となりの拡ちゃん☆


03




「もうすぐ卒業だろう…だからその前に言っておきたくて…」

中学3年の3学期…もうすぐ卒業式が行われる時期。

もう春から行く高校も皆決まって後は卒業式を待つばかりだった。
そんなある日クラスメイトの男の子に呼び出された。

「ごめんなさい。私好きな人がいるから付き合えない」

何度目かの同じセリフ……
なぜだか中学の間に2度ほど告白された……彼が3人目だ。

「その人とは付き合うの?」
「え?」
「まだ……そっちと付き合わないんだったらそれまででもいいから俺と付き合ってよ。
もしかしてその人よりも俺の方が好きになるかもしれないじゃん」
「……それは……ないよ……ごめんなさい」

私は悩むことも無くそう返事をする。
誰も拡ちゃんの代わりにはなれないし勝てるわけがないから……


「拡君ね転勤ですって。だから一人暮らし始めるらしいわよ」
「!!」

夕飯の時お母さんがそう言った。
私はまたすぐに真っ青になって食事が喉を通らなくなる。
自分の部屋に戻るとお決まりのベッドの上にダイブだ。

「うっ……ひっく……」

拡ちゃんがいなくなっちゃう……そんな事考えた事なかった。
拡ちゃんの会社の社長さんに言ったら何とか行かないようにしてくれるかな?
なんて絶対無理なことをかなり真面目に思った。

その後も拡ちゃんの話しが何度も出て一人暮らしをすることは本当だったんだと知った。

離ればなれになったら今以上に拡ちゃんが離れていっちゃう……
うちのお兄ちゃんと交換してもいいから……どこにも行かないで!


拡ちゃんの引越しはあっという間に終わったらしく私が学校に行ってる間の
昼間にやられたから私は何も出来なかった。

学校から帰ったらもう拡ちゃんは引っ越した後だった。
やっと高校生になったのに……あと3年だよ拡ちゃん!!だから…だからお願い……

誰のものにもならないでいて……



高校生になって携帯という物が手に入った。

「拡ちゃんの番号知りたいな……おばさん教えてくれるかな」

教えてくれるかドキドキしてたけど子供の頃から私が拡ちゃんのことを慕ってるのを
知ってたおばさんは簡単に拡ちゃんの携帯番号とアドレスを教えてくれた。

「まだ拡のこと慕ってくれるのね」

慕ってるどころが大好きです。
そんなオバサンの言葉に心の中でそう答えてた。


「どうしよう……」

おばさんから拡ちゃんの携帯番号とアドレスを教えて貰ったのはいいけど……
どうしよう……掛けられない!!

「はあ〜〜〜」

座ってたベッドの上に仰向けで倒れ込む。

「昔はもっと素直に拡ちゃんのところに行けたのにな……」

いつ頃からだろう……拡ちゃんに素直に話せなくなったのは……

「だって拡ちゃんカッコイイんだもん……」

時々見かけてた拡ちゃんは日に日にカッコ良くなってさぁ……大人の男の人だったな……

「やっぱり私なんか拡ちゃんから見たらいつまで経ってもお子ちゃまなんだろうな……」

拡ちゃんは25歳……そんな拡ちゃんから見たら15歳の私なんて本当お子ちゃまだよね。

「でも!」

私はガバリと起き上がる!

「拡ちゃんが結婚するまでは望みはあるもん!!」

そう!私の拡ちゃんを思う乙女心と恋心をなめたらいけない!!


『颯子?』
「拡ちゃん!」

勇気を振り絞って拡ちゃんの携帯に電話した。

『なに?携帯持ったの?』
「うん。高校生になったからね。拡ちゃんが電話第一号だよ」
『へえ……で?なんか用か?』
「!!」

ズキリと胸が痛んだ。

「別に用はないんだけど……携帯持てて嬉しくて……」
『だからって使いすぎるなよ』
「しないよそんなこと」
『そう』
「拡ちゃん」
『ん?』
「時々…電話してもいい?」

少しでも……拡ちゃんと繋がっていたい……

『いいけど出れない時の方が多いぞ』
「じゃあメールしてもいい?」
『返事出来るかわかんないけど』
「でも読んではくれるんでしょう」
『ああ…じゃあ切るぞ。あんまりゆっくり話してらんないから』

拡ちゃんはサッサと電話を切ろうとする。
きっと大人のお付き合いで拡ちゃんは忙しいんだ……
そう……隣に彼女がいるからじゃ……ないよね?

「拡ちゃん!!」
『ん?』

「私…私ね……高校生になったよ……あと3年だよ……」

『……オレ今1人じゃないから』

「え!?」

ズキンと心が痛んだ。

「あ……ひ……拡ちゃんカッコイイからなぁ〜」

そんな言葉が今私に出来る精一杯の強がり。

『サンキュ。じゃあな。高校入学おめでとう。彼氏でも作って高校生活楽しめ』
「拡ちゃん…」
『ん?』

私はまた悪あがきをする。

「諦めてないからね!」
『…………』

「だから結婚だけはしないで……7年頑張ったんだよ……私にもチャンス頂戴よぉ」

『颯子』
「拡ちゃ〜〜〜ん……クスン」
『2年したら帰るからそしたら遊んでやる』
「彼女にしてくれるんじゃないの……」
『だから今は1人じゃないって言ってるだろ。嫌なら他に好きな奴作れ』
「やだよ!約束だよ2年したら帰って来てよ!」
『約束するじゃあな』
「うん…じゃあね」

できれば切りたくなかった私とは裏腹に拡ちゃんはなんの迷いもないように電話を切った。


それからたまに拡ちゃんにメールを送ったけど返事は3回に1回あれば良い方で……
お盆もお正月も拡ちゃんは帰って来なかった。


2年って言ってたのに拡ちゃんが帰って来たのはそれからさらに半年後で私は高校3年になってた。

あと半年だよ……拡ちゃん……



「こんな風に話すの久しぶりだね」
「そうだな」

久しぶりの拡ちゃん家のリビング。
でも今日は2人っきりじゃなくておばさんもいる。

「いい加減落ち着けばいいのに。仕事だってもう大丈夫でしょ?奥さん1人くらい養えるでしょ」
「…………」
「え?拡ちゃんそういう相手いる……の?」
「なんかねぇ〜いるらしいのよ?」

拡ちゃんの代わりにおばさんが答える。

「え……」
「…………」

拡ちゃんはソファに座ってまるで他人事みたいに気にしてない素振りでタバコを吸ってる。

「1人暮らしやめたのも結婚資金貯めるためでしょ?」
「…………」

拡ちゃんは無言だった。
それって……肯定ってこと?本当だってこと?ウソ……

「颯子ちゃん?」
「え?あ……ごめんなさい…あの……私また後で来るね」
「そう?あ!颯子ちゃん今夜うちで夕飯一緒に食べる?」
「え?あ……うん……じゃあまた後で来るね……」

私はその場にいれなくて駆け足で自分の部屋に戻ってベッドに飛び込んだ。
そしていつものように布団に顔を押し付けてグズグズと泣き始める。

「……う……ヒック……」

拡ちゃん結婚するんだ……結婚……しちゃうんだ……

さっきの拡ちゃんの態度が頭の中で繰り返される。

せっかくあと半年まで来たのに……

「拡ちゃん……」

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

そんな時ベッドの端に置いてある携帯が鳴った。
手にとって表示された画面を見ると携帯の番号だけが表示されてる。
それは拡ちゃんのものじゃない……拡ちゃんなら登録してるから名前が表示されるはず……誰?

「………はい?」

泣き止んですぐのハナにかかった声になってる。

『喜多嶋?』
「?」
『俺蓮田…わかる?』
「蓮田……君?」

同じクラスの男の子だ。

「わかるけど…どうして?」
『クラスの女子に聞いてさ……ごめん。勝手に調べて……』
「あ…ううん……」

今更……嫌とも言えないから。

「なに?どうしたの?」
『いやさ……ちょっと出て来れないかな?喜多嶋の家の近くに公園あるだろ?そこまで』
「どうして?」
『ちょっと話があるんだ……電話じゃなくて直接話がしたくて……ダメかな?』

私はちょっと考える。
でもそんなに深く考えたわけじゃなかった。

「すぐ終わる?このあと用事があるから……」
『え?あ……ああすぐに終わるよ』
「じゃあ今から行けばいいの?」
『ああ…俺はもうその公園に来てるんだ』
「わかった…あと5分くらいで行けると思う」

どうしてそんなに素直に頷いちゃったんだろうかと後から思うと不思議だった。

きっと拡ちゃんのことがあってそのときは色んなことがよく考えられなかったみたい。
だから夕飯に間に合うように帰ればいいかと思って言われた公園に向かった。

まだ冬の寒さじゃないけど結構肌寒い……
夕方の6時過ぎなのにもう辺りは真っ暗に近かった。

公園に着くと入り口から直ぐの所のベンチに蓮田君が座ってた。
私に気付いて慌てて立ち上がる。
蓮田君はおとなしめな雰囲気のそれでいて爽やかなイメージの男の子だ。
女子とも普通に話して男子の友達もたくさんいる。

「急に呼び出してごめん」
「ううん……でもよくこの公園がわかったね?」
「はは……あのさ俺もここ地元なんだけど…… 喜多嶋と同じ中学出身なんだぞ」
「え?あ…そうだったんだ……ごめん…私物覚え悪くって……」
「まあ中学の時1度も同じクラスにならなかったし……高校も今年初めて一緒のクラスだったから仕方ないよ」
「そっか……で?話って?」

本当に真面目になんの話しかなんて思いつかなかった。
蓮田君とは教室でたまに話はしたことがあるけど……

「あ……あのさ……」
「?」
「喜多嶋って彼氏いるの?」
「え?」
「いるの?」

そんなことを聞かれて初めて気付いた。
あ…もしかして私告白されてるんだ……でも……なんてタイミングなんだろう。
なにも……こんな日に……

「喜多嶋?」
「ごめんなさい。付き合ってる人はいないけど好きな人はいるから……ごめんなさい」

そう言っていつものように頭を下げる。

「……それって……望みないってこと?」
「え?」
「今付き合ってないならさ……俺と付き合ってもいいんじゃない?」
「え?でも……」
「だってその人と付き合う可能性あるの?」
「…………」

さっきの今で……思わず返事が出来なかった。
きっとさっきの拡ちゃんの話を聞かなければいつものように即答で返事をしてたと思う。

「片思いでしょ?だったら……俺と付き合ってみてよ。後悔させないから!」
「でも……」
「喜多嶋のことは知ってたけど3年になってクラスが一緒になってから意識するようになって……
好きだって気がついて……それからずっと好きだったんだ!喜多嶋!!」
「え?あの…ちょっ……」

いきなり肩を両手で掴まれてその勢いで後に下がる。

「!!」

近くにあった街燈の柱に背中が押し付けられて軽い痛みが背中に走った。

「喜多嶋!!好きだ!!」
「いやっ!!ちょっと!!蓮田君やめて!!」

ぎゅっと抱きしめられてキスされそうになる。
だから必死に両手で蓮田君の身体を押し戻したり自分の顔を横に逸らしたりして逃げた。

でも蓮田君はしつこく迫ってくる。

やっ……やだっ!!拡ちゃんっっ!!!

こんな時でもやっぱり思い出すのは……助けを求めるのは……拡ちゃんで……
でも……助けになんて来てくれるわけ……

「颯子を離せ!」

「わっ!!」
「!!」

グンと身体が引っ張られて今度は違う腕の中に抱きしめられた。
この声……

「たかが告白で相手の唇奪おうなんて違うんじゃないのか?少年!」
「あ……あの……」
「拡……ちゃん?」

拡ちゃんに抱きしめられながら2人を見ると拡ちゃんが片手で蓮田君の手首を握り締めて睨んでた。
もう片方の手は今は私の肩を抱いて自分の方に抱き寄せてくれてる。

「今自分がしようとしてたことがどんなに卑怯なことかわかってるのか?オイっ!!」
「す……すいません!!俺……」

蓮田くんはもうしどろもどろでオタオタしてる。
きっと今頃自分がどんなことをしようとしてたのか自覚したんだと思う。

半分は拡ちゃんに怒鳴られて気付いたのかもしれないけど……

「謝るのはオレじゃないだろろう!」
「あっ……ご…ごめん…喜多嶋……」

伺うように私に視線を合わせて口から出た言葉は最初の時とはうって変わって弱々しかった。

「颯子この少年と付き合うのか?」
「…………」

私は拡ちゃんの洋服を握り締めながら首だけを何度も思い切り振った。

「これが返事だ。もう2度と颯子に近付くな!もし近付いたりまた変な事しようとしたら学校に連絡する」

「も……もう……しません!!喜多嶋本当にごめん!!」

今にも泣き出しそうな顔の蓮田君……

「う…ん……」

私がそう返事をしたら蓮田君の手首を掴んでた拡ちゃんの手が離れた。
その後すぐに蓮田君は逃げる様に公園を走って出て行った。

「ったく……妄想で先走りやがって」

拡ちゃんが小さな声でそんな事を呟いてた。

「拡ちゃん……どう……して?」

そうだよ…なんで?

「颯子お前バカか!」
「え?」

肩を抱かれたまま頭の上から怒鳴られた。

「こんな暗い公園で男と2人っきりで会うなんて襲ってくれって言ってるようなもんだぞ!!」
「お…襲う?そんな事……」
「案の定迫られてただろ!オレが来なかったら無理矢理されてたぞ」
「……うん……ごめんなさい……」

確かにそれは拡ちゃんの言う通りだと思った。

「はあ〜〜〜これからは気をつけろよ」
「うん……で?」

何で拡ちゃんがここに?と視線で訴えた。

「飯だってよ。お袋に颯子呼んで来いって言われたから」
「あ……そ……っか……」

そうだよね……じゃなきゃ拡ちゃんが来るわけないか……
一体何を期待してたんだろう……相変わらず私ってバカだ。

「颯子んちに行ったらおばさんが颯子が公園に出掛けたって言ったから」
「そう……」
「……もうこれからは気をつけるんだぞ」
「うん……」

「断って……良かったのか?」

「!!」

拡ちゃんのその言葉に私は拡ちゃんの顔を見上げて見つめてしまった。

拡ちゃんが……そんなことを言うの?拡ちゃんが……

「オレを待ってなくていいって言っただろ」
「……あと……半年だもん……」
「颯子?」
「いいじゃないっっ!!あと半年くらい待ってたって!!」

抱きしめられてた拡ちゃんの腕の中から両手を突き出して飛び出した。

「拡ちゃんのバカッ!!」

そう拡ちゃんに叫んで家まで走って帰った。

私にもチャンス頂戴って言ったのに……
帰ってきたら……遊んでくれるって言ったのに……

何1つ叶えてもくれないくせに……

こんなに……こんなに拡ちゃんの事が……好きだって知ってるくせに……

拡ちゃんの……バカァっっ!!!!


結局その日は拡ちゃんの家で夕飯は食べなかった……





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