想い想われ?



18




「あ!久遠さん、ちょっとすみません」

そう言うと、帆稀さんが私に背中を向けてバックから携帯を取り出した。
私はそんな帆稀さんを見ながら、今日初めて私のイメージで子安さんが作ってくれた
カクテルを飲んだ。

「裕平ちゃん♪ 今?んとねぇ〜子安さんのところで飲んでるんだ〜〜フフフ ♪
え?ううん、ひとりじゃないよぉ〜〜デートです、デート♪ 邪魔しないでね〜〜じゃあね」

そう言って、ニコニコしながら通話を切ってしまった。

「ほ……帆稀さん切っちゃって大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。どうせ本気になんてしてないですもん」
「そ……そう?」
「裕平ちゃんは私のことなんて、妹くらいにしか思ってないんですから」

携帯をしまうと、カウンターのテーブルに頬杖をついてクスクスと笑った。

「何言ってるんですか。裕平は梨佳さんのこと、いつも気にかけてますよ」

帆稀さんの携帯のやり取りを見ていた子安さんが、さりげなくフォローする。

「そうかしら?きっとふみクンに任せとけばいいって思ってるわよ……」
「…………」

──── ふみクン……か。

それからものの10分もしないうちに、お店にひとりの男が現れた。

「梨佳」
「あれ?裕平ちゃん!?どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……って、こちらどなた?」

結構な勢いで私達の席に近づいて来たその人は、私を見るなり一気に不機嫌オーラを
しまいこんだ。

「私の今日のデートの相手ぇ〜〜ね?久遠さん♪」

帆稀さんはだいぶ出来上がってるみたいで、ニコニコしながら私にぎゅっと抱きついてきた。
それとも、彼が来てくれたのが嬉しかったのかもしれない。

「デートの……相手?」

一瞬戸惑った顔をしたけれど、すぐに何かに気づいたみたい。

「裕平ってば焦ったんだろ?」
「は?」

子安さんが、クスクス笑いながら彼を見てた。

「別に、ガキが生意気に俺抜きで酒なんて飲んでるから見にきただけだよ」

おおーー苦しい言い訳だわね。
そう言うと帆稀さんの髪の毛を、くちゃくちゃと揉みクシャにする。
そんなことをされても、帆稀さんは文句も言わずニコニコと笑ってるだけ。
帆稀さんもそんなに嬉しいの?

「裕平ちゃんも一緒に飲もうよ♪ いいですか?久遠さん」
「私はかまいませんよ。北見さんがイヤでなかったら」
「イヤなことないよねっ!裕平ちゃん!」
「え?あ……すみません。急な飛び入り参加で……」
「いえ」

そのあとは、北見さんを交えて飲むことになった。

私が同じ会社に勤めてること、勤め始めてまだ日が浅いこと、勝浦さんを通して帆稀さんと
知り合ったこと、最近親しくお付き合いしてること、等々色々な話をした。

反対に北見さんと帆稀さんの話も、じっくりと聞くことができたけど、前に帆稀さんが話してくれたのと
同じような話だった。

「自分達の親同士が、仲良かったせいなのかもしれないですけどね。俺とコイツとあともうひとり。
”NIREGISHI CORPORATION” って知ってます?あそこの副社長が俺達の幼なじみで、
今でもよく3人で遊んでるんですよ」
「最近は裕平ちゃん忙しいから、ふみクンにまかせっきりだもんねぇ」
「仕方ないだろ。一体誰の会社のために、汗水たらして働いてると思ってんだよ」
「一応今は裕平ちゃんもウチの社員なんだから当たり前でしょ〜〜」
「なら、わかってんだろ」
「わかってますよぉ……仕事で忙しいんだって……」
「帆稀さん……」

酔って拗ねて……ほんのりピンク色の頬っぺた膨らませて……もう、可愛いじゃない。

「だから、大人しく言うこときいてるじゃないのよーー!」
「わかった、わかったって」

優しく北見さんが帆稀さんの頭を撫でる。

「もう!子供じゃないのに!」
「お前なんてガキだ」
「フンッだ!」

ほんの数回しか帆稀さんと北見さんのやりとりを見ていないけど……わかってしまった。

このふたりはお互いがお互いのことを大切に思ってる。
いわゆる “相思相愛” ってものだとおもう。

だた、ハッキリとお互いに告げていないのかもしれない。

だって……帆稀さんは史明くんの婚約者だもの。
でも……帆稀さんは史明くんとのこと、どう思ってるのかしら?

まさか、今この場で聞く訳にもいかないし……それに私が史明くんのことを聞いたら、
変に思われるかもしれない。

でも、ちょっとした知り合いってことにして聞けばいいかしら?
婚約のことはあの創立記念パーティのときに、ふたりを見かけて知ったってすれば……。

でも、聞いてどうするの?
もし帆稀さんが、史明くんよりも北見さんのことが好きだって言ったとしても、私になにができるんだろう。

家同士の繋がりで、どうしても断れないコトだとしたら?
きっと本人達が一番わかってることなんじゃないのかしら?

帆稀さんと北見さんだって自分達ではどうにもならないことかもしれなくて……
泣く泣くあきらめてるかもしれないのに……。
そこに私が、わかったような顔をして帆稀さんを追求するの?

『本当は北見さんが好きなんでしょ?それなのに史明くんと結婚するの』 って?

できない……そんなこと、できるわけがない。

「……さん」
「…………」
「久遠さん」
「え?あ……はい」
「酔われました?気分悪いですか?」
「え?」

どうやら考え込んでいたせいで、名前を呼ばれたのに気づかなかったらしい。
心配そうに覗き込む北見さんと目が合った。
近くで見たら、けっこう整った顔でちょっとだけドキンと心臓が跳ねてしまった。

「あ!いえ……ちょっと考えごとしてただけです。大丈夫です……スミマセン」
「今日、無理矢理誘われたんじゃないですか?」
「いえ……そんなことは……」
「そうよぉ〜〜裕平ちゃん失礼じゃない!ちゃんと丁寧にお誘いして、飲みに来たんですぅ。
だいたい、もとはと言えば祐平ちゃんが、ふみクンの面倒を私に押し付けたからじゃない」

そういえば、愚痴を聞かされたって言ってたっけ?

「だって超ウザかったんだから仕方ないだろ。お前のほうが奴の愚痴を聞くのが適任なんだから
交代したまでだ」
「もう……あのあと大変だったんだから」
「ちゃんと部屋まで送ってやったか?」
「そんなの無理に決まってるじゃない!仕方ないから、私の家に連れて帰ったわよ」
「!!」

帆稀さんの……部屋に?

「そっか……」

あ……北見さんの声がちょっと下がった?

「俺は忙しいんだから仕方ないだろ。アイツの面倒までみてらんないんだよ」
「はいはい。裕平ちゃんはいっつも忙しいんだもんね!そんな忙しいのに、来てくれてありがとうございましたっ!」
「うわっ!可愛くねぇーー」

そう言って、また帆稀さんの頭をクシャクシャとかき回す。

「もっ!!やめてってば!!」

きっと北見さんは、自分の気持ちをしまい込んで帆稀さんのことを見守ってるんじゃないんだろうかと思えた。



「じゃあ、気をつけて」
「久遠さん、また明日〜〜」

すっかり酔っ払ってしまった帆稀さんを、北見さんがしっかりと抱きかかえながら立ってる。
まだ電車も通ってる時間だったから、タクシーは断った。

「はい、また明日」

ふたりはこのあとタクシーを拾って帰るといっていた。

「はあ……」


駅までの道を歩きながら、私はなんともいえない疲れた気分で溜息をついた。








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