想い想われ?



番外編・プレゼント大作戦! 06 困らせるつもりなんてなかったんですけどね




「はあ〜〜」

自分以外誰もいない副社長室で深い溜息をつく。
デスクに肘を着いて、両手で顔を覆う。

「静乃さん……」

思い浮かぶのは車の中ででの静乃さんの顔だ。
ずっと困ったような顔で無言だった。

「困らせるつもりなんてなかったんですけどね……」

顔から両手を外して頬杖をつく。

「うーん……」

静乃さんが堅実な人だということはわかってたから撲からじゃなくて、サンタからってことにしたら気にしつつも
受け取ってくれると思ったんですけどね。

「まあ、バレバレなんですけどね」

フフフ……と自虐的に笑ってしまう。

「はああ〜〜」

項垂れて、深い深い溜め息をついた。

「静乃さん……」

そのままデスクにメリ込みそうになる前に、ノックの音がした。

「はい」
「失礼致します」

入ってきたのは平林さんで、持っているトレイにはコーヒーが淹れられているであろう湯気が立ち上るカップが乗っていた。
仕事を始める前に必ず飲んでいるから毎日のことだったんだけど、あまりのショックに忘れていた。

「ああ、ありがとうございます」
「いえ」

目の前に平林さんが立って、デスクの上にコーヒーを置く。

「あの……」
「はい?」
「差し出がましいかもしれませんが」
「はい?」
「なにか気にかかることでもおありですか? それとも体調が優れないのでしょうか?」
「え?」
「いえ、私の気にしすぎならいいのですが」

ああ、そんなにも態度に表れてたのかと、今さらながら気づく。

「あ……いえ、大丈夫です。ちょっと考えごとをしていただけですから」
「そうですか? ではなにかありましたらお申し付けください。9時30分から海外事業部との会議が入っておりますので」
「わかりました」
「あ! 平林さん」

僕に会釈して出て行こうとする平林さんに声をかけた。

「はい?」
「あの……平林さんは“サンタクロース”を信じていますか?」
「は!?」
「えっと……その……」

思いつめていて、ついそんなことを口にしてしまったけれど平林さんはちょっと眉間に皺を寄せて僕を見てる。
ああ、居た堪れない……。

「それは子供のころは? ということでしょうか?」
「あ……いや、さすがに大人になってからは……ないですよね?」
「…………」
「すみません。変なこと聞いて……」
「小さなころは信じていたときもあったと思いますが、さすがに今は。世の中のことを知っていますし」
「ですよね……」

いい大人が、サンタからのプレゼントなんて受け入れるはずないですよね。

「もしかして、副社長が落ち込んでらっしゃるにはその“サンタクロースを大人でも信じているか否か?”ということですか?」
「へ!?」
「まさかとは思いますが、ご自分からのプレゼントをサンタからなどと言って奥様に贈ったのではありませんよね?」

ものすごいジト目で僕を見ながらの追求。

「なっ!? どうしてそんな……いえ! ちゃんと僕からだと渡しましたよ!」
「そうですか。では、なぜそんなに慌てているんですか」
「あ……それは……」
「昨日はあんなに機嫌よくお帰りになったじゃありませんか。奥様とクリスマス・イブを過ごされたのではないんですか?」
「過ごしましたよ! ちゃんと予約したレストランでディナーも食べましたし。そこでプレゼントも渡しました」
「そうですか」
「平林さん」
「はい」
「もし……もしもですよ? 朝目が覚めて、クリスマスツリーの横に明らかに自分あてのクリスマスプレゼントが置いてあったら……どう思いますか?」
「…………」

窺うような視線がちょっと痛いですが、スルーして答えを待つ。
同年代の女性として、どう思うだろうと気になったから。

「あくまでも“もし”の話です」
「そうですね……まあ、サンタからとは思いませんね。私は今ひとり暮らしですけど、もし親元にいたのなら両親か兄弟かと思いますが。
自分の歳でサンタからのプレゼントと思わせるより、普通に渡されたほうがいいんじゃないかと思いますけど。
逆になんでサンタからのプレゼントとしたかったのか不思議に思います」
「そ、そうですか……」
「副社長?」
「すみません、変なことを聞いて。仕事に戻ってください」
「はい、では」

まだ訝(いぶか)しく思っているみたいだったけれど、それ以上は追及されることはなく、平林さんは部屋を出て行った。

「はあ……」

やはり、素直に静乃さんに渡せばよかったんだろうか?
あの着物を着た静乃さんを見たかったと。
そう素直に告げていればよかったんだろうか。
誰もいないあのリビングに飾られている着物を思いながら、僕は目の前に置かれたコーヒーに手を伸ばした。




「ただいま」

仕事が終わって、ひとりで部屋に戻ってリビングに入るとすぐ視界に入ってきたのは、朝からそこにある一応“サンタから”の贈り物の晴れやかな着物。
傍に寄ってそっと着物の袖のところを触ってみた。
上質な生地で手触りもいい。
人気の加賀友禅作家が手がけたって言ってたものね。

「一生懸命飾ったんでしょうね。私が寝てる間に……ふふ」

そのときの史明くんの姿を想像して、小さく笑う。
そんなことも考えなかったと、反省した。

「さて……と」

しばらく着物を見たあと、ソファの上に置いてあったバッグから携帯を取り出す。
そしてアドレスの中から目的の電話番号を見つけて電話をかける。
きっと相手はすぐに出てくれるはず。
予想したとおり、2回のコールで相手に繋がった。









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