想い想われ?



番外編・プレゼント大作戦! 07 なんで貴女がここにいるんですか?




「はあ……疲れた」

やっと会議の終わった会議室から副社長室に戻る途中、つい口から出てしまう。
今日一日は身体の疲れよりも、精神的な疲れが強い気がする。
色々考えてしまいそうになる思考を、仕事に集中して考えないようにしていたから余計なのか。

「副社長、お疲れ様です」
「ああ、羽鳥(はとり)課長もご苦労様です」

羽鳥課長は僕と年が近い、海外事業部の出世頭だ。
何度か一緒に仕事をしたことがあって、歳も近いせいか話しやすい相手だった。
彼の人となりもあるんだろうけれど、オンとオフをキッチリと分けられるところも好感が持てた。
たしか結婚してて、お子さんがいたはず。
今の時刻は20時を少し回ったところだけれど、これから帰るとなるとそはあ……疲れた」

やっと会議の終わった会議室から副社長室に戻る途中、つい口から出てしまう。
今日一日は身体の疲れよりも、精神的な疲れが強い気がする。
色々考えてしまいそうになる思考を、仕事に集中して考えないようにしていたから余計なのか。

「副社長、お疲れ様です」
「ああ、羽鳥課長もご苦労様です」

羽鳥課長は僕と年が近い、海外事業部の出世頭だ。
何度か一緒に仕事をしたことがあって、歳も近いせいか話しやすい相手だった。
彼の人となりもあるんだろうけれど、オンとオフをキッチリと分けられるところも好感が持てた。
たしか結婚してて、お子さんがいたはず。
今の時刻は20時を少し回ったところだけれど、これから帰るとなるとそれなりの時間になってしまうだろうから、
小さな子供はもう寝てしまっているんじゃないだろうか。

「今日はクリスマスですけど、ご家族の方は大丈夫なんですか」
「はあ……まあ、それなりの文句は言われますが仕方ないです」

たしかにそうなんだけれど、こんな日は家族と過ごしたいだろうに。
一応各部署では24日と25日どちらかは仕事を早めに切り上げて帰るようにしているらしいけれど、そう都合よくいかないこともあるだろう。
僕は前日まで調整して、イブの夜をなんとかもぎ取ったけれど。

「昨日家族サービスはしましたし、今日は諦めてもらいました。年内に切りのいいところまでこの企画を進めておきたかったですし。
副社長こそご結婚されたばかりなのに大丈夫なんですか」
「ああ、大丈夫です。僕も昨夜、イブは妻と過ごしましたから」

“妻”ああ、なんていい響きなんだろうか。
話す相手に静乃さんのことを“妻”“家内”と言うたびに、僕は身体か震えるほど感動している。
そんなことは?(おくび)にも出さないけれど、もしかして口元は緩んでいるかもしれない。

「そうですか。それはよかったです」
「羽鳥課長はお子さんがいましたよね? プレゼント、あげたんですか」
「ええ。寝ている間に枕もとに置いておいたんですが、朝プレゼントに気づいて大はしゃぎでした。
あそこまで喜んでくれると、こちらとしても嬉しいですね」
「そ、そうですか……」

なんだろう……この鳩尾にズッシリとくる感じ。

「まあ、いつまでサンタがくれたと思ってくれるか、わかりませんけどね」
「そ、そうですね」
「副社長のところも、すぐじゃないですか」
「え?」
「……え?」

僕の返事に羽鳥課長がキョトンとした顔をした。
でもすぐに、納得したような顔を僕に向ける。

「ああ! しばらくはおふたりで過ごすのもいいですよね。まだご結婚されたばかりですから」
「……そうですね。僕はすぐにできてもかまわないんですけどね」
「大変ですけど、賑やかになっていいもんですよ」
「そうですか」

ニッコリと笑った顔はとても嬉しそうな顔で、きっとお子さんのことを思い出したんだろう。
子供か……子供なら素直にサンタさんからのプレゼントだと信じて喜んでくれるんだろうか?
ああ、マズイ。
ちょっとトラウマになってる気がする。

そんな話をしながらエレベーターの前まで来ると、彼が副社長室のある上向きのボタンを押す。
彼が乗るのは下行きのはずだけれど、副社長である僕を優先させるのは当然のことだし、僕もそれを素直に受ける。
そこは会社の中の上下関係のことだから、いくら話しやすいと言っても当然のことながらそこはちゃんと一線を引く。
ポンと音が鳴ってエレベーターが着いたことを知らせた。

「では、お疲れ様でした」
「羽鳥課長も」

そんな挨拶を交わして、扉の開いたエレベーターに向き直って乗り込もうとした身体がピタリと止まる。

「…………え!?」
「あ……」
「…………どうし……て……」
「副社長?」
「ハッ!」

エレベーターの中にいる人を見て、乗ろうとしない僕を不思議に思ったのか羽鳥課長が僕を呼んだ。
その声にハッと我に返る。
羽鳥課長も、僕とエレベーターの中にいる人を交互に見てる。

「ご苦労様でした、羽鳥課長」

慌ててエレベーターに乗り込むと、中に乗ってる人を羽鳥課長の視線から遮るように立つ。
戸惑いながら会釈を返す羽鳥課長の姿が、閉まっていくエレベーターのドアで完璧に見えなくなってエレベーターが動き出してから、
僕はうしろを振り返った。
なんで貴女がここにいるんですか?

「静乃……さん?」




家に帰って、電話した相手は史明くんの秘書の平林さん。
2回のコールで出た彼女に、今日の史明くんの予定を聞くため。
普段より早かったり遅かったりするときは私が会社を退社する前に必ず連絡をくれる史明くん。
それがなかったということは、今日はいつもと同じ時間に帰ってくる予定だっていうこと。
それならまだ時間はあるから、今日の朝のお詫びも兼ねて史明くんを迎えに行こうと思いたった。
だから大まかな終了時間を確かめたくて、秘書である平林さんに連絡を取った。

『目安としては20時までには終わらせると言っておりましたので、その前後になるとは思うのですが』
「そうですか」
『あの、なにかお伝えすることがあれば承りますが?』
「え? あ! 違うんです。あの……今日はそちらに史……いえ、主人を迎えに行こうと思いまして……」
『…………そうでしたか』

えっと……その一瞬の間はなんの意味があったのかしら?
もしかしていい年をした妻が、旦那さんを会社にまで迎えに行くなんて呆れられちゃったとか?
そうよね、普通そんなことしないわよね?
どうしよう……でも、今日はどうしてもそうしたかったから、自分に自分で目を瞑る。

「すみません。ご迷惑だとわかっているんですけど、今日はどうしても……」
『もしかして、副社長にはお話してらっしゃらないんでしょうか?』
「は、はい。主人には言ってないんです。ですから、内緒にしていただけると助かるんですけど」
『畏まりました。お着きになりましたら受付にお声掛けください。すぐにお迎えに参ります。
それにもし副社長のほうが早く帰ることになっても、お引止めしておきますのでご安心ください』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
『いえ、お気をつけてお越しください。お待ちしております』

そのあとは、帰るときに森末さんにももしかしたらと話していたからすぐに連絡をして、来てほしい時間を告げた。
森末さんも快く承諾してくれたから、それから私は時間に間に合わせるべく携帯をバッグにしまうと浴室に向かった。

19時30分ごろ史明くんの会社に着くと、言われたとおり受付の人に平林さんに連絡してもらう。
すぐに下りてくるという返事をもらって、私はロビーに置いてあるソファのセットが置いてる一角に移動して平林さんが来るのを待った。

「変じゃない……わよね?」

久しぶりに着た着物が気になって仕方がない。
森末さんにはお褒めの言葉を貰ったけど、お世辞ということもありえるし。
挙動不審にならない程度に自分の身なりを何度も見返した。

「奥様」
「平林さん」

“奥様”と呼ばれるたびにちょっとテレくさいんだけど、それを否定するのもまた色々あるので慣れるしかないと思っている。
史明くんは私が“奥様”と呼ばれるたびになんだかニンマリして、ときどき現れる耳と尻尾がワサワサとなってるみたいだけど、
それは見て見ないふりをしている。

「お忙しいのに、すみません」

私は足早に近づいてくる平林さんに頭を下げる。

「いえ、お気になさらずに。まだ副社長は戻ってきておりませんので大丈夫です」
「そうなんですか? よかった……」

待たせてたりしたら申し訳ないなと思ってたからホッとした。

「では、参りましょう」
「はい」

エレベーターの前に案内されて、下りてくるのを待っていた。

「そのお着物、とてもお似合いです」
「え?」

その言葉に顔を上げると、微笑んでる平林さんと目が合った。

「あ、ありがとうございます」
「副社長からのプレゼントでしょうか?」
「えっと……はい……」

自分でも歯切れが悪いと思いつつ、平林さんになら誰からもらったかなんて気にしなくてもいいのに答えに詰まってしまった。

「きっと副社長も喜びますわ。朝から様子が変でしたが、これで機嫌も直ると思いますし」
「え? 様子が? 変でしたか?」

もう、史明くんってば。
でも、やっぱり落ち込んでたのね。

「ええ、なにか考え込んでいらっしゃったみたいですけど。きっと奥様のことだったんですね」
「たぶん……ごめんなさい。仕事にまで差し支えてしまってたなんて……」
「仕事はそつなくこなしておいででしたから大丈夫です。ただ、ふとしたときに考え込んでらっしゃったくらいで」

変な質問をされたとはあえて黙っていた。


乗り込んだエレベーターが静かに止まる。
目的の階ではなかったから、途中の階で誰かが止めたみたい。
ポン! と音がして扉が開くと、目の前に史明くんがいた。

「…………え!?」
「あ……」
「…………どうし……て……」

驚いた顔をして、ちょっと間抜けな顔だったから、心の中でクスリと笑ってしまった。









Back   Next








  拍手お返事はblogにて…