想い想われ?



17




話の流れで、今日、帆稀さんとふたりで飲みに行くことになってしまった。
私としてはできれば遠慮したかったけど、そういうわけにもいかず……。

どちらかが残業で行けなくならないかと淡い期待を抱いてたんだけど、その日はナゼか
仕事は順調に進み、就業間近で仕事を頼まれることもなく定時であがることができた。
帆稀さんも同じで、ほんのちょっとの差でお互いロビーで落ち合えた。

「久遠さん、今日は落ち着いて飲みたいんで、私の知り合いのお店でいいですか?」
「お任せします」

そう言って向かった場所は、電車で二駅先の駅で飲む前に軽く食事をしようということになり近場のお店に入った。
食事をしたお店から10分ほど歩いた場所に、お目当てのお店があった。

静かな音楽が流れてて、黒を基調にしてるのに照明や絨毯やテーブル席のソファなんかで
お店全体が暗くならないように調整されてる。
わあ…… “洒落てる” の一言だった。

ふたりでカウンター席に座ると、いかにもと言うバーデンダーの男の人がニッコリと笑顔で立った。
私と同じくらいの年齢かな?でも雰囲気は落ち着いてて年上にも見える。

「昨夜はお疲れ様でした」

クスリと彼が笑う、帆稀さんはちょっと苦笑い。

「でも純粋に飲むために、ここに来てくださったのは久しぶりですね、梨佳さん」
「そうだったかしら?ああ、裕平ちゃんが出張でいなかったから、あんまり来てなかったかも」
「こちらの方は?初めての方ですよね」
「え?あっ……」

飲みに来て、個人的にお店の人に話し掛けられたことなんてなくて焦る。
いつもは居酒屋だもん、それか自宅。
こんなふうに、お店の人と話しながら飲むなんて経験ありません。

「ちょっと前に、ウチの会社に入られた方なの。久遠さん」
「久遠です……初めまして」
「初めまして。子安(koyasu)です。今日はゆっくりしていってください」
「はい、ありがとうございます」

営業スマイルなんだろうけど、落ち着いた感じで優しく微笑まれた。

「でも梨佳さんが会社の人を連れてくるなんて珍しいですね」
「そうね……他の人はなんか好奇心丸出しで、ふたりきりで飲む気にもならないわ」
「え?」
「“社長令嬢様は普段どんなところで飲んでるのかしら” “きっとお金も物言わせてイケメン侍らせて
高いお酒飲みまくってるんじゃないかしら” “一緒に飲めばなにかお零れもらえるんじゃないかしら”
なんてのが顔に出てるんですよ。そんな人達と飲みになんて行く気にもなりません」
「そ……そうなの?」

色々な苦労があるんだな……なんて気の毒に思った。

「会社絡みの飲み会みたいに大人数だったらいいんですけどね。以前誘われて、好きなところどうぞ
って言うから普通の居酒屋に入ろうとしたんですけど “君みたいなお嬢様がこういう店に入るの”
なんて言われて、ちょっとカチンときたこともあるんです。私だって普通にそういうお店に入りますよ。
この人には、私は社長令嬢としてしか映ってないんだな……ってガッカリしました」
「どうして私を誘ってくれたの?」

そんな話を聞くと、今日ふたりっきりになるとわかっていたのに、なんで私を誘ってくれたのか不思議に思った。

「だって久遠さんは、勝浦さんと仲がいいじゃないですか。勝浦さんって広く浅く周りの人と付き合って
るんですけど、個人的にお付き合いする人ってなかなかいないんですよ。
勝浦さんは私を最初から他の女の子と同じに見てくれたから。それにけっこうズバズバモノを言ううから
面白いですしね。ああいう人、私好きなんです。だからそんな勝浦さんと一緒にいる久遠さんは他の人と
違うかな……って」
「そ……そんな……」
「久遠さんて癒し系ですよね」
「は?」
「どっしりと構えてるっていうか……おおらかっていうか」

「なんだか “肝っ玉母さん” みたいですね」

絶妙なタイミングで、子安さんが突っ込みを入れた。

「!!」

肝っ玉母さん?それって、ひと昔前のホームドラマですか?

「え?あ!やだ!そういう意味じゃ……もう!子安さんってば!」
「すみません、つい冗談を。おふたりとも、なにになさいますか?」

うまく誤魔化されたみたい。


そのあとも和やかな雰囲気で、楽しくお喋りをしながら飲んでいた。

帆稀さんの笑顔を見ながら、時々チクリと胸の奥が痛かったのは感じないフリをして。








Back  Next








  拍手お返事はblogにて…