想い想われ?



番外編・愛し愛され? 09 静乃side




「ちょっと、待っててください」
「はい」

小田島さんが、私の実家の前で停まったタクシーの運転手さんに声をかける。

「すみません。でも、もう大丈夫ですから」
「ここまで来たんだから、家の人にちゃんと送り届けるまで付き合うよ」
「はあ……すみません」

支えるように背中に小田島さんの手が添えられ、家の門の前まで促される。
ここまで付き合ってくれるとは思ってなくて、申し訳なく思いつつも、実家の家族に彼を会わせるのは
また説明しなければいけなくなるなとちょっと気が重くなる。
気分がすぐれないから、余計にそう思うのかも。

『はーい』

インターホンから聞こえた声は春織はおりの声だ。

「私……」
『え? お姉ちゃん? どうしたの? あ、ちょっと待ってね。今すぐ開けるから』

そのあと玄関のドアの向こうでバタバタと足音がしたと思うと、カチャカチャとチェーンと鍵をあける音がして
勢いよくドアが開いた。

「お姉ちゃん!」
「突然ごめんね」
「ううん……あ!」
「こんばんは」
「こんばんは……」

私に寄り添うように立つ小田島さんに気づいた春織が、すぐに怪訝な顔になる。
そして少し顎を上げるような仕草で、無言なのに『あんた誰?』と言っているのがヒシヒシと伝わる。

「あ…こちらは…」
「小田島と言います。今日久しぶりに静乃さんに再会して食事をしてましたら、静乃さんが具合が悪くなりまして。
自宅よりも、こちらのご実家のほうが近いと言うので」
「え? 大丈夫? お姉ちゃん」
「うん、ちょっと気分が悪くなっただけだから」
「とにかく入りなよ。お母さーん、お姉ちゃん」

春織が奥の部屋に向かって声をかける。
『え? 静乃?』なんてお母さんの声が聞こえてきた。

「小田島さん、ありがとうございました」
「いや、気にしなくていいから。心配だったからついてきただけだし」
「いえ、助かりました。また改めてお礼させてください」

玄関の中に入って、小田島さんのほうを向いて頭を下げた。

「本当に気にしなくていいって。今夜はゆっくり休んで、明日ちゃんと話し合えよ」
「はい…」
「え? お姉ちゃん、なに?」
「ううん…」

そのとき家の近くで車が停まる音がして、ドアの開く音が聞こえた。

「静乃さん!」
「ん?」
「あ!」
「…………」

史明くんがすごく慌てながら、とても不安そうな顔で駈けてくる。

「お義兄さん!?」

ああ……史明くんってば、なんてタイミングで現れるんだろう。
せめてあと10分あとに来てくれれば、きっとこのあと起こると確信できる一悶着も回避できたと思った。
なんか疲れが倍増しそう。
ああ、また気分が悪くなってきた気がする。

「静乃さん、探しました。あの、話を聞いてほしいんです…」
「気持ちはわかるが、今日はやめといたほうがいいんじゃないか」

私を気遣って、小田島さんが玄関の中に入ってこようとする史明くんの行く手を遮るように、
私と史明くんの前に立ちはだかる。

「は?」

ああ…史明くんの顔が一瞬呆けたかと思うと、いつもの朗らかな雰囲気がスッと消えて、
仕事のときの顔になった。

「貴方は?」
「静……彼女の友人です」
「友人? その方がなぜ、僕の妻と? しかも、妻の実家にまで」
「史明くん」

もろ、トゲのある言い方に思わず口を挟んだ。

「久しぶりに再会して、一緒に食事をしただけです。帰り際に気分が悪くなって、
心配だったので送り届けたまでです」
「気分が? 大丈夫なんですか? 静乃さん!」

一歩近づこうと身体を動かした史明くんだったけれど、小田島さんが動く気配を見せなかったので
小田島さんの肩越しに顔だけを覗かせた。

「うん……まだちょっと気分は悪いけど……大丈夫」
「そんな……まだ気分が悪いなんて……今から知り合いの病院に行って診察してもらいましょう」
「あんた、真面目にそんなこと言ってるのか?」
「は?」
「彼女がどうして気分が悪くなったか、あんた本当にわからないのかよ」
「そ…それは……」

唇をキュッと引き結んで、俯いてしまった史明くん。
そんな史明くんの目の前に、微動だにしない小田島さん。
そんなふたりを、私の傍で観察するようにジッと見てる春織。
そんな三人を、ただ黙って見つめてる私。
そんな全員を奥の部屋から春織に呼ばれ、どうなってるのか状況が把握できずに声もかけることができず、
ただ立ってるだけのお母さん。

え? これって、別の意味で修羅場なの?

なんだか色々面倒なことに物事が進んでいきそうなこの場面に、また気分が悪くなった気がした。









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