この手をはなさないで・華side



02




「なに?」

次の日、昼休みに屋上にいた季也先輩を見つけた。
今まで何度か2人で過ごしたことがあったから、多分居るだろうと思ってたら本当にいた。


「なにじゃありません。一体どういうつもりだったんですか」
「なにが?」

屋上のフェンスに背中を預けて、両手をズボンのポケットに入れて微かに笑って私を見てる。

「身体だけが目的だったんですか?」
「くすっ……ずいぶん大胆なこと聞くんだね」
「だって!!……だって、そうじゃないですか……」
「どうだろう」
「誤魔化さないでください!!どうみたってそうじゃないですか!最低です!!」
「そうかな」
「惚けないでください!!私がどんな気持ちで先輩のこと受け入れたか……」
「どんな気持ち?」
「え?」
「どんな気持ちで、オレのこと受け入れてくれたの?」
「どんな気持ちって……」
「言ってよ」

言ってよって……私はしばらく黙りこんでしまった。
でも、自分の気持ちはハッキリ言うって決めてたから、あらためて先輩にしっかりと視線合わせて口を開いた。

「……好きでした!!先輩は遊びだったかもしれないけど」
「過去形?」

先輩が困ったような顔をした。
なんで?

「だっ……当たり前です!あんなふうな態度とられて……避けられて、なんで好きでいなくちゃいけないんですか!!
自惚れるのもいい加減にしてください!!」
「それってさ。俺が君にあんな態度したから?」
「あの態度が先輩の本当に気持ちだったんじゃないですか」
「なんで?俺、本当に用事があっただけだけど」
「そ、そんなふうには見えませんでした。私のこと見ても避けてたし……」
「そう?ああ……でも学校であんまりベタベタするのも周り刺激して、まずいかなって思ったからなんだけど」
「い……今さら?」

今まで散々どこでもどんなときでも、人にチョッカイ出してたくせに?
そのお蔭であっという間に周りに先輩とのことがバレたっていうのに?

「そんなに簡単に、俺のことが好きって気持ちなくせるの」
「簡単にって……だって、そうするしかないじゃないですか!張本人がなに言ってるんですか!」
「張本人って?」
「だって……先輩は私とのこと終わらせたかったんですよね?」
「なんでそう思うの」
「だから……昨日から私のこと避けてたし……」
「それはさっき説明したよね」
「……とりあえず……一度ヤレれば……満足だったんじゃ?」
「ん?」

自分で言って胸が苦しくなる。
最後の方がボソボソと小さな声になっちゃって、先輩が耳が良く聞えるように、
わざとらしく自分の耳に手を当てて私に近付く。

「だ……だから……私にはもう興味がなくなったんでしょう?」
「俺、そんな軽薄な男に見えるんだ」
「だって……」
「ってことは、華は俺のことが好きなんだよな?」
「へ?」
「だから、俺のことが好きなのに俺の態度が気入らなくて怒ってるんだろ」
「…………」
「華?俺のこと好きなんだろ?」
「……じゃなきゃ……キスも……か……身体も許したりしません」
「そう。でも最初は迷惑がってたよな。あからさまに俺が近づくとヤな顔してたし」
「そ……そりゃ初めは、なんで私なんかかまうんだろうって思ってました。私じゃなくても、
他に相手にするような女の子、先輩ならたくさんいそうだし」
「でも、だんだんと俺のこと好きって思い始めたんだ?」
「…………」

素直にコクンと頷いた。
癪だったけど……だってその気持ちは自分でも否定はしたくなっかし。
まあ、今となってはそんな気持ちにを持ってしまったことが、悔しいというか情けないというか……。

「オレを責めるほど、華は俺のことが好きなの?」

「え?」

先輩の言葉に一瞬思考が止まる。

「だって、俺は別に華のことを避けてたりなんてしてなかったよ」

そう言ってニッコリと先輩が笑う。
うそだ!絶対避けてたじゃん!あからさまに!!

「じゃあ、俺達付き合おうか」

「はい?」

「だって華ってば、俺のこと好きなんだろ?俺がちょっと忙しかっただけでも拗ねちゃうくらい」
「え?」

いや……別にそういうわけではないと思うけど?
でも、確かに拗ねた?と言うかガッカリした?ショックだった?

「俺のことが好きで好きでたまんないんだろ?」
「え……っと……そこまで……」
「キスも身体も許してくれるほど、俺のこと好きなんだろ」
「……う……」

まあ……確かに好きだから、キスも身体も許したんですけどね。
でも、その言い方がなんだか引っ掛かるというか……。

「ねぇ、俺のことが好きなんだろ」
「……はぁ……好き……ですけど……」

なに?このシュチュエーションは??
いつの間にか先輩が近づいてきて、顔を覗き込まれてた。
ち、近いってば!!

「じゃあ付き合ってもなにも問題ないじゃん」
「はぁ……」
「華が俺のこと好きだっていうんだから、俺もその気持ちに応えるよ」
「えっと……」

目の前にはニッコリと微笑んでる先輩の顔。
なんだか……仕組まれ……た?

「あの……」
「ん?」
「先輩は……私のこと……好き……なんですか?」

なんだか、恐る恐る聞いてしまう自分。
最初の勢いはどうした!自分!!
でも、これが一番大事なことだもの。

「好きだよ。じゃなきゃキスもしないし、華のこと抱いたりしない」
「…………」
「でも、自分らしくなく照れちゃって、なかなか言えなかったけど。華のほうから告白してくれるなんて、俺嬉しいよ」
「はあ……」

私のほうから告白?になるの?これって??

「たった今から、俺達は恋人同士だから。わかった華」
「えっと……はい……」
「浮気は許さないから」
「はあ……」

それは私より、先輩のほうではないでしょうか?

「じゃあ教室戻ろうか」
「はい……」
「帰り一緒に帰るから」
「はい……」

今までも一緒に帰ってたじゃない。

「華」
「はい?」

「華から告白したんだから、華から別れるなんて言ったらダメなんだからね」

「は?」
「わかった?」
「…………はい」

先輩は私の返事を聞いて、満足そうに笑った。

ふと思う。
これって私……ハメられたんじゃないんだろうか?と。

だって先輩が言う、私と付き合ってる理由が……。

『華から告白してくれたんだ』
『華が好きだっていってくれたから』

どうも私のほうが先輩にベタ惚れで、告白して付き合ってもらったって感じになってるけど……。
あの時、先輩はワザと素っ気ない態度と言葉で、私の気持ちを確かめて、私のほうから先輩のコトを
好きだって言わせたかったんじゃないかと思う。

どうしてそう思うかって言うと、先輩はプライドが高いから。

今まで自分から女の子に交際を申し込んだことも、告白したこともないから。

どうしても、自分からなんて言えなかったんじゃないかと……。

あくまでも、私の想像だけどね。


「華」

いつものように先輩が、私の名前を呼ぶ。

「華」
「なんですか」
「俺の手、華から離すなよ」
「はい?」

「俺は俺から、華の手を離すつもりなんてないから」

言った後で照れてる季也先輩……顔が赤い。

「今まで付き合った人にもそう言ってたんですか?」

私はちょっと意地悪を言う。

「言ってるわけないだろ。言ってたら今ここに華はいないじゃん」
「…………そうですね」
「相変わらず華は意地悪だな」
「え?そうですか?どこかですか?」

自覚しながらも惚けてみた。

「素直に“はい”って言わないところ」
「先輩だって素直じゃないくせに」
「俺は素直だよ」
「きゃっ!」

そう言って私のことをぎゅっと抱きしめて、額にキスした。
教室の前の廊下だっていうのに!!!

「ちょっ……!!」
「誰も見てないって」
「見てますよ!まだ残ってる人いるんですから!!」

『学校であんまりベタベタするのも、周り刺激してまずいかなって思ったから』

なんて言葉はどこに行ってしまったのか?
先輩の行動はエスカレートするばかり。

また先輩目当ての女子に、目の敵にされちゃうじゃない……なんて溜息まで出る。

「モテる男の彼女は大変だ」
「なんですか?その他人事みたいな言い方!大体、今までの先輩の行いが悪いから……」

そしてまた、いつもの私のお小言が始まって、先輩はそんな私のお小言をニコニコしながら聞いてる。

まったく反省の色はナシのその態度。
本当に疲れる。

そんな先輩との交際は、今のところ記録を更新しているようで……。

しばらくは、このまま記録を更新していきそうだと、手を繋ぎながら帰る駅までの道でそう思った。





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