想い想われ?



22・史明視点




「はあ……」

静乃さんと会えなくなってから僕の溜息はとまらない。
今日はこの前静乃さんがいなくなったことに耐えられずお酒に逃げたとき裕平に迷惑をかけてしまった。
そのお詫びに夕飯を奢ることになってしまった。

指定されたお店は仕事がらみで知った店で年上のオーナーとは話しが合って、それから裕平と2人懇意にしてもらってる。

静乃さんのことを頼んですぐに竹ノ内さんから連絡が入った。
静乃さんの勤めていた会社を突き止めたと。
あまりの早さに驚いたけれど彼なら当たり前かと思った。

けれど、そこはもう辞めていていないということだった。
ただ、どうも辞め方が腑に落ちないのでもう少し調べてみると言われた。

会社を辞めていたんだ……そのことも知らなかったけれど、新しい会社のことも僕は何も聞いていない。
あの求人雑誌を見ていたときには、もう会社を辞めていたんだろうか?

「はあ……」

僕は自分の不甲斐なさに改めて情けなくなった。



会社を出て途中で裕平を拾ってお店に向かう。

「今日は遠慮なく食べさせてもらうからな」
「どうぞ」

そういうと、裕平はクスリと笑った。


「?」

お店について席に案内されたのはいいんだけれど……なぜ4人席?
それに……。

「なんで僕の隣に座るんですか?」

なぜか裕平が僕の隣に座る。

「梨佳も来るんだ」
「え?そうなんですか?」
「梨佳にだって迷惑かけただろう」
「そうですけど……」

確かに家に帰れなかった僕を梨佳ちゃんの家に連れて帰ってくれたけれど……翌朝、鞠枝さんのお説教つきでした。

「なんで今まで黙ってたんですか?」
「ん?」

口の端だけ上げて笑う。

「…………笑って誤魔化さないでください」
「なんのことだ」
「僕はお断りしましたよね?」
「んーー?なんのことだったっけか」
「裕へ……」
「おう!」
「お待たせ」

聞き覚えのある声に裕平が片手をあげた。
僕も声のするほうを見ると、梨佳ちゃんが歩いてくるところで思った通り梨佳ちゃんの後ろに人がいた。

余計なことを……なんて思ってたら、その人を見て動けなくなってしまった。

「…………」

僕は息をしてるだろうか?瞬きは完全に止まってる……周りの音も今はなにも聞えない。
相手も僕を見てる。

「………え?」

これは……どんな奇跡なんだろうか?
目の前に会いたくて会いたくて……でも、もう会えないかもしれないと思っていた人がいる。

目の錯覚なのか……それとも僕の願望が見せた幻?

「静乃さん!?」

ガタン!と音がするほどの勢いで、僕はイスから立ち上がった。
そのままイスが倒れたってかまわない。

「 「 「 !! 」 」 」

僕の声と急に立ち上がったことに、裕平と梨佳ちゃんとお店の係りが驚く。

「史明くん……なん……で?」

静乃さんも僕を見て驚いてる。
ということは、静乃さんも僕がここにいることを知らなかったのか。

立ち尽くす静乃さんを見て、もしかして僕には会いたくないのかもとか、着信拒否されたこととか、
根暗く考えていた色々なことが頭からすっぽりと綺麗サッパリ消え去っていた。

だから静乃さんをつかまえなければと思った。
つかまえて、離してはいけないと思った。

そう思ったら身体が勝手に動いていた。

「静乃さん!!」

僕がテーブルを回って静乃さんほうに近づこうとすると、静乃さんがハッと我に返った。

次の瞬間、静乃さんは歩いてきたほうに踵を返し、お店の中にもかかわらず走り出した。
猛ダッシュと言っていいほどの駆け出しぶりだった。

「あ!!ちょっ……静乃さん!!待って!!」

僕は駆け出した静乃さんに向かって呼び止めたけど、静乃さんは聞えてるはずなのに
立ち止まることも振り向くこともせず走り去った。

僕もホンの少し遅れて静乃さんを追いかけたけど、僕と静乃さんの間にウェイターやらお客さんやらが
タイミング悪く現れて、危うくぶつかりそうになる。
本当はそんな人達を気にせず、静乃さんを追いかけたかったけどそういうわけにもいかず、そんな人達をよけて
謝りながら静乃さんを追いかけた。

そんなちょっとした差がひびいて、静乃さんとの距離は縮まらずあっという間に静乃さんの姿はお店の中から消えた。

やっと入り口のドアに辿り着いて外に出ると、周りを見渡した。
視界に入ったのは、お店の目の前に停まってる1台のタクシー。
ちょうどドアが閉まるところで、チラリと見えた服は静乃さんが着てた服に似ていた。

「ちょっ……」

慌てて追いかけたけれど、タクシーは僕のことなんてお構いなしに走り去ってしまった。
僕は呆然とタクシーを見つめるだけで、しばらくその場に佇んでた。

静乃さん……どうして逃げるんですか?
そんなに僕に会いたくなかったんですか?
そんなに僕と話すのが嫌でしたか?

────  静乃さん!!

気を許すとその場に蹲りそうだったけれど、ハッと気がついて急いでお店に引き返す。
そう……あまりのことで忘れていたけど、裕平と梨佳ちゃんは静乃さんのことを知ってるんだ。
どんな成り行きで知り合ったのかわからないけれど、2人に聞けば静乃さんのことはわかるはず。

急いで中に駆け戻ると、裕平と梨佳ちゃんがさっきのテーブルに向かい合って座っていた。

「ふみクン!」
「!!」

僕が近づくと、梨佳ちゃんが振り向きながら席を立った。

「どういう……ことですか?」
「え?」
「どうして貴方達が静乃さんのことを知ってるんですか?」
「どうしてって……それはこっちのセリフよ、ふみクン。どうしてふみクンが久遠さんのこと知ってるの?」
「…………3ヶ月くらい前に知り合ったんです」
「久遠さんは1ヶ月くらい前にうちの会社に入社してきたの」
「梨佳ちゃんの……会社に?」
「とにかく座れよ。とりあえずメシ食おうぜ。腹減った」

裕平の言葉に僕は梨佳ちゃんの隣に座る。
食事の手配をして、先に運ばれたワインを飲みながら全部話せと裕平に促された。








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