オレの愛を君にあげる…



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「んっ! んっ! んっーーー! うっ…あっ…」
「ちゅっ♪ ちゅっ♪」

違和感を感じて目をあければ、目の前には目を瞑った椎凪の顔。
しかも椎凪に両手で顔を押さえられて、唇にキスの嵐!!

「し…椎凪っ!?」

やっとの思いで手を伸ばして、椎凪をちょっと遠くへどかす。
顔を逸らしたまま、目の前の人物の名前を呼んだ。

「耀くんおはよう。目、覚めた?」
「…………」


椎凪の……朝オレを起こすキスが、どんどんエスカレートしてきてる気がする。




「はーーー」

ここは『TAKERU』のオフィス。
大学の帰りに、ちょっと寄り道。
今日、椎凪は仕事中だから、オレひとりで訪ねてきた。
そうそう仕事が、キリよく終わるなんてことはないから。

「どうしたの? 寝不足?」

疲れモード全開のオレが溜息をつく姿を見て、社員の卯月さんがオレに声をかけた。

「ううん……毎朝起きるのに、身の危険を感じて……」
「身の危険? なに? そんなハードな目覚まし時計なの?」

ビックリしたように、オレに聞きなおす。

「え? まぁ…ウン…ちょっと…ね。自分で起きれればいいんだけど、オレ朝どうしても苦手で…」
「あー私もダメ! でもその目覚まし時計って、絶対に起きれる?」
「え? ああ…うん。起きないと危ないから…」

いろんな意味で、自分の身が。
あれは放っておいたら、いつか身包み剥がされてそうだもん。

「えーいいなぁ。使ってみたいなーどこで売ってんの? それ」
「え? あ…いや…非売品……というか、限定品で一個だけって……いうか……」
「なに? 貰い物?」
「いや…その…なんて言えばいいか……」

オレは言葉に詰まって、シドロモドロ。

「んー?」

卯月さんが不思議そうな顔してる。
そのとき入り口のドアがガチャリと開いて、慎二さんが飲み物を持って入って来た。

「ダメですよ、卯月さん。それは“耀君専用の目覚まし時計”ですから。ね? 耀君」
「え? そうなの?」
「うーーーー」

オレは返事に困って唸るしかない。

「椎凪さんに、毎朝キスで起こしてもらってるんだよねー♪」

からかうように、慎二さんが笑いながら言った。

「えっ!?」

卯月さんがその言葉に、もの凄くビックリした声を出した。
そりゃ驚くよね。

「ちょっと、慎二さんっ!!」

オレは顔が真っ赤。

「えっ? えっ? ウソっ!! あなた達、そう言う関係?」
「ちっ…違うよっ!! オレと椎凪はただの友達っ!! 椎凪がふざけてするだけで、
オレは別に…それにオレ達…男同士だし…」

オレはアワアワと慌てふためいてる。

「ふーん」

そんなオレを見て、卯月さんの返事は納得してないみたいだった。
それに、なにか“ピーンと来ちゃった”って感じの顔をしてた。
そして慎二さんと視線を合わせると、慎二さんはニッコリと笑った。
オレはそんなふたりを見て“?”顔。

「じゃあ、椎凪さんが他の誰と付き合っても構わないのよね?」
「え?」

いきなりそんな話をフラれて、返事に困る。

「前から紹介しろって言われてるのよね〜知り合いに」
「………え?」

それって……どういう?

「ふたりが“そういう関係”じゃないなら、さっそく椎凪さんに連絡しよーっと」
「え!?」

慎二さんがニコニコ笑いながら、オレと卯月さんのやり取りをずっと眺めているのに、オレは気がつかなかった。

そのくらい、卯月さんの言葉にオレは慌ててたらしい。




それから何日かして、椎凪が食事のあと出かけるって言いだした。

「え? 出かけるの? これから?」

そんなこと……初めてかも。
事件でさえ、呼び出されることは滅多にないのに。

「うん、卯月ちゃんに呼ばれててさ。ゴメンネ、耀くん」

申し訳なさそうな顔でそう言ったわりに、椎凪はオレに手を振るとサッサと出かけて行った。
オレはひとり残された玄関で、しばらく椎凪が出て行ったドアを見つめてた。

そして日付が変わるころ椎凪は帰ってきたけど、オレはもう自分の部屋のベッドの中だったし、
椎凪もそのまま自分の部屋の入ってしまったから、次の日の朝まで会うことはなかった。
朝食のときでもお互い昨夜のことには触れなかったから、椎凪がどこで飲んでどんなことをしてたのかなんて……オレは知らない。



それから数日経った別の日の夜。

「おかえり……遅かった…ね…」

椎凪が、事件でも瑠惟さん達との飲み会でもないのに遅く帰ってきた。

「ごめんね。卯月ちゃんに誘われちゃって断れなくて……」

申し訳なさそうな顔で椎凪は謝るけど……なんかオレは気分が悪い……変なの。

『前から紹介しろって言われてるのよね〜知り合いに』

卯月さんのあの言葉……椎凪ってば卯月さんに女の人を紹介してもらったのかな?
その人と、ふたりっきりでお酒とか飲んだのかな?
もしそうだとしても、椎凪はそういう相手、上手そうだもんな……。
最近は、髪の毛伸ばして、カッコよくなってるし……モテるの…… 仕方ないよな。
背も高いし……やさしいし……独身の男の人だし……。
うまく…いってるのかな…卯月さんの紹介された人と……。

オレは前にも増して気分が悪くなってる。

これって……なにか病気なんだろうか?




「目、覚めた?」

椎凪が寝起きのオレの顔を両手で挟んで、覗き込んでる。

「んーー」

オレは眠い目を擦りながら、返事をする。
椎凪は相変わらず毎朝起こしにきてくれる。
でも……最近椎凪は、オレにキスしてこないんだ。
そりゃ、ずっと“キスしないで!”って言ってたけどさ……なんでこのタイミングでしなくなるわけ?
もしかして……他にキスできる人ができたから……オレにはする必要なくなったの?


「どうしたの? 元気ない?」

部屋から出ようとした椎凪が、オレを見てそう声をかけてきた。

「なんでも…ない……大丈夫……」

オレは強がりを言う。
本当は椎凪のことが気になってるのに、それで気分が悪いのに……。

でも……だからって椎凪にそんなこと言えないし、聞けない。

「そう?」
「うん…」

オレは起き上がったままベッドから降りず、そのまま座ってた。

「やっぱり耀くんは、オレのキスがないと元気出ないんだよ」

椎凪が戻ってくると、ベッドに腰を下ろして俯いてるオレを見て笑って言う。
オレはドキッとして、慌てて言い訳をする。

「ち、違うもんっ!!」
「じゃあ試してみる? きっと元気が出るよ」

ゆっくりと椎凪の顔が、オレに近づいてくる。

「ち…がう…」

そう言ってるオレの頬に、椎凪の手の平がそっと触れる。
オレは動けずに、じっとしてた。

「ちがう……も……んっ……」

ちゅっ……って、優しく椎凪にキスされた。

「オレが好きなのは、耀くんだけだから」
「え?」

椎凪がオレの目をジッと見つめながら、優しく話しかける。

「心配してたんでしょ? オレが他の子を相手にしてるのかなって。くすっ…」

椎凪が小さく笑う。

「し…心配なんか… してないもん…」
「そう? それはそれで悲しいなぁ」

オレの目を見つめながら、椎凪が呟いた。
全然悲しそうじゃないけど。

「ウソばっかり……」

オレは椎凪を拒みもせず、ジッと椎凪を見つめ返した。

「愛してるよ……」

椎凪がそっとオレにキスをする。
何度も……何度も……。

「オレは…愛してなんか…ん…ない…ん…」
「ふふ…わかってるよ。オレ、耀くんのことは全部わかってるから」
「椎……凪……」

オレのことをわかってるだなんて……一体どんなことをわかってるんだろう?
そんなことを気にしながらも、それから長い時間オレと椎凪はずっと……キスをしてた。

触れるだけのキス……啄ばむようなキス……舌を絡めあう深いキス……色んなキスを一杯した。

肩を抱かれて顎を掴まれて上を向かされて、ずっとキスしてたからオレはもう頭の中がクラクラしてた。

「は……ふ……もう……やぁ……」
「ふふ……やじゃないよ、耀くん。もっと…もっと、してあげる。耀くんがもう不安にならないくらいに」


椎凪のキスは本当に不思議だ。
椎凪の唇がオレの唇に触れる度にオレの胸の中にあったかいものが広がる気がする。
身体がホワンとなって……そう、気持ちいいんだ。
どうしてなのかな?


椎凪にたくさんキスをしてもらったら、オレはそのあとから重い気分はすっかり治って……朝からご飯を、たくさん食べれたんだ。





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