想い想われ?



13




女3人の歓迎会をやった次の週末に、会社の創立70周年のパーティがあった。
その週はずっとバタバタとしていた。
各課に記念品を配ったり、パーティに関連するものの発注や納品やら……平行していつもの
業務もこなして思ってた以上に忙しかった。

当日は創立記念パーティが行われるホテルで受付に立った。

招待されてる人達は、いかにも貫禄のありそうな人達ばかりで同伴してる女性は煌びやか。
中にはテレビで見慣れた顔もあったりと、ちょっとドキドキしてしまった。

「勝浦さ〜〜ん♪ 久遠さ〜〜ん♪」
「え?」
「ああ!」

受付が始まって大分経った頃、名前を呼ばれて顔を上げれば、なんと帆稀さんが手を振りながら
こっちに歩いてきてた。

しかも、会社で見る普段着なんかじゃなくて、ちゃんとした正装のドレス姿。

彼女に合ったパステル色の、フンワリとしたワンピースのドレス。
可愛い膝もちゃんと見える長さで、髪の毛も普段見かけないアップ。

現れた耳には、これまた高そうなジュエルのついたバラのピアス。
小さめだけど値段高そう……ってのはすぐにわかった。

とにかく、どこに出しても恥ずかしくのない生粋のお嬢様が目の前にいた。

「お疲れ〜」

いつもと変わらない勝浦さんの声。

「ホント、お疲れですぅ……社員として参加したかった」

トホホって顔。
それも可愛い。

「こういう時だけ父ってば、経営一族なんだからって私のこと引っ張り出すんですよね」
「梨佳ちゃん可愛いから、社長も自分の娘を自慢したいんじゃない?」
「もう勝手なんだから」
「きっといい婿さんでも見つけたいんじゃないの?どんな出会いがあるかわかんないんだし」
「……出会いなんて必要ないですよ……」
「ん?」
「?」

そう言った帆稀さんは、ちょっと俯いて真面目な顔になってた。

「あ!そろそろ中に入らないと父が煩いんで行きますね。また会社でゆっくりと話しましょうね」
「会社の為にお愛想笑い振り撒いておいで。なにか契約に結びつくかもよ」
「えーー!営業しろってことですか?」
「それもあるけどさ、玉の輿相手見つけるの!それでその友人を紹介して!」

あら、勝浦さん本音が。

「もーーそういう相手なら、そんなことしなくても私のお友達関係から紹介しますよ」
「え?そう?じゃあ食事だけ楽しんでおいでよ」
「は〜い ♪」

ニッコリと笑って、帆稀さんは会場の中にへと入っていった。


そのあとパラパラと訪れる招待客の人達を案内して、もういいだろうということになり
他の社員の人と交代して休憩になった。

このあとまだ先は長そうだな……と思いつつ、社員用の控え室に入る。
私達の他に何人か男の社員さんもいて、それぞれイスに座って雑談してる。

「はあ〜〜あとは招待客が帰るときのお見送りと、また雑用かな」

用意されたイスに勝浦さんがドサリ座って伸びをする。
チラリと部屋の隅を見て、コーヒーやら紅茶やら色々な飲み物が用意されてるテーブルで視線がとまる。

「コーヒーでも飲みますか。久遠さんは?」
「いただきます。でもその前にトイレ行ってきていいですか?」
「OK!じゃあコーヒーは私が淹れとくから」
「すみません。お願いしてもいいですか」
「これくらい任せてって」
「じゃあ、お願いします」

先輩にコーヒーを淹れるのも新人の私の仕事かと思ってたんだけど、流石にそれくらいはかわってくれた。
先輩面は好きじゃないと言ってたしな。

ちょっと迷いながらトイレに向かった。
最初に場所は聞いてたけど、広くて迷ってしまった。

トイレを済ませて控え室に戻る途中、会場の入口の近くで声が聞こえた。
女の人の声?……なんとなく聞き覚えのある声だと思った。

角を曲がればその声の元に遭遇しそうだったから、立ち止まってこっそりと角から顔を出して様子を窺った。
視界に入ってきたのは……

え?帆稀さん?

ちょっと遠目だったけれど間違いない、あれは帆稀さんだ。

「え?」

そして帆稀さんと向かい合って立ってるのは……あの社長令嬢?なんで?
って、そう言えばあの人、名前なんだったっけ?

驚いたことに、帆稀さんの目の前に立ってたのは、真っ赤なイブニングドレスを着た
史明くんの婚約者様だった。

「…………」

それにしても、2人はどんな関係なんだろう?
社長令嬢つながり?もしかして同級生?それとも、まさかまさかのお友達関係……とか?

「なんのことだか、さっぱりわかりませんわ」
「惚けるのもいい加減になさったら」

おや?どうやら仲睦ましく話してるようじゃないみたい。
話の内容から、帆稀さんが婚約者様になにか文句を言ってるのかしら?

「色々耳に入ってるんですよ。佐渡さん」
「色々とは?」
「貴方、ふ……コホン!”NIREGISHI CORPORATION” の楡岸副社長と婚約間近だって
ふれ回ってるそうですね」
「はぁ?……そ……そんなの根も葉もない、唯の噂じゃないかしら?」

なに?ふれ回ってる?根も葉もない噂??
私はその言葉が頭から離れない。

え?どういうこと?

「いいえ。実際、貴方に嫌がらせされたって方のお話も窺ってるんですよ」
「あら……そんなはずないと思うんですけど?」

オホホ、という感じで口元に手を当てる婚約者様。
でも視線はアッチコッチ泳いでて、なんだかもうすでにボロが出始めてます?

「楡岸さんの前では猫被ってるみたいですけど……もう、バレバレですよ」
「な……なんのことだかさっぱり?」

どうやら、帆稀さんの言ってることのほうが本当のことらしい。

「楡岸さんと噂のある方のあら探しなさって、それを彼に告げ口したり、こういったパーティで
相手に嫌味言ったり嫌がらせなさるみたいですけど、でもそれってとっても醜いですわ。
ただ、肝心の楡岸さんにはまったく通じてなかったみたいですけど?ふふふ」

もとが可愛いだけに、含み笑いは小悪魔みたいでますます可愛さ倍増にしかならない帆稀さん。
ある意味スゴイと思う。

「なっ!貴方、本当に失礼ね!私はそんなことしてないって言ってるでしょう!」
「まあお認めにならないのも無理ないですけど。人として、とっても恥ずかしいことですものね?
それを気づかずにいるなんて、どれだけ面の皮が厚いのかしら?」
「……っ」
「でも、そういうの全部無駄ですのよ」
「ど……どういう意味ですの?」

「楡岸副社長と婚約の話が出てるのは、私のほうですから。近いうちに発表があるかもしれませんわ」

「!!」

今度は帆稀さんのほうが、オホホと笑って口に手を当てて笑った。

これって……お嬢様同士のバトルですか?
それにもしかして、もしかすると、その取り合ってる男性って……あの史明くんってことになるの??

ええーーー!?これってどう解釈すれば??
二股??二股なの?ちょっと史明くん!本当なら女性の敵よ!!

「なにをいい加減なこと……」
「いい加減なことじゃありませんわ」

そういうと、帆稀さんがゴソゴソと持ってた小さ目の洒落たバックから携帯を取り出した。
そしてカチカチと操作すると、画面を(疑惑の?)婚約者様に向けた。

「つい先日撮ったんですのよ。貴方とこんな親密な写真なんてありませんでしょ?」

どんな写真が撮られてるのかわからないけど、どうやら親密な写真らしい。
そして帆稀さんが、さらに追い討ちをかける。

「それにコレ、貰ったんですの」

勝ち誇ったように、自分の右手をバン!っと(疑惑の)婚約者様の目の前に突き出した。
ここからじゃあんまりよく見えないけれど、多分指輪を見せてるのかしら?

今まで差し出された携帯の画面を見ていた(疑惑の)婚約者様は、さらに顔を引き攣らせた。

「素敵でしょう?」
「…………」

ぐうの音も出ないって言うのはこういうことなのかしら?

「どうかしら?これで私と楡岸さんとが、どんな関係かわかってくださったかしら?」
「…………」

うわぁ……(疑惑の)婚約者様……本当の婚約者じゃなかったのね。
っていうことは、私に言ったもうすぐ公に婚約発表するというのもニセの婚約者様の妄想?
ひとりで暴走しちゃったってこと?

ん?ハタと気づいたけど、ってことは?私に対するあの仕打ちって?
帆稀さんはニセの婚約者様が何してたか知ってたみたいだけど、私のことも知ってるということなのかしら?

ううん……今までそんな素振り全然見せてなかったから、私のことは知らないってこと?

ああ、よくわかんないわね!!

「梨佳ちゃん」

壁の陰でひとり悩みまくっていた私の耳に届いたその声は……。

「あ!」
「!!」


なんというタイミングなんだろうか?

2人に近づいてきたのは……史明くん!!








Back  Next








  拍手お返事はblogにて…