想い想われ?



番外編・愛し愛され? 13 史明side




「はあ…」

深い溜め息をついて、インターホンのボタンを押した。
「はあ…」

深い溜め息をついて、インターホンのボタンを押した。
やっとの思いで今日一日を過ごした。
平林さんには何度も怒られ、最後は強引に会社から送り出されたような気がする。
まあ最初からそうするつもりだったけれど、平林さんが協力的だったのが不思議に思う。

「…………」

梨佳ちゃん情報で、今日静乃さんが会社を休んだのを知った。

『体調が悪いって言ってたみたいだけど、大丈夫なの』

やっとの思いで今日一日を過ごした。
平林さんには何度も怒られ、最後は強引に会社から送り出されたような気がする。
まあ最初からそうするつもりだったけれど、平林さんが協力的だったのが不思議に思う。

「…………」

梨佳ちゃん情報で、今日静乃さんが会社を休んだのを知った。

『体調が悪いって言ってたみたいだけど、大丈夫なの』

直接会うまでは、余計な接触はもたないほうがいいのかと静乃さんに連絡していない。
本当は電話ですぐにでも話がしたかったけれど、我慢した。
だから静乃さんが会社を休んだことを僕は知らなかった。
かなり動揺したけれど、声には出さないようにして梨佳ちゃんには大丈夫と伝えておいた。

「会社を休むほど、体調を悪くさせてしまったんですね」

インターホンからの返事が返ってくるまでの間に、そんなことをポツリと呟く。

『はい』

インターホンから聞こえてきた声は、義妹の 春織 はおり ちゃんだ。
期待してた声と違ったことに内心落ち込んでしまう。
静乃さんはまだ体調が優れないんだろうか……それとも、僕と話したくもないとか?

「史明です」
『ちょっと待ってね』

会話が終わると中からパタパタと足音がして、玄関のカギが開けられてドアが開いた。

「いらっしゃい、お義兄さん」
「こんばんは」
「こんばんは。楽しみに待ってたんですよ♪」

楽しみの意味が違うんでしょうね。
それに今まで春織ちゃんに“待ってた”なんて言われたこともなかったし。

「静乃さんの体調のはどうですか?」
「今は大丈夫みたいよ」
「そうですか……よかった」
「自分が原因じゃ余計気になりますよね?」
「春織ちゃん……」

きっと大まかなことは、もう知っているんだろう。
静乃さんが話していればだけど。

「お義兄さん来たよ〜♪」
「あら、いらっしゃい」

春織ちゃんが先にリビングに入り、キッチンに繋がる入り口にお義母さんがエプロン姿で立っていた。
通されたリビングのソファに静乃さんは座っていた。
僕を見ても微笑んでも声もかけてもくれなかった。
仕方ないことだと思いつつも胸が痛い。

「これ、皆さんでどうぞ」

持ってきたケーキの箱をお義母さんに渡す。
静乃さんが好きなお店のケーキだ。

「あら、ありがとう。あとでいただくわね。史明さん、夕飯は食べた?」
「いえ、でも…」
「あ、そうね。静乃と話が終わってからのほうがいいわよね」
「当たり前でしょ、お母さん。ほら、お義兄さんはこっち座って」
「あら、静乃とふたりっきりのほうがいいんじゃない」
「なに言ってんのよ、お母さん! お母さんも一緒にお義兄さんの話聞くんだってば!」
「でも…」

お義母さんが僕と静乃さんを交互に見る。

「僕はかまいませんから」
「お姉ちゃんだってかまわないよね」
「史明くんがいいならいいわ」
「そう?」

静乃さんの隣に春織ちゃんが座って、その真正面に僕が座る。
お義母さんが僕達を左右で見れる位置のひとり掛けのソファに座った。

「さあ、お義兄さん。洗いざらい話してもらいましょうか」
「春織、そんな尋問みたいに…」
「なに言ってるのお母さん。お義兄さんにはちゃんと説明してもらわなきゃ。最悪、別居もしくは離婚とかだってありえるんだよ」
「え!?」

別居? 離婚?
そんな……昨日、僕が帰ったあと、一体どんな話になったんですか?

「し…静乃さん……」
「春織、私はそんなこと考えてないから」

その言葉に僕はホッと胸を撫で下ろす。

「史明くん」
「は、はい!」
「ちゃんと話して」
「はい」

静乃さんが僕をまっすぐに見つめるから、僕も静乃さんをまっすぐ見つめ返す。
僕はコクンと頷いて話始めた。

「始まりは会社で立ち上げた新しいプロジェクトでした。新しい分野ということでなかなか思うように進まなくて、
色々手を尽くしてるとき、その分野でかなり影響力のある人物がいることがわかって接触を試みたんです。
噂ではかなり気難しい人物で、実際何度か接触を試みたんですが忙しくて都合が合わないと断られてばかりでした。
世界中を飛び回ってる方で仕方ないことだったんですけど。そこでなんとか伝はないものかと探すと、
何年か前に日本人と一緒に仕事をしたことがあるとわかって、そちらからどうにか彼に接触できないかと話を持ちかけることになりました」
「その相手があの人?」
「はい。会ってわかったんですが、僕の大学のときの同期生でした。会うまで相手が彼女だと知らくて、
大学のころ彼女は会社を興すような感じの人ではなかったので。
彼女のほうも、相手が僕の会社だとわかっていなかったみたいでした。
大学のときは親の会社のことはほとんど話していなかったので、彼女もわからなかったみたいです」
「それで、ふたりっきりで会ったの? お義兄さん」
「はい、それが彼女の申し出だったので。初めて顔を合わせたときは彼女に時間がなくて、挨拶くらいしかできなかったんです。
改めて話をすることになったとき、久しぶりに同期同士で話もしたかったからふたりっきりで会いたかったと言われました」
「ふーん」

春織ちゃんの声で、疑いのこもった気持ちで話を聞いてるのがわかる。

「このプロジェクトのメンバーが頑張っているのもわかっていましたし、これがうまくいけば一歩先に進めると思ってました。
必ず彼に……コーナン・ロナウドという人物なのですが、彼に会えるように話をつけたいとも思ってました」

静乃さんは黙って僕の話を聞いている。

「僕は仕事で彼女と会いました。これは本当です。ただ相手が同期ということで、昔話で話が盛り上がったのは事実です。
でも僕は接待の域を越えるような行いはしていません」
「話が こじ れたら、ソッチで落とそうかと思ってたんじゃないの? お義兄さん」
「はい?」

ソッチ? ソッチとは所謂“枕営業”的なことの意味でしょうか?

「と、とんでもない! そんなこと考えてもいませんでしたよ!」

冗談じゃないですよ。

「春織、史明さんに失礼でしょ!」
「なに言ってるのよ、お母さん。女の人とふたりっきりのところにノコノコ出向くなんてさ、そう思ったって仕方ないじゃない。
事実こうやって浮気疑惑が浮上しちゃってるし」
「そのことに関しては本当に申し訳なく思ってます。静乃さんにとても嫌な思いをさせてしまいました……本当にごめんなさい、静乃さん」

史明くんが肩を震わせながら深々と頭を下げる。
私のことになると、泣き虫な史明くん……今はふたりっきりじゃないから泣くのを堪えてるんだろうな。

「話は思いのほか早い段階で纏まりました。同期のよしみということも含めて、協力してくれると約束してくれました。
でも、世界中を飛び回っている彼をつかまえて、面会を取りつけてもらうのに社長で忙しい身である彼女の手を煩わせて、申し訳ないとも思ったのも事実です。
ですから話のあと、お酒の席に誘われても断ることはしませんでした。それも接待の延長のだと思っていましたし。
今までも商談の相手とお酒を飲むことありましたから」
「それで飲みすぎたの?」
「いえ……飲みすぎないようにと気をつけていました。元々お酒に強いほうではないので」
「でも酔い潰れて、彼女に介抱してもらったんでしょ」
「え!」

静乃さんの言葉に、春織ちゃんが驚きの声と顔をした。
お義母さんも、ビックリしたらしい。
驚いた顔で“あらまあ”と呟きながら、口に手を当ててる。

「彼女にアルコール度の強いお酒を飲まされてしまって……酔っていたところに強いお酒を飲んだせいで、
不覚にも酔い潰れてしまったんです」
「え?」
「静乃さんが僕に電話をくれるまで眠ってました」
「彼女の部屋で?」
「はい」
「お義兄さん、どういうこと! 女の人の部屋で寝てたの? 酔い潰れて?」
「…………」

静乃さんが無言になる。

「それに、強いお酒を飲まされたって? お義兄さんわからなかったの?」
「彼女がバーテンダーを言い含めてて、強いお酒とは知らずに出されたお酒を飲んだんです」
「やだ、最初から狙ってたわけ? お義兄さんのこと。どーして気づかないのよ! お義兄さん!」
「最初から狙ってたわけではなかったそうです。すみません、まさかそんなことをされるとは思ってなくて」
「そりゃそうよ。史明さんは仕事と思って飲むのに付きあったんでしょ」
「はい」
「最初から狙ってたワケじゃないんだったら、一体なにがあってその人はそんなことしたの? 
お義兄さん、なにか相手が誤解するようなことしたんじゃないの? 気のある素振りかなにか」
「と、とんでもないです! 僕は静乃さん以外にそんなことしません」
「ふ、史明くん……」

史明くんが真面目な顔で春織に力説するからちょっとテレてしまう。
今まで身内相手に、そんなふたりの世界が垣間見れるようなこと話したことがなかったから。

「じゃあ一体なにがあったの?」
「そ、それは……」
「それは?」

春織ちゃんがソファに座ったまま腕を組んで、ズイッと正面に座る僕の顔をのぞき込んでくる。

「…………僕が彼女に静乃さんとのことを惚気たって言うんです。
彼女は離婚の話が進んでたらしくて、それでそんな話しをする僕のことを疎ましく思ったみたいです」
「はあ?」
「!」
「言っておきますが、僕は惚気てなんていませんよ。ただ、結婚したということと静乃さんが
どれだけ良妻で料理上手かを話しただけです!」

静乃さんが目をパチクリしながら僕を見てる。
どんな深刻な理由があったのかと思ってたのに、そんなコトかとでも思ったのかもしれない。

「どうせニヤニヤデレデレしながら、一方的にお姉ちゃんのことを相手に話しまくったんじゃないの?」
「え!? な、なんで同じことを言うんですか?」
「え? 誰に? 誰かに同じことを言われたの?」
「…………彼女と……今回のコトを相談した幼馴染みです」
「もーー、そりゃ自分が離婚するってときにそんなノロケ話聞かされたら憎らしくも思うわよ。
しかもデレッデレした締まりのない顔で“僕は今こんなにも幸せなんです〜〜”なんて感じで話されたらね。
だからって、それでお義兄さんをどうこうのってっていうのは、ただのお門違いの八つ当たりだけどさ」
「彼女に離婚の話が出ているのを知ったのは大分あとです。そのお酒の席では聞いていませんでした」
「で? それでお義兄さんはお姉ちゃんに顔向けできないようなことをしでかしたってワケ?」

また腕を組んだまま僕の顔を覗きこむ。
でもさっきとは違って、明らかに不機嫌さが顔中に現れてる。

「してません! 無防備にも酔い潰れたのは自分でも許せないことですが、僕は彼女には一切手を触れていません」
「でも相手は? お義兄さんは酔い潰れてて、なにされたかわからないじゃない」
「それは未遂で終わりました」
「なんでわかるのよ」
「彼女がそう言っていまいした。自分の着衣も乱れてませんでしたし、身体に違和感がなかったから確かです」
「彼女がウソ言ってるかもしれないじゃない」
「静乃さんが僕を心配して電話をしてくれたから、何事もなくすみました」
「え?」
「静乃さん……」

史明くんがうちに来て、初めて和らいだ眼差しで私を見た。

そう……まさにあのときがそういうときだったのね……。

 









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