想い想われ?



番外編・プレゼント大作戦! 08 まだだ……まだ我慢しなければ




会議が終わって副社長室に戻るために乗ろうとしたエレベーターの中になぜか静乃さんがいて、
それがどうしてかわからず思考と身体の動きが止まる。
だって……エレベーターの中にいる静乃さんは、僕がサンタからだといって贈ったあの訪問着を着てくれていたから。
髪もアップにしてて、一瞬誰だかわからなかったから余計に動きが止まってしまったんだと思う。
そんな僕を気遣う羽鳥課長に、“この静乃さんを見せたくない!”なんて即判断を下し、
静乃さんに向けられる彼の視線を遮るように彼と静乃さんの間に立った。
労いの言葉をかけて、羽鳥課長の姿が閉まっていくエレベーターのドアで完璧に見えなくなってエレベーターが動き出してから、
僕はうしろを振り返った。

「静乃……さん?」
「お疲れ様。史明くん」
「…………」

上目遣いで僕を見上げて、ハニカムように微笑む静乃さんに僕は言葉もなくただワナワナと身体が震える。
もちろん感動で。
なんて……なんて綺麗でお淑やかで……そう、“大和撫子”という言葉がぴったりだ。
それに、なんて和服が似合うんだろう。
きっと着物姿の静乃さんはこんな感じだろうと想像してたものが、どこかに飛んで行ってしまうくらいの衝撃だった。
しかも不意打ちなのが、さらに効いているんだろうと思う。

「あ……でも、どうし……」
「副社長、お疲れ様です」
「え!? あれ、平林さん!?」

いたんですかーーーー!?
静乃さんから2歩ほど離れた場所に平林さんが立っていた。
まったく視界に入っていなかった。

「副社長が会議中に奥様から連絡がありまして、会議が終わるころにこちらに伺うと仰られましたので。
今、お着きなった奥様をお迎えに上がって、お部屋にお連れするところだったんです。
まさか副社長がお戻りになるところに偶然居合わせるなんて思いませんでしたが」
「そうなんですか……」
「急に来ちゃってごめんなさい。でも……」
「話はあとでゆっくり聞きますから」
「!! …………はい」

僕は平林さんの手前、何事もないように落ち着いて見せていた。
本当は着物姿の静乃さんをじっくり観察し、僕が今思っていることを思うまま素直に静乃さんに言いたかったのだけれど、
それを今したら平林さんにどう思われるのか簡単に想像できて、我慢することにした。
ああ、早くふたりっきりになりたい。
今だって本当は静乃さんの両手を握り心ゆくまで見つめあってから、副社長室まで抱き上げて連れて行きたいくらいなのに。
チラリと隣に立つ静乃さんを見れば、気まずそうに俯いている。
そんな静乃さんを見て胸が締めつけられる。
怒っているわけでも、迷惑に思っているわけでもないんですよ! 静乃さん!!
むしろ逆です!!
でも、今それを言えないのがなんとも歯痒い!


「只今、コーヒーをお持ちいたしますのでお待ちください」
「あ、あの……おかまいなく。突然押しかけたのは私ですから……」

静乃さんの遠慮する言葉に、平林さんが微笑みと会釈で応えて部屋から出て行った。
静乃さんにソファに座るように促して、僕は少し離れた場所で立っていた。
まだだ……まだ我慢しなければ。

「あの……史明くん……」
「静乃さん……」
「はい?」
「もう少し……待ってください」
「え?」
「すみません」
「ううん……」

静乃さんも、僕の態度にどうしたんだろう? と不思議に思っているみたいだった。
数分後、平林さんが二人分のコーヒーを持ってきた。

「他になにが御用はおありでしょうか?」
「いえ、もう大丈夫です。元々会議が終わったら帰るつもりでしたので。ですからあとはかまいませんので、
平林さんはもう帰ってけっこうですよ」
「そうですか? では御用がないようでしたら私はこれで失礼いたします」
「ご苦労様でした」
「奥様、私はこれで失礼いたします」
「いえ、私のほうこそお手間をとらせてしまってすみませんでした」
「では、失礼いたします」

深々と頭を下げて、平林さんが副社長室のドアを閉めた。

「…………」

それからしばらく僕はそのドアを見つめていた。
…………よし、もう大丈夫だろう。

「静乃さん」
「!」

僕は素早く静乃さんの座るソファに近づいて、座っていた静乃さんの両手を握って静乃さんを立たせた。

「史明くん?」

僕はその場で上から下まで何度も静乃さんを見て、ニッコリと笑う。

「とても似合っています。静乃さん!」
「え?」
「綺麗でお淑やかで、まさに“大和撫子”です」
「あ……」

僕はギュッと静乃さんを抱きしめた。
ずっと我慢していたんだから。
もう朝からの落ち込みはどこかに吹き飛んでしまった。

「本当に素敵です。とっても似合います」
「アン……」

アップにして露わになっていた項に、触れるだけのキスを落とす。
静乃さんの身体がピクンとふるえて、僕に回した手に力がこもってギュッと抱きしめられた。

「どうして僕に黙って会社に来たんですか?」

抱きしめていた両手を肩に移動して、静乃さんの身体を少し自分から離して顔を覗きこんだ。

「えっと……史明くんを驚かせようと思って……それに……」
「それに?」
「喜んでくれるかなって……」

上目遣いの静乃さんが、ほんのりと頬を染めてそんな可愛らしいことを言う。

「もちろん驚きました。それに、すごく嬉しいです!」
「本当に?」
「はい! 本当です」
「あの……史明くん」
「はい?」
「あの……朝はごめんなさい」
「え?」
「せっかくサンタさんが、こんな大人の私にまでプレゼントをくれたのに……素直に喜べなくて……」
「え゛!? あ……いえ……それは……えっと……」

それって……僕からってわかってて、あえてサンタからと言ってくれてるんですよね?









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