち見てたじゃん。』
『み…見てないわよ!』
『はいあーん。』
『!!』
『あーん…』
『………』

またニッコリ笑うから…

『あ〜ん…』

と口をあけた…

『はいあーん』
『え?あ…』

それから次々と口にポップコーンを放り込まれて…

『ふぐっ…そんなに…入らないわよっ!!』
『ぷっ!!!くっくっくっくっ…………』
『……………』

彼が反対を向いて肩を震わせて笑ってる…

『な…もごっ…によっ!!』

もう周りを気にして大きな声も出せないし口の中はポップコーンで一杯だし…

『犬みたい……くっくっ……』

『!!!』

かーーーーーっっ!!ムカつく!!


誰があんたなんか相手にしてやるもんですか!!

と…それからはひたすら彼を無視した!!





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