となりの拡ちゃん☆



02




拡ちゃんが大学に通い始めると私との時間は殆んど無くなってしまった。

いつの間にか車の運転もするようになった拡ちゃん……
何度か乗せてもらった時もあるけど最近じゃ家に帰って来るのも遅くて
まだ遅くまで起きていられない私はお隣のいつも拡ちゃんが停めてる駐車場に車が戻ってないうちに
寝る事になって朝起きて駐車場に拡ちゃんの車が無いことがわかると朝からガッカリで落ち込んでしまう。

だって……いつもとは限らないけどおばさんが言うにはそういう時は
付き合ってる女の人の所に泊まってくるからだって……

また拡ちゃんの隣には私じゃない拡ちゃんと同じくらいの歳の女の人がいるんだ。

自分の歳が歯がゆくて……
どんなに頑張っても今はまだ私は10歳……

約束の18歳まではあと8年もある……


拡ちゃんは大きくなるにつれてどんどん素敵になる。

耳が隠れるくらいの長さの髪の毛はちょっと茶色でサラサラで
背だって高くて……うちのお父さんよりも高いし
最近じゃタバコも吸ってて……そんなタバコを吸ってる拡ちゃんはカッコよかった。

なのに……私との距離はどんどんあいてく……



「拡君就職先決まったんですって」
「へえ…もうそんな歳か?」

そんな会話を夕飯を食べながらお父さんとお母さんがしてた。

「お付き合いしてる相手もいるみたいだし落ち着いたら結婚するんじゃないかって里子さん言ってたわ」

里子さんは拡ちゃんのお母さん。

「へえ…もうそんな話出てるのか」
「拡君モテるから ♪ 」

「…………」

私はそんな話を聞いて真っ青だ…
その後はご飯も喉を通らなくて早々に夕飯を切り上げて自分の部屋にこもった。

「拡ちゃん……ぐずっ……」

ベッドにうつ伏せて私はグズグズと泣くばかり……

『その時オレが1人だったらな』

もうそんな約束も無いのと同じ……
まだ彼女なら別れる可能性もあるけど……奥さんじゃもう無理だ……

いつもいつも拡ちゃんに新しい彼女が出来る度に別れろ光線を送ってた。
でも……流石に結婚まで考えてる相手にそんな光線送れない……

約束の18歳まであと6年……もう…ダメなのかな……拡ちゃん…



ランドセルと黄色帽子は嫌い。
自分が小学生だって思い知らされるから……早く高校生になりたい……

「?」

ふと気付くとうしろに人の気配……
近付いて来る訳でもなく離れるわけでもなく……でも確かにあとをついて来る。

流石に6年ともなると色々な話を聞く……変質者?
何度か学校の朝礼で先生が気をつけなさいって言ってた。

でも…本当に?

チラリと振り向いたらヨレヨレのスウェットの上下を着た男の人が歩いてる。
上着のフードを俯いた頭にかぶって顔はよく見えない。
両手はズボンのポケットに入れて……

それがその人物なのかわからないけど怖くなって足を速めた。
だって周りは家はあるけど誰も外に出てなくて……今ここを歩いてるのは私1人。

「!!」

速めた歩調に相手も合わせて歩き出した!
やだ!!!怖い!!

その後は必死で…もう駆け出す一歩手前の早さで歩いた。
そんな歩き方なのにうしろにいた男の人も一緒について来る!

「………」

どうしよう……家までまだ少しあるのに……でも怖くて怖くてしかたがない。

「颯子」
「!!」

聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。
声がした方に顔を向けると私が来た道に繋がる駅からの道に咥えタバコの拡ちゃんが立ってた。

「拡ちゃん!!!」

私は一直線に拡ちゃんに駆け出して抱きついた。

「颯子?」
「………」
「なに?アイツになんかされたの?」

拡ちゃんが私のちょっとうしろにいたあの男の人を睨んでそう言った。

「…………」

私はフルフルと頭を振ったけど顔は拡ちゃんの身体に押し付けたままだった。
その男の人は拡ちゃんが来た途端反対の方に歩いて行ってしまったらしい。

「大丈夫か?颯子」

拡ちゃんに抱きついてる私の頬を両手で挟むと自分の方を向かせる様に私の顔を上に向ける。

「たまたま電車で帰って来たから良かったよ。
ったく……もう1人で帰るのやめろ。それかもっと人通りの多い道で帰れ!」

「拡ちゃん結婚するの?!」

「は?」

いきなりの私の言葉に拡ちゃんは驚いてた。

「この状況で開口一番のセリフがそれ?怖かったとかじゃないの?」
「だって……ずっと気になってたんだもん!!拡ちゃんには全然会えないし……」
「……結婚って誰に聞いたの?」
「お父さんとお母さんが話してた……働く場所も決まったからって……」
「まあ働く先が決まったから次は結婚だなってお袋は言ってたけど結婚はまだしないよ」
「ホント!!」
「ああ」
「あ!」

でも……気付いた……

「颯子?」
「でも……今はしないだけで……いつかはするの?」

相手がいるのは知ってるもん……

「まあいつかはするだろうけど1人じゃ出来ないしな」
「え?」
「今誰とも付き合ってないから」
「え?本…当?」
「そう今オレフリー」
「え……」

私がどんなに嬉しい顔をしてるのかきっと拡ちゃんにもわかっただろう。

「しっかし黄色い帽子にランドセルって颯子に似合うな」
「え?」

そんな拡ちゃんの言葉に一気にテンションは急降下。

「何年になった?」
「6年生……」
「そっか……今度は中学か」
「うん……」
「今だったら空いてたのにな」
「…………そのまま空けてて!!!」

きっと私の顔も目も……拡ちゃんにすがるようだったと思う。

「言っただろ?それは男の事情で無理だって」
「男の事情ってなに?」
「んーーーイイ男は周りの女が放っておかないって事か」
「えーまた他の女の人と付き合うの?」
「これでも健全な20代の男の子なんでね」
「…………」
「泣くなよ」

そう言って頬に手を触れたまま親指で私の零れた涙を拭う。

「だって……あと6年……も……あるよ……」
「だから無理してオレを待ってなくてもいいって言っただろ?他の奴好きになれ」
「それは嫌っ!!!」
「じゃあオレも約束通りだって」
「………中学入ったらじゃダメなの?」
「ダメ」
「意地悪……」
「誰かいないの?クラスの男子とか先輩とか」
「比べる相手は拡ちゃんなんだよ!誰も勝てないよ!!」
「う〜んそれは困ったな。やっぱオレが結婚しないと颯子は他に行けないのか」
「やっ……やだよ!!だからって結婚なんてしないでよっ!!そんなのヤダよ!!」
「こればっかりはな〜タイミングで」
「拡ちゃ〜〜〜ん……ぐずっ……」
「相変わらずのお子ちゃまだな…颯子は」
「…………」

それを言われるのが…一番辛くて悲しい……

通学帽の上から頭を撫でられた……本当は直接私の頭を触って欲しいのに……

『帰ろう』……そう言って拡ちゃんは私と手を繋いで一緒に帰ってくれた。<





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