ひだりの彼氏


04




「あー安奈センパイのお姉さんだ。」


休日に駅に向かう途中でそんな声を掛けられて振り向いた。


「いっ!!」

なんでーーーー!?
振り向いたらこの前うちに遊びに来た安奈の後輩……

確か…名前は「 翔 (tubasa) 」だったっけ?


「あれ?オレ何か失礼な事したのかな?」

あまりにも私の態度がイマイチだったもんだからそんな事を言われてしまった…

「いえ…そんな事無いです…」

思わず敬語になってしまった…

きっと失礼をしたのは私の方です…あんなとんでもないモノを見せてしまって…
だからこんな態度なんですけど…これ以上は私からは話し掛けられません…

「じゃあ…これで…」

別に話す事も無いし…どうせ話も合わないだろうから…

「もしかして…この前オレのした事って余計な事だった?」

「!!」

思わず彼の顔を見てしまった!

相変わらずの無表情で何考えてるかわからない…

「べべべ…別に当たり前の事をしてくれただけじゃないかしら…じゃあ…」
「その割には何だか態度変だよね?」
「……いえ…多分…そんな事は…じゃ…じゃあ…急ぎますから…」
「どこ行くの?」
「え?あ…ちょっと映画を見に…」
って何正直に話してるの?
「今日は車じゃ無いんだ。」
「上映してる場所が車で行った事無い場所だったし…駅ビルの中だから…
ってやっぱり私の事覚えてるんじゃない!」
「なんで?普通覚えてるでしょ?それにオレ顔覚えてるって言ったじゃん。」
「……確かに…」

2度目に車に乗ってきた時確かにそう言ってた…

「でも何で知らん顔してたの?」
「あそこで知ってるなんてバレたら根掘り葉掘り聞かれてたし…メンドイじゃん。」
「…………」
確かにそうかもしれないけど…

「オレも一緒に行こうかなー」
「ええっ!?……あっ…」

つい思い切り叫んで思わず手で口を塞いだ。

「なんでそんなに露骨に嫌がるの?」
「い…嫌がると言うか…なんで?」
「え?暇だから。」
「だって…何か用事があって歩いてたんじゃないの?」
「………さあ…?」
「は?」

何なの??コイツは…わけわかんない!!

「まあここで会ったのも何かの縁じゃないの。」
「……そ…そう?」

いくらご縁でも私には関係無いんだけど…
大体彼は私よりずっと年下で…接点が無くてハッキリ言ってそんな親しくもない…
確かに面識はあったけど別にだから何ってわけでもないし…

それじゃさよなら…でも全然OKだと思うんだけど…

「あ!私寄らなきゃいけない所があったんだ!」

ポン!と手を打って今思い出しまた!とばかりに声を上げる。

「?」
「じゃあここで…」
「じゃあオレもついて行こうかな。」
「はあ?」
「あ!露骨に嫌がった。」
「あ…あのね…安奈の後輩だって言うのはわかってるけど…いい加減にして!」
「何をいい加減?」

「……はぐらかさないで!こう言うのよ!察して欲しいんだけど…
安奈の後輩でちょっと顔見知りだから邪険にするのも悪いと思ったけど…
もう私に付きまとわないで!」

何でマトモに話もした事無い妹の後輩にこんな事言ってるんだろう…
しかも相手は高校生で…こっちが年上のくせに…大人気ないな…

どうしてもうちょっと融通が利かないんだろう…
でも迷惑は迷惑だから…いくら年下の高校生でも男は男だし…

このくらいハッキリ言えばいい加減わかるでしょ…

「じゃあ…」

短い挨拶だけして彼に背中を向けた。

「安奈センパイとは随分性格が違うんだ。」
「なっ…」

まだついて来る!!

「ちょっと…」

一緒に隣歩かないでよ!!

「安奈センパイはオープンですぐ誰とも仲良くなるのに…」
「……悪かったわね…根暗で!」
「誰もそんな事言ってないじゃん。」

「……………」

言われなくたってわかってるわよ…そんな事…
子供の頃からずっと言われてて…皆私が傷付かないとでも思ってたのか…

1人暮らしを止めて戻った時だって恋愛経験の少ない私じゃ仕方ないみたいな感じで言われて…
戻った時のあの周りの気まずい雰囲気と言ったら…
やっぱり安奈みたいに少しは男の免疫つけてた方が良かったのに…なんて言われて…
大体当事者の私より落ち込んでどうすんのよ!こっちが余計傷付くじゃない……

なんて嫌な記憶までも思い出してしまった……彼のせいだ!

「え?何?何でそんな睨むの?」
「別に…いいから!サヨナラ!!」
「安奈センパイのお姉さん。」
「何?」

「映画行かないの?」

「はあ??」

「だから露骨に嫌な顔しないでよ。」
「するわよ!イヤなんだからっっ!」
「何で?」
「!!!」
「?」

本当にわかって無い顔…なのかしら?でも相変わらず無表情でわからない!!


でももうそれ以上は話すのも面倒で…何も言わずに駅に向かって歩き出した。





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