ひだりの彼氏


Rおまけ




「ごめん……その……今日は無理で……」

「…………」

布団の中で奈々実さんがオレを見上げながら申し訳なさそうにそう言った。

「そう」
「……うん」
「嬉しい」
「え?」

しゅん……となってる奈々実さんが不思議そうな顔でオレを見てる。

でもそれは当たり前かもしれない。
子供ができてなかったのにオレが嬉しいなんて言ったから。

「どうし……て?」

奈々実さんが小さな声でオレに尋ねる。

「だって子供ができてなくて奈々実さんもがっかりしてくれたんでしょ。
それって奈々実さんも子供を望んでるってことでオレだけが望んでるんじゃないってことだから。
奈々実さんがまだ悩んでたときに勝手に結論だしたのオレだし。だから」

まあ今回は子供ができるか五分五分だった。
ギリギリでどうかなって思ったけどやっぱりダメだった。

奈々実さんの身体のサイクルがなんでオレがわかるのか……
まあ伊達に一緒に暮らしてないとしか言いようがない。

「身体大丈夫」
「え?あ……うん」
「そう」

オレは奈々実さんの返事を聞いて覆いかぶさってた奈々実さんの上から
いつもの定位置の隣にズレる。
そのまま奈々実さんの身体に腕を廻す。

「おやすみ。奈々実さん」

そう言って奈々実さんのオデコにおやすみのキスをした。

「おやすみ……」

奈々実さんは俯いたままオレの胸に顔をうずめて寝る体勢になる。
オレはそんな奈々実さんの頭に唇を押し付けたまま目をとじた。


そういえば最近奈々実さんはオレに 『今のはキス?』 って聞かなくなった。

大分前から聞かれても 『キスだよ』 って答えるから聞く必要もなくなったのか。

奈々実さんと知り合ってからも最初のうちはただ唇に触れるキスはキスだとは思ってなかった。
口移しも奈々実さんが気にしてるのが不思議だったくらいだし。
気にする奈々実さんが面白くて隙を見つけてはそんなことをしてたなと思う。
隙を探さなくてもチャンスはあり放題だったけど。

それなりの大人があんな無防備でいいのかと思ったくらいだ。

でもそんなキスや口移しも奈々実さん以外にはしたいとも思わないのは最初からどれだけ奈々実さんが
オレにとって特別だったかってことなんだけど今からその時のことを思い返せばそうだったのかと思える。

その時はそんなことコレっぽっちも思わなかったのはそれもこれも全部今まで関わってきた
絢姉さんや絢姉さんの友達や泉美のせいだ。

もう奈々実さん以外の相手とキスをすることなんて一生ないと断言できる。
奈々実さんもそうだと思うしそうしてくれないとオレが許せない。

普段あまりそんな想像をしないオレだけど珍しくそんな場面を想像して1人でムッとなる。
今まで自覚のなかった所謂これが『嫉妬』なんだ。

なんせ奈々実さんは無防備だから……他の男との接点はなるべく避けるように仕向けてるオレ。
職場もオバサンばっかりでって言ってたし上司も既婚者が多いらしい。
だからって安心はできない。

一度迎えに行く振りをして会社にも行った方がいいのかとも思い始めた。

そんなことやこれから奈々実さんが妊娠する可能性を考えて自動車の免許も取ろうと思ってる。
だから短期でバイトも視野に入れたりと何かと忙しい気がする今日この頃だ。

でもね……奈々実さん。
それが全部奈々実さんのためならオレには全然苦ではないんだ。

何事にも無関心だったオレに 『嫉妬』 なんて気持ちやその他諸々の感情があることを
わからせた奈々実さん……恐るべしだよ。

奈々実さんは自分が年上だってことに負い目を感じてるみたいだけどそんなこと本当は何も気にすることではない。

これからもオレは奈々実さんに縛られる……でも奈々実さんも今まで以上にオレに縛られてほしい。

法律で縛って家族で縛ってオレで縛って身体で縛って…今度は子供で縛ってあげる。
それでやっと奈々実さんは安定するんだろうか。

ウトウトとしだした奈々実さんの前髪をよけて現れたオデコにまたキスをした。

未だに奈々実さんに 『好き』 と言っていないけど考えてみたら
奈々実さんだってオレのことを 『好き』 と言ったことがない気がする。

「どんな夫婦」

クスリと小さく笑ってしまった。

半分はオレのせいなんだろうけど奈々実さんも奈々実さんだよね。
似たもの夫婦なのか。

「先に奈々実さんに言ってもらおう。奈々実さんに言われたら嬉しくてオレだって言いたくなるかもしれないし」

奈々実さんに出会うまで 『人を好きになる』 ことがなかったオレ。
だからその言葉を言ったらオレはどうなるんだろう。
まるで未知の世界だ。

オレを理解してくれてる奈々実さんはオレにその言葉は求めてこない。
欲しくないんだろうか?なんて思うけどその言葉がなくてもオレの気持ちは伝わってると
奈々実さんのすべてが実証してくれてる。

「奈々実……」

オレは小さく名前を囁いて……奈々実さんを腕の中に抱き寄せて眠ることにした。





「……んあ……やっ……」

「イヤじゃない」

「だって……あっ!あっ!んあっ!!」

あれから10日ほど経ってここ数日間は毎晩奈々実さんの同じ声がベッドの上で繰り返されてる。

「どうしてイヤっていうのかわからない。逃げないで奈々実さん」

オレの腕の中に閉じ込めて身体中にキスをしてるのに奈々実さんが逃げようとする。

「あっ!……だって……朝も……したじゃない……ハァ……んくっ!」
「朝は朝。今回で決めるつもりなんだから気合入れて」
「気合って……うっ……あっ!ああっ!!」

初めて奈々実さんを抱いてから大分経ってると思うのに相変わらず奈々実さんの反応は恥ずかしがってる。
どうして。

久しぶりなのは知ってる。
大学受験と卒業を控えてた時は大人しくしてたけど……でもこんなことはいい加減慣れたと思ったんだけど。

「だっ……今までこういうこと……そ…んなにしたことないし……」
「だって奈々実さんオレが初めてじゃなかった。前の彼氏としたことあるよね」

自分で言いながら鳩尾辺りがイライラしてムカムカする。

「あ……あんまりそういうことに……あ……せ…積極的な人じゃなかったっていうか……んっ……
私も自分からなんてなかったし……わ…別れる前は何ヶ月も会って……なかったから……」

「ふーん……で?」
「……え?……やっ!」

そんな話をしながらオレは奈々実さんを攻めることを止めたりしなかった。
話しながら奈々実さんの身体はずっとオレの下で揺れ続けてる。

時々堪えきれないようにオレの腕を強く握ったり口を自分の手の甲で押さえたりしてた。


「他にどのくらい」
「え?……なに?どのくらいって?」

言いながらまた自分の首を自分で絞めてるのがわかる。
ホント 『嫉妬』 という感情は面倒で自分自身で持て余してしまう。

「あと何人が奈々実さんの身体を知ってるのって聞いてる」
「へ?ひゃっ!ああっ!!」

なかなか話さない奈々実さんの背中に腕を差し込んで抱き上げてベッドに着いてた片手を
踏ん張って2人してベッドの上に起き上がる。

「いやっ!!ちょっ……んあっ!!」
「だからイヤじゃないって」
「だって……ぅ……」
「こんな格好も初めて?奈々実さん」
「もう……やあ……」

オレの膝に跨るように座らされた奈々実さんが顔を赤くしながら震える手でオレの肩を掴んで俯いた。

「何人」
「んっ!」

背中に廻してた腕を滑らせながら奈々実さんの腰に廻して自分の両腕を繋ぐと
そのまま奈々実さんの腰を上からオレの方に押し付けた。
グッと押し付けられた奈々実さんの身体がビクンとなってフルフルと震えてる。

「は……ぁ……」

目を瞑って何かに耐えてるような奈々実さんの顔をジッと見つめてオレは口を開く。

「奈々実」
「!!」

俯いてた顔をゆっくりと上げてオレを見てくれた。

「オレの名前呼んで」
「………」
「全然呼んでくれないよね。オレいつも待ってるんだけど」
「………」
「呼んで。オレの名前……」
「……ツバ……サ」
「そんな小さな声じゃなくてもっとちゃんと呼んで」
「ふ……んっ」

奈々実の腰に腕を絡ませながらキスをする。
角度を変えて何度も啄むようなキスを繰り返してフワリと開いた奈々実の口の中に
自分の舌を滑り込ませた。

そんなオレの舌に寄り添うように舌を絡ませてくれる。

「教えて。他にどれだけの男が奈々実の身体を知ってる」
「だ……誰も……ぁ…いない……あなたと……2人……だけ」
「本当に」

オレの膝に座ってるからいつもよりちょっと目線の高い瞳をじっと見つめて問いかける。

「本……当……」

こんなときに嘘なんてつけるような奈々実じゃないことはわかってたから
きっと今言ったことは本当のことなんだと思う。

「そう」

ならソイツのことなんて思い出せないくらい抱いてしまえばいい。

「奈々実」
「?」
「名前呼んで」
「………」
「呼んで」

オレは何度もねだってしまう。
子供の頃から誰にもねだったりお願いしたりなんてしなかった……

でも奈々実にはねだってお願いしてしまう。

「ツバサ……」
「うん」

奈々実の腕が向かいあってるオレの首に廻されて視線を合わせられる。

「ツバサ」
「奈々実」
「ツバサ」

奈々実の顔が近づいてオレの耳に唇が触れたまま名前を囁かれた。

普段名前で呼ばれていない分その破壊力は絶大であっさりと自分の中の
ストッパーが外れたのがわかった。

わかったからって止まるはずもなくそのあとは奈々実が意識を飛ばすほど時間を忘れて抱き続けてた。


次の日……
奈々実さんにこっぴどく怒られたけどそれから奈々実さんに月のものが訪れることはなかった。

絶対この時にできたんだとオレは密に思ってる。

まあ終わりよければすべてよし。
ということで出産予定日は12月だそうだ。





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