想い想われ?



06・史明視点




公園のベンチで泣いていた僕に声をかけてくれて、心配してくれた初対面の女の人と
出会って数時間で身体を重ねあっていた。

一度触れてしまったら手ばなすことができなくて、何度静乃さんがもう無理と懇願しても、
僕は聞き入れることはせずに、静乃さんが意識を失っても攻め続けてた。

力の入らない静乃さんの足をずっと抱え続け、終わることなく身体が揺さぶられてるのを感じて
静乃さんが目を覚ます。
気づいたのが嬉しくて違う角度から激しく攻めると、また静乃さんが意識を飛ばす。
また僕が身体を揺さぶって、その刺激で目を覚ますといったことを繰り返してる。

「欲しいんです……静乃さんが……だから僕にたくさんください」

この尽きることのない ”欲しい“ という感情は、一体僕のどこからわき上がってくるんだろう。


どのくらいの時間が経ったのか……一度も休むことなく静乃さんを求め続けてやっと満足した気がした。
というか、いい加減にしないとという気持ちもあった。



眠ってはいないと思うけれど、クッタリとしてる静乃さんを背中から腕の中に抱きしめた。
静乃さんはなんの抵抗もせず、大人しく僕に抱きしめられている。

眠っていないのなら静乃さんは今、なにを考えてるんだろう……。

今までは、抱き合ったあと相手の女性はもう何年も付き合ったかのように、僕の首や身体に
腕を回してきてベタベタとくっついて、ともすれば “好き” とか “愛してる” だとか、
とにかく自分の欲しい言葉をねだられたりした。
さすがに “愛してる” は簡単に言えなかったけれど “好き” や “綺麗” や “素敵” なんて
言葉は囁いた憶えがある。
まあ、そのときの勢いというか流れというか……。

だから静乃さんみたいに放っとかれてるというか、かまってもらえないというか……
この状況がとても心許ない。

時間が経って、気持ちが落ち着いてくると胸の中に変な不安が沸々とわき起こってくる。

ここまでほとんど勢いできたような状況で、僕を受け入れてくれると感じて実際なんの抵抗もなく
僕を受け入れてくれた静乃さん。

でも今は、あんまりにもアッサリとしてると言うか……やることはやって、終わった感が否めない。
しかも僕ってば、やりたい放題だった気もするし……。

やっぱり静乃さんは最初から、今日一度だけと割り切っていたんじゃないだろうか?
だからコトが終わった今は、僕に甘えたり寄り添ったりしないんじゃないのか?

チラリと上から静乃さんを覘くと、目を瞑ってる。
無理させた自覚はあるから、もしかして眠ってしまってるのかもしれない……
もしかしたら、眠ってないかもしれない。

うう……わからない。

グダグダと考え込んでふと時計を見れば、もうすぐ日付が替わるところだった。
そう言えば、明日は自宅から直接取引先の会社に向かわなければいけなかった。
その為に、今夜はその資料を家で見直そうと思っていたんだっけ。
そのつもりで資料は全部自宅に持って帰ってる。

はあ……今さらそんなことを思い出した。
よっぽど今日は色んなことをまともに考えることができていなかったんだなと思う。

本当に限界だったんだ……僕は。


「静乃さん」

小さな声で彼女の名前を呼んだ。
起きてほしいのか、起きないでほしいのか自分でもよくわからない。

疲れきってるのを起こすのは申し訳ないと思ったし、確実に自分のせいだから。

しばらく待ったけれど、静乃さんは目をあけなかった。
よほど疲れているんだろうと、ちょっと反省したけれど後悔はしていない。

本当なら、もっと求めてしまうところなんだから。
って……僕ってこんなに女性に対して貪欲だっただろうか?

「どうしても明日の仕事のことで、家に帰らなくてはなりません」

静乃さんの耳元にそう呟いて、こめかみにちゅっと唇を押し付けた。
それから静乃さんを起こさないように、こっそりとベッドから抜け出して服を着る。

その間も何度かチラリと静乃さんを見たけれど、ずっと目を瞑ったままで規則正しく
肩が上下に揺れていた。
ぐっすり眠ってしまってるらしい。

玄関の下駄箱の上を見ると、部屋のカギが小物入れの中に置いてあった。
玄関先に置いてあるなんて無用心では?なんて思いつつ、靴を履いて玄関のドアノブに手をかける。

なにかメモでも置いておいたほうがいいだろうか?
そう思いながらも、メモ用紙なんてものもなかったし勝手に部屋の中を探すのも失礼だと思った。
携帯の番号も知らない……仕方ないと思って、後ろ髪を引かれる思いで玄関のドアを開けて外に出た。

静かにドアを閉めて鍵を掛ける。
そのあとは、ドアのポストの口から鍵を落とす。

「…………はあ……」

駅まで戻るかその辺の通りに出てタクシーを拾うか、最悪は連絡して迎えに来てもらえばいいと思った。

人通りのない夜道を、ゆっくりと歩く。
これから僕は、どうするんだろう?どうしたんだろう?

どうしたいって……できれば静乃さんとこれからも、お付き合いしていきたいと思ってる。
一線を越えてしまったのだから今までの経験で、このまま恋人関係に持っていけるのではないかとも思う。

でも……それにはちょっと抵抗もあるのは確かだ。
昔付き合った女性とのキッカケは、ほとんどが “ソレ” だったからだ。

寝たから付き合う……身体から始まる付き合いばかりだった。
しかも、ほとんどが別れてる。
ある程度の時期が過ぎると、自然消滅や別れを切り出されたなと思い返す。

ダメだ!そんな付き合いと別れ方なんて静乃さんとしたくない!

大体、静乃さんが身体の関係があったからって、そのまま僕と付き合うかなんてわからないじゃないか。

ここはハッキリと交際を申し込んでみるか?
イヤ待て!もし逆にハッキリと断られたら?一度だけのつもりだったとズバッと言われたら?
僕のことは放っておけなかったからだけで、恋愛対象としてじゃなかったなんて言われたら?

「はあ″〜〜〜〜〜」

そんなこと言われたら、きっと立ち直れない。
僕はその場で立ったまま、ガックリと項垂れる。

そもそも僕は、まともに告白なんてしたことがない。
今まで流されるように関係を持った相手と付き合っただけだ。

「見合いだって会っただけだったし、断るのも話を持ってきた人から断ってもらったしな……」

はあ〜〜〜〜〜っと、これまた盛大に溜息をつく。

「でも……ちょっと待て」

そうだよ。
きっと僕は静乃さんには嫌われていはいないと思う。
あんなみっともない僕に話しかけてくれて優しくしてくれて……静乃さん自身が癒してくれた。

まあ僕が、強引に持ってった感がなくもないけど……。
最後の最後で、しつこかったかもしれないけど……。

この歳にもなって、恋愛経験がイマイチというのはなんとも情けないけれど、ここは誠実に
誠意を見せていけばいいんじゃないだろうか。

静乃さんの優しさにつけ込んで、先に身体の関係をもってしまったけれど、これからはちゃんした
おつき合いを進めて僕と付き合ってもらえるように頑張ればいいんじゃないだろうか。

こういう場合、やっぱりお友達からだろう。
ああ……でも、ちゃんとおつき合いを始めるまで、静乃さんには当分触れられないよな……。

「静乃さん……」


ついさっきまで、静乃さんの温もりを感じてた自分の手のひらを、

僕はジッと見つめていた。








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